StudyMed医師国家試験

効く薬が悪化させる?―自己免疫性神経疾患の治療をひっかけから整理する

第107回医師国家試験 I問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第107回 I問題 第39問

自己免疫性神経疾患とその治療薬の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.多発性硬化症 ―― 抗TNFα抗体
  2. b.視神経脊髄炎 ―― 副腎皮質ステロイド
  3. c.重症筋無力症 ―― 抗コリン薬
  4. d.Guillain-Barré症候群 ―― シクロホスファミド
  5. e.慢性炎症性脱髄性多発根神経炎 ―― 免疫グロブリン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、中枢神経、末梢神経、神経筋接合部の自己免疫疾患について、標準治療を問う問題だ。考えるときの軸は3つ。どこが何によって障害される病気か、急性期と維持期の標準治療は何か、そしてむしろ病状を悪化させる薬ではないか。特に3つ目が、この問題のひっかけどころだよ。
医学生医学生
免疫の病気なら、免疫を抑える薬はだいたい効きそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう思いがちだけれど、神経疾患では例外がある。たとえば多発性硬化症と抗TNFα抗体の組合せはどうかな。
医学生医学生
関節リウマチやCrohn病でよく効く薬なので、多発性硬化症にも効くのかと思いました。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。多発性硬化症ではTNFα阻害薬の臨床試験で、かえって再発が増えてしまった。逆に、関節リウマチなどで抗TNFα抗体を使っている人に中枢神経の脱髄病変が出ることも報告されていて、脱髄疾患の既往は禁忌や慎重投与の対象になっている。多発性硬化症の急性増悪にはステロイドパルス、再発予防にはインターフェロンβやフィンゴリモドなどの疾患修飾薬を使うよ。
医学生医学生
膠原病内科の実習で、生物学的製剤を始める前に既往歴を細かく確認していた理由がわかりました。
ドクタードクター
いい経験だね。次は視神経脊髄炎と副腎皮質ステロイド。こちらはどうだろう。
医学生医学生
視神経脊髄炎は抗アクアポリン4抗体の病気でしたよね。急性期はステロイドパルスでいいと思います。
ドクタードクター
正解。アストロサイトの足突起にある水チャネル、アクアポリン4に対する自己抗体が主な病因で、今は視神経脊髄炎スペクトラム障害と総称される。急性期はメチルプレドニゾロンの大量静注を行い、効果が不十分なら速やかに血漿交換を追加する。再発予防にも少量の経口ステロイドやアザチオプリンが使われ、補体C5阻害薬や抗IL-6受容体抗体などの生物学的製剤も選択肢になっている。
医学生医学生
多発性硬化症と似ているので、同じ再発予防薬を使えばいいわけではないんですか。
ドクタードクター
大事な疑問だね。インターフェロンβやフィンゴリモドなど多発性硬化症の治療薬の一部は、視神経脊髄炎をかえって悪化させうる。だから両者の鑑別は治療方針に直結するんだ。では重症筋無力症と抗コリン薬は?
医学生医学生
重症筋無力症はアセチルコリン受容体に対する抗体で伝達が弱まる病気なので、アセチルコリンを遮断したら逆効果ですよね。
ドクタードクター
その通り。使うのは逆で、アセチルコリンの分解を抑えるピリドスチグミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬だ。アトロピンのような抗コリン薬は、コリンエステラーゼ阻害薬による腹痛や下痢、流涎を抑える目的で併用することはあっても、病気そのものの治療ではない。根本治療はステロイドやタクロリムスなどの免疫療法、血漿交換や免疫グロブリン大量静注、胸腺腫合併例での胸腺摘除などだ。
医学生医学生
薬理学で習った作用機序をそのまま当てはめればいいんですね。
ドクタードクター
そう。次はGuillain-Barré症候群とシクロホスファミド。
医学生医学生
神経内科の実習で、Guillain-Barré症候群の患者さんが免疫グロブリンの点滴を受けていました。シクロホスファミドは見なかったです。
ドクタードクター
よく観察していたね。Guillain-Barré症候群はCampylobacter jejuniなどの先行感染後に、分子相同性で末梢神経のガングリオシドに対する自己抗体ができて起こる。確立した治療は免疫グロブリン大量静注療法と血漿交換で、効果は同等とされる。シクロホスファミドは標準治療ではないし、ステロイド単独も有効性が示されていないんだ。
医学生医学生
最後の慢性炎症性脱髄性多発根神経炎も末梢神経の脱髄なので、同じく免疫グロブリンが効く、ということですね。
ドクタードクター
その通りで、これがもう一つの正解だ。2か月以上かけて進行するか、再発と寛解を繰り返す免疫介在性の脱髄性ニューロパチーで、免疫グロブリン大量静注、ステロイド、血漿交換のいずれも有効性が確立している。免疫グロブリンは効果発現が比較的速く副作用も少ないので広く使われ、維持療法として定期的な静注や皮下注も行われる。
医学生医学生
Guillain-Barré症候群ではステロイドが効かないのに、慢性型では効くというのは対比で覚えやすいです。
ドクタードクター
まさにそこが試験でも臨床でも重要な違いだ。もう一つ臨床での注意点として、重症筋無力症の患者さんではアミノグリコシド系やニューキノロン系、マクロライド系の抗菌薬、β遮断薬、マグネシウム製剤などが症状を悪化させることがある。免疫チェックポイント阻害薬で重症筋無力症が誘発されることもあるから、処方のたびに神経筋伝達への影響を意識しておこう。
医学生医学生
病気の仕組みから考えれば、効く薬も避けるべき薬も筋道立てて選べるんですね。
ドクタードクター
その通り。暗記に頼るより、病態と薬理をつなげて考える癖をつけると、初めて見る組合せにも対応できるよ。

