薬は「どこから出ていくか」で量が決まる―高齢者とアミノグリコシドとeGFR
第107回医師国家試験 E問題 第23問
国試問題にチャレンジ
高齢者にアミノグリコシド系抗菌薬を投与する場合,投与量を決定するのに最も重要な指標はどれか。
- a.eGFR
- b.体表面積
- c.心拍出量
- d.ICG試験15分値
- e.血清アルブミン値
対話形式の解説
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医学生まとめ
アミノグリコシド系抗菌薬は水溶性で肝臓ではほとんど代謝されず、未変化体のまま糸球体ろ過で排泄されるため、投与量や投与間隔は腎機能、すなわちeGFRやクレアチニンクリアランスで決めます。治療域が狭く、蓄積すると腎障害や難聴・めまいなどの第8脳神経障害を起こすため、加齢でGFRが低下している高齢者では特に調節が重要です。高齢者は筋肉量が少なくクレアチニン由来のeGFRが過大評価されやすいため、シスタチンCやCockcroft-Gault式も参考にし、TDMでピークとトラフを確認します。体表面積は多くの抗悪性腫瘍薬、ICG試験は肝機能、血清アルブミン値は蛋白結合率の高い薬物で意味をもつ指標です。「薬の排泄経路に合った臓器機能の指標で用量を決める」という考え方は、あらゆる薬物療法の安全性を支える基本となります。
解答・解説
正解はaです
薬の投与量を決めるときは、その薬が体の中をどう動くか(薬物動態:吸収・分布・代謝・排泄)を考え、主な排泄経路のはたらきを示す指標に合わせて量を調節するのが基本である。 アミノグリコシド系抗菌薬(ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシンなど)には次の特徴がある。 ・水に溶けやすく、脂肪には溶けにくい(水溶性)。腸からはほとんど吸収されないため、全身の感染症には注射で投与する。 ・血漿蛋白とあまり結合せず、主に細胞外液に分布する。 ・肝臓でほとんど代謝されず、形を変えないまま腎臓の糸球体でろ過されて尿に排泄される。 ・有効な濃度と中毒を起こす濃度の差が小さい(治療域が狭い)。濃度が高い状態が続くと、腎障害(近位尿細管の障害)と第8脳神経障害(難聴や平衡機能障害)を起こす。 つまり、この薬が体から消えていく速さは腎機能、特に糸球体ろ過量(GFR)でほぼ決まる。高齢者は、見た目に病気がなくても加齢でGFRが低下していることが多い。そのため、通常量を投与すると血中濃度が上がりすぎて副作用が出やすい。したがって投与量や投与間隔を決めるうえで最も重要な指標は、腎機能を表すeGFR(推算糸球体ろ過量)である。実際の診療では、腎機能に合わせて投与量や投与間隔を調節したうえで、血中濃度を測って確認する(TDM:治療薬物モニタリング)。
選択肢考察
- ○a. eGFR
正しい。eGFR(estimated glomerular filtration rate:推算糸球体ろ過量)は、血清クレアチニン値、年齢、性別から計算する腎機能の指標である。単位はmL/分/1.73m²。アミノグリコシド系抗菌薬は大部分がそのまま腎臓から排泄されるので、GFRが下がると薬が体から抜けにくくなり、血中濃度が高い状態が続く。すると、腎毒性や耳毒性がさらに腎機能を悪くするという悪循環に陥る。このため、腎機能に応じて投与間隔を延ばす、または1回の量を減らすといった調節が必要である。 注意点が2つある。1つ目は、高齢者は筋肉量が少ないため血清クレアチニン値が低めに出て、eGFRが実際の腎機能より高く見積もられやすいことである。筋肉量の影響を受けにくいシスタチンCを用いたeGFRや、Cockcroft-Gault式で計算したクレアチニンクリアランスも参考にする。2つ目は、投与量を決めるときは、体表面積1.73m²あたりに補正したeGFRを、その人の体格に合わせた値に戻して使うのが望ましいことである。
- ×b. 体表面積
誤り。体表面積は身長と体重から計算する値である(DuBois式など)。多くの抗悪性腫瘍薬の投与量(mg/m²)を決めるのに用いる。小児の薬の量を成人量から換算するときにも参考にする。アミノグリコシド系抗菌薬は主に細胞外液に分布するため、1回の量は通常、体重(肥満のある患者では補正した体重)をもとに決める。ただし、高齢者で投与量の調節に最も影響するのは体格ではなく腎機能である。
- ×c. 心拍出量
