義足で職場へ戻る日のために―退院前に勧めるべき社会制度を「対象条件」で見極める
第120回医師国家試験 E問題 第40問
国試問題にチャレンジ
55歳の男性。左下腿切断術後で入院中である。2か月前の休日に交通事故に遭い,左膝下10cmの部位で切断した。現在,医療保険によって製作した義足を装着してリハビリテーションを行っており,1週間後に退院予定である。職業は広告会社の管理職であり,1か月後に職場復帰を目指している。 退院に向け,患者に勧めるべきなのはどれか。
- a.失業等給付の申請
- b.要介護認定の申請
- c.身体障害者手帳の申請
- d.成年後見制度の利用手続
- e.労働災害休業給付の申請
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
下肢切断などで永続する身体障害が残った場合は、身体障害者福祉法に基づく身体障害者手帳の申請を勧めます。手帳を取得すると、障害者総合支援法による本義足(更生用義足)の補装具費支給、就労支援、税の控除、運賃割引など社会復帰に役立つ支援を受けられ、申請には指定医の診断書・意見書が必要です。一方、失業等給付は離職した失業状態の人、介護保険の第2号被保険者(40~64歳)は特定疾病が原因の人、成年後見制度は判断能力が低下した人、労災保険は業務災害・通勤災害による人が対象であり、在職中で休日の私的な事故による本例には当てはまりません。制度ごとの「対象条件」を患者背景と照らし合わせる考え方は、医療ソーシャルワーカーとの連携や退院支援の場面で欠かせない臨床能力です。
解答・解説
正解はcです
事例の整理
・55歳の男性。2か月前の休日に交通事故に遭い、左膝の10cm下で下腿を切断した(左下腿切断)。 ・医療保険で作った義足を着けてリハビリテーションを行っており、1週間後に退院する予定である。 ・広告会社の管理職で、1か月後の職場復帰を目指している。雇用は続いており、失業はしていない。 ・休日の事故であり、業務中の事故でも通勤途中の事故でもない。 ・55歳で、判断能力の低下を示す情報はない。
設問の考え方
退院して社会に戻る患者に、どの社会制度を勧めるべきかを問う問題である。各制度について、「対象となる人の条件」に本例が当てはまるかを一つずつ確かめればよい。 ・下腿切断によって、一下肢の永続的な欠損という身体障害が残っている → 身体障害者福祉法の対象になる。 ・雇用が続いている → 失業者向けの給付の対象外である。 ・55歳で、障害の原因は介護保険の特定疾病ではない(外傷)。しかも義足で歩けて就労復帰を目指している → 介護保険の対象外である。 ・判断能力は保たれている → 成年後見制度は不要である。 ・休日の私的な交通事故である → 労働者災害補償保険(労災保険)の対象外である。 したがって、勧めるべきなのは身体障害者手帳の申請である。手帳を取ると、退院後に使う本義足(更生用義足)の作製や修理の費用支給、就労支援、税の控除、公共交通機関の運賃割引など、社会復帰を後押しするさまざまな支援を受けられる。
選択肢考察
- ×a. 失業等給付の申請
誤り。失業等給付は雇用保険の給付で、その中心となる基本手当(いわゆる失業手当)は、離職して働く意思と能力がありながら就職できない「失業の状態」にある人が対象である。本例は会社に在籍したまま療養しており、1か月後に職場復帰する予定なので、失業していない。対象にならない。
- ×b. 要介護認定の申請
誤り。介護保険のサービスを受けられるのは、65歳以上の第1号被保険者で要介護・要支援状態にある人と、40~64歳の第2号被保険者で、その原因が特定疾病(末期がん、関節リウマチ、脳血管疾患、初老期における認知症など16疾病)による人である。本例は55歳で第2号被保険者に当たるが、下腿切断の原因は交通外傷であり、特定疾病に当たらない。また、義足で歩けて職場復帰を目指している状態であり、介護が必要な状況でもない。
- ○c. 身体障害者手帳の申請
