StudyMed医師国家試験

壊れた皮膚にヘルペスが広がるとき―Kaposi水痘様発疹症とアトピー性皮膚炎の深い関係

第108回医師国家試験 A問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第108回 A問題 第2問

Kaposi水痘様発疹症を合併しやすいのはどれか。

  1. a.Sweet病
  2. b.結節性紅斑
  3. c.多形滲出性紅斑
  4. d.アトピー性皮膚炎
  5. e.Stevens-Johnson症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、Kaposi水痘様発疹症がどんな皮膚に起こりやすいかを問う問題だ。病名に「水痘」と入っているけれど、原因ウイルスは何だったか覚えているかな。
医学生医学生
名前からすると水痘・帯状疱疹ウイルスかと思ってしまいますが……違いましたよね。
ドクタードクター
そこが最初の引っかけポイントだね。原因は主に単純ヘルペスウイルス1型、つまりHSV-1だ。皮疹の見た目が水痘に似ているから、この名前がついているんだよ。英語ではeczema herpeticum、疱疹性湿疹とも呼ばれる。
医学生医学生
ヘルペスなのに、口唇ヘルペスみたいに局所で収まらずに広がるんですね。
ドクタードクター
その通り。カギは「皮膚バリアが壊れている場所」にHSVが入り込むことなんだ。正常な皮膚なら角層がウイルスの侵入をブロックしてくれるけれど、湿疹などでバリアが破綻していると、ウイルスが一気に広範囲へ感染してしまう。初感染でも、口唇ヘルペスからの再活性化や自家接種でも起こりうる。
医学生医学生
バリア障害といえば、皮膚科の講義でフィラグリン遺伝子の異常を習いました。それならアトピー性皮膚炎が正解でしょうか。
ドクタードクター
正解。アトピー性皮膚炎はKaposi水痘様発疹症の最も代表的な基礎疾患だ。フィラグリン異常などによる角層バリアの低下に加えて、Th2優位の炎症でカテリシジンやβディフェンシンといった抗菌ペプチドの産生が抑えられ、細胞性免疫も弱まっている。さらに痒くて掻くことで表皮が傷つき、その手でウイルスを周りに広げてしまう。条件がそろっているんだね。
医学生医学生
防御が弱いうえに、自分で広げてしまうわけですね。治療中の人にも起こりますか。
ドクタードクター
ステロイドやタクロリムスの外用中、あるいは治療を自己中断して湿疹が悪化した時期に発症しやすいとされる。では、ほかの選択肢も確認しよう。多形滲出性紅斑はどうかな。
医学生医学生
多形滲出性紅斑はHSVが誘因になると習ったので、ヘルペスつながりで正解かと一瞬迷いました。
ドクタードクター
いい迷い方だ。でも関係の向きが逆なんだよ。多形滲出性紅斑は、口唇ヘルペスの再発などHSV感染に対する免疫反応として標的状の紅斑が出る病気。つまり「HSVが原因で紅斑が起こる」のであって、「紅斑があるとHSVが広がりやすい」わけではない。
医学生医学生
なるほど、原因と基礎疾患を取り違えないようにします。Stevens-Johnson症候群も広くびらんになるので、ウイルスが入りやすそうに思えますが。
ドクタードクター
広範なびらんで二次感染が問題になるのは確かだけれど、Stevens-Johnson症候群は薬剤が原因の重症薬疹で、Kaposi水痘様発疹症の基礎疾患としては知られていない。Sweet病は発熱と好中球増加を伴う有痛性の浮腫性紅斑で、骨髄異形成症候群などの血液疾患が背景になることがある病気。結節性紅斑は下腿伸側に痛い皮下結節が出る脂肪織炎だ。どちらも表皮のバリア障害を土台にした病気ではないね。
医学生医学生
臨床実習の皮膚科で、アトピーの子の顔に小さな水疱が密集していた症例を見ました。真ん中がへこんでいたのが印象的でした。
ドクタードクター
それが中心臍窩を伴う小水疱だね。湿疹病変の上に小水疱や膿疱が集簇して、破れて痂皮を伴うびらんとなり急速に拡大する。発熱やリンパ節腫脹など全身症状を伴うことも多く、顔面・頸部・上半身に好発する。
医学生医学生
診断はTzanck試験ですか。
ドクタードクター
水疱内容物でウイルス性巨細胞を確認するTzanck試験のほか、イムノクロマト法や蛍光抗体法によるHSV抗原検出、PCRも使われる。治療はアシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなど抗ヘルペスウイルス薬の全身投与で、重症例では点滴静注を行う。病変部のステロイド外用は一時中止するのが一般的だし、黄色ブドウ球菌の二次感染があれば抗菌薬を併用する。
医学生医学生
湿疹が急に悪化したと思って、ステロイドを強くしてしまうと危ないですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床の落とし穴だ。もう一つ、眼の周りに病変があれば角膜ヘルペスを起こしうるので、眼科への相談を忘れないこと。それから、アトピー性皮膚炎に合併しやすい皮膚感染症として、伝染性膿痂疹、伝染性軟属腫もセットで覚えておこう。

