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車椅子が壊れた日―身体は同じでも「障害」が変わるICFの考え方

第107回医師国家試験 G問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第107回 G問題 第38問

歩行障害のため普段は車椅子で職場へ通勤している人が,車椅子が故障したため仕事を休んだ。  この人の生活機能を国際生活機能分類で評価した場合,普段とは評価が異なる項目はどれか。3つ選べ。

  1. a.活動制限
  2. b.環境因子
  3. c.機能障害
  4. d.参加制約
  5. e.身体構造

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は国際生活機能分類、いわゆるICFの問題だ。ポイントは「何が変わって、何が変わっていないか」を構成要素ごとに仕分けること。車椅子が壊れたことで、ICFのどの層に変化が起きたのかを考えてみよう。
医学生医学生
公衆衛生の講義でICFの図は見ましたが、構成要素がたくさんあって正直ごちゃごちゃしています。
ドクタードクター
まず整理しよう。ICFは、生きることの全体像を「生活機能」と「背景因子」で捉える。生活機能は心身機能・身体構造、活動、参加の3つのレベル。背景因子は環境因子と個人因子の2つだ。それぞれに問題が生じた状態を、機能障害・構造障害、活動制限、参加制約と呼ぶんだ。
医学生医学生
歩けないのは身体の問題だから、車椅子が使えなくなると機能障害も重くなる気がします。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけだね。車椅子が壊れても、本人の筋力や関節、神経の働きは何も変わっていない。歩行障害という身体側の問題は普段も今回も同じだから、機能障害の評価は変わらないんだ。
医学生医学生
なるほど。「歩けない」のと「移動できない」のは別物なんですね。
ドクタードクター
その区別が本問の要点だよ。では、変化の出発点はどこだと思う?
医学生医学生
壊れたのは車椅子という道具なので、環境因子でしょうか。
ドクタードクター
正解。ICFでは福祉用具などの製品・用具は環境因子に含まれる。環境因子は生活機能を後押しする促進因子にも、妨げる阻害因子にもなる。普段は車椅子が促進因子として移動を支えていたのに、それが失われた。だから環境因子の評価は明らかに変わる。
医学生医学生
その結果、職場まで行けなくなったのは活動の問題ですね。
ドクタードクター
そう。活動は個人が課題や行為を実際に遂行することで、移動や通勤が含まれる。普段は車椅子で自力通勤できていたのに、今回はそれができない。活動制限の評価も普段とは異なるんだ。
医学生医学生
仕事を休んだというのは、参加制約ですか。働くという社会的な役割が果たせなくなったので。
ドクタードクター
その通り。参加は家庭や職場、地域での役割に関わることを指す。移動手段を失った結果、職場で働くという役割に関与できなかったのだから、参加制約の評価も変わる。身体構造については分かるかな。
医学生医学生
身体構造は器官や四肢などの解剖学的な部分なので、本人の体の形には何の変化もありません。評価は同じですね。
ドクタードクター
完璧だ。つまり、環境因子の変化が、身体を変えないまま活動と参加に影響を及ぼした例というわけだ。障害を本人の身体だけでなく、環境との相互作用の結果として捉える。これがICFの真骨頂なんだ。
医学生医学生
ICFの前の分類もありましたよね。CBTの勉強で名前だけ覚えた気がします。
ドクタードクター
1980年の国際障害分類、ICIDHだね。疾患が機能障害を生み、能力障害、社会的不利へとつながる一方向のモデルで、障害のマイナス面だけを分類していた。2001年のICFでは中立的な用語でプラス面も含めて記述し、背景因子を加え、各要素が双方向に影響し合うモデルに改められた。能力障害は活動制限に、社会的不利は参加制約におおむね相当する。
医学生医学生
臨床実習でリハビリテーション科を回ったとき、カンファレンスで手すりや住宅改修の話がよく出ていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにICFの発想だよ。活動や参加は「実行状況」と「能力」の2つで評価できる。今回悪化したのは、今の環境で実際にしていることを示す実行状況のほうだ。両者の差は、環境を整えればどれだけ生活が改善しうるかの手がかりになる。身体を治すだけでなく、環境を変えることで生活機能を高められる、という視点を持っておくと、退院支援や福祉サービスの調整でも役立つはずだ。

まとめ

ICFは、生活機能(心身機能・身体構造、活動、参加)と背景因子(環境因子・個人因子)が相互に影響し合うモデルで、問題が生じた状態を機能障害・構造障害、活動制限、参加制約と呼びます。車椅子のような福祉用具は環境因子に含まれ、促進因子として生活機能を支えています。車椅子の故障では本人の身体に変化はないため機能障害・身体構造の評価は変わらず、環境因子の変化によって移動・通勤という活動と、働くという参加の評価が変わります。前身のICIDHが一方向でマイナス面のみを扱ったのに対し、ICFは環境との相互作用で障害を捉える点が特徴です。この視点は、リハビリテーションや福祉用具・住宅改修など、環境調整による生活支援を考える土台になります。

