放射線が効く腫瘍、効かない腫瘍―組織型で読み解く頭頸部がんの放射線感受性
第107回医師国家試験 G問題 第37問
国試問題にチャレンジ
放射線治療の感受性が高いのはどれか。2つ選べ。
- a.耳下腺腺癌
- b.甲状腺乳頭癌
- c.鼻腔悪性黒色腫
- d.上咽頭扁平上皮癌
- e.中咽頭悪性リンパ腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
放射線感受性はベルゴニー・トリボンドーの法則に従い、分裂が盛んで分化度の低い細胞ほど高くなります。悪性リンパ腫やセミノーマ、小細胞肺癌は高感受性で、扁平上皮癌は中等度ながら低分化型ほどよく反応し、EBウイルス関連で非角化型が多い上咽頭癌は化学放射線療法が根治治療の中心です。一方、唾液腺癌や甲状腺分化癌などの高分化腺癌、DNA修復能の高い悪性黒色腫は放射線抵抗性で手術が基本となり、甲状腺癌の131I内用療法はヨウ素取り込みを利用した治療であって感受性の高さを意味しません。抵抗性腫瘍には酸素効果や細胞周期の影響を受けにくい重粒子線などの高LET放射線が有効な場合があります。組織型から放射線感受性を推定する力は、手術・放射線・化学療法の使い分けを理解するうえで欠かせない視点です。
解答・解説
正解はd, eです
放射線感受性とは、同じ線量を照射したときに腫瘍がどの程度縮小・消失しやすいかを表す性質である。腫瘍ごとの感受性の違いを理解する基本となるのが、ベルゴニー・トリボンドーの法則(Bergonié–Tribondeau law)である。この法則では、細胞分裂が盛んなもの、将来行う分裂の回数が多いもの、形態・機能の分化の程度が低いものほど放射線に弱いとされる。 この考え方を腫瘍に当てはめると、次のように整理できる。 ・感受性が高い:悪性リンパ腫、精上皮腫(セミノーマ)、未分化胚細胞腫、小細胞肺癌、髄芽腫、ユーイング肉腫、ウィルムス腫瘍、神経芽腫など、未分化で増殖の速い腫瘍 ・中等度:扁平上皮癌。とくに低分化型や未分化型では感受性が高い ・感受性が低い:高分化型の腺癌、悪性黒色腫、骨肉腫、腎細胞癌、膠芽腫など 頭頸部の腫瘍では、扁平上皮癌が大多数を占め、放射線治療(多くは化学療法を同時に併用する化学放射線療法)が根治目的の治療の柱になる。なかでも上咽頭癌は、解剖学的に手術しにくい一方で放射線によく反応するため、放射線治療が第一選択である。咽頭のワルダイエル輪(咽頭扁桃・口蓋扁桃・舌扁桃などが輪状に並ぶリンパ組織)に生じる悪性リンパ腫も放射線によく反応する。これに対し、腺癌系の腫瘍(唾液腺癌、甲状腺分化癌)や悪性黒色腫は、従来のエックス線治療では効果が不十分であり、治療の中心は手術である。 したがって本問では、組織型の感受性の序列(リンパ腫>扁平上皮癌>腺癌・悪性黒色腫)を思い出せば、上咽頭扁平上皮癌と中咽頭悪性リンパ腫の2つを選ぶことができる。
選択肢考察
- ×a. 耳下腺腺癌
耳下腺などの唾液腺に生じる癌は、腺癌、粘表皮癌、腺様嚢胞癌といった腺系の組織型が中心である。これらは分化度が高いものが多く、増殖も比較的ゆっくりしているため、放射線感受性は低い。治療の基本は手術による切除であり、放射線は切除断端が陽性の場合や高悪性度の場合などに、術後の補助療法として用いられるにとどまる。手術で取り切れない症例には、重粒子線などの粒子線治療が選択されることがある。
- ×b. 甲状腺乳頭癌
甲状腺乳頭癌は高分化型の癌であり、体外から照射するエックス線に対する感受性は低い。治療の基本は手術(甲状腺全摘または葉切除とリンパ節郭清)である。全摘後に再発の危険が高い例や遠隔転移のある例では、放射性ヨウ素(131I)内用療法を行う。これは、甲状腺由来の細胞がヨウ素を取り込む性質を利用して腫瘍に放射性物質を集める治療であり、腫瘍そのものが放射線に弱いことを利用しているわけではない。この点を混同しないようにしたい。
- ×c. 鼻腔悪性黒色腫