まとめ

Kaposi水痘様発疹症は、主に単純ヘルペスウイルス1型がバリア機能の破綻した皮膚に広範に感染する疾患で、最も代表的な基礎疾患はアトピー性皮膚炎です。角層バリアの低下、Th2優位の炎症による抗菌ペプチド産生の低下、掻破による表皮損傷とウイルスの拡散が重なり、湿疹病変上に中心臍窩を伴う小水疱・びらんが急速に広がり、発熱などの全身症状も伴います。多形滲出性紅斑はHSVが誘因となる疾患であって、Kaposi水痘様発疹症の基礎疾患ではない点に注意が必要です。治療は抗ヘルペスウイルス薬の全身投与で、病変部のステロイド外用は一時中止し、眼周囲病変では角膜ヘルペスにも注意します。アトピー性皮膚炎の急な悪化を見たとき感染症の合併を疑えるかどうかが、適切な治療につながる重要な臨床判断となります。

解答・解説

正解はdです

テーマ

Kaposi水痘様発疹症(eczema herpeticum:疱疹性湿疹)は、単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV、主に1型)が、湿疹などでもともと皮膚のバリア機能が壊れている部位に広範に感染し、水疱・びらんが一気に広がる疾患である。HSVの初感染でも、口唇ヘルペスなどからの再活性化・自家接種でも起こりうる。

正解を導く考え方

発症の土台となるのは「皮膚バリアの障害」と「皮膚局所の抗ウイルス防御の低下」である。アトピー性皮膚炎では、フィラグリン遺伝子異常などによる角層のバリア機能低下に加え、Th2優位の炎症によって抗菌ペプチド(カテリシジン、βディフェンシンなど)の産生や細胞性免疫が抑えられており、さらに掻破で表皮が絶えず傷ついている。このためHSVが皮膚に入り込みやすく、掻破によってウイルスが周囲へ広げられて病変が拡大する。ステロイドやタクロリムスの外用中、あるいは治療を自己中断して皮疹が悪化した時期に発症しやすい。 他の選択肢の疾患は、いずれもKaposi水痘様発疹症の基礎疾患として知られるものではない。なお、多形滲出性紅斑はHSV感染が誘因となりうるという関係があるが、方向が逆(HSVが原因となって紅斑が起こる)であり、多形滲出性紅斑があるとKaposi水痘様発疹症を合併しやすいわけではない。

選択肢考察

  1. ×a.  Sweet病

    Sweet病(急性熱性好中球性皮膚症)は、発熱、末梢血好中球増加、顔面・頸部・四肢などに生じる有痛性で浮腫性の隆起性紅斑を特徴とし、真皮に密な好中球浸潤を認める。骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病などの血液疾患、感染症、薬剤(G-CSFなど)が背景となることがある。副腎皮質ステロイドやヨウ化カリウムが奏効する。皮膚バリア障害を基盤とする疾患ではなく、Kaposi水痘様発疹症を合併しやすいとはいえない。

  2. ×b.  結節性紅斑

    結節性紅斑は皮下脂肪組織の隔壁を主体とする脂肪織炎で、主に下腿伸側に圧痛を伴う紅色の皮下結節が多発する。溶連菌感染、結核、薬剤、Behçet病、サルコイドーシス、炎症性腸疾患(Crohn病・潰瘍性大腸炎)、妊娠などが原因・背景となる。表皮のバリア障害は伴わず、Kaposi水痘様発疹症の基礎疾患ではない。

  3. ×c.  多形滲出性紅斑

    多形滲出性紅斑は、四肢伸側などに中心部が暗紅色で周囲が環状に紅くなる標的状(target lesion)の浮腫性紅斑が多発する疾患で、薬剤やマイコプラズマなどの感染症に対する免疫反応として生じる。特にHSV感染(口唇ヘルペスの再発など)が誘因となる例が多い。つまりHSVが多形滲出性紅斑の原因になるという関係であり、多形滲出性紅斑を基盤にKaposi水痘様発疹症を合併しやすいわけではない。

