「いつもの月経不順」に潜む落とし穴―不正出血を見たら、まず妊娠を疑え
第119回医師国家試験 C問題 第44問
国試問題にチャレンジ
40歳の女性。性器出血の持続を主訴に来院した。5日前から性器出血を認め,2日前から下腹部痛も伴うようになった。最終月経は4週間前。月経周期は30~60日,不整,持続5日間。身長153cm,体重50kg。体温36.5℃。脈拍80/分,整。血圧118/64mmHg。呼吸数18/分。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。 最初に行う対応はどれか。
- a.腹部単純CT
- b.妊娠反応検査
- c.経腟超音波検査
- d.子宮内膜組織診
- e.プロゲステロン投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
生殖年齢の女性が性器出血や下腹部痛を訴えたときは、月経不順などの背景があっても、まず妊娠反応検査(尿中hCG)で妊娠の有無を確認するのが原則です。妊娠週数は最終月経の初日から数えるため、最終月経から4週間なら妊娠4週の可能性があり、流産や、破裂すれば出血性ショックをきたす異所性妊娠を見逃してはなりません。妊娠反応が陽性なら経腟超音波で子宮内の胎嚢を確認し、血中hCGの推移とあわせて異所性妊娠を鑑別します。陰性なら機能性出血や筋腫・ポリープ・内膜増殖症・体癌などの器質性疾患を検索し、CT、子宮内膜組織診、ホルモン投与は妊娠を除外してから検討します。「まず妊娠を否定する」という手順は、婦人科に限らず救急や内科でも女性患者を診るうえで欠かせない基本姿勢です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・40歳女性で、まだ妊娠しうる年齢(生殖年齢)にある。 ・5日前から性器出血が続き、2日前から下腹部痛が加わった。 ・最終月経は4週間前。月経周期は30~60日と長く不整で、もともと月経不順がある。 ・身長153cm、体重50kgでBMIは約21.4と標準体型であり、極端な体重変化による月経異常は考えにくい。 ・バイタルサインはいずれも正常範囲で、ショックを示唆する頻脈や低血圧はない。 ・腹部は平坦・軟で、腹膜刺激症状や腫瘤を思わせる所見はない。
鑑別の考え方
月経不順のある女性なので、「遅れていた月経が来ただけ」と解釈したくなる。しかし、妊娠週数は最終月経の初日を0週0日として数えるため、最終月経が4週間前であれば、いまちょうど妊娠4週に相当する可能性がある。生殖年齢の女性が性器出血と下腹部痛を訴えるとき、まず念頭に置くべきなのは妊娠に関連した病態、すなわち流産(切迫流産・進行流産など)と異所性妊娠である。とくに異所性妊娠は、破裂すれば腹腔内出血から出血性ショックに陥りうるため、見逃してはならない。 このほか、無排卵周期症や黄体機能不全に伴う機能性出血、子宮筋腫・子宮内膜ポリープ、子宮内膜増殖症・子宮体癌、子宮頸癌なども鑑別に挙がるが、いずれも妊娠の有無が確定してから検討する順番になる。
設問へのアプローチ
「最初に行う対応」を問う問題である。生殖年齢女性の不正性器出血や腹痛では、どの年齢・どの病歴であっても、まず妊娠の有無を確認するのが鉄則である。妊娠しているかどうかで、その後の診断の道筋(胎嚢の位置確認、異所性妊娠の検索など)も、許される検査・治療(放射線被曝を伴う画像検査、子宮内操作、ホルモン投与など)も大きく変わる。尿中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)定性検査は簡便・迅速・非侵襲的で、外来ですぐに結果が得られる。本例はバイタルサインが安定しており、緊急の処置を要する状況ではないため、まず妊娠反応検査を行い、その結果をもとに次の検査へ進むのが適切である。
選択肢考察
- ×a. 腹部単純CT
CTは腹部・骨盤の腫瘤性病変や腹腔内出血の検索に役立つが、X線被曝を伴う。妊娠の可能性が否定されていない段階で、バイタルが安定している患者に最初に行う検査ではない。さらに本例では腹部所見も乏しく、婦人科領域の評価にはまず超音波検査が優先される。妊娠の有無を確認し、必要性を吟味したうえで行う検査である。