正しい。身体障害者手帳は、身体障害者福祉法で定められた障害が永続する人に、都道府県知事(指定都市・中核市では市長)が交付するものである。申請には、指定医が作成した診断書・意見書が必要になる。下肢の切断は肢体不自由に当たり、一下肢を下腿の2分の1以上で欠く場合は4級に該当する。本例は膝下10cmでの切断なので、これに当たると考えられる。手帳を取ると、障害者総合支援法に基づく補装具費(義足の作製・修理費)の支給、障害者雇用促進法に基づく就労支援や障害者雇用率の算定対象となること、所得税・住民税の障害者控除、公共交通機関の運賃割引などを利用できる。社会復帰を支える中心的な制度であり、退院に向けて勧めるべきである。
- ×d. 成年後見制度の利用手続
誤り。成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などで判断能力が不十分になった人について、家庭裁判所が選んだ後見人などが財産管理や契約を代わりに行ったり支援したりして、本人の権利を守る制度である。判断能力の程度に応じて、後見・保佐・補助の3類型がある。本例は身体障害だけで判断能力は保たれており、管理職として職場復帰を目指しているので、利用する必要はない。
- ×e. 労働災害休業給付の申請
誤り。労災保険の休業補償給付(通勤災害の場合は休業給付)は、業務上の事由による負傷・疾病(業務災害)や通勤途中の災害(通勤災害)のために働けず、賃金を受けられない場合に支給される。本例は休日の私的な交通事故なので、業務災害にも通勤災害にも当たらず、労災保険の対象外である。
身体障害者手帳
・根拠法:身体障害者福祉法。 ・対象となる障害:視覚障害、聴覚・平衡機能障害、音声・言語・そしゃく機能障害、肢体不自由、内部障害(心臓、腎臓、呼吸器、膀胱・直腸、小腸、免疫、肝臓)。 ・等級:1級~6級(7級の障害は単独では手帳の交付対象にならず、7級の障害が2つ以上重なると6級になる)。 ・手続き:身体障害者福祉法第15条の指定医が診断書・意見書を作成し、本人が市区町村の窓口に申請する。障害が固定または永続すると判断されることが条件である。 ・主な支援:補装具(義肢、装具、車椅子など)の費用支給、自立支援医療(更生医療)、障害福祉サービス、税の控除、公共交通機関の運賃割引、障害者雇用枠での就労など。
義足の費用はどこが負担するか
・治療・訓練段階の仮義足(治療用装具):医療保険で作る(本例はこの段階)。 ・日常生活で使う本義足(更生用):身体障害者手帳を持っていれば、障害者総合支援法の補装具費支給制度を利用できる(原則1割負担で、所得に応じた負担上限がある)。 ・業務災害・通勤災害が原因なら労災保険で、交通事故なら加害者側の自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)や任意保険で補償される場合もある。
他の社会制度の対象
・雇用保険の基本手当:離職して失業状態にある人。 ・介護保険:65歳以上(第1号被保険者)、または40~64歳で特定疾病が原因の人(第2号被保険者)。特定疾病には、がん(末期)、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、後縦靱帯骨化症、骨折を伴う骨粗鬆症、初老期における認知症、パーキンソン病関連疾患、脊髄小脳変性症、脊柱管狭窄症、早老症、多系統萎縮症、糖尿病性神経障害・腎症・網膜症、脳血管疾患、閉塞性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患、両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症の16疾病がある。 ・成年後見制度:判断能力が不十分な人(後見・保佐・補助)。家庭裁判所が後見人などを選ぶ。 ・労災保険:業務災害・通勤災害による負傷・疾病・障害・死亡。
POINT
・下肢切断などで永続する身体障害が残れば、身体障害者手帳を申請する。義足の費用支給や就労支援など、社会復帰に役立つ支援につながる。 ・失業等給付は失業状態の人が対象であり、雇用が続いている人は対象外である。 ・介護保険の第2号被保険者(40~64歳)は、特定疾病が原因の場合に限って対象となる。外傷は含まれない。 ・成年後見制度は判断能力が低下した人のための制度である。 ・労災保険は業務災害・通勤災害が対象であり、休日の私的な事故は対象外である。
