「高熱」に惑わされるな―抗甲状腺薬の副作用と悪性高熱症の決定的な違い
第107回医師国家試験 D問題 第8問
国試問題にチャレンジ
抗甲状腺薬の副作用でないのはどれか。
- a.ANCA関連血管炎
- b.悪性高熱症
- c.肝機能障害
- d.皮膚瘙痒症
- e.無顆粒球症
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)は甲状腺ペルオキシダーゼを阻害してホルモン合成を抑えるBasedow病の第一選択薬ですが、副作用の頻度が比較的高い薬です。最も多いのは瘙痒を伴う皮疹で、ほかに肝機能障害、最重要の無顆粒球症(発熱・咽頭痛で服薬中止・受診を指導)、主にプロピルチオウラシルの長期服用で起こるMPO-ANCA関連血管炎などがあります。一方、悪性高熱症は素因をもつ人に吸入麻酔薬やスキサメトニウムを用いた全身麻酔で生じる合併症で、ダントロレンで治療し、抗甲状腺薬とは無関係です。副作用の多くは開始後2〜3か月以内に出るため定期的な血液検査が重要で、妊娠初期の薬剤選択にも配慮が必要です。高熱をきたす病態を誘因ごとに区別する視点は、薬剤副作用の理解だけでなく救急・周術期の臨床判断にも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
抗甲状腺薬とは、甲状腺ペルオキシダーゼを阻害して甲状腺ホルモンの合成を抑える薬で、わが国ではチアマゾール(メチマゾール、MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)の2剤が用いられる。Basedow病(Graves病)治療の第一選択として広く使われる一方、副作用の頻度が比較的高い薬剤であり、処方前に患者へ十分説明することが求められる。 副作用は次のように整理すると覚えやすい。 ・頻度が高く比較的軽いもの: 瘙痒を伴う皮疹・蕁麻疹、軽度の肝機能障害、筋肉痛・関節痛、発熱など。 ・頻度は低いが重大なもの: 無顆粒球症、重症肝障害、ANCA関連血管炎、多発性関節炎(抗甲状腺薬関節炎症候群)など。 本問は「副作用でないもの」を選ぶ問題である。選択肢のうち悪性高熱症だけは全身麻酔に関連して起こる病態であり、抗甲状腺薬とは関係がない。甲状腺クリーゼや薬剤熱など「高熱」を連想させる病態と混同しないことがポイントである。
選択肢考察
- ×a. ANCA関連血管炎
抗甲状腺薬の重大な副作用の一つである。主にMPO-ANCA(ミエロペルオキシダーゼに対する抗好中球細胞質抗体)が陽性となり、腎炎(血尿・蛋白尿)、肺胞出血、皮膚の紫斑などを生じうる。PTUで起こりやすく、多くの副作用が服薬開始後2〜3か月以内に出やすいのとは異なり、1年以上の長期服用者に発症することが多い。薬剤性ANCA関連血管炎の原因薬としてはヒドララジンなども知られ、ANCA関連血管炎を診る際には抗甲状腺薬の服用歴を確認することが重要である。したがって副作用であり、本問の正解ではない。
- ○b. 悪性高熱症
悪性高熱症は、遺伝的素因(骨格筋のリアノジン受容体RYR1遺伝子の変異など)をもつ人に、揮発性吸入麻酔薬やスキサメトニウム(脱分極性筋弛緩薬)を用いた全身麻酔を行った際に発症する。骨格筋小胞体からのCa2+放出が制御不能となって筋代謝が亢進し、急激な体温上昇(しばしば40℃以上)、呼気終末二酸化炭素濃度の上昇、頻脈、筋強直、横紋筋融解症(高K血症、ミオグロビン尿)などをきたす。治療は誘因薬剤の中止、全身冷却、ダントロレンの静注である。抗甲状腺薬との関連はなく、副作用ではないため本問の正解である。
- ×c. 肝機能障害
抗甲状腺薬の副作用として、軽度の肝機能障害(トランスアミナーゼ上昇など)は服用者の数%にみられる。まれに重症の肝障害も起こり、特にPTUでは劇症肝炎を含む重篤な肝細胞障害が問題となる。MMIでは胆汁うっ滞型の肝障害が多い。副作用であり、本問の正解ではない。
- ×d. 皮膚瘙痒症
瘙痒を伴う皮疹や蕁麻疹は抗甲状腺薬で最も多くみられる副作用で、服用者の数%(おおむね4〜6%程度)に生じる。軽症であれば抗ヒスタミン薬の併用で継続できることが多いが、症状が強い場合は薬剤の変更や、アイソトープ(放射性ヨウ素)治療・手術など他の治療法への切り替えが必要になることもある。副作用であり、本問の正解ではない。
- ×e. 無顆粒球症
抗甲状腺薬の最も重要な重大副作用で、好中球数が500/μL未満に減少した状態をいう。頻度は服用者の0.1〜0.5%程度で、多くは服薬開始後2〜3か月以内に起こる。発熱や咽頭痛が初発症状となることが多いため、これらが出たら服薬を中止して直ちに受診し白血球分画を調べるよう患者に指導しておく。発症したら抗甲状腺薬を直ちに中止し、感染を伴う場合は広域抗菌薬などで強力に治療する。G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)が用いられることもある。回復後は同系統の薬剤を再使用せず、Basedow病の治療は放射性ヨウ素内用療法や甲状腺手術へ変更する。副作用であり、本問の正解ではない。
抗甲状腺薬の種類と使い分け
・チアマゾール(MMI): 効果が強く副作用も比較的少ないため、Basedow病治療の第一選択。ただし妊娠初期(特に妊娠4〜15週頃)の服用で頭皮欠損や臍帯ヘルニア、食道閉鎖などの先天異常との関連が指摘されており、妊娠初期はPTUへの変更などが検討される。 ・プロピルチオウラシル(PTU): 妊娠初期や授乳期、MMIで副作用が出た場合などに用いる。重症肝障害やANCA関連血管炎はPTUで多い。
副作用の早期発見
多くの副作用は服薬開始後2〜3か月以内に出現するため、この期間は原則として2週間ごとに血液検査(白血球分画、肝機能)を行う。患者には、発熱・咽頭痛が出現したら服薬を中止して受診するよう事前に説明しておく。
悪性高熱症との鑑別
高熱をきたす病態として、甲状腺クリーゼ、悪性症候群(抗精神病薬などによる)、セロトニン症候群、悪性高熱症(全身麻酔)などが挙げられる。それぞれ誘因薬剤と治療が異なる。悪性高熱症と悪性症候群にはダントロレンが用いられる。
POINT
・抗甲状腺薬の副作用: 皮疹・瘙痒(最多)、肝機能障害、無顆粒球症(最重要)、ANCA関連血管炎(PTUに多い、長期服用者)、関節炎。 ・無顆粒球症は好中球数500/μL未満。発熱・咽頭痛が出たら服薬中止・受診を指導する。 ・悪性高熱症は吸入麻酔薬・スキサメトニウムによる全身麻酔の合併症で、治療はダントロレン。抗甲状腺薬とは無関係。
