StudyMed医師国家試験

チューブで抜けるのは「肺の外」だけ―胸腔ドレナージの適応を見極める

第107回医師国家試験 G問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第107回 G問題 第39問

胸腔ドレナージが行われるのはどれか。3つ選べ。

  1. a.膿胸
  2. b.肺気腫
  3. c.血気胸
  4. d.肺水腫
  5. e.乳び胸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胸腔ドレナージの適応を問う問題だ。着眼点はひとつ。異常が「胸腔」、つまり肺の外側にあるのか、それとも「肺の中」、つまり肺実質にあるのかを区別することだよ。
医学生医学生
胸腔ドレナージは、胸に管を入れて空気や水を抜く処置ですよね。
ドクタードクター
そう。胸腔は壁側胸膜と臓側胸膜の間のすき間で、本来はわずかな胸水しかなく陰圧に保たれている。その陰圧のおかげで肺は膨らんでいられるんだ。ここに空気や液体がたまると肺が押しつぶされて虚脱する。それを抜いて肺を再膨張させるのがドレナージの目的だ。
医学生医学生
だとすると、肺水腫も水がたまっているので抜けそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だね。肺水腫の水は、肺の間質や肺胞の中にある。胸腔にチューブを入れても、肺の中の水には届かないんだ。左心不全による心原性なら酸素投与やNPPV、利尿薬や血管拡張薬で治療するし、ARDSのような非心原性なら原因への対処が中心になる。
医学生医学生
心不全で胸水がたまることもありますよね。循環器内科の実習で胸部X線のCP角が鈍になっている患者さんを見ました。
ドクタードクター
よく見ているね。ただ、心不全の胸水は呼吸を強く圧迫するほど大量でなければ、心不全の治療で改善することが多い。肺水腫そのものはドレナージの対象ではない、と押さえておこう。では膿胸はどうかな。
医学生医学生
胸腔に膿がたまった状態なので、ドレナージの適応だと思います。
ドクタードクター
正解。多くは肺炎に続発し、肺炎随伴性胸水が感染・化膿したものだ。治療は抗菌薬と胸腔ドレナージによる排膿が基本。胸水のpHが7.2未満、糖が低い、グラム染色や培養で菌が陽性といった所見があれば、肺炎随伴性胸水でもドレナージを考える。膿が粘稠だったり、フィブリンの隔壁で多房化していたりするときは、線維素溶解薬の胸腔内注入や胸腔鏡下の掻爬術も検討されるよ。
医学生医学生
血気胸は空気と血液の両方が胸腔にあるので、これも適応ですね。
ドクタードクター
その通り。肋骨骨折などの胸部外傷が多いけれど、自然気胸のときに肺尖部の癒着が裂けて出血することもある。血液を抜くので太めのドレーンを使う。それに、排液の量と速さを見ることで出血の勢いを評価できるのも大事な点だ。挿入直後に大量の血液が出る場合や、その後も出血が続く場合は、開胸や胸腔鏡での止血術を検討するんだ。
医学生医学生
乳び胸はあまり馴染みがないのですが、リンパ液が胸腔に漏れるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。胸管などのリンパ管が損傷・閉塞して、脂肪の多いリンパ液が胸腔に漏れる。食道癌手術などの胸部手術や外傷、悪性リンパ腫による胸管の閉塞が原因になる。胸水は乳白色でトリグリセリドが高く、目安は110 mg/dL以上だ。呼吸を障害する量ならドレナージで排液し、同時に絶食と中心静脈栄養、あるいは中鎖脂肪酸を使った食事でリンパ流量を減らす。
医学生医学生
肺気腫は肺の中に空気がたまっている病気なので、肺水腫と同じく適応外ですね。
ドクタードクター
その理解でいい。肺気腫は肺胞壁が壊れて気腔が拡大した状態で、COPDの主な病型だ。病変は肺の内部にあり、胸腔に空気が漏れているわけではない。治療は禁煙、気管支拡張薬の吸入、呼吸リハビリテーションなどだ。ただし注意点が2つある。
医学生医学生
肺気腫に気胸が合併した場合、でしょうか。
ドクタードクター
鋭いね。続発性気胸を起こせば胸腔ドレナージが必要になる。もうひとつは、巨大なブラが胸部X線で気胸と紛らわしいこと。ブラに誤ってドレーンを刺すと新たな空気漏れを作ってしまうから、CTで両者を区別することが重要なんだ。
医学生医学生
胸腔にたまっているものは抜く、肺の中の病変は抜けない、という整理ですね。
ドクタードクター
そのとおり。手技の要点も添えておこう。挿入は一般に中腋窩線から前腋窩線の第4〜5肋間付近、いわゆる安全三角から行う。肋間動静脈と神経は肋骨の下縁を走るので、肋骨の上縁を通すのが原則だ。逆流を防ぐため水封式のバッグにつなぎ、必要に応じて吸引をかける。そして長く虚脱していた肺を急に膨らませると、再膨張性肺水腫を起こすことがあるから要注意だよ。
医学生医学生
OSCEの前に勉強した胸部の解剖が、こういうところで生きてくるんですね。
ドクタードクター
そうだね。適応の判断も手技の安全も、解剖と病態の理解がそのまま支えになる。

