肺が「水浸し」になるとき―ARDSを病態・画像・病理でつなげて理解する
第107回医師国家試験 I問題 第33問
国試問題にチャレンジ
急性呼吸促迫症候群について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.肺の線維化をきたさない。
- b.両側肺野の浸潤影を伴う。
- c.肺血管透過性の低下を特徴とする。
- d.びまん性肺胞傷害の病理像を呈する。
- e.敗血症が原因であれば予後は良好である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
急性呼吸促迫症候群(ARDS)は、肺炎や敗血症などを契機に肺胞上皮と肺毛細血管内皮が傷害され、血管透過性の亢進によって非心原性肺水腫と重症の低酸素血症をきたす症候群です。胸部画像では両側性のびまん性浸潤影を示し、病理像は硝子膜形成を特徴とするびまん性肺胞傷害で、滲出期から増殖期、線維化期へと進み線維化を残すことがあります。原因として最も多い敗血症によるARDSは予後不良で、診断にはBerlin定義(1週間以内の発症、両側陰影、心不全で説明できない呼吸不全、PEEP下のP/F比)が用いられます。治療は原疾患の治療に加え、低1回換気量による肺保護換気や腹臥位療法が柱であり、病態から画像・病理・治療までを一貫して理解することが重症呼吸不全の診療の基礎になります。
解答・解説
正解はb, dです
急性呼吸促迫症候群(ARDS)とは
急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)は、肺炎・誤嚥・敗血症・重症外傷・急性膵炎・大量輸血などを契機に、肺胞上皮と肺毛細血管内皮が急激に傷害され、急性の重症低酸素血症をきたす症候群である。
病態の要点
炎症によって好中球が肺に集積し、放出される活性酸素やタンパク分解酵素、サイトカインが肺胞毛細血管の壁(肺胞-毛細血管関門)を破壊する。その結果、肺血管の透過性が亢進し、タンパクに富む液体が間質や肺胞腔内に漏れ出す(非心原性肺水腫)。肺胞は水浸しとなってつぶれ(虚脱)、換気されない肺胞に血流が流れるシャントが生じるため、酸素投与だけでは改善しにくい低酸素血症となる。肺コンプライアンス(肺の膨らみやすさ)も低下する。
病理と画像
この病態に対応する病理像がびまん性肺胞傷害(diffuse alveolar damage:DAD)であり、胸部X線やCTでは両側性のびまん性浸潤影(すりガラス影〜浸潤影)として現れる。左心不全による心原性肺水腫とは、心機能や臨床経過から区別する。
設問の考え方
本問では、ARDSの本質が「透過性亢進型の肺水腫」であること、その病理がDADであり時間経過とともに線維化へ進みうること、原疾患として最も多い敗血症によるARDSの予後が不良であることを押さえていれば、正しい選択肢を選べる。
選択肢考察
- ×a. 肺の線維化をきたさない。
ARDSの病理像であるびまん性肺胞傷害は、時間経過とともに滲出期(発症〜約1週)、増殖期(器質化期、1〜3週)、線維化期へと移行する。遷延例では肺胞壁や肺胞腔内に線維化が進み、肺の構造が改変されて呼吸機能障害が残ることがある。したがって「線維化をきたさない」は誤りである。
- ○b. 両側肺野の浸潤影を伴う。
ARDSでは透過性亢進による肺水腫が両肺に広がるため、胸部画像で両側性のびまん性浸潤影を呈する。「胸水・無気肺・結節だけでは説明できない両側陰影」は診断基準(Berlin定義)の必須項目の一つであり、正しい。CTでは重力のかかる背側(荷重側)に浸潤影が強く、腹側はすりガラス影や比較的正常な肺が残る不均一な分布を示すことが多い。
