ピロリ菌が胃に残す2つの爪痕―萎縮性胃炎とMALTリンパ腫
第107回医師国家試験 I問題 第34問
国試問題にチャレンジ
Helicobacter pylori感染が原因となるのはどれか。2つ選べ。
- a.萎縮性胃炎
- b.胃アニサキス症
- c.ダンピング症候群
- d.胃MALTリンパ腫
- e.Mallory-Weiss症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
Helicobacter pyloriはウレアーゼで胃酸を中和して胃粘膜に住みつき、慢性活動性胃炎を引き起こします。この炎症が長く続くと固有胃腺が失われて萎縮性胃炎となり、腸上皮化生を経て胃癌の発生母地になります。また、慢性炎症により後天的にできたリンパ組織からB細胞が腫瘍化すると胃MALTリンパ腫が生じ、限局期のピロリ菌陽性例では除菌療法が第一選択となります(t(11;18)転座例は除菌に反応しにくい)。一方、胃アニサキス症は寄生虫、ダンピング症候群は胃切除後の解剖学的変化、Mallory-Weiss症候群は嘔吐などによる胃内圧上昇が原因で、ピロリ菌とは関係しません。ピロリ菌関連疾患を「慢性炎症がどこへ進むか」という流れで理解しておくと、潰瘍や胃癌、ITPなどの除菌適応の理解にもつながります。
解答・解説
正解はa, dです
Helicobacter pyloriと胃の疾患
Helicobacter pylori(ピロリ菌)はらせん状のグラム陰性桿菌で、ウレアーゼという酵素で尿素を分解してアンモニアを産生し、周囲の胃酸を中和することで強酸性の胃内に住みつく。多くは乳幼児期に感染し、除菌しない限り感染は生涯持続する。
感染から疾患発症までの流れ
感染すると、胃粘膜に好中球とリンパ球・形質細胞が浸潤する慢性活動性胃炎が起こる。この炎症が長く続くと胃本来の腺(固有胃腺)が失われて萎縮性胃炎となり、さらに腸上皮化生を経て胃癌の発生母地となる。また、慢性炎症によって胃粘膜にリンパ組織(リンパ濾胞)が誘導され、そこからB細胞が腫瘍化すると胃MALTリンパ腫が生じる。このほか、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃過形成性ポリープなども、ピロリ菌感染による胃炎を背景に発症する。
設問の考え方
各選択肢の原因を整理すると、ピロリ菌感染による慢性炎症が直接の原因となるのは萎縮性胃炎と胃MALTリンパ腫である。残りは寄生虫(胃アニサキス症)、手術後の解剖学的変化(ダンピング症候群)、機械的な胃内圧上昇(Mallory-Weiss症候群)が原因であり、ピロリ菌とは関係しない。
選択肢考察
- ○a. 萎縮性胃炎
ピロリ菌感染による慢性活動性胃炎が長期間持続すると、固有胃腺(胃底腺・幽門腺)が破壊・減少し、粘膜が薄くなる萎縮性胃炎へ進展する。萎縮は通常、幽門部(前庭部)から始まり、胃体部の小彎側を上行するように広がる。内視鏡では萎縮の範囲を木村・竹本分類で評価する。萎縮が進むほど胃癌のリスクが高くなる。慢性萎縮性胃炎の大部分はピロリ菌感染に起因するため、正しい。なお、自己免疫性胃炎(A型胃炎)では胃体部優位の萎縮がみられるが、これはピロリ菌とは異なる機序である。
- ×b. 胃アニサキス症
胃アニサキス症は、アニサキス(回虫目の線虫)の幼虫を持つサバ、アジ、イワシ、サンマ、サケ、イカなどの魚介類を生や加熱不十分な状態で食べることで起こる。幼虫が胃壁に刺入し、摂食後数時間以内に激しい心窩部痛、悪心・嘔吐をきたす。原因は寄生虫であり、ピロリ菌感染とは関係ない。治療は内視鏡による虫体の摘出である。
- ×c. ダンピング症候群
ダンピング症候群は胃切除後の合併症で、幽門の機能が失われ、食物が胃から小腸へ急速に流れ込むことで生じる。早期ダンピング(食後30分以内)は高浸透圧の内容物が小腸に入ることによる循環血漿量の減少や消化管ホルモンの放出で、動悸・発汗・めまい・腹痛・下痢などをきたす。後期ダンピング(食後2〜3時間)は急激な血糖上昇に対するインスリン過剰分泌の結果として起こる反応性低血糖である。原因は手術による解剖学的変化であり、ピロリ菌とは関係ない。