まとめ

胸腔ドレナージは、胸腔(肺の外側)に貯留した空気・血液・膿・乳びなどを排出し、肺を再膨張させる処置です。適応は気胸、血胸・血気胸、膿胸、乳び胸、呼吸を障害する大量胸水などで、肺気腫や肺水腫のような肺実質の病変は、胸腔にチューブを入れても病変部の空気や水が抜けないため適応になりません。ただし肺気腫に続発性気胸が合併すればドレナージが必要となり、巨大ブラと気胸の取り違えによる誤穿刺を避けるためCTでの区別が重要です。乳び胸はトリグリセリド高値の乳白色胸水が特徴で、膿胸では胸水のpH・糖・細菌所見がドレナージの判断材料になります。「異常は胸腔か肺実質か」という視点は、適応判断だけでなく胸部画像の読影や合併症管理の土台にもなります。

解答・解説

正解はa, c, eです

胸腔ドレナージとは、胸壁から胸腔(壁側胸膜と臓側胸膜の間の空間)にチューブ(胸腔ドレーン)を挿入し、胸腔に異常にたまった空気や液体を体外へ持続的に排出する処置である。胸腔は本来わずかな胸水があるだけで陰圧に保たれており、その陰圧によって肺は膨らんだ状態を維持している。空気や液体がたまると肺が圧迫されて虚脱し、呼吸が障害される。これを取り除いて肺を再膨張させることがドレナージの目的である。 したがって適応を考えるときは、「異常が胸腔(肺の外側)にあるか、肺の内部(肺実質)にあるか」を区別することが要点になる。 ・胸腔内に貯留物がある病態:気胸(空気)、血胸(血液)、膿胸(膿)、乳び胸(リンパ液)、大量の胸水など。ドレナージの対象になる。 ・肺実質そのものの病変:肺気腫(肺胞の破壊)、肺水腫(肺胞・間質への水分貯留)、肺炎など。胸腔にチューブを入れても病変部の空気や水は抜けないため、ドレナージの適応にならない。 選択肢のうち、膿胸・血気胸・乳び胸はいずれも胸腔に貯留物がある病態であり、胸腔ドレナージが行われる。

選択肢考察

  1. ○a.  膿胸

    膿胸は胸腔内に膿が貯留した状態である。多くは肺炎に続発し、細菌感染が胸腔へ広がることで生じる(肺炎随伴性胸水が感染・化膿したもの)。治療は抗菌薬の投与と、胸腔ドレナージによる排膿が基本である。肺炎随伴性胸水でも、胸水のpHが7.2未満、糖が低い、グラム染色や培養で細菌が陽性、といった所見があればドレナージの適応となる。膿の粘稠度が高い場合や隔壁(フィブリンの仕切り)を形成して多房化している場合は、ドレナージだけでは排膿が不十分になりやすい。そのときは線維素溶解薬の胸腔内注入や、胸腔鏡下の掻爬(そうは)術が検討される。

  2. ×b.  肺気腫

    肺気腫は、喫煙などによって終末細気管支より末梢の肺胞壁が破壊され、気腔が異常に拡大した状態である。慢性閉塞性肺疾患(COPD)の主な病型である。病変は肺の内部にあり、胸腔に空気が漏れているわけではない。そのため胸腔ドレナージの対象にはならない。治療の中心は禁煙、気管支拡張薬の吸入、呼吸リハビリテーション、在宅酸素療法などである。なお、肺気腫の患者に気胸(続発性気胸)が合併した場合は、胸腔ドレナージが必要になる。また、巨大な気腫性嚢胞(ブラ)は胸部X線で気胸と見誤りやすい。誤ってブラにドレーンを刺すと新たな空気漏れを作る危険があるため、CTで両者を区別することが重要である。