- ×c. 肺血管透過性の低下を特徴とする。
ARDSの本質は、肺毛細血管内皮と肺胞上皮の傷害による肺血管透過性の「亢進」である。これによりタンパクに富む滲出液が肺胞内に漏出する。静水圧の上昇によって水分が押し出される心原性肺水腫とは発生機序が異なる。「低下」は逆であり誤りである。
- ○d. びまん性肺胞傷害の病理像を呈する。
びまん性肺胞傷害(DAD)はARDSの代表的な病理組織像である。急性期(滲出期)には、肺胞上皮の壊死・脱落、間質と肺胞腔の浮腫、そして肺胞壁に沿って形成される硝子膜(フィブリンと壊死細胞からなる膜)が特徴的である。その後、Ⅱ型肺胞上皮細胞の増生や線維芽細胞の増殖が起こる増殖期を経て、線維化期に至る。よって正しい。
- ×e. 敗血症が原因であれば予後は良好である。
敗血症はARDSの原因として最も多く、全身性の炎症と多臓器障害を伴いやすいため、敗血症に起因するARDSの予後はむしろ不良である。ARDS全体でも院内死亡率は重症度に応じておおむね30〜40%以上と高く、重症例ほど高い。「予後良好」は誤りである。
ARDSの原因
・直接損傷(肺に直接加わる傷害):肺炎(最多)、胃内容物の誤嚥、肺挫傷、溺水、有毒ガス吸入など ・間接損傷(全身性炎症を介する傷害):敗血症(最多)、重症外傷・ショック、急性膵炎、大量輸血(輸血関連急性肺障害:TRALIを含む)、熱傷、薬物中毒など
診断基準の変遷
・1994年の北米・欧州コンセンサス会議(AECC)基準:急性発症、両側びまん性浸潤影、左心不全の除外(肺動脈楔入圧18mmHg以下など)を満たし、PaO2/FiO2比(P/F比:動脈血酸素分圧を吸入酸素濃度で割った値)が300以下を急性肺損傷(ALI)、200以下をARDSとした。 ・2012年のBerlin定義(現在の標準):①既知の誘因または呼吸器症状の新規出現・増悪から1週間以内の発症、②胸水・無気肺・結節で説明できない両側性陰影、③心不全や輸液過剰だけでは説明できない呼吸不全、④PEEP(呼気終末陽圧)またはCPAPを5cmH2O以上かけた状態での酸素化障害。重症度はP/F比で、軽症(200<P/F≦300)、中等症(100<P/F≦200)、重症(P/F≦100)に分類する。ALIという用語は廃止され、旧ALIの多くは軽症ARDSに含まれるようになった。 ・さらに近年は、高流量鼻カニュラ酸素療法中の患者や、SpO2/FiO2比・肺エコーによる評価も取り入れた診断基準の拡張も提案されている。
治療
根本は原因疾患の治療(感染源のコントロール、抗菌薬など)である。呼吸管理では、人工呼吸による肺の過伸展や虚脱・再開放の繰り返しがさらに肺を傷害する(人工呼吸器関連肺損傷)ため、肺保護換気が基本となる。具体的には、1回換気量を予測体重あたり約6mL/kgに制限し、プラトー圧を30cmH2O以下に保ち、適切なPEEPで肺胞虚脱を防ぐ。中等症〜重症では腹臥位療法が生存率改善に有効とされ、最重症例では体外式膜型人工肺(ECMO)が考慮される。過剰な輸液を避けることも重要である。
POINT
・ARDS=肺血管透過性亢進による非心原性肺水腫 ・画像:両側性びまん性浸潤影(背側優位) ・病理:びまん性肺胞傷害(DAD)。滲出期(硝子膜形成)→増殖期→線維化期と進み、線維化を残しうる ・原因:直接損傷では肺炎、間接損傷では敗血症が最多。敗血症性ARDSは予後不良 ・Berlin定義:1週間以内の発症、両側陰影、心不全で説明できない、PEEP≧5cmH2OでのP/F比(≦300軽症、≦200中等症、≦100重症) ・治療:原疾患治療+肺保護換気(低1回換気量、プラトー圧≦30cmH2O、適切なPEEP)、腹臥位療法
