「原因から結果へ」追いかける研究―コホート研究と症例対照研究の決定的な違い
第107回医師国家試験 G問題 第6問
国試問題にチャレンジ
症例対照研究と比較したコホート研究の特徴はどれか。
- a.調査期間が短い。
- b.研究に費用がかからない。
- c.疾患発生の有無を追跡する。
- d.寄与危険度が計算できない。
- e.まれな疾患の研究に適する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
コホート研究は、疾病をもたない集団を要因の有無で分け、その後の疾患発生の有無を追跡する「要因から疾病へ」の研究デザインです。各群の罹患率が得られるため相対危険度と寄与危険度を直接計算でき、時間的前後関係が明確な一方、長期間・大規模・高費用となり、頻度の高い疾患やまれな曝露の研究に向きます。症例対照研究は患者と対照を集めて過去の曝露を比べる「疾病から要因へ」の手法で、短期間・低費用でまれな疾患に適しますが、得られるのはオッズ比であり、思い出しバイアスなどに注意が必要です。両者を出発点・方向・指標・バイアスの観点から対比して理解することは、国試対策だけでなく、臨床論文を批判的に読む力の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
コホート研究と症例対照研究は、どちらも「ある要因(曝露)が病気の原因になっているか」を調べる分析疫学の代表的な手法であり、両者を対比させて整理しておくことが重要である。 コホート研究は、まだ病気になっていない集団を、要因に曝露している群(曝露群)と曝露していない群(非曝露群)に分け、時間を追ってそれぞれから病気がどれだけ発生するかを観察する。流れは「要因 → 結果(疾病)」であり、原因から結果へ向かう前向きの方向で調べる。各群の罹患率(発生率)がそのまま求められるので、相対危険度(リスク比)と寄与危険度(リスク差)を直接計算できる。 症例対照研究は、すでに病気になった人(症例群)と病気でない人(対照群)を集め、過去にさかのぼって要因への曝露状況を比較する。流れは「結果 → 要因」である。罹患率は求められず、オッズ比を算出して相対危険度の近似値とする。 この違いから、コホート研究は「長期間」「大規模」「高費用」になりやすく、頻度の高い疾患に向く一方、症例対照研究は「短期間」「少人数」「低費用」で、まれな疾患にも適用できる。設問はコホート研究側の特徴を問うており、その本質である「疾患発生の有無を追跡する」が正解となる。
選択肢考察
- ×a. 調査期間が短い。
誤り。コホート研究では、曝露群・非曝露群から病気が発生するまで観察を続けなければならない。がんや循環器疾患のように発症までに長い年月を要する病気では、追跡が数年から数十年に及ぶ。調査期間が短くて済むのは、すでに発症した症例を集めて過去を調べる症例対照研究の特徴である。
- ×b. 研究に費用がかからない。
誤り。コホート研究では、十分な数の発症者を得るために大人数を長期間追跡する必要があり、対象者の定期的な調査や脱落防止などに多くの費用と労力がかかる。比較的安価・短期間で実施できるのは症例対照研究のほうである。
- ○c. 疾患発生の有無を追跡する。
正しい。コホート研究は、研究開始時点で対象疾患をもたない集団を要因の有無で分け、その後の経過のなかで疾患が発生するかどうかを追跡・観察する研究デザインである。「要因から結果へ」という時間の流れに沿って調べるため、因果関係の時間的前後関係が明確であり、症例対照研究よりも因果関係を推定する根拠として強いとされる。
- ×d. 寄与危険度が計算できない。
誤り。コホート研究では曝露群と非曝露群それぞれの罹患率が得られるため、寄与危険度(曝露群の罹患率 − 非曝露群の罹患率)も相対危険度(曝露群の罹患率 ÷ 非曝露群の罹患率)も直接計算できる。むしろ罹患率を直接求められない症例対照研究のほうが、寄与危険度を直接計算できない(相対危険度はオッズ比で近似する)。
- ×e. まれな疾患の研究に適する。
誤り。まれな疾患では、大きな集団を長期間追跡しても発症者がごくわずかしか現れず、統計的な比較に必要な症例数が集まりにくい。まれな疾患の研究に適しているのは、すでに発症した患者を出発点として集められる症例対照研究である。逆に、まれな曝露(特殊な職業曝露など)の影響を調べる場合には、曝露者を集めて追跡するコホート研究が向いている。
コホート研究と症例対照研究の比較
・出発点:コホート研究は要因の有無、症例対照研究は疾病の有無 ・調べる方向:コホート研究は要因→疾病(主に前向き)、症例対照研究は疾病→要因(後ろ向き) ・期間・費用・労力:コホート研究は長く大きい、症例対照研究は短く小さい ・適する対象:コホート研究は頻度の高い疾患・まれな曝露、症例対照研究はまれな疾患 ・算出できる指標:コホート研究は罹患率・相対危険度・寄与危険度、症例対照研究はオッズ比(疾患がまれなら相対危険度の近似値となる) ・一度に調べられる範囲:コホート研究は一つの要因から複数の疾患を評価でき、症例対照研究は一つの疾患について複数の要因を評価できる ・主なバイアス:コホート研究は追跡中の脱落、症例対照研究は思い出しバイアス(想起バイアス)や対照の選び方による選択バイアス
指標の求め方
曝露群の罹患率を Ie、非曝露群の罹患率を Iu とすると ・相対危険度 = Ie / Iu(要因が疾病の発生にどれほど強く関連するか) ・寄与危険度 = Ie − Iu(曝露によって増えた分の罹患率。曝露をなくせば減らせる分を表し、公衆衛生対策の効果の見積もりに用いる)
補足:後ろ向きコホート研究
コホート研究は必ずしも未来に向かって追跡するとは限らない。過去の記録(職場の健診記録など)を用いて、過去の時点で曝露の有無により集団を分け、その後の発症を記録上たどる方法を後ろ向き(歴史的)コホート研究という。この場合も「要因から疾病へ」という流れは同じである。
POINT
・コホート研究:要因の有無で分けた集団を追跡し、疾患発生の有無を観察する(要因→疾病)。 ・長期間・高費用・大規模が必要で、頻度の高い疾患に向く。 ・罹患率が得られるため相対危険度と寄与危険度を直接計算できる。 ・症例対照研究:短期間・低費用で、まれな疾患に向く。算出できるのはオッズ比。
