StudyMed医師国家試験

男性だけが、世代を飛ばして―家系図に隠れた「保因者の母」を探せ

第107回医師国家試験 G問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第107回 G問題 第17問

家系図を別に示す。  この疾患の遺伝形式はどれか。

第107回 G問題 第17問の問題画像
  1. a.常染色体優性遺伝
  2. b.常染色体劣性遺伝
  3. c.X連鎖優性遺伝
  4. d.X連鎖劣性遺伝
  5. e.Y連鎖遺伝

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は家系図から遺伝形式を推定する問題だ。家系図の問題は、罹患者を一人ずつ眺めるより、決まった順番でチェックしていくと迷わない。その手順を一緒に確認していこう。
医学生医学生
家系図の問題は、記号を追っているうちに混乱してしまうのが苦手です。
ドクタードクター
それなら3つの質問を順に当てはめてみよう。1つ目は、罹患者の親は罹患しているか。2つ目は、罹患者に性差があるか。3つ目は、誰を介して伝わっているか。まず1つ目、この家系の罹患者の親はどうなっているかな。
医学生医学生
罹患者3人とも、両親はどちらも罹患していません。
ドクタードクター
そう。親が非罹患なのに子が発症しているということは、各世代に連続して現れる垂直伝播ではない。この時点で顕性(優性)遺伝は考えにくく、潜性(劣性)遺伝を疑うことになる。
医学生医学生
じゃあ常染色体劣性遺伝かなと思いました。保因者同士の子なら親が健康でも発症しますよね。
ドクタードクター
親が非罹患という点だけなら合うね。でも2つ目の質問、性差を見てほしい。罹患者は3人とも男性で、女性の罹患者はいない。常染色体の遺伝なら男女が同じ確率で罹患するはずだ。
医学生医学生
性に偏りがあるなら、性染色体上の遺伝子を考えるべきということですね。
ドクタードクター
その通り。しかも常染色体劣性遺伝は、基本的にきょうだい内に罹患者が集まるのが特徴で、近親婚がなければ別の世代に何度も現れることはまれなんだ。この家系では家系外の配偶者との間で3世代にわたって罹患者が出ている。配偶者がそのたびに保因者だったと考えるのは無理があるよね。
医学生医学生
では3つ目の、誰を介して伝わっているか、ですね。罹患男性の母親は全員非罹患の女性で、その女性たちが一つの家系の娘としてつながっています。
ドクタードクター
よく読めたね。疾患は非罹患の女性を介して、甥や孫にあたる世代の男性に現れている。男性はX染色体を1本しか持たないヘミ接合なので、変異が1コピーあるだけで発症する。女性は正常なX染色体がもう1本あるので、通常は発症しない保因者になる。これがX連鎖潜性(劣性)遺伝の典型像なんだ。
医学生医学生
第1世代の女性が保因者で、その娘、さらにその娘と保因者が受け継がれていけば、全員説明がつきますね。
ドクタードクター
その通り。保因者女性と正常男性の子では、息子の2分の1が罹患し、娘の2分の1が保因者になる。では残りの選択肢も確認しよう。X連鎖優性遺伝はどうかな。
医学生医学生
X連鎖優性なら1本のXの変異で発症するので、女性も罹患するはずです。親も罹患していないとおかしいですね。
ドクタードクター
正解。X連鎖顕性遺伝では女性罹患者が男性の約2倍になり、罹患男性の娘は全員罹患する。常染色体優性遺伝も、罹患者の少なくとも一方の親が原則として罹患しているはずだから合わない。
医学生医学生
男性だけ、というとY連鎖遺伝も一瞬頭に浮かびました。
ドクタードクター
そう思う人は多い。でもY染色体は父から息子にしか伝わらないから、Y連鎖なら罹患男性の父は必ず罹患しているはずだ。この家系では罹患男性の父はいずれも非罹患で、しかも家系外の男性だ。女性を介した伝達はY連鎖では起こりえないから否定できる。
医学生医学生
父から息子への伝達があればX連鎖は否定、父が罹患していなければY連鎖は否定、という見方ですね。
ドクタードクター
その対比はとても役立つよ。X連鎖潜性遺伝の代表疾患も押さえておこう。デュシェンヌ型・ベッカー型筋ジストロフィー、血友病A・B、G6PD欠損症、ファブリー病、副腎白質ジストロフィー、赤緑色覚異常などだ。
医学生医学生
小児科の臨床実習で、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの男の子の登攀性起立を見ました。お母さんが保因者かどうかを気にされていたのが印象に残っています。
ドクタードクター
まさに臨床ではそこが重要になる。母親や姉妹が保因者かどうかは次の妊娠や家族計画に関わるから、遺伝カウンセリングの対象になるんだ。なお保因者女性でも、X染色体不活性化の偏りによって軽い症状が出ることがあるし、ターナー症候群のようにX染色体が1本しかない女性では発症しうる、という例外も覚えておこう。
医学生医学生
母系で伝わるといえば、ミトコンドリア遺伝もありましたよね。
ドクタードクター
よく思い出したね。ミトコンドリア遺伝は母から子へ男女ともに伝わり、父からは伝わらない。罹患者が男性に限られるX連鎖潜性遺伝とは、ここで区別できる。家系図を見たら、親、性差、伝達経路の3点を順にチェックする習慣をつけておこう。

