FSHは誰の後に上がる?―月経周期のホルモンリレーを順番で読み解く
第107回医師国家試験 E問題 第11問
国試問題にチャレンジ
月経開始から次の月経開始までの血中ホルモン値の変動について誤っているのはどれか。
- a.プロゲステロンは増殖期より分泌期の方が高い。
- b.プロゲステロンの上昇の後にFSHが上昇する。
- c.エストラジオールは月経期より分泌期の方が高い。
- d.エストラジオールの上昇の後にLHが上昇する。
- e.エストラジオールの上昇の後にプロゲステロンが上昇する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
月経周期のホルモンは、黄体退縮による性ステロイド低下でFSHが上昇し、卵胞発育に伴ってエストラジオールが増え、その高値がポジティブフィードバックでLHサージを起こして排卵、黄体からプロゲステロンが分泌されるという順で動きます。黄体期は高濃度のプロゲステロン・エストラジオールとインヒビンAによってFSH・LHが抑えられるため、「プロゲステロン上昇の後にFSHが上昇する」は誤りです。エストラジオールは排卵直前と黄体期中期の二峰性で月経期に最低、プロゲステロンは分泌期に高い一峰性であることもあわせて押さえておきましょう。グラフを暗記するより「誰が誰を動かすか」という因果で理解すれば、基礎体温の二相性、排卵検査薬、黄体機能評価といった臨床の判断にもそのままつながります。
解答・解説
正解はbです
月経周期の中で、下垂体ホルモン(FSH: 卵胞刺激ホルモン、LH: 黄体形成ホルモン)と卵巣ホルモン(エストラジオール、プロゲステロン)が「どの順に」上昇するかを問う問題である。「誤っているのはどれか」という設問なので、事実と異なる記述を1つ選ぶ。
月経開始からのホルモンの流れ
1. 月経期〜卵胞期初期: 前の周期の黄体が退縮してエストラジオールとプロゲステロンが低下すると、視床下部・下垂体への抑制(ネガティブフィードバック)が外れ、FSHが上昇する。 2. 卵胞期(子宮内膜では増殖期): FSHの刺激で卵胞が発育し、主席卵胞の顆粒膜細胞からエストラジオールが分泌されて次第に増加する。 3. 排卵直前: エストラジオールが高値に達し一定時間持続すると、フィードバックが抑制から促進(ポジティブフィードバック)に切り替わり、LHが急激に大量放出される(LHサージ)。FSHも同時に小さなピークを作る。LHサージのおよそ1〜1.5日後に排卵が起こる。 4. 黄体期(分泌期): 排卵後の卵胞が黄体となり、プロゲステロンとエストラジオールを分泌する。プロゲステロンは黄体期中期にピークとなり、エストラジオールも第2のピークを作る。この時期、高濃度の性ステロイドによりFSH・LHは低く抑えられる。 5. 妊娠が成立しなければ黄体は約2週間で退縮し、エストラジオールとプロゲステロンが急低下して月経が起こり、再び1に戻る。 整理すると、上昇の順序は「FSH → エストラジオール → LH(とFSHのピーク) → プロゲステロン」である。プロゲステロンが上昇している黄体期にはFSHはむしろ抑えられており、「プロゲステロンの上昇の後にFSHが上昇する」という記述がこの流れと矛盾する。
選択肢考察
- ×a. プロゲステロンは増殖期より分泌期の方が高い。
正しい記述である。プロゲステロンの主な供給源は排卵後に形成される黄体であり、排卵前の増殖期(卵胞期)には低値にとどまる。分泌期(黄体期)に入ると急上昇し、エストロゲンで厚くなった子宮内膜を、受精卵が着床しやすい分泌期内膜へ変化させる。プロゲステロンには体温中枢を刺激する作用もあるため、分泌期には基礎体温が上昇して高温相となる。
- ○b. プロゲステロンの上昇の後にFSHが上昇する。
