StudyMed医師国家試験

子宮動脈はどこから来る?―手術で迷わないための女性骨盤「地図」の描き方

第120回医師国家試験 C問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第120回 C問題 第14問

女性の骨盤内解剖で正しいのはどれか。

  1. a.尿管は腹腔内を走行する。
  2. b.卵巣動脈は腎動脈から分枝する。
  3. c.子宮円索は基靱帯の一部を構成する。
  4. d.子宮動脈は内腸骨動脈から分枝する。
  5. e.Douglas窩とは子宮と膀胱の間を指す。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は女性の骨盤内解剖の基本問題だ。尿管の通り道、子宮と卵巣を養う血管の出どころ、子宮を支える靱帯、そして腹膜のくぼみ。この4つを1枚の地図として頭に描けるかがポイントになる。どれも婦人科手術で事故を防ぐための土台になる知識なんだ。
医学生医学生
解剖実習で骨盤を剖出したときは、腹膜を剥がすと血管と尿管が入り組んでいて、正直どれがどれだか分からなくなりました。
ドクタードクター
多くの人がそこでつまずくね。まず尿管から整理しよう。尿管は腹腔の中を走っていると思う?
医学生医学生
腎臓が後腹膜器官なので、そこから続く尿管も腹膜の後ろでしょうか。
ドクタードクター
その通り。尿管は腹膜の外、大腰筋の前面に沿って下り、総腸骨動脈の分岐部あたりを越えて骨盤に入る。だから「腹腔内を走行する」という記述は誤りだ。次は血管。卵巣動脈はどこから出るかな。
医学生医学生
卵巣は腎臓の近くから降りてくるイメージなので、腎動脈から出るのかと思っていました。
ドクタードクター
惜しい、そこが典型的なひっかけだね。卵巣動脈は腎動脈のやや下で、腹部大動脈から直接分かれる。卵巣は胎生期に腰の高さで発生して下降するから、血管も高い位置から出ているんだ。骨盤漏斗靱帯、別名卵巣提索の中を通って卵巣に届く。腎とつながるのは静脈のほうで、左卵巣静脈は左腎静脈に注ぐ。右は下大静脈に直接入る。
医学生医学生
精巣静脈と同じで、左だけ腎静脈に入るんですね。左の精索静脈瘤が多い理由として生理学で習いました。
ドクタードクター
よくつながったね。では子宮を養う子宮動脈はどうだろう。
医学生医学生
骨盤内臓器なので、内腸骨動脈の枝だと思います。
ドクタードクター
正解、これが今回の正しい記述だ。子宮動脈は内腸骨動脈の前枝、つまり臓側枝から起こり、基靱帯の中を内側へ走って子宮頸部の外側に達する。そこから子宮の側縁を上行して、上では卵巣動脈と吻合する。ここで大事なのが尿管との位置関係で、子宮頸部の外側約2cmで、尿管は子宮動脈の下をくぐるんだ。
医学生医学生
water under the bridge、ですね。婦人科の臨床実習で、子宮全摘のときに指導医の先生が尿管を必ず確認していました。
ドクタードクター
まさにその場面だ。婦人科手術は医原性尿管損傷の原因として最も多いと言われる。損傷しやすいのは骨盤漏斗靱帯の近く、子宮動脈との交差部、膀胱に入る手前の3か所。子宮動脈を結紮するときに尿管を一緒に挟んでしまうのが典型的な事故なんだ。次は靱帯だ。子宮円索は基靱帯の一部だと思う?
医学生医学生
どちらも子宮を支える靱帯なので、つながっている気もしますが……。
ドクタードクター
そこは別物として覚えよう。基靱帯、別名Mackenrodt靱帯は子宮頸部の側方から骨盤側壁へ横に広がる結合組織で、子宮動静脈が通り、子宮が下がらないように支える最も重要な組織だ。一方の子宮円索は子宮底の卵管付着部の少し下から起こり、鼡径管を通って大陰唇の皮下に終わる。卵巣導帯の名残で、前傾を保つとされるけれど支持力は弱い。走る方向も付着部もまったく違うんだ。
医学生医学生
鼡径管を通るのは、男性なら精索、女性なら子宮円索と解剖で覚えました。最後のDouglas窩は子宮と直腸の間ですよね。
ドクタードクター
その通り。子宮と膀胱の間は膀胱子宮窩で、Douglas窩、すなわち直腸子宮窩はそれより深い。立位でも仰臥位でも腹腔で最も低い位置になるから、血液や膿、腹水がたまりやすいんだ。
医学生医学生
救急外来で、経腟超音波でDouglas窩に液体があると異所性妊娠破裂を疑う、と教わりました。
ドクタードクター
そう、臨床的にとても重要な所見だ。子宮内膜症の好発部位でもあるね。最後に発展として、子宮動脈が内腸骨動脈の枝であることは、産後の大量出血に対する子宮動脈塞栓術や内腸骨動脈結紮の理論的な裏付けにもなっている。血管支配を知っていれば、どこを止めれば出血が止まるかが分かるわけだ。
医学生医学生
解剖の知識がそのまま止血や手術の安全につながるんですね。地図として覚え直します。