- ○b. 妊娠反応検査
最終月経から4週間が経過しており、妊娠4週に相当する可能性がある。生殖年齢女性の性器出血と下腹部痛では、流産や異所性妊娠など妊娠関連疾患の除外が最優先である。尿中hCG定性検査は非侵襲的で短時間に結果が得られ、陽性か陰性かで、その後の画像検査・組織検査・薬物投与をどう進めるかが決まる。したがって最初に行う対応として最も適切である。
- ×c. 経腟超音波検査
婦人科診察では重要な検査であり、本例でも行うことになる。妊娠反応が陽性なら、子宮内に胎嚢があるかを確認する。子宮内に胎嚢がなければ、流産や異所性妊娠を考え、血中hCG値と組み合わせて評価する。陰性なら子宮筋腫・内膜ポリープ・内膜肥厚・付属器病変などを検索する。ただし、所見の解釈は妊娠の有無で大きく変わるため、先に妊娠反応を確認するのが原則である。
- ×d. 子宮内膜組織診
子宮内膜増殖症や子宮体癌を疑うとき(超音波で内膜肥厚を認める場合など)に行う検査である。子宮腔内に器具を挿入する侵襲的な手技であり、妊娠していれば流産を招くおそれがある。妊娠を除外したうえで適応を判断すべきで、最初に行う対応ではない。
- ×e. プロゲステロン投与
黄体ホルモン(プロゲステロン)製剤は、無排卵に伴う破綻出血などの機能性出血に対して、内膜を安定させて止血する目的で用いられることがある。しかし、出血の原因が妊娠関連疾患や器質的疾患であれば、その診断が遅れてしまう。原因を明らかにする前に行うべき対応ではない。
妊娠週数の数え方
妊娠週数は、最終月経の開始日を妊娠0週0日として数える。月経周期が28日型なら排卵・受精はおよそ2週0日ごろで、次の月経予定日が4週0日にあたる。尿中hCGは一般的な検査薬でおおむね妊娠4週前後から陽性となる。ただし本例のように周期が不整(30~60日)であれば、排卵日がずれるため、最終月経からの日数だけでは妊娠の有無も週数も判断できない。
妊娠反応陽性時の流れ
経腟超音波で子宮内の胎嚢を確認する。経腟超音波では妊娠5週前後から胎嚢が見えはじめる。hCGが十分高いのに子宮内に胎嚢がみられない場合は、異所性妊娠を強く疑う。ただし週数がごく早い時期では胎嚢がまだ見えないこともある。そのため、血中hCGを測って推移を追い、超音波の再検とあわせて判断する。
妊娠反応陰性時の不正性器出血の鑑別
・機能性出血:無排卵周期症、黄体機能不全など。40歳代以降では、卵巣機能の低下にともなって無排卵周期が増える。 ・器質性出血:子宮筋腫(とくに粘膜下筋腫)、子宮内膜ポリープ、子宮腺筋症、子宮内膜増殖症、子宮体癌、子宮頸癌、頸管ポリープなど。 ・全身性要因:凝固異常、抗凝固薬の内服、甲状腺機能異常など。 評価には内診、経腟超音波、子宮頸部細胞診を行い、必要に応じて子宮内膜細胞診・組織診を追加する。
妊娠の可能性がある女性への放射線検査
胎児への影響は、被曝した時期と線量によって決まる。受精後およそ2週までは、影響があれば流産となり、なければ後遺症なく発育するとされる(all or noneの法則)。器官形成期の奇形発生については、閾値はおよそ100mGy前後と考えられており、50mGy未満では奇形発生率は上昇しないとされる。骨盤部CT1回の胎児被曝線量はおおむね数十mGy以下で、1回の検査で奇形が明らかに増えることはないと考えられている。それでも、妊娠の可能性を確認しないまま漫然と行う検査ではない。一方、生命にかかわる緊急時に診断上必要であれば、ためらうべきではない。
POINT
・生殖年齢女性の不正性器出血・腹痛では、まず妊娠反応検査で妊娠の有無を確認する。 ・妊娠週数は最終月経の初日を0週0日として数える。最終月経が4週間前なら妊娠4週の可能性がある。 ・「月経不順だから月経だろう」という思い込みで妊娠を見逃さない。 ・妊娠反応が陽性なら経腟超音波で子宮内の胎嚢を確認し、流産・異所性妊娠を鑑別する。 ・CT、子宮内膜組織診、ホルモン投与は、妊娠を除外してから検討する。