誤った記述であり、これが正解である。FSHは月経期〜卵胞期初期に上昇して卵胞発育を促し、さらに排卵直前にLHとともにピークを作る。いずれもプロゲステロンが上昇する前の出来事である。排卵後にプロゲステロンが上昇する黄体期には、プロゲステロンとエストラジオール(さらに黄体から出るインヒビンA)の抑制作用でFSHは低値に保たれる。実際の順序は「FSHの上昇の後にエストラジオールが上昇する」であり、記述は順序が逆である。
- ×c. エストラジオールは月経期より分泌期の方が高い。
正しい記述である。エストラジオールは月経期に最も低く、卵胞の成長に伴って増加して排卵直前に第1のピークを作る。排卵後いったん低下するが、黄体からも分泌されるため分泌期中期に第2のピークを作る(二峰性の変動)。したがって分泌期のエストラジオールは月経期より高い。
- ×d. エストラジオールの上昇の後にLHが上昇する。
正しい記述である。通常エストラジオールは下垂体からのゴナドトロピン分泌を抑制するが、主席卵胞からのエストラジオールが高濃度で一定時間持続すると、逆に分泌を促進するポジティブフィードバックが働く。これによりLHサージが起こり、排卵が誘発される。エストラジオールのピークがLHサージに先行するのはこのためである。
- ×e. エストラジオールの上昇の後にプロゲステロンが上昇する。
正しい記述である。エストラジオールの上昇がLHサージを引き起こし、LHサージによって排卵と黄体形成が起こり、黄体からプロゲステロンが分泌される。つまり「エストラジオール上昇 → LHサージ → 排卵 → プロゲステロン上昇」という順序になる。なおLHサージ直前から顆粒膜細胞の黄体化が始まるため、プロゲステロンは排卵直前からわずかに上昇し始める。
月経周期の区分(28日周期の場合)
・卵巣の周期: 卵胞期(排卵まで、日数の個人差が大きい)→ 排卵(第14日前後)→ 黄体期(約14日でほぼ一定) ・子宮内膜の周期: 月経期 → 増殖期(エストロゲン作用)→ 分泌期(プロゲステロン作用) 周期の長さの違いは主に卵胞期の長さの違いによる。
各ホルモンの変動パターン
・FSH: 卵胞期初期に上昇し卵胞を発育させる。卵胞期後半はエストラジオールとインヒビンBにより低下し、排卵直前に小さなピークを作る。黄体期は低値で、黄体退縮とともに再上昇し次の周期の卵胞発育を始める。 ・LH: 排卵直前に鋭いピーク(LHサージ)を作り、排卵と黄体形成を起こす。 ・エストラジオール: 二峰性(排卵直前と黄体期中期)。月経期に最低値。 ・プロゲステロン: 一峰性。排卵後に上昇し、黄体期中期に最高値、月経前に急低下する。
二細胞・二ゴナドトロピン説
卵胞では、莢膜細胞がLHの刺激でアンドロゲンを産生し、顆粒膜細胞がFSHの刺激で誘導されるアロマターゼによりアンドロゲンをエストラジオールに変換する。FSHの上昇がエストラジオール上昇に先行するのはこのためである。
臨床との関連
・基礎体温: 排卵後、プロゲステロンの作用で約0.3〜0.5℃上昇し二相性となる。一相性なら無排卵を疑う。 ・排卵検査薬: 尿中LHを検出してLHサージをとらえ、排卵時期を予測する。 ・黄体期中期の血中プロゲステロン測定は、排卵の有無や黄体機能の評価に用いられる。
POINT
・月経周期でのホルモン上昇の順序は FSH → エストラジオール → LHサージ → 排卵 → プロゲステロン。 ・排卵直前の高エストラジオールがポジティブフィードバックでLHサージを起こす。 ・プロゲステロンは黄体から分泌され、分泌期(黄体期)に高値、増殖期は低値。 ・エストラジオールは二峰性(排卵直前・黄体期中期)で、月経期に最低。 ・黄体期はFSH・LHが抑制される。「誤っているもの」を選ぶ問題では、正しい記述を選ばないよう注意。