誤り。心拍出量は心臓のポンプ機能の指標である。重い心不全やショックでは、腎臓や肝臓に流れる血液が減って薬の排泄が遅れるなど、間接的に薬物動態に影響することはある。しかし、アミノグリコシド系抗菌薬の投与量を決めるときに直接使う指標ではない。心拍出量が低下した患者でも、その影響は結局は腎機能(GFR)の低下として表れるので、腎機能で評価すればよい。
- ×d. ICG試験15分値
誤り。ICG(インドシアニングリーン)試験は、緑色の色素であるICGを静脈に注射し、15分後に血中にどれだけ残っているか(15分停滞率、正常は10%以下)から、肝臓が物質を取り込み排泄する力と肝臓への血流を評価する検査である。肝硬変の重症度の評価や、肝切除でどこまで切れるかの判断などに用いる。肝臓で代謝される薬物の量を決める参考にはなりうる。しかし、アミノグリコシド系抗菌薬は肝臓でほとんど代謝されず腎臓から排泄されるので、ICG試験の結果は投与量の決定には関係しない。
- ×e. 血清アルブミン値
誤り。血漿中のアルブミンと強く結合する薬物(ワルファリン、フェニトイン、一部のセフェム系抗菌薬など)では、低アルブミン血症になると薬理作用を持つ遊離型(結合していない薬物)の割合が増える。すると、作用や副作用が強く出たり、薬が体から消える速さが変わったりする。そのため、このような薬物ではアルブミン値に注意が必要である。一方、アミノグリコシド系抗菌薬は血漿蛋白との結合率が低い(おおむね10%程度以下)。このため、アルブミン値の影響はほとんど受けず、投与量を決める主な指標にはならない。
高齢者の薬物動態の特徴
・吸収:胃酸が減り、消化管の動きや血流も落ちるが、臨床的に大きな影響は少ない。 ・分布:体の水分と筋肉が減り、体脂肪の割合が増える。そのため、水溶性の薬物(アミノグリコシド、ジゴキシンなど)は分布容積が小さくなって血中濃度が上がりやすい。逆に脂溶性の薬物(ベンゾジアゼピン系薬など)は脂肪にたまりやすく、作用が長引く。低アルブミン血症では、蛋白と結合しやすい薬物の遊離型が増える。 ・代謝:肝臓の重さや肝臓への血流が減り、肝臓で代謝される薬物の消失が遅くなることがある。 ・排泄:GFRは加齢とともに低下する。腎臓から排泄される薬物が体にたまりやすくなり、臨床的に最も問題になる。
アミノグリコシド系抗菌薬の要点
・作用:細菌のリボソームの30Sサブユニットに結合して蛋白合成を妨げ、殺菌的に作用する。緑膿菌を含むグラム陰性桿菌に強く、βラクタム系薬と一緒に使うと効果が高まる(相乗効果)。嫌気性菌には効かない。 ・薬力学:濃度が高いほど強く殺菌する(濃度依存性)。薬の濃度が下がった後もしばらく菌の増殖を抑える効果(PAE:post-antibiotic effect)が続く。そのため、1日量を1回にまとめて投与し、ピーク濃度を高くする方法が主流である。 ・副作用:腎障害(近位尿細管の障害。多くは可逆的)、第8脳神経障害(蝸牛の障害による難聴や、前庭の障害によるめまい・平衡障害。不可逆的なことが多い)、神経筋遮断(重症筋無力症の悪化や、筋弛緩薬の作用増強)。トラフ濃度(次の投与直前の最も低い濃度)が高い状態が続くと、腎毒性のリスクが上がる。 ・TDM:ピーク濃度で効果を評価し、トラフ濃度で毒性のリスクを評価する。腎機能が低い患者では、主に投与間隔を延ばして調節する。 ・併用で注意する薬:ループ利尿薬、バンコマイシン、白金製剤、造影剤などの腎毒性や耳毒性のある薬と一緒に使うと、副作用が強まる。
投与量の決定に用いる主な指標
腎排泄型の薬物:eGFR、クレアチニンクリアランス 肝代謝型の薬物:Child-Pugh分類など肝機能の評価(ICG試験なども参考) 抗悪性腫瘍薬の多く:体表面積 蛋白と強く結合する薬物:血清アルブミン値(遊離型の割合の変化)
POINT
・アミノグリコシド系抗菌薬は水溶性で、ほとんど代謝されずに腎臓から排泄される。治療域が狭い。 ・高齢者は加齢でGFRが低下しているため、投与量や投与間隔は腎機能(eGFR、クレアチニンクリアランス)で決め、TDMで確認する。 ・主な副作用は腎障害と第8脳神経障害(難聴やめまい)である。 ・高齢者は筋肉量が少ないため、クレアチニンをもとにしたeGFRは腎機能を実際より高く見積もりやすい。 ・体表面積は抗悪性腫瘍薬、ICG試験は肝機能、血清アルブミン値は蛋白と結合しやすい薬物の用量を考えるときの指標である。