まとめ

家系図から遺伝形式を推定するときは、罹患者の親が罹患しているか(顕性か潜性か)、罹患者に性差があるか(常染色体か性染色体か)、誰を介して伝わっているか、の3点を順に確認すると整理しやすくなります。罹患者が男性に限られ、非罹患の母(保因者)を介して世代を飛ばして現れる家系はX連鎖潜性(劣性)遺伝の典型で、保因者女性と正常男性の子では息子の1/2が罹患、娘の1/2が保因者となります。常染色体遺伝は男女同率、X連鎖顕性遺伝は女性罹患者が多く親も罹患、Y連鎖遺伝は父から息子へのみ伝わる点で区別できます。デュシェンヌ型筋ジストロフィーや血友病などの代表疾患と結びつけて理解しておくと、保因者診断や遺伝カウンセリングといった臨床場面にも応用できます。

解答・解説

正解はdです

家系図の読み取り

罹患者は第Ⅱ世代の男性1人、第Ⅲ世代の男性1人、第Ⅳ世代の男性1人(発端者)の計3人で、いずれも男性である。女性の罹患者は一人もいない。 ・第Ⅱ世代の罹患男性の両親(第Ⅰ世代)はともに非罹患である。 ・第Ⅲ世代の罹患男性は、第Ⅱ世代の罹患男性の姉妹(非罹患女性)と、家系外の非罹患男性との間の子である。 ・発端者(第Ⅳ世代)は、その第Ⅲ世代の非罹患女性(第Ⅲ世代の罹患男性の姉妹)と、家系外の非罹患男性との間の子である。 つまり、罹患者の親はすべて非罹患であり、疾患は「非罹患の女性」を介して、世代をまたいで男性にだけ現れている。

遺伝形式の推定の考え方

家系図から遺伝形式を推定するときは、次の3点を順に確認するとよい。 1. 罹患者の親が罹患しているか(垂直伝播=各世代に連続して現れるか):親が非罹患なのに子が発症していれば、顕性(優性)遺伝は考えにくく、潜性(劣性)遺伝を疑う。 2. 性差があるか:一方の性に偏っていれば、性染色体(X・Y)上の遺伝子を疑う。 3. 誰を介して伝わっているか:男性→男性の伝達(父から息子)があればX連鎖は否定的。女性を介して男性に伝わるならX連鎖潜性遺伝の典型である。 本家系では、①罹患者の親はすべて非罹患(潜性パターン)、②罹患者は男性のみ(性差あり)、③非罹患の女性を介して甥・孫の世代の男性に伝わっている(母系伝達)という3点がそろう。これはX連鎖潜性(劣性)遺伝の典型像である。

保因者の推定

X連鎖潜性遺伝と仮定すると、第Ⅰ世代の女性は保因者であり、その娘(第Ⅱ世代で子をもつ女性)も保因者、さらにその娘(発端者の母、第Ⅲ世代)も保因者であったと説明でき、家系全体に矛盾がない。保因者の女性(XᴬXᵃ)と正常男性(XᴬY)の子では、息子の1/2が罹患し、娘の1/2が保因者となる。

選択肢考察

  1. ×a.  常染色体優性遺伝

    常染色体顕性(優性)遺伝では、原因遺伝子を1コピーもつだけで発症するため、罹患者の少なくとも一方の親は原則として罹患している(新生突然変異や浸透率低下を除く)。本家系では3人の罹患者の親がいずれも非罹患であり、さらに罹患者が男性に偏っていることも、男女が同じ確率で罹患する常染色体遺伝の特徴に合わない。

  2. ×b.  常染色体劣性遺伝

    常染色体潜性(劣性)遺伝では、親が非罹患の保因者同士であっても子が発症しうる点は本家系と合う。しかし男女が等しく罹患するはずであり、罹患者が男性3人のみという性差を説明しにくい。また、常染色体潜性遺伝は同胞(きょうだい)内に罹患者が集まり、近親婚がなければ別の世代に繰り返し現れることはまれである。本家系では家系外の配偶者との間で3世代にわたって罹患者が出ており、配偶者がそのつど保因者である可能性は低い。