- ○d. 胃MALTリンパ腫
MALTリンパ腫(mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma、粘膜関連リンパ組織リンパ腫)は低悪性度のB細胞リンパ腫で、胃は最も多い発生部位である。本来の胃粘膜にはリンパ組織がほとんどないが、ピロリ菌感染による慢性炎症で後天的にリンパ組織が形成される。菌に反応したヘルパーT細胞の刺激によってB細胞が増殖を続け、その中から腫瘍性クローンが生じる。胃MALTリンパ腫の大部分(約70〜90%)はピロリ菌陽性であり、限局期のピロリ菌陽性例では除菌療法が第一選択で、多くの例で腫瘍が退縮する。したがって正しい。ただし、t(11;18)(q21;q21)転座(API2-MALT1融合遺伝子)を有する例は除菌に反応しにくく、放射線療法などが選択される。
- ×e. Mallory-Weiss症候群
Mallory-Weiss症候群は、飲酒後の激しい嘔吐、強い咳き込み、けいれんなどで腹腔内圧・胃内圧が急激に上昇し、食道胃接合部付近の粘膜に縦走する裂創が生じて吐血をきたす疾患である。機械的な圧力上昇が原因であり、ピロリ菌とは関係ない。多くは保存的治療で自然に止血し、持続出血では内視鏡的止血術を行う。
ピロリ菌感染が関与する主な疾患
・消化器疾患:慢性活動性胃炎、萎縮性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌(特に分化型・未分化型とも関与)、胃MALTリンパ腫、胃過形成性ポリープ、機能性ディスペプシアの一部 ・消化管外疾患:免疫性血小板減少症(ITP、除菌で血小板数が増加する例がある)、鉄欠乏性貧血(特に小児・若年者)、慢性蕁麻疹など ※日本の保険診療では、ピロリ菌感染胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、ITP、早期胃癌に対する内視鏡的治療後の胃が除菌の対象となっている。
感染診断法
・内視鏡を用いる方法:迅速ウレアーゼ試験、鏡検法(組織の顕微鏡観察)、培養法 ・内視鏡を用いない方法:尿素呼気試験、便中抗原測定、血清・尿中抗体測定 除菌判定には、偽陰性を避けるため除菌治療終了後4週以上あけて、尿素呼気試験や便中抗原測定を行うのが一般的である。プロトンポンプ阻害薬内服中は尿素呼気試験などで偽陰性となりうる点にも注意する。
除菌療法(日本)
・一次除菌:胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬またはボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤を7日間 ・二次除菌:クラリスロマイシンをメトロニダゾールに替えた3剤を7日間 クラリスロマイシン耐性菌の増加が一次除菌失敗の主な原因である。
鑑別に挙がった疾患の原因の整理
・胃アニサキス症:寄生虫(魚介類の生食) ・ダンピング症候群:胃切除後の食物の急速な小腸流入 ・Mallory-Weiss症候群:嘔吐などによる急激な胃内圧上昇
POINT
・ピロリ菌感染→慢性活動性胃炎→萎縮性胃炎→腸上皮化生→胃癌、という流れを押さえる ・胃MALTリンパ腫の大部分はピロリ菌陽性で、限局期では除菌療法が第一選択。t(11;18)転座例は除菌抵抗性 ・ピロリ菌関連疾患:萎縮性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃癌、胃MALTリンパ腫、胃過形成性ポリープ、ITPなど ・胃アニサキス症(寄生虫)、ダンピング症候群(胃切除後)、Mallory-Weiss症候群(嘔吐による胃内圧上昇)はピロリ菌と無関係