解答・解説

正解はa, b, dです

国際生活機能分類(ICF)は、2001年に世界保健機関(WHO)が採択した分類である。人の「生きることの全体像」を、生活機能と背景因子の組み合わせで捉える。 ・生活機能:心身機能・身体構造、活動、参加の3つのレベルからなる。 ・障害:それぞれのレベルで問題が生じた状態をいう。機能障害(心身機能の問題)、構造障害(身体構造の問題)、活動制限、参加制約と呼ぶ。 ・背景因子:環境因子と個人因子からなる。 これらは一方向の因果関係ではなく、互いに影響し合う(相互作用モデル)。 本問の状況を整理する。 ・歩行障害という身体側の問題は、普段も今回も同じである。車椅子が壊れても本人の身体には何の変化もない。 ・変わったのは、本人の外にある「使える車椅子」という物的環境である。普段は移動を助けていた車椅子(促進因子)が失われた。 ・その結果、本人は職場まで移動できなくなり(活動の変化)、仕事を休んだ(社会的な役割への関与の変化)。 つまり、環境因子の変化が、身体の状態を変えないまま、活動と参加のレベルに影響を及ぼした例である。ICFのように、障害を本人の身体だけでなく環境との相互作用の結果として捉えるモデルは「統合モデル」とよばれる。本問はその考え方を端的に示している。評価が変わるのは環境因子・活動制限・参加制約の3項目である。

選択肢考察

  1. ○a.  活動制限

    活動とは、個人が課題や行為を実際に遂行することであり、移動、身の回りの動作、通勤などが含まれる。活動制限は、その遂行が困難になっている状態を指す。普段は車椅子を使えば自力で移動・通勤できていたが、車椅子が故障したため移動という活動が困難になった。ICFで活動を評価する際は、「実行状況」(現在の環境で実際にしていること)と「能力」(標準的な環境で発揮できる力)を区別する。本問で悪化したのは実行状況のほうである。

  2. ○b.  環境因子

    環境因子は、人々が生活している物的・社会的・態度的な環境である。福祉用具などの製品や用具、建物、支援者、制度などが含まれる。環境因子は生活機能を促進する方向にも阻害する方向にも働く。普段は車椅子という福祉用具が「促進因子」として移動を支えていた。故障によってそれが失われ、移動を妨げる状況に変わったのだから、環境因子の評価は明らかに変化している。今回の変化の出発点はこの項目である。

  3. ×c.  機能障害

    機能障害とは、心身機能(身体の生理的機能や精神機能)に生じた問題である。本問では、下肢の運動機能の問題による歩行障害が該当する。車椅子が壊れても、本人の筋力や関節の動き、神経機能などは何も変わっていない。したがって機能障害の評価は普段と同じである。「歩けない」という身体の問題と、「移動できない」という活動の問題を区別することが本問の要点である。

  4. ○d.  参加制約

    参加とは、生活・人生の場面に関わることである。仕事、家庭での役割、地域活動などの社会的な役割を果たすことを指す。参加制約は、こうした役割を担おうとしても思うように関与できない状態を指す。本問では、移動手段を失った結果、職場で働くという社会的役割を果たせず仕事を休んでいる。したがって参加制約の評価は普段とは異なる。

  5. ×e.  身体構造

    身体構造は、器官や四肢などの解剖学的な部分を指す。そこに生じた欠損や変形などの問題を構造障害という。壊れたのは車椅子という道具であり、本人の身体の解剖学的構造に変化は生じていない。したがって身体構造の評価は普段と同じである。

ICFの構成要素

・心身機能:身体系の生理的機能(精神機能を含む)。問題が生じた状態を機能障害とよぶ。 ・身体構造:器官・四肢などの解剖学的部分。問題が生じた状態を構造障害とよぶ。 ・活動:個人による課題や行為の遂行。問題が生じた状態を活動制限とよぶ。 ・参加:生活・人生場面への関わり。問題が生じた状態を参加制約とよぶ。 ・環境因子:物的環境、人的環境、社会的態度、制度・サービスなど。促進因子にも阻害因子にもなる。 ・個人因子:年齢、性別、生活歴、価値観など。ICFでは分類コードは設けられていない。

ICIDHからICFへ

WHOは1980年に国際障害分類(ICIDH)を発表した。ICIDHは、疾患が機能障害(impairment)を生み、それが能力障害(disability)、さらに社会的不利(handicap)へとつながるという一方向のモデルであった。障害のマイナス面だけを分類し、環境の役割も十分に考慮されていなかった。そのため、2001年のICFでは次のように改められた。 ・中立的な用語(生活機能)を用いて、プラス面も含めて記述する。 ・背景因子(環境因子・個人因子)を加える。 ・各要素が双方向に影響し合うモデルとする。 対応関係は、能力障害が活動制限に、社会的不利が参加制約に、おおむね相当する。

評価の視点

活動と参加は「実行状況」と「能力」の2つの評価点で記述できる。両者の差は、環境を整えることでどれだけ生活機能が改善しうるかを示す手がかりになる。リハビリテーションや福祉用具・住宅改修などの支援を計画するうえで重要な視点である。

POINT

・ICFは生活機能(心身機能・身体構造、活動、参加)と背景因子(環境因子・個人因子)が相互に影響し合うモデルである。 ・問題が生じた状態は、それぞれ機能障害・構造障害、活動制限、参加制約とよぶ。 ・車椅子などの福祉用具は環境因子に含まれ、生活機能を支える促進因子として働く。 ・環境因子が変わると、身体に変化がなくても活動や参加が変化する。本問では環境因子・活動制限・参加制約の評価が変わり、機能障害・身体構造は変わらない。 ・ICFの前身はICIDH(1980年)であり、一方向・マイナス面のみのモデルだった。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。