  3. ×c.  X連鎖優性遺伝

    X連鎖顕性(優性)遺伝では、1本のX染色体上の変異で発症するため、罹患者の親の少なくとも一方は罹患している。また女性は2本のX染色体をもつ分だけ変異を受け継ぐ機会が多く、女性罹患者は男性の約2倍となる(男性では胎生致死となる疾患もある)。罹患男性の娘は全員罹患する点も特徴である。本家系では罹患者の親がすべて非罹患で、女性罹患者がいないため合致しない。

  4. ○d.  X連鎖劣性遺伝

    X連鎖潜性(劣性)遺伝では、男性はX染色体を1本しかもたない(ヘミ接合)ため変異1コピーで発症し、女性は正常なX染色体がもう1本あるため通常は発症しない保因者となる。したがって、①罹患者はほぼ男性に限られる、②罹患男性の母は非罹患の保因者である、③女性保因者を介して、兄弟・甥・孫など世代を飛ばして男性に現れる、④父から息子への伝達はない、という特徴をもつ。本家系では罹患者が男性のみで、いずれも非罹患の母(保因者と推定)から生まれており、第Ⅰ世代女性→第Ⅱ世代女性→第Ⅲ世代女性と保因者の母系をたどると罹患男性がすべて説明できる。

  5. ×e.  Y連鎖遺伝

    Y連鎖遺伝ではY染色体が父から息子にのみ伝わるため、罹患男性の父は必ず罹患しており、罹患男性の息子は全員罹患する。本家系では罹患男性の父はいずれも非罹患である。また、第Ⅲ世代・第Ⅳ世代の罹患男性はいずれも家系外の男性の息子であり、第Ⅰ世代由来のY染色体を受け継いでいない(女性を介した伝達はY連鎖では起こらない)ため否定できる。

主な遺伝形式の家系図上の特徴

・常染色体顕性(優性)遺伝:各世代に連続して罹患者が現れる(垂直伝播)。男女同率。罹患者の子の1/2が罹患。父から息子への伝達もありうる。例:家族性大腸腺腫症、マルファン症候群、ハンチントン病、神経線維腫症1型。 ・常染色体潜性(劣性)遺伝:罹患者は同胞内に集積し、親は通常非罹患(保因者)。男女同率。保因者同士の子の1/4が罹患。近親婚で頻度が上がる。例:フェニルケトン尿症、嚢胞性線維症、脊髄性筋萎縮症、多くの先天代謝異常症。 ・X連鎖顕性(優性)遺伝:女性罹患者が男性の約2倍。罹患男性の娘は全員罹患し、息子は罹患しない。例:ビタミンD抵抗性くる病(低リン血症性くる病)、レット症候群(男性ではしばしば致死的)。 ・X連鎖潜性(劣性)遺伝:罹患者はほぼ男性。保因者女性を介して世代を飛ばして伝わる。父→息子の伝達はない。罹患男性の娘は全員保因者。例:デュシェンヌ型/ベッカー型筋ジストロフィー、血友病A・B、G6PD欠損症、ファブリー病、副腎白質ジストロフィー、赤緑色覚異常。 ・Y連鎖遺伝:父から息子へのみ伝わり、罹患男性の息子は全員罹患。女性には現れない。例:一部の男性不妊(Y染色体AZF領域欠失)。 ・ミトコンドリア遺伝(母系遺伝):母から子へ男女とも伝わり、父からは伝わらない。例:MELAS、レーベル遺伝性視神経症。

X連鎖潜性遺伝の分離比

・保因者女性(XᴬXᵃ)×正常男性(XᴬY):息子の1/2が罹患、娘の1/2が保因者。 ・正常女性(XᴬXᴬ)×罹患男性(XᵃY):息子は全員正常、娘は全員保因者。 ・女性が発症するのは、罹患男性と保因者女性の子(ホモ接合)、X染色体不活性化の偏り、ターナー症候群(45,X)などの場合に限られる。

POINT

・家系図問題は「親が罹患しているか(顕性か潜性か)」「性差はあるか(常染色体か性染色体か)」「誰を介して伝わるか」の順に考える。 ・罹患者が男性のみで、非罹患の女性(保因者)を介して世代を飛ばして現れる→X連鎖潜性(劣性)遺伝。 ・X連鎖遺伝では父から息子への伝達はない。父→息子の伝達があればX連鎖は否定できる。 ・Y連鎖遺伝なら罹患男性の父も必ず罹患している。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。