緑の羊水と動かない新生児―酸素だけでは救えない「気道の詰まり」を解け
第107回医師国家試験 I問題 第40問
国試問題にチャレンジ
出生直後の新生児。在胎42週3日,2,980 gで出生した。生後1分で全身チアノーゼを認め,頻呼吸で,口腔内と鼻腔内とを吸引しても顔を全くしかめず泣かない。心拍数80/分で体動を認めない。羊水は緑色に混濁していた。口腔と鼻腔内から緑色の粘稠な液体を吸引し,酸素吸入を行ったが,児の状態は改善しなかった。 直ちに行う処置はどれか。
- a.保温
- b.胃管挿入
- c.胸腔穿刺
- d.気管内吸引
- e.静脈路の確保
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
過期産、緑色の羊水混濁、出生直後からの重度の仮死を認めれば、胎便吸引症候群を考えます。口腔・鼻腔から粘稠な胎便が吸引され、酸素投与でも改善しない場合は、気管内の胎便による気道閉塞が疑われるため、気管挿管による気管内吸引で気道を開通させてから人工呼吸へ進みます。新生児蘇生は気道・呼吸・循環の順が原則で、保温は初期処置、胃管は胃膨満時、胸腔穿刺は緊張性気胸の所見があるとき、静脈路確保は有効な換気と胸骨圧迫でも心拍60/分未満が続くときに行う処置です。現行ガイドラインでは羊水混濁児へのルーチンの気管内吸引は推奨されず人工呼吸の開始が優先されますが、気道閉塞が疑われる場合には今も必要な処置です。蘇生の優先順位と最新の推奨の両方を押さえることが、分娩室で迷わず動くための基礎になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・在胎42週3日の出生:在胎42週0日以降の出生であり過期産にあたる。体重2,980 gは成熟児として問題ない。 ・羊水の緑色混濁:胎児が子宮内で胎便を排出したことを示す。過期産や胎児低酸素状態では腸管蠕動の亢進と肛門括約筋の弛緩により胎便が排出されやすい。 ・生後1分の状態:全身チアノーゼ、刺激に対して顔をしかめず泣かない(反射なし)、体動なし(筋緊張低下)、心拍数80/分(100/分未満の徐脈)。Apgarスコアはおおむね1〜2点程度と重度の新生児仮死である。 ・口腔・鼻腔から緑色の粘稠な液体が吸引された:胎便を含む羊水を気道内に吸い込んでいることが強く示唆される。 ・酸素吸入でも改善しない:単なる酸素不足ではなく、気道・肺胞への有効な換気そのものが得られていない可能性が高い。
診断
過期産、胎便による羊水混濁、出生直後からの呼吸障害・チアノーゼ・徐脈から、胎便吸引症候群(meconium aspiration syndrome:MAS)による重症新生児仮死と考えられる。MASでは粘稠な胎便が気道を機械的に閉塞し(完全閉塞では無気肺、部分閉塞ではチェックバルブ機構による過膨張・気胸)、さらに胎便による化学性肺炎やサーファクタントの不活化、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)を合併しうる。
どう考えるか
新生児蘇生はA(airway:気道確保)→B(breathing:人工呼吸)→C(circulation:胸骨圧迫)の順に行うのが原則である。本児は心拍100/分未満で有効な自発呼吸がなく、口腔・鼻腔の吸引と酸素投与を行っても改善しない。口腔・鼻腔から粘稠な胎便様液が引けていることから、その奥の気管にも胎便が詰まって気道を閉塞していると考えるのが自然である。気道が閉塞したままでは人工呼吸を行っても肺に空気が入らないため、直ちに気管挿管を行い、気管内の胎便を吸引除去して気道を開通させることが最優先となる。気道を確保したうえで人工呼吸(陽圧換気)へと進む。 なお、現行の新生児蘇生法(NCPR)ガイドラインでは、羊水混濁のある元気のない児に対して「ルーチンに」気管内吸引を行うことは推奨されておらず、原則は速やかな人工呼吸の開始である。ただし、胎便による気道閉塞が疑われ、人工呼吸をしても胸が上がらない・改善しない場合には、気管挿管と気管内吸引が行われる。本問は口腔・鼻腔から粘稠な胎便が吸引され、酸素投与でも改善しない状況であり、気道閉塞の解除が必要な場面として気管内吸引が正解となる。
選択肢考察
- ×a. 保温
誤り。保温(ラジアントウォーマー下での体表の乾燥・保温)は、出生直後に全例で行う初期処置の一つである。低体温は酸素消費量の増加や代謝性アシドーシスを招くため重要だが、本児はすでに初期処置の段階を越えて、気道閉塞と徐脈に対する蘇生処置を要している。この時点で「直ちに」行うべき処置は保温ではなく、気道の開通である。
