吐き出せない肺の形―flow-volume曲線で見抜くCOPDの「下に凸」と過膨張
第107回医師国家試験 H問題 第4問
国試問題にチャレンジ
flow-volume曲線を別に示す。 長年の喫煙習慣と関連する閉塞性障害を示すのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
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ドクターまとめ
flow-volume曲線は最大吸気位から努力呼出したときの流速と肺気量の関係を示し、正常では鋭いピークの後に直線的に低下します。長年の喫煙によるCOPDでは、肺胞破壊で弾性収縮力と末梢気道の支えが失われるため、ピーク流速が低下し、直後に流速が急落する下に凸の形となり、エアトラッピングで残気量・全肺気量が増加して曲線が高肺気量側へ移動します。過膨張を伴わずなだらかに流速が低下する閉塞パターンは喘息など、流速がプラトーになるのは中枢気道狭窄、幅が狭く流速が保たれるのは拘束性障害と区別します。曲線の形と位置を病態生理と結びつけて読めるようになると、スパイロメトリーの数値だけでは見えない病態の違いを理解でき、日常診療での呼吸機能検査の解釈に直結します。
解答・解説
正解はaです
本問は、flow-volume曲線(フローボリューム曲線)の形から病態を読み取る一般問題である。長年の喫煙習慣と関連する閉塞性障害とは、慢性閉塞性肺疾患(COPD: chronic obstructive pulmonary disease)を指す。
flow-volume曲線の読み方
flow-volume曲線は、最大吸気位(全肺気量位、TLC: total lung capacity)から一気に最大努力で息を吐き出したときの、気流速度(縦軸)と肺気量(横軸)の関係を描いたものである。本問の図では横軸が「絶対肺気量」で、左ほど肺気量が大きく、右へ行くほど息を吐き出して肺気量が減っていく。したがって各曲線の左端が全肺気量(TLC)、右端が残気量(RV: residual volume)、左右の幅が肺活量にあたる。 正常では、呼出開始直後に鋭いピーク(最大呼気流量、PEF: peak expiratory flow)を示し、その後は肺気量の減少とともに気流速度がほぼ直線的に低下する。
図の各曲線の特徴
・①: 左端が約7 Lと著しく大きく(TLC増加)、右端も約4.5 Lと大きい(RV増加)。ピークは約3.5 L/秒と低く、ピーク直後に気流速度が急激に落ち込み、その後は低い流速のまま下に凸の形でだらだらと続く。 ・②: 左端は約5 Lで正常とほぼ同じ位置。ピークは約5 L/秒と低下し、その後は比較的なだらかに低下する。肺気量の位置は正常に近い。 ・③: ピーク後に気流速度が約3 L/秒の水平な台地(プラトー)を形成し、末期に低下する。 ・④: 左端約5 L、ピーク約10 L/秒と高く、その後直線的に低下して右端約1.3 Lに至る。正常のパターンである。 ・⑤: 左端が約2.4 Lと著しく小さく(TLC減少)、幅も狭い(肺活量減少)が、ピーク流速は約7.5 L/秒と比較的保たれ、肺気量に比べて流速が大きい。
COPDでflow-volume曲線がどうなるか
COPDでは、喫煙などによる肺胞壁の破壊(肺気腫)で肺の弾性収縮力(肺が縮もうとする力)が失われ、末梢の細い気道を外から引っ張って広げておく力も弱まる。このため、努力呼気で胸腔内圧が上がると末梢気道が早期につぶれ(気道の虚脱)、ピーク直後に気流速度が急落して、下に凸の曲線(スプーンですくったような形)となる。また、息を吐き切れずに空気が肺内に残るため(エアトラッピング)、残気量と全肺気量が増加し(肺の過膨張)、曲線全体が大きい肺気量側(図の左側)へ移動する。これらの特徴をすべて備えるのが①である。
選択肢考察
- ○a. ①
正しい。①はピーク流速が低く、ピーク直後に急激に気流速度が落ち込んで下に凸の形となる典型的な閉塞性パターンを示す。さらに全肺気量と残気量がともに著しく増加して曲線が大きい肺気量側に移っており、肺の過膨張を伴っている。これは、喫煙による肺胞破壊で肺の弾性収縮力が低下し、呼気時に末梢気道が虚脱するCOPD(特に肺気腫優位型)に特徴的な所見である。