まとめ

女性骨盤内では、子宮動脈は内腸骨動脈の臓側枝として基靱帯内を走り、子宮頸部の外側で後腹膜を下行する尿管の上を越える(water under the bridge)という位置関係が最重要です。卵巣動脈は腎動脈ではなく腹部大動脈から直接分枝して骨盤漏斗靱帯を通り、左卵巣静脈のみが左腎静脈に注ぎます。子宮円索は卵巣導帯の遺残で鼡径管を経て大陰唇に至る構造で、子宮頸部と骨盤側壁を結ぶ基靱帯とは別物です。Douglas窩は子宮と直腸の間の腹膜陥凹で腹腔の最下部にあたり、異所性妊娠破裂などで液体貯留を認める部位です。これらの解剖は子宮全摘術での尿管損傷の回避や産後出血に対する動脈塞栓術など、臨床の安全に直結する知識です。

解答・解説

正解はdです

女性骨盤内の基本解剖(尿管の走行、子宮・卵巣の血管支配、子宮の支持靱帯、腹膜の陥凹)を問う一般問題である。いずれも子宮全摘術や付属器手術の際に重要となる知識であり、次の要点を整理しておけば解ける。 ・尿管は腹膜の後ろ(後腹膜)を下行する。 ・卵巣は腹部大動脈から直接出る卵巣動脈で、子宮は内腸骨動脈から出る子宮動脈で主に栄養される。 ・子宮の支持靱帯には基靱帯、仙骨子宮靱帯、膀胱子宮靱帯、子宮円索、子宮広間膜などがあり、それぞれ付着部と役割が異なる。 ・子宮の前後には腹膜の陥凹があり、前方(膀胱との間)が膀胱子宮窩、後方(直腸との間)が直腸子宮窩(Douglas窩)である。 これらに照らすと、正しいのは子宮動脈の起始に関する記述である。

選択肢考察

  1. ×a.  尿管は腹腔内を走行する。

    誤り。尿管は腎臓と同じく後腹膜器官であり、腹膜の外(腹膜後隙)を大腰筋の前面に沿って下行する。骨盤入口部で総腸骨動脈の分岐部付近を越えて骨盤内に入り、子宮頸部の外側約2cmで子宮動脈の下(背側)をくぐって膀胱に至る。この「子宮動脈の下を尿管が通る(water under the bridge)」関係は、子宮全摘術で尿管損傷を避けるうえで重要である。

  2. ×b.  卵巣動脈は腎動脈から分枝する。

    誤り。卵巣動脈は左右とも、腎動脈起始部のやや下方で腹部大動脈の前外側面から直接分枝し、骨盤漏斗靱帯(卵巣提索)の中を通って卵巣に達する。腎動脈から出るのは変異としてまれにみられる程度である。混同しやすいのは静脈で、右卵巣静脈は下大静脈へ、左卵巣静脈は左腎静脈へ注ぐ。卵巣が胎生期に腰部の高さで発生し、その後下降するため、血管が腹部大動脈という高い位置から出ている。

