StudyMed医師国家試験

乳児医療費助成は「法律」ではなく「自治体」の仕事―母子保健法の事業を整理する

第107回医師国家試験 G問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第107回 G問題 第5問

母子保健法による母子保健事業として行われていないのはどれか。

  1. a.母子健康手帳の交付
  2. b.乳児医療の公費による助成
  3. c.未熟児の訪問指導
  4. d.1歳6か月児健康診査
  5. e.3歳児健康診査

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、母子保健法に基づく母子保健事業として「行われていないもの」を選ぶ問題だ。着眼点は、それぞれの施策がどの法律や制度に根拠をもっているか。一見どれも母子に関係するものばかりだから、根拠法で切り分けられるかが勝負になる。
医学生医学生
母子保健法は1965年に制定された法律でしたよね。公衆衛生の講義で、妊産婦と乳幼児の健康を守るための法律と習いました。
ドクタードクター
その通り。母子保健法の事業は「届出と手帳」「健康診査」「保健指導・訪問指導」「医療」の4つに分けて覚えると整理しやすい。この枠に各選択肢を当てはめてみよう。まず母子健康手帳の交付からいこうか。
医学生医学生
妊娠の届出をすると市町村から交付されるので、母子保健法の事業ですね。産婦人科の実習で、妊婦健診のたびに手帳に記録しているのを見ました。
ドクタードクター
正解。妊娠の届出を受けて市町村が交付する仕組みで、妊娠経過から分娩、乳幼児期の発育や健診結果、予防接種歴までが一冊にまとまる。次に1歳6か月児健診と3歳児健診はどうかな。
医学生医学生
これも母子保健法で市町村に実施が義務づけられている健診だったと思います。
ドクタードクター
そう。この2つは市町村の法定義務という点が重要だ。1歳6か月児健診では歩行や有意語などの運動・精神発達、3歳児健診では言語発達や視覚・聴覚、つまり弱視や難聴のスクリーニングなどを確認する。
医学生医学生
小児科の実習で乳幼児健診を見学したとき、保健師さんが発達のチェックをしていました。未熟児の訪問指導も母子保健法の事業ですか。
ドクタードクター
そうだ。養育上必要と認められる未熟児について、医師や保健師、助産師が家庭を訪問して指導を行う。出生体重2,500g未満の場合は低体重児の届出が義務づけられていて、それが訪問指導につながる仕組みになっている。なお、この訪問指導の実施主体は、2013年に都道府県等から市町村へ移されている。
医学生医学生
となると、残った乳児医療の公費助成が答えでしょうか。でも、私の地元の市でも子どもの医療費は無料でした。法律で決まっているものだと思っていました。
ドクタードクター
そこが多くの人が引っかかるところだね。乳幼児医療費助成やこども医療費助成は、各自治体が条例などに基づいて独自に行っている事業で、母子保健法に基づく全国一律の制度ではないんだ。だから自治体によって対象年齢や所得制限が違っている。
医学生医学生
それで住んでいる地域によって差があるんですね。母子保健法には医療費に関する規定はまったくないんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。母子保健法が医療費の公費負担として定めているのは、入院養育が必要と認められた未熟児を対象とする「養育医療」だけなんだ。乳児一般の医療費は医療保険で給付され、自己負担分の助成は自治体の判断に委ねられている。
医学生医学生
公費負担なら何でも母子保健法、ではないんですね。小児の公費負担制度は他にもありましたよね。
ドクタードクター
そうだね。根拠法とセットで整理しておこう。小児慢性特定疾病の医療費助成は児童福祉法、自立支援医療の育成医療は障害者総合支援法、未熟児の養育医療は母子保健法。そして乳幼児医療費助成は自治体独自の事業だ。
医学生医学生
医療費の公費負担で母子保健法なのは養育医療だけ、と覚えておけば混乱しなさそうです。
ドクタードクター
それが一番の近道だね。もう一つ押さえておきたいのは実施主体の流れだ。母子保健サービスは1997年から基本的に市町村が担うようになり、2013年には低体重児の届出の受理、未熟児の訪問指導、養育医療も市町村へ移された。今では母子保健事業の大部分が市町村の仕事になっている。
医学生医学生
住民に身近な市町村が、妊娠から子育てまで切れ目なく支えるという考え方ですね。
ドクタードクター
その通り。妊娠期から子育て期まで一体的に相談・支援する拠点の整備も進められている。臨床の現場でも、低出生体重児の退院時や、健診で発達の遅れが気になる子がいたときには、市町村の保健師と連携することが多い。制度の根拠を知っておくと、どこにつなげばよいかが見えてくるよ。

まとめ

母子保健法は妊産婦と乳幼児の健康の保持・増進を目的とする法律で、妊娠の届出と母子健康手帳の交付、1歳6か月児健診・3歳児健診(市町村の法定義務)、新生児・妊産婦・未熟児の訪問指導、低体重児の届出、未熟児の養育医療などを定めています。同法による医療費の公費負担は入院養育を要する未熟児の養育医療のみで、乳幼児医療費助成は各自治体が独自に行う事業であり、母子保健法の事業ではありません。小児の公費負担制度は、小児慢性特定疾病医療費助成が児童福祉法、育成医療が障害者総合支援法と、根拠法をセットで整理しておくことが重要です。現在、母子保健事業の多くは市町村が実施主体となっています。制度の根拠と担い手を理解しておくことは、試験対策だけでなく、臨床で母子を地域の支援へつなぐ際の実践的な知識になります。