悪性黒色腫は、放射線で受けたDNA損傷を修復する能力が高く、放射線に抵抗性を示す腫瘍の代表である。鼻腔・副鼻腔などの粘膜に生じる悪性黒色腫もエックス線治療では十分な効果が得られにくく、切除可能であれば手術が基本となる。一方、重粒子線(炭素イオン線)のような高LET放射線(LET:線エネルギー付与。飛跡に沿って組織に与えるエネルギーの密度)は、DNAに修復されにくい損傷を与える。このため放射線抵抗性の腫瘍にも効果が期待でき、頭頸部の粘膜悪性黒色腫は粒子線治療の保険適用の対象となっている。
- ○d. 上咽頭扁平上皮癌
上咽頭癌の多くは、非角化型(低分化・未分化型)の扁平上皮癌である。EBウイルス(Epstein-Barr virus)の感染との関連が深く、増殖が速く分化度が低いため、放射線感受性が高い。また、上咽頭は頭蓋底に接していて外科的に到達しにくい部位である。そのため根治治療は手術ではなく、放射線治療が中心となる。進行例ではシスプラチンを同時に併用する化学放射線療法が標準である。頸部リンパ節転移を伴って見つかることが多いが、リンパ節転移巣も照射によく反応する。
- ○e. 中咽頭悪性リンパ腫
悪性リンパ腫は、リンパ球という本来放射線にきわめて弱い細胞に由来する。そのため、腫瘍のなかでも最も放射線感受性が高い部類に入る。中咽頭の口蓋扁桃や舌根はワルダイエル輪の一部で、節外性リンパ腫が好発する部位であり、組織型はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)が多い。治療は化学療法(リツキシマブを併用するR-CHOP療法など)が中心で、限局期ではこれに放射線治療を組み合わせることで良好な成績が得られる。
放射線感受性の主な規定因子
・細胞周期:G2期後半からM期は最も放射線に弱く、S期後半は抵抗性である。増殖が盛んな腫瘍ほど感受性の高い時期にある細胞の割合が多い。 ・酸素効果:酸素があるとDNA損傷が固定されやすい。そのため、低酸素の細胞は放射線抵抗性となる。大きな腫瘍の内部には低酸素領域が生じやすい。 ・亜致死損傷の修復能:悪性黒色腫のように修復能力の高い腫瘍は、分割照射の間に損傷を修復してしまうため効きにくい。
低LET放射線と高LET放射線
エックス線・γ線・電子線・陽子線は低LET放射線であり、主に水から生じるラジカルを介してDNAを間接的に傷つける。そのため、酸素濃度や細胞周期の影響を受けやすい。重粒子線(炭素イオン線)は高LET放射線であり、DNAを直接かつ複雑に損傷する。このため、低酸素の細胞や修復能の高い細胞にも効果を発揮しやすい。わが国では頭頸部の非扁平上皮癌(腺癌、腺様嚢胞癌、粘膜悪性黒色腫など)や骨軟部腫瘍などが、粒子線治療の保険適用となっている。
頭頸部腫瘍の治療選択の概略
・扁平上皮癌(咽頭・喉頭など):早期は放射線単独または手術。進行例では化学放射線療法または手術と術後照射を行い、臓器温存を目指して放射線を積極的に用いる。 ・上咽頭癌:放射線治療(化学放射線療法)が第一選択である。 ・唾液腺癌、甲状腺分化癌:手術が第一選択である。甲状腺分化癌では術後に131I内用療法を加えることがある。 ・悪性リンパ腫:化学療法を中心とし、必要に応じて放射線治療を併用する。
POINT
・放射線感受性はベルゴニー・トリボンドーの法則に従い、分裂が盛んで未分化な細胞ほど高い。 ・感受性が高い腫瘍:悪性リンパ腫、セミノーマ、小細胞肺癌、髄芽腫など。扁平上皮癌も比較的よく反応する。 ・感受性が低い腫瘍:高分化腺癌(唾液腺癌、甲状腺分化癌)、悪性黒色腫、骨肉腫、腎細胞癌など。 ・上咽頭癌は非角化型(低分化)の扁平上皮癌が多く、放射線治療(化学放射線療法)が根治治療の中心である。 ・放射線抵抗性の腫瘍には、重粒子線などの高LET放射線が有効な場合がある。 ・甲状腺癌に対する131I内用療法は、ヨウ素を取り込む性質を利用した治療であり、腫瘍の放射線感受性が高いことを意味しない。