- ×b. 胃管挿入
誤り。胃管挿入は、バッグ・マスク換気を続けて胃に空気が溜まり腹部膨満で換気が妨げられる場合や、食道閉鎖・十二指腸閉鎖などの消化管疾患を疑う場合に行う処置である。胃内容の吸引は気道の閉塞を解除しないため、低酸素と徐脈が続く本児に対して優先される処置ではない。
- ×c. 胸腔穿刺
誤り。胸腔穿刺(脱気)は緊張性気胸を疑う場合に行う。MASではチェックバルブ機構による肺の過膨張から気胸を合併することがあるが、それを示唆する呼吸音の左右差、胸郭の非対称な膨隆、心尖拍動の偏位、透光試験陽性などの所見は本問に記載されていない。根拠なく胸腔を穿刺すると、それ自体が気胸や肺損傷の原因となる。
- ○d. 気管内吸引
正しい。口腔・鼻腔から緑色の粘稠な液体が吸引され、酸素投与を行っても全身チアノーゼと徐脈が改善しないことから、胎便が気管内まで入り込み気道を閉塞していると考えられる。気道が閉塞していると陽圧換気を行っても肺胞に空気が届かないため、まず気管挿管を行い、気管内の胎便を吸引除去して気道を開通させる必要がある。吸引後は速やかに人工呼吸を行い、心拍数の回復を確認する。現在のガイドラインでは、羊水混濁のある元気のない児全例に対するルーチンの気管内吸引は推奨されていないが、本問のように胎便による気道閉塞が疑われる状況では、気管内吸引は依然として必要な処置である。
- ×e. 静脈路の確保
誤り。新生児蘇生では、有効な人工呼吸と胸骨圧迫を行っても心拍数60/分未満が続く場合に、アドレナリン投与や循環血液量増加のための輸液を目的として静脈路(多くは臍帯静脈)を確保する。本児の心拍数は80/分であり、また新生児の徐脈の大部分は低酸素が原因で、換気が確立すれば改善することが多い。気道・呼吸の確保を後回しにして静脈路確保を優先するのは誤りである。
胎便吸引症候群(MAS)
・胎便で混濁した羊水を、子宮内または出生時のあえぎ呼吸によって気道内に吸い込むことで生じる呼吸障害である。 ・危険因子:過期産(在胎42週以降)、胎児機能不全(胎児低酸素)、small-for-dates児など。在胎34週未満の早産児ではまれである。 ・病態:粘稠な胎便による気道閉塞(完全閉塞で無気肺、部分閉塞でチェックバルブによる過膨張・気胸・縦隔気腫)、化学性肺炎、サーファクタントの不活化、低酸素・アシドーシスによる新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)。 ・胸部エックス線:肺野の斑状・索状陰影と過膨張が混在する。 ・治療:気道の清浄化、酸素投与・人工呼吸管理、重症例ではサーファクタント洗浄・補充療法、PPHNに対する一酸化窒素吸入療法、それでも改善しない場合は体外式膜型人工肺(ECMO)。
Apgarスコア
心拍数・呼吸・筋緊張・反射・皮膚色の5項目をそれぞれ0〜2点で評価し、生後1分と5分に採点する。7点以上が正常、4〜6点が軽症仮死、3点以下が重症仮死とされる。心拍数は「なし」0点、「100/分未満」1点、「100/分以上」2点である。
新生児蘇生法の流れ(要点)
・出生直後に「早産児か」「弱い呼吸・啼泣か」「筋緊張低下か」を評価し、いずれかがあれば初期処置(保温、気道確保の体位、必要に応じた口鼻の吸引、皮膚乾燥と刺激)を行う。 ・初期処置後も自発呼吸がない、または心拍数100/分未満なら、出生後60秒以内を目標に人工呼吸(陽圧換気)を開始する。 ・有効な人工呼吸を30秒行っても心拍数60/分未満なら、胸骨圧迫と人工呼吸を3:1の比率で行う。 ・それでも心拍数60/分未満が続けばアドレナリン投与を検討し、そのために静脈路(臍帯静脈など)を確保する。 ・羊水混濁のある元気のない児に対して、かつては出生直後のルーチンの気管挿管・気管内吸引が推奨されていたが、有益性が示されなかったため現在はルーチンでは行わず、人工呼吸の開始を優先する。ただし胎便による気道閉塞が疑われる場合には気管内吸引を行う。
POINT
・過期産+緑色羊水混濁+出生直後の呼吸障害 → 胎便吸引症候群(MAS)。 ・新生児蘇生はA(気道)→B(呼吸)→C(循環)の順。気道が閉塞していれば人工呼吸も無効。 ・口鼻から粘稠な胎便が引け、酸素投与でも改善しない → 気管挿管・気管内吸引で気道閉塞を解除する。 ・静脈路確保は、有効な換気と胸骨圧迫でも心拍数60/分未満が続くとき(アドレナリン投与目的)。 ・現行ガイドラインでは、羊水混濁のある元気のない児へのルーチンの気管内吸引は推奨されない点も押さえておく。