まとめ

自己免疫性神経疾患の治療は、急性期に炎症を抑えるステロイドパルス・血漿交換・免疫グロブリン大量静注と、再発や進行を防ぐ長期の免疫療法に大別されます。抗アクアポリン4抗体が関わる視神経脊髄炎では急性期にステロイドパルスと血漿交換を行い、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎では免疫グロブリン・ステロイド・血漿交換のいずれも有効です。一方、多発性硬化症に抗TNFα抗体はかえって再発を増やしうるうえ、重症筋無力症の対症療法は抗コリン薬ではなくコリンエステラーゼ阻害薬であり、Guillain-Barré症候群では免疫グロブリンか血漿交換が標準でステロイド単独は無効です。他疾患で有効な薬や作用機序が逆の薬が悪化因子となる点は頻出のひっかけであり、病態と薬理を結びつけて理解することが安全な処方につながります。

解答・解説

正解はb, eです

中枢神経・末梢神経・神経筋接合部の自己免疫性疾患について、それぞれの標準治療を問う問題である。 自己免疫性神経疾患の治療は大きく二つの考え方に分けられる。一つは急性期・増悪期に炎症を速やかに抑える治療(副腎皮質ステロイドのパルス療法、血漿交換、免疫グロブリン大量静注療法)であり、もう一つは再発や進行を防ぐ長期の免疫調整・免疫抑制療法(疾患修飾薬、経口ステロイド、免疫抑制薬、分子標的薬)である。さらに重症筋無力症のように、神経伝達そのものを薬理学的に補う対症療法が加わる疾患もある。 解く際には、(1) その疾患の病態(どこが、何によって障害されるか)、(2) 急性期治療と維持療法の標準は何か、(3) むしろ病状を悪化させる薬はないか、の3点で各組合せを検討するとよい。特に、他の自己免疫疾患で有効な薬が神経疾患では悪化因子となる例(多発性硬化症での抗TNFα抗体)や、薬理作用が症状を悪化させる例(重症筋無力症での抗コリン薬)は頻出の引っかけである。

選択肢考察

  1. ×a.  多発性硬化症 ―― 抗TNFα抗体

    誤り。多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)では、TNFα阻害薬の臨床試験でかえって再発が増加したことが知られており、抗TNFα抗体は症状を悪化させうる。むしろ関節リウマチなどで抗TNFα抗体を使用中に中枢神経の脱髄性病変が新たに出現することがあり、MSの既往は抗TNFα抗体の禁忌・慎重投与の対象である。MSの急性増悪にはステロイドパルス療法(無効時は血漿交換)、再発予防にはインターフェロンβ、グラチラマー酢酸塩、フィンゴリモド、ナタリズマブ、フマル酸ジメチル、オファツムマブなどの疾患修飾薬が用いられる。抗TNFα抗体の主な適応は関節リウマチ、Crohn病、潰瘍性大腸炎、乾癬、強直性脊椎炎、腸管型・眼病変を伴うBehçet病などである。

  2. ○b.  視神経脊髄炎 ―― 副腎皮質ステロイド

    正しい。視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO、現在は視神経脊髄炎スペクトラム障害 NMOSD と総称)は、アストロサイトの足突起に存在する水チャネル蛋白アクアポリン4(AQP4)に対する自己抗体が主な病因となる疾患である。急性期には副腎皮質ステロイドのパルス療法(メチルプレドニゾロン大量静注)を行い、効果不十分なら速やかに血漿交換を追加する。再発予防にも少量の経口ステロイドが用いられ、アザチオプリンなどの免疫抑制薬や、エクリズマブ・ラブリズマブ(補体C5阻害)、サトラリズマブ(IL-6受容体阻害)、イネビリズマブ(抗CD19抗体)などの生物学的製剤も使われる。なお、MSの再発予防薬であるインターフェロンβなどはNMOSDを悪化させうるため、両者の鑑別が治療上きわめて重要である。

