血液を外に出さない唯一の透析―腹膜透析に抗凝固薬がいらない理由
第107回医師国家試験 E問題 第24問
国試問題にチャレンジ
血液浄化療法で抗凝固薬を用いないのはどれか。
- a.血液透析
- b.腹膜透析
- c.血漿交換
- d.血液濾過
- e.血液吸着
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血液浄化療法は、血液を体外に取り出して回路・膜・カラムに通す体外循環型と、患者自身の腹膜を透析膜として使う腹膜透析に大別されます。血液は異物に触れると凝固しやすいため、血液透析・血液濾過・血漿交換・血液吸着などの体外循環では回路内凝固を防ぐ抗凝固薬が原則必要ですが、血液を体外に出さない腹膜透析では不要です。抗凝固薬は未分画ヘパリンが基本で、出血リスクが高い患者には半減期の短いナファモスタットメシル酸塩、HITではアルガトロバンを用います。また、血液透析は拡散で小分子を、血液濾過は対流で中分子を、血漿交換や血液吸着は病因物質を選択的に除去するという特徴の違いも押さえておきましょう。「血液が体外に出るか」という一つの軸で整理すると、各治療法の仕組みと管理上の注意点を体系的に理解できます。
解答・解説
正解はbです
血液浄化療法は、血液中の老廃物・過剰な水分・病因物質(自己抗体、毒素など)を取り除く治療の総称である。大きく分けると、①血液を体の外に取り出して装置に通す「体外循環」型の治療と、②体内の膜(腹膜)を利用し、血液を体外に出さない治療の二つがある。 血液は血管内皮以外の異物表面(チューブ類の回路、ダイアライザ〈透析器〉の膜、血漿分離器、吸着カラムなど)に触れると、凝固因子や血小板が活性化されて固まりやすくなる。回路内で血液が凝固すると、治療が続けられなくなるだけでなく、回路内の血液を失うことにもなる。そのため、体外循環を伴う治療では、原則として治療中に抗凝固薬を持続的に投与する。 したがって、本問は「血液を体外循環させない治療はどれか」と読み替えればよい。選択肢のうち、血液をまったく体外へ取り出さずに行えるのは腹膜透析だけである。
選択肢考察
- ×a. 血液透析
血液透析(hemodialysis:HD)は、バスキュラーアクセス(内シャントなど)から血液を取り出し、ダイアライザの半透膜を介して透析液と接触させる治療である。主に拡散(濃度差による物質移動)によって尿素・クレアチニン・カリウムなどの小分子を除去し、限外濾過で除水する。血液が回路とダイアライザを通過するため、回路内凝固を防ぐ抗凝固薬(通常はヘパリン)が必要である。
- ○b. 腹膜透析
腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)は、腹腔内に留置したカテーテルから透析液を注入し、一定時間貯留させたのち排液する方法である。腹膜の毛細血管と透析液との間で、拡散による溶質除去と浸透圧差(ブドウ糖などによる)による除水が行われる。透析膜の役割を果たすのは患者自身の腹膜であり、血液は血管内にとどまったまま体外に出ることも異物に触れることもない。したがって、回路内凝固の問題が生じず、抗凝固薬は不要である。
- ×c. 血漿交換
血漿交換(plasma exchange:PE)は、体外に取り出した血液を膜型血漿分離器(または遠心分離)で血球成分と血漿に分け、病因物質を含む血漿を捨てて、新鮮凍結血漿(FFP)やアルブミン製剤で置き換える治療である。体外循環を伴うため抗凝固薬が必要である。抗凝固薬にはヘパリンのほか、出血リスクが高い場合はナファモスタットメシル酸塩が用いられる。なお、置換液にFFPを用いる場合、FFPに含まれるクエン酸によって低カルシウム血症を起こしうる点にも注意する。
- ×d. 血液濾過
血液濾過(hemofiltration:HF)は、体外に取り出した血液に圧力をかけ、透水性の高い膜(ヘモフィルタ)から大量の濾液を除去し、その分を補充液で補う治療である。溶質は主に濾過に伴う対流(水の移動に溶質が引きずられる現象)で除去されるため、血液透析より中分子量物質(β2-ミクログロブリンなど)の除去に優れる。集中治療領域では持続的血液濾過(CHF)などとして用いられる。これも体外循環であり、抗凝固薬が必要である。
- ×e. 血液吸着
血液吸着(hemoadsorption)は、体外に取り出した血液を吸着材(活性炭、ポリミキシンB固定化繊維など)を充填したカラムに通し、薬物・毒物やエンドトキシンなどを吸着除去する治療である。薬物中毒に対する活性炭吸着、敗血症性ショックに対するエンドトキシン吸着(PMX-DHP)などがある。血液が吸着カラムという異物に直接触れる体外循環であるため、抗凝固薬が必要である。
血液浄化療法の分類
・腹膜透析:患者自身の腹膜を透析膜として用いる。体外循環なし。 ・血液透析(HD):拡散が主体。小分子(尿素、クレアチニン、K)の除去に優れる。 ・血液濾過(HF):対流が主体。中分子量物質の除去に優れる。 ・血液透析濾過(HDF):拡散と対流を組み合わせる。 ・血漿交換(PE)、二重膜濾過血漿交換(DFPP):自己抗体・免疫複合体など大分子の除去。 ・血液吸着、血漿吸着:特定物質(薬物、エンドトキシン、LDLなど)を吸着材で除去。 腹膜透析以外はすべて体外循環を伴う。
体外循環で用いる抗凝固薬
・未分画ヘパリン:最も一般的。アンチトロンビンを介して凝固を抑える。 ・低分子ヘパリン:出血リスクがやや低い。 ・ナファモスタットメシル酸塩:半減期が非常に短く、主に回路内で作用するため、出血を合併している患者や手術前後の患者に用いられる。 ・アルガトロバン:ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の患者に用いる。 ・クエン酸:カルシウムをキレートして凝固を抑える局所抗凝固法として用いられることがある。 活動性出血がある場合などには、抗凝固薬を使わずに生理食塩液で回路を洗い流しながら行う方法もあるが、これは例外的な対応であり、体外循環では抗凝固薬の使用が原則である。
腹膜透析の特徴
・利点:通院回数が少なく在宅で可能、循環動態への負担が少ない、残腎機能が保たれやすい、抗凝固薬が不要。 ・欠点:腹膜炎、カテーテル出口部感染、長期施行による被囊性腹膜硬化症(EPS)、腹膜機能の低下による透析不足。
POINT
・体外循環(血液を体外に出して回路・膜・カラムに通す)を伴う血液浄化療法では、回路内凝固を防ぐため抗凝固薬が必要である。 ・腹膜透析は患者自身の腹膜を透析膜とし、血液を体外に出さないため抗凝固薬は不要である。 ・出血リスクが高い患者では、半減期の短いナファモスタットメシル酸塩が用いられる。HITではアルガトロバンを用いる。