  3. ×c.  子宮円索は基靱帯の一部を構成する。

    誤り。子宮円索は子宮底の卵管付着部の前下方から起こり、子宮広間膜の前葉の下を通って深鼡径輪から鼡径管に入り、大陰唇の皮下に終わる索状構造である。胎生期の卵巣導帯(gubernaculum)の遺残で、子宮を前傾に保つ働きがあるとされるが、支持力は弱い。一方、基靱帯(Mackenrodt靱帯)は子宮頸部の側方から骨盤側壁へ横に広がる結合組織で、内部を子宮動静脈が通り、子宮を下垂させないための最も重要な支持組織である。両者は付着部も走行も異なる別個の構造である。

  4. ○d.  子宮動脈は内腸骨動脈から分枝する。

    正しい。子宮動脈は総腸骨動脈から分かれた内腸骨動脈の前枝(臓側枝)から起こる。骨盤側壁から基靱帯の中を内側へ走り、子宮頸部の外側で尿管の上(腹側)を越えて子宮側縁に達し、子宮側縁を上行しながら子宮体部に枝を出す。上方では卵巣枝・卵管枝が卵巣動脈と吻合し、下方では腟枝を出す。産後の大量出血などで行われる子宮動脈塞栓術や内腸骨動脈結紮は、この血管支配を利用したものである。

  5. ×e.  Douglas窩とは子宮と膀胱の間を指す。

    誤り。Douglas窩(直腸子宮窩)は子宮後壁(および腟後円蓋)と直腸前壁の間にできる腹膜の陥凹で、立位・仰臥位で腹腔の最も低い位置となるため、腹水、血液、膿が貯留しやすい。異所性妊娠破裂などの腹腔内出血は経腟超音波でここに液体貯留として描出され、子宮内膜症の好発部位でもある。子宮と膀胱の間の陥凹は膀胱子宮窩であり、こちらはDouglas窩より浅い。

子宮・卵巣の主な支持構造

・基靱帯(Mackenrodt靱帯):子宮頸部〜骨盤側壁。子宮動静脈が通る。最も重要な支持組織。広汎子宮全摘術で切断する部位。 ・仙骨子宮靱帯:子宮頸部後面〜仙骨前面。Douglas窩の側壁をなす。子宮内膜症の好発部位。 ・膀胱子宮靱帯:子宮頸部〜膀胱。内部を尿管が通る(尿管トンネル)。 ・子宮円索:子宮角部〜鼡径管〜大陰唇。卵巣導帯の遺残。 ・子宮広間膜:子宮の両側を覆う腹膜のひだ。 ・固有卵巣索:卵巣〜子宮角部。卵巣導帯の遺残。 ・卵巣提索(骨盤漏斗靱帯):卵巣〜骨盤側壁。卵巣動静脈が通る。付属器切除時にこの近くを尿管が走るため注意する。

血管の整理

・腹部大動脈の主な枝:腹腔動脈、上腸間膜動脈、下腸間膜動脈(腹側の臓側枝)、中副腎動脈・腎動脈・精巣(卵巣)動脈(外側の臓側枝)、下横隔動脈・腰動脈(壁側枝)。 ・内腸骨動脈の主な枝:臓側枝として臍動脈(上膀胱動脈)、下膀胱動脈、子宮動脈、腟動脈、中直腸動脈、内陰部動脈など。壁側枝として腸腰動脈、外側仙骨動脈、閉鎖動脈、上殿動脈、下殿動脈。 ・静脈還流:右卵巣静脈→下大静脈、左卵巣静脈→左腎静脈。 【尿管損傷の好発部位】骨盤漏斗靱帯の近傍(骨盤入口部)、子宮動脈と交差する部位(基靱帯内)、膀胱への流入部付近。婦人科手術は医原性尿管損傷の原因として最も多い。

POINT

・尿管は後腹膜器官で、子宮頸部の外側で子宮動脈の下をくぐる。 ・卵巣動脈は腹部大動脈から直接分枝し、骨盤漏斗靱帯を通る。 ・子宮動脈は内腸骨動脈の枝で、基靱帯内を走る。 ・子宮円索は卵巣導帯の遺残で鼡径管を通り大陰唇に終わる。基靱帯とは別物。 ・Douglas窩は子宮と直腸の間、膀胱子宮窩は子宮と膀胱の間。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。