冷やすと菌が消える?―血液培養の「感度」を守る採り方・運び方
第107回医師国家試験 H問題 第12問
国試問題にチャレンジ
血液培養について,菌血症の診断における感度を下げるのはどれか。
- a.検体を冷蔵保存する。
- b.検体採取の回数を増やす。
- c.抗菌薬を投与する前に採取する。
- d.異なる部位から2セット採取する。
- e.好気性ボトルより先に嫌気性ボトルに分注する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血液培養では、もともと少ない血中の菌をいかに逃さず検出するかが重要であり、検体を冷蔵すると菌の発育停止や死滅により偽陰性となって感度が低下します。採取後は冷蔵せず室温(可能ならふ卵器)で保ち、速やかに検査室へ提出します。感度を高める基本は、抗菌薬投与前に、成人で1本8〜10 mLを、異なる部位から2セット以上採取することで、部位を分けることはコンタミネーションと真の菌血症の区別にも役立ちます。注射器採血では嫌気ボトルを先に分注して空気の混入を防ぎますが、真空採血では好気ボトルを先にするのが一般的です。一つひとつの手順の意味を理解しておくことは、敗血症診療で原因菌を確実に捉え、適切な抗菌薬選択につなげるための土台になります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
血液培養の正しい採取・取り扱い方法を問う問題である。設問は「感度を下げる」もの、すなわち本当は菌血症があるのに培養が陰性となってしまう(偽陰性を増やす)操作を選ぶ。
感度を左右する要因
血液中の菌量は一般にごく少なく(成人ではしばしば1 mLあたり1個未満)、また菌血症は間欠的に起こることが多い。そのため血液培養の感度は、次のような要因で大きく変わる。 ・採血量とセット数:培養する血液の総量が多いほど菌を捉える確率が上がる。成人では1本あたり約8〜10 mL、1セット(好気ボトル+嫌気ボトル)で約20 mLを採り、2セット以上採取するのが原則である。 ・抗菌薬投与のタイミング:投与後に採取すると菌の発育が抑えられ偽陰性となりやすい。 ・検体の保管・搬送条件:菌が生きたまま増殖できる環境を保つ必要がある。冷蔵すると菌、特に低温に弱い菌(髄膜炎菌、淋菌、インフルエンザ菌など)の発育が阻害・死滅し、偽陰性の原因となる。 ・ボトルへの分注順序:嫌気性菌の検出には空気の混入を避けることが重要である。 以上から、感度を下げるのは検体の冷蔵保存である。他の選択肢はいずれも感度を保つ・高めるための適切な手技である。
選択肢考察
- ○a. 検体を冷蔵保存する。
血液培養ボトルは冷蔵してはならない。低温では菌の増殖が止まり、菌種によっては死滅するため、本来検出されるべき菌が発育せず偽陰性となる。つまり感度を下げる操作であり、これが正解である。採取後は速やかに検査室へ運び、すぐに装置へ入れられない場合は室温に置く(可能であれば35〜37℃のふ卵器で保温する)。
- ×b. 検体採取の回数を増やす。
採取回数(セット数)を増やすと、培養に供する血液量が増え、間欠的な菌血症を捉える機会も増えるため感度は上がる。1セットのみでは見逃しが多く、2〜3セット採取することで検出率は大きく改善する。感度を下げる操作ではない。
- ×c. 抗菌薬を投与する前に採取する。
抗菌薬を投与した後に採取すると、血中の抗菌薬が菌の発育を抑えて偽陰性になりやすい。抗菌薬投与前に採取するのが原則であり、感度を保つための正しい手順である。すでに抗菌薬が投与されている場合は、次回投与の直前(血中濃度が最も低い時点)に採取する、抗菌薬吸着樹脂入りのボトルを用いる、などの工夫をする。
- ×d. 異なる部位から2セット採取する。
2セット以上を採取することで感度が上がる。さらに採取部位を変えることには、皮膚常在菌による汚染(コンタミネーション)と真の菌血症を区別しやすくする意義がある。例えばコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が2セット中1セットのみから検出されれば汚染の可能性が高く、両方から検出されれば真の菌血症を考える。感度を下げる操作ではない。
- ×e. 好気性ボトルより先に嫌気性ボトルに分注する。
注射器で採血した場合、注射器内に残った空気が最初に注入するボトルに入りにくいよう、嫌気性ボトルを先に、好気性ボトルを後にする。これにより嫌気ボトルへの酸素混入を防ぎ、嫌気性菌の発育を妨げない。感度を保つための適切な手順であり、感度を下げるものではない。なお、翼状針とホルダーを用いた真空採血では、チューブ内の空気が最初のボトルに入るため、好気性ボトルを先にするのが一般的である。
血液培養の適応
発熱(特に悪寒戦慄を伴う場合)、低体温、原因不明の意識障害・血圧低下、白血球の著明な増減、感染性心内膜炎や敗血症が疑われる場合などで採取する。
採取手順の要点
1. 手指衛生と手袋の着用。 2. ボトルのゴム栓をアルコールで消毒する。 3. 採血部位の皮膚をアルコール、クロルヘキシジンアルコールまたはポビドンヨードで消毒し、十分に乾燥させる(ポビドンヨードは乾燥まで約2分待つ)。消毒後は穿刺部位に触れない。 4. 静脈から採血する。留置カテーテルからの採血は汚染が多いため、カテーテル関連血流感染を評価する目的以外では避ける。 5. 1本あたり約8〜10 mL(成人)を分注し、2セット以上を別の部位から採取する。 6. 冷蔵せず速やかに検査室へ提出する。
セット数と検出率
1セットのみでは菌血症の見逃しが少なくなく、2セット、3セットと増やすことで累積検出率は明らかに向上する。感染性心内膜炎が疑われる場合は、持続的菌血症を証明するため時間をあけて3セット以上採取する。
汚染(コンタミネーション)の判断
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、Corynebacterium属、Bacillus属(B. anthracisを除く)、Cutibacterium(旧Propionibacterium)属などの皮膚常在菌が複数セット中1セットのみから検出された場合は、汚染の可能性が高い。
POINT
・血液培養は冷蔵しない(低温で菌が死滅・発育停止し偽陰性となる)。室温保管し速やかに提出する。 ・抗菌薬投与前に、異なる部位から2セット以上採取する。 ・1本あたり成人で約8〜10 mL。採血量が感度を決める。 ・注射器採血では嫌気ボトル→好気ボトルの順に分注し、嫌気ボトルへの空気混入を防ぐ。