解答・解説

正解はbです

母子保健法(1965年制定)は、母性(妊産婦など)と乳幼児の健康の保持・増進を目的とし、保健指導・健康診査・医療などの具体的な施策を定めた法律である。本問は、選択肢に挙げられた施策のうち、この法律に根拠をもたないものを選ばせる問題である。 考え方としては、母子保健法の主な事業を「届出と手帳」「健康診査」「保健指導・訪問指導」「医療(養育医療)」に分けて覚えておき、各選択肢を当てはめていけばよい。母子健康手帳の交付(第16条)、1歳6か月児健康診査と3歳児健康診査(第12条)、未熟児の訪問指導(第19条)はいずれも条文に明記された事業である。 一方、医療費の公費負担について母子保健法が定めているのは、入院養育が必要な未熟児を対象とする「養育医療」(第20条)に限られる。乳児一般の医療費を公費で助成する制度は同法には存在しない。現在多くの自治体で行われている乳幼児(こども)医療費助成は、各自治体が条例などに基づいて独自に実施している事業であり、母子保健法に基づく事業ではない。したがって b が「行われていない」ものに当たる。

選択肢考察

  1. ×a.  母子健康手帳の交付

    母子保健法第16条に基づく事業である。妊娠した者は市町村長に妊娠の届出を行い(第15条)、市町村はその届出をした者に母子健康手帳を交付しなければならない。手帳には妊娠経過、分娩の状況、新生児期から幼児期までの発育・健診結果、予防接種歴などが記録され、母と子の健康記録として一貫して用いられる。

  2. ○b.  乳児医療の公費による助成

    母子保健法に規定のない事業であり、これが正解である。同法で医療費を公費負担するのは、出生体重2,000g以下や生活力が特に薄弱な未熟児で入院養育が必要と認められた場合の「養育医療」(第20条)のみである。乳児一般の医療費は原則として医療保険で給付され、自己負担分を助成するかどうかは各自治体の独自施策(乳幼児医療費助成・こども医療費助成)に委ねられている。なお、小児の医療費に対する公費負担としては、ほかに児童福祉法に基づく小児慢性特定疾病医療費助成や、障害者総合支援法に基づく自立支援医療(育成医療)などがあるが、いずれも母子保健法による事業ではない。

  3. ×c.  未熟児の訪問指導

    母子保健法第19条に基づく事業である。養育上必要があると認められる未熟児について、医師・保健師・助産師などが保護者を訪問し、必要な指導を行う。この事業の実施主体はかつて都道府県・保健所設置市・特別区であったが、2013年(平成25年)4月の権限移譲により市町村に移されている。未熟児の出生時には低体重児の届出(体重2,500g未満、第18条)が義務づけられており、これが訪問指導につながる仕組みになっている。

  4. ×d.  1歳6か月児健康診査

    母子保健法第12条で市町村に実施が義務づけられた健康診査である。対象は満1歳6か月を超え満2歳に達しない幼児で、歩行や言語(有意語)などの運動・精神発達の遅れ、視聴覚の異常、むし歯、栄養状態などを確認し、早期発見と保健指導につなげる。

  5. ×e.  3歳児健康診査

    1歳6か月児健診と同じく母子保健法第12条に規定される市町村の義務である。対象は満3歳を超え満4歳に達しない幼児で、身体発育、精神発達、言語、視覚・聴覚(弱視や難聴のスクリーニング)、歯科、尿検査などを行う。

母子保健法の主な事業

・妊娠の届出(第15条)と母子健康手帳の交付(第16条):市町村 ・妊産婦・乳幼児の健康診査(第13条):市町村が必要に応じて行う(妊婦健診など) ・1歳6か月児健康診査・3歳児健康診査(第12条):市町村に実施義務 ・保健指導(第10条)、新生児の訪問指導(第11条)、妊産婦の訪問指導(第17条) ・低体重児の届出(第18条):出生時体重2,500g未満の乳児 ・未熟児の訪問指導(第19条) ・養育医療(第20条):入院養育を要する未熟児の医療費を公費で給付 ・母子健康包括支援センター(子育て世代包括支援センター)の設置:2016年改正で規定。2024年4月からは児童福祉法の子ども家庭総合支援拠点と一体化し「こども家庭センター」として整備が進められている。

実施主体の変遷

母子保健サービスは1997年(平成9年)から基本的に市町村が担うようになり、さらに2013年からは低体重児の届出の受理、未熟児の訪問指導、養育医療の給付も都道府県等から市町村へ移譲された。現在では母子保健事業の大部分が市町村の事業である。

小児の医療費に関わる主な公費制度と根拠法

・養育医療:母子保健法 ・小児慢性特定疾病医療費助成:児童福祉法 ・自立支援医療(育成医療):障害者総合支援法 ・乳幼児(こども)医療費助成:各自治体の独自事業(法律上の全国制度ではない)

POINT

・母子保健法による医療費の公費負担は未熟児の養育医療のみである。 ・乳幼児医療費助成は自治体独自の施策であり、母子保健法の事業ではない。 ・母子健康手帳の交付(第16条)、1歳6か月児健診・3歳児健診(第12条、法定義務)、未熟児の訪問指導(第19条)は母子保健法の事業である。 ・現在、母子保健事業の実施主体はほとんどが市町村である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。