  4. ○d.  アトピー性皮膚炎

    Kaposi水痘様発疹症の最も代表的な基礎疾患である。アトピー性皮膚炎では、角層のバリア機能障害、Th2優位の炎症による抗菌ペプチドの産生低下や細胞性免疫の抑制、掻破による表皮の損傷が重なり、HSVが皮膚に侵入・増殖しやすい。掻くことでウイルスが周囲に広がり、湿疹病変上に小水疱・膿疱・中心臍窩を伴うびらんが急速に多発・融合する。乳幼児から若年成人のアトピー性皮膚炎患者に好発し、顔面・頸部・上半身に多い。

  5. ×e.  Stevens-Johnson症候群

    Stevens-Johnson症候群(皮膚粘膜眼症候群)は、発熱とともに全身の皮膚に紅斑・水疱・びらんが生じ、口唇・口腔・眼・外陰部など複数の粘膜部位に重い粘膜疹を伴う重症薬疹で、原因の多くは薬剤(抗てんかん薬、アロプリノール、抗菌薬、NSAIDsなど)である。表皮剝離が体表面積の10%未満のものをいい、30%以上は中毒性表皮壊死症(TEN)とされる。広範なびらんによる二次感染は問題となるが、Kaposi水痘様発疹症の基礎疾患として知られるものではない。

Kaposi水痘様発疹症の概要

・病原体:主に単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)。初感染・再活性化のいずれでも起こる。 ・基礎疾患:アトピー性皮膚炎が大部分を占める。そのほかDarier病、天疱瘡、熱傷、脂漏性皮膚炎など、皮膚バリアが破綻した状態で生じうる。 ・好発:乳幼児〜若年成人のアトピー性皮膚炎患者。顔面・頸部・上肢・上半身に多い。 ・症状:発熱、倦怠感、所属リンパ節腫脹などの全身症状を伴い、湿疹病変部に中心臍窩(中心がへこんだ形)を伴う小水疱・膿疱が集簇して多発し、破れて痂皮を伴うびらんとなり急速に拡大する。 ・合併症:黄色ブドウ球菌などによる二次感染、角膜ヘルペス(眼周囲の病変では眼科診察が必要)、まれにウイルス血症・脳炎。 ・診断:臨床像に加え、水疱内容物のTzanck試験(ウイルス性巨細胞の確認)、蛍光抗体法やイムノクロマト法によるHSV抗原検出、PCRなど。 ・治療:抗ヘルペスウイルス薬の全身投与(アシクロビル・バラシクロビル・ファムシクロビルの内服、重症例ではアシクロビルやビダラビンの点滴静注)。二次感染があれば抗菌薬を併用する。ステロイド外用は病変部では一時中止するのが一般的である。

鑑別として押さえたい関連疾患

・水痘:水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染。全身に紅斑・丘疹・水疱・痂皮が混在する。Kaposi水痘様発疹症の名前は、皮疹が水痘に似ることに由来する。 ・伝染性膿痂疹(とびひ):黄色ブドウ球菌・化膿性レンサ球菌による細菌感染症で、アトピー性皮膚炎に合併しやすい点が共通する。 ・伝染性軟属腫(みずいぼ):伝染性軟属腫ウイルスによる。これもアトピー性皮膚炎の小児で多発しやすい。

選択肢疾患の整理

・Sweet病:発熱+好中球増加+有痛性浮腫性紅斑。骨髄異形成症候群・白血病に注意。 ・結節性紅斑:下腿伸側の有痛性皮下結節。溶連菌、結核、Behçet病、サルコイドーシス、炎症性腸疾患。 ・多形滲出性紅斑:標的状紅斑。HSV・マイコプラズマ・薬剤が誘因。 ・Stevens-Johnson症候群:重症薬疹。粘膜疹を伴い、表皮剝離が体表面積10%未満。

POINT

・Kaposi水痘様発疹症は、皮膚バリアが障害された部位に単純ヘルペスウイルスが広範に感染したもので、アトピー性皮膚炎に最も合併しやすい。 ・湿疹病変上に中心臍窩を伴う小水疱・びらんが急速に拡大し、発熱などの全身症状を伴う。 ・治療は抗ヘルペスウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、ビダラビンなど)の全身投与。 ・多形滲出性紅斑は「HSVが誘因となる疾患」であり、Kaposi水痘様発疹症の基礎疾患ではない点を混同しない。 ・アトピー性皮膚炎に合併しやすい感染症:Kaposi水痘様発疹症、伝染性膿痂疹、伝染性軟属腫。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。