  3. ○c.  血気胸

    血気胸は、胸腔内に空気と血液の両方が貯留した状態である。胸部外傷(肋骨骨折による肺や肋間動脈の損傷など)で起こることが多い。自然気胸の際に、肺尖部の癒着が裂けて血管が切れることで生じることもある。空気も血液も胸腔にたまっているため、胸腔ドレナージで両者を排出し、肺を再膨張させる。血液を排出するには太めのドレーンを用いる。ドレナージは排液の量と速さを観察して出血の勢いを評価する手段にもなる。挿入時の出血量が多い場合や、その後も一定量以上の出血が持続する場合は、開胸または胸腔鏡による止血術を検討する。

  4. ×d.  肺水腫

    肺水腫は、肺の間質や肺胞内に水分が過剰に漏れ出した状態である。原因は、左心不全などによる肺毛細血管圧の上昇(心原性)と、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などによる血管透過性の亢進(非心原性)に大別される。水分は肺実質の中にあり胸腔にはないため、胸腔ドレナージでは除去できない。治療は原因となる病態への対処である。心原性であれば酸素投与、非侵襲的陽圧換気(NPPV)、利尿薬や血管拡張薬による前負荷・後負荷の軽減などを行う。心不全ではしばしば胸水も伴うが、呼吸を圧迫するほど大量でなければ心不全の治療で改善する。

  5. ○e.  乳び胸

    乳び胸は、胸管などのリンパ管が損傷・閉塞し、脂肪を多く含むリンパ液(乳び)が胸腔内に漏れ出した状態である。原因には、食道癌手術などの胸部手術や外傷による胸管損傷、悪性リンパ腫などの腫瘍による胸管の閉塞・浸潤がある。胸水は乳白色で、トリグリセリドが高値(110 mg/dL以上が目安)となり、カイロミクロンを含む。呼吸を障害する量であれば、胸腔ドレナージで排液して肺を再膨張させる。同時に絶食と中心静脈栄養、または中鎖脂肪酸(MCT)を用いた食事療法でリンパ流量を減らす。オクトレオチド(ソマトスタチンアナログ)が用いられることもある。それでも漏出が続く場合は胸管結紮術などを検討する。

胸腔ドレナージの主な適応

・気胸:中等度以上の虚脱、緊張性気胸、両側気胸など。緊張性気胸では、ドレーン挿入に先立って緊急の針脱気を行うことがある。 ・血胸・血気胸:外傷性、自然血気胸など。 ・膿胸・複雑性肺炎随伴性胸水 ・乳び胸 ・大量の胸水:呼吸困難を伴う悪性胸水など。悪性胸水では、ドレナージで排液した後に胸膜癒着術(タルクなどの薬剤を胸腔に注入して胸膜同士を癒着させる)を行い、再貯留を防ぐことがある。 ・開胸手術後:出血や空気漏れの監視と排出を目的とする。

手技の要点

ドレーンは、一般に中腋窩線から前腋窩線の第4〜5肋間付近(安全三角)から挿入する。肋間動静脈・神経は肋骨の下縁に沿って走るため、これを避けて肋骨の上縁を通して挿入する。排出される空気や液体が逆流しないよう、水封式の排液バッグ(チェストドレーンバッグ)に接続し、必要に応じて持続的に吸引をかける。

合併症

長期間虚脱していた肺を急速に膨らませると、再膨張性肺水腫を起こすことがある。臓器損傷、出血、感染、皮下気腫にも注意する。

血胸で手術を考慮する目安

ドレーン挿入直後に1,000〜1,500 mL以上の血液が排出された場合や、その後も200 mL/時程度以上の出血が数時間続く場合は、開胸止血術を検討するとされる。

POINT

・胸腔ドレナージは胸腔(肺の外側)に貯留した空気・血液・膿・乳びなどを排出する処置である。 ・適応:気胸、血胸・血気胸、膿胸、乳び胸、大量胸水など。 ・肺実質の病変(肺気腫、肺水腫、肺炎など)は適応にならない。 ・肺気腫のブラと気胸はX線で紛らわしく、CTで区別する。ブラへの誤穿刺に注意する。 ・乳び胸は乳白色の胸水で、トリグリセリドが高値(110 mg/dL以上)となる。原因は胸管損傷や悪性リンパ腫などである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。