  3. ×c.  重症筋無力症 ―― 抗コリン薬

    誤り。重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)は、神経筋接合部のニコチン性アセチルコリン受容体(または筋特異的受容体型チロシンキナーゼ MuSK など)に対する自己抗体により神経筋伝達が障害される疾患である。対症療法としては、アセチルコリンの分解を抑えて接合部のアセチルコリン濃度を高めるコリンエステラーゼ阻害薬(ピリドスチグミンなど)を用いる。アセチルコリンの作用を遮断する抗コリン薬は理論上筋力低下を助長する方向に働き、MGの治療薬にはならない。なお、アトロピンなどはコリンエステラーゼ阻害薬による腹痛・下痢・流涎といったムスカリン様副作用を抑える目的で併用されることがあるが、MGそのものの治療ではない。MGの根本的な治療は、副腎皮質ステロイド、カルシニューリン阻害薬(タクロリムス、シクロスポリン)などの免疫療法、血漿交換・免疫グロブリン大量静注療法、胸腺腫合併例などでの胸腺摘除術、補体阻害薬・胎児性Fc受容体(FcRn)阻害薬などの分子標的薬である。

  4. ×d.  Guillain-Barré症候群 ―― シクロホスファミド

    誤り。Guillain-Barré症候群(GBS)は、Campylobacter jejuni などの先行感染後に、病原体と末梢神経のガングリオシドとの分子相同性によって生じた自己抗体などにより急性の多発根神経障害をきたす疾患である。確立した治療は免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)と単純血漿交換で、両者の効果は同等とされる。副腎皮質ステロイドの単独投与は有効性が示されておらず推奨されない。シクロホスファミドなどの免疫抑制薬はGBSの標準治療ではない。GBSは単相性で自然回復傾向があるため、急性期に呼吸筋麻痺や自律神経障害への全身管理を行いながら、早期に免疫療法を導入することが重要である。

  5. ○e.  慢性炎症性脱髄性多発根神経炎 ―― 免疫グロブリン

    正しい。慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy:CIDP)は、2か月以上かけて進行、または再発・寛解を繰り返す免疫介在性の脱髄性末梢神経障害である。第一選択の治療は免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)、副腎皮質ステロイド、血漿交換の3つで、いずれも有効性が確立している。IVIgは効果発現が比較的速く副作用が少ないため広く用いられ、維持療法として定期的な静注や皮下注射による免疫グロブリン投与も行われる。GBSと異なり、CIDPではステロイドが有効である点が重要な違いである。

主な自己免疫性神経疾患と治療の整理

・多発性硬化症(MS):急性増悪=ステロイドパルス、無効なら血漿交換。再発予防=インターフェロンβ、グラチラマー酢酸塩、フィンゴリモド、ナタリズマブ、フマル酸ジメチル、オファツムマブなどの疾患修飾薬。抗TNFα抗体は悪化させうる。 ・視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD):急性期=ステロイドパルス、血漿交換。再発予防=経口ステロイド、アザチオプリン、補体C5阻害薬、抗IL-6受容体抗体、抗CD19抗体など。インターフェロンβやフィンゴリモドなどMSの一部の治療薬は悪化させうる。 ・重症筋無力症(MG):対症療法=コリンエステラーゼ阻害薬。免疫療法=ステロイド、カルシニューリン阻害薬、血漿交換、IVIg、補体阻害薬、FcRn阻害薬。胸腺腫合併例では胸腺摘除術。 ・Guillain-Barré症候群(GBS):IVIgまたは血漿交換。ステロイド単独は無効。 ・CIDP:IVIg、ステロイド、血漿交換のいずれも有効。

MGで注意すべき薬剤

抗コリン薬のほか、アミノグリコシド系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌薬、マクロライド系抗菌薬、β遮断薬、筋弛緩薬、マグネシウム製剤などは神経筋伝達を妨げ、症状を悪化させることがある。免疫チェックポイント阻害薬もMGを誘発することがある。

抗TNFα抗体と脱髄

抗TNFα抗体(インフリキシマブ、アダリムマブなど)の使用中に、MS様の中枢神経脱髄や末梢神経の脱髄性ニューロパチーが報告されている。そのため脱髄疾患の既往・合併は投与の禁忌または慎重投与とされる。

POINT

・MSに抗TNFα抗体は無効どころか悪化させうる(脱髄疾患は抗TNFα抗体の禁忌)。 ・NMOSD(抗AQP4抗体)の急性期はステロイドパルス+血漿交換。MS治療薬の一部は悪化因子。 ・MGの対症療法はコリンエステラーゼ阻害薬であり、抗コリン薬ではない。 ・GBSはIVIgまたは血漿交換。ステロイド単独は無効。 ・CIDPはIVIg・ステロイド・血漿交換のいずれも有効(GBSとの違いはステロイドが効くこと)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。