- ×b. ②
誤り。②はピーク流速が低下し、呼気全体で気流速度が減少している点で閉塞性障害を示す。しかし全肺気量・残気量はほぼ正常の位置にあり、肺の過膨張はみられない。また、ピーク後の急峻な落ち込みはなく、比較的なだらかに低下している。これは、肺の弾性収縮力は保たれたまま気道の内腔(断面積)が全体に狭くなっている状態を示し、気管支喘息などでみられるパターンと考えられる。長年の喫煙によるCOPDの典型像としては、①の方がより合致する。
- ×c. ③
誤り。③は呼気の途中で気流速度が一定の値で頭打ちとなり、水平な台地(プラトー)を形成している。これは気管などの太い中枢気道(上気道)の狭窄に特徴的なパターンである。狭窄部の断面積によって流量の上限が決まってしまうため、肺気量にかかわらず気流速度が一定になる。原因として気管腫瘍、気管内挿管後の気管狭窄、甲状腺腫による気管圧排などがある。呼気相でプラトーを示すのは胸郭内の可動性狭窄または固定性狭窄であり、固定性狭窄では吸気側にもプラトーがみられる。
- ×d. ④
誤り。④は健常者のflow-volume曲線である。呼出開始直後に鋭く高いピーク(約10 L/秒)を示し、その後は肺気量の減少にほぼ比例して気流速度が直線的に低下する。全肺気量・残気量の位置も正常範囲にある。
- ×e. ⑤
誤り。⑤は全肺気量が著しく小さく曲線の幅(肺活量)も狭い一方で、ピーク流速は比較的保たれており、拘束性障害のパターンである。間質性肺炎・肺線維症などでは肺が硬くなって膨らみにくくなるため肺気量は減少するが、肺の弾性収縮力はむしろ高まり、末梢気道も周囲から引っ張られて開きやすいため、肺気量のわりに気流速度は大きく保たれる。気道の閉塞を主体とする病態ではない。
閉塞性障害と拘束性障害(スパイロメトリー)
・閉塞性換気障害: 1秒率(FEV1/FVC、努力肺活量のうち最初の1秒間に吐き出せる量の割合)が70%未満。COPD、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎などでみられる。 ・拘束性換気障害: %肺活量(予測値に対する実測肺活量の割合)が80%未満。間質性肺炎・肺線維症、胸郭変形、神経筋疾患、胸膜癒着などでみられる。 ・両者が合併したものを混合性換気障害という。
COPDの要点
・主な原因は長期の喫煙(たばこ煙などの有害物質の吸入)であり、中高年の喫煙者に多い。 ・肺気腫(肺胞壁の破壊による気腔の拡大)と末梢気道病変が様々な割合で組み合わさり、完全には可逆的でない気流閉塞をきたす。 ・診断は、気管支拡張薬吸入後の1秒率が70%未満であることを確認し、他の気流閉塞をきたす疾患を除外して行う。 ・所見: 労作時呼吸困難、慢性の咳・痰、ビア樽状胸郭、口すぼめ呼吸。胸部X線で肺の過膨張(横隔膜の平低化、滴状心、肺野の透過性亢進)。 ・肺機能: 1秒率低下、残気量・全肺気量・残気率の増加、肺拡散能(DLCO)の低下(肺気腫優位型で顕著)。
気管支喘息との違い
喘息では気道の炎症と気管支平滑筋の収縮により気道内腔が狭くなるが、発作時以外は呼吸機能が正常化することが多く、気流閉塞の可逆性(気管支拡張薬吸入による改善)が大きい。肺胞の破壊を伴わないため肺拡散能は通常低下しない。
flow-volume曲線のパターン整理
・正常: 鋭いピークの後、直線的に低下 ・COPD(肺気腫): ピーク低下+ピーク直後の急落、下に凸の形。曲線は高肺気量側へ移動(過膨張) ・末梢気道病変の初期: 低肺気量域(呼出後半)の流速(V̇50、V̇25)が低下し、曲線の後半が下に凸となる ・上気道(中枢気道)狭窄: 流速の頭打ち(プラトー) ・拘束性障害: 曲線の幅が狭く低肺気量側に移動するが、流速は比較的保たれる
POINT
・COPDのflow-volume曲線は、ピーク流速低下とピーク直後の急激な落ち込みによる下に凸の形が特徴である。 ・COPDではエアトラッピングにより残気量・全肺気量が増加し、曲線が高肺気量側へ移動する。 ・流速がプラトーになるのは上気道(中枢気道)狭窄である。 ・拘束性障害では曲線の幅(肺活量)が狭くなり低肺気量側へ移動するが、流速は比較的保たれる。 ・閉塞性障害の基準は1秒率70%未満、拘束性障害の基準は%肺活量80%未満である。
