StudyMed医師国家試験

閉じたら命取り―肺動脈閉鎖症の新生児を救う「動脈管を開ける薬」

第107回医師国家試験 D問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第107回 D問題 第7問

肺動脈閉鎖症の初期治療で投与すべきなのはどれか。

  1. a.インドメタシン
  2. b.ジゴキシン
  3. c.ドパミン
  4. d.フロセミド
  5. e.プロスタグランディンE1

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は先天性心疾患の初期治療の問題だ。ポイントは「この赤ちゃんの肺には、どこから血液が届いているのか」という一点。そこが分かれば、選ぶべき薬は自然に決まるよ。まず、肺動脈閉鎖症とはどんな病気だったかな。
医学生医学生
右心室から肺動脈への出口が閉じている先天性心疾患ですよね。チアノーゼ性心疾患として講義で習いました。
ドクタードクター
そう。右心室から肺へ血液を送る正規ルートがない。それでも生まれた直後の赤ちゃんは生きている。では、肺への血流はどこから来ていると思う?
医学生医学生
……卵円孔でしょうか。胎児循環の名残ということで。
ドクタードクター
惜しいけれど、卵円孔は心房間の通り道で、肺へ直接血液を送るわけではない。答えは動脈管だ。胎児期に肺動脈と大動脈をつないでいた血管で、出生後は大動脈から動脈管を通って肺動脈へ血液が流れ込む。この状態を「動脈管依存性肺循環」と呼ぶんだ。
医学生医学生
なるほど、動脈管が肺への唯一のライフラインになっているわけですね。でも動脈管って、生まれたら自然に閉じるものでしたよね。
ドクタードクター
そこが最大の問題点だ。生後、血中酸素分圧が上がり、胎盤由来のプロスタグランジンが減ることで、動脈管は数時間から数日で収縮・閉鎖していく。肺動脈閉鎖症の子でこれが起こると、肺血流が途絶えて高度のチアノーゼ、低酸素血症、代謝性アシドーシスに陥り、命に関わる。
医学生医学生
だから、初期治療は手術までの間、動脈管を開けておくことが最優先なんですね。
ドクタードクター
その通り。そこで使うのがプロスタグランジンE1、アルプロスタジルだ。動脈管の平滑筋を弛緩させて開存を維持し、肺血流と酸素化を保つ。持続静注で、Blalock-Taussig短絡術などの手術への橋渡しをするんだ。
医学生医学生
薬理の講義で、プロスタグランジンが動脈管を開いて、NSAIDsが閉じると習ったのを思い出しました。インドメタシンは逆の作用ですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。インドメタシンはシクロオキシゲナーゼを阻害してプロスタグランジン産生を抑え、動脈管を閉じる方向に働く。未熟児の動脈管開存症を薬で閉じるときに使う薬だから、この病気に投与したら肺血流を断ってしまう。禁忌だよ。
医学生医学生
ジゴキシンやドパミンは強心薬なので、心臓を助けるという意味では悪くない気もしますが……。
ドクタードクター
その発想は分かる。ジゴキシンは心不全や心房細動の心拍数調節、ドパミンはショックや低心拍出状態で循環を支える薬だ。ただ、この病気の本質は心臓のポンプ力不足ではなく、肺へ血液を送る通路がないこと。どちらにも動脈管を開く作用はないから、初期治療の中心にはならない。
医学生医学生
フロセミドはどうでしょう。小児科実習で心不全の赤ちゃんに使っているのを見ました。
ドクタードクター
それはおそらく、心室中隔欠損のような肺血流が多すぎるタイプの心疾患だったんじゃないかな。利尿薬は肺うっ血の改善に役立つけれど、肺動脈閉鎖症はむしろ肺血流が乏しい病態だ。水を引いても肺血流は増えないし、動脈管も開かない。
医学生医学生
肺血流が多いか少ないかで、治療の方向が真逆になるんですね。
ドクタードクター
まさにそこが大事な視点だ。発展として、動脈管依存性心疾患は2つに分けて覚えよう。一つは今回のような動脈管依存性肺循環で、肺動脈閉鎖症、重症肺動脈弁狭窄、重症Fallot四徴症など。もう一つは動脈管依存性体循環で、左心低形成症候群、大動脈縮窄複合、大動脈弓離断などだ。どちらも動脈管が閉じると急変するから、診断がつき次第PGE1を始める。
医学生医学生
体循環側の病気でも同じ薬を使うんですね。PGE1で注意すべき副作用はありますか。
ドクタードクター
代表的なのは無呼吸発作で、ほかに発熱や低血圧もある。だから投与中は呼吸状態をしっかりモニターし、必要なら人工呼吸管理ができる体制を整えておく。生後数日で急にチアノーゼが強くなったりショックに陥ったりした新生児では、動脈管の閉鎖を疑うことが臨床ではとても重要だよ。
医学生医学生
「動脈管依存性なら開ける、未熟児PDAなら閉じる」とセットで整理しておきます。

まとめ

肺動脈閉鎖症では右心室から肺へ血液を送る経路がなく、出生後の肺血流は大動脈から動脈管を介して流れ込む血液に依存しています(動脈管依存性肺循環)。動脈管は生後自然に閉鎖するため、閉じれば高度のチアノーゼとアシドーシスで致命的となり、初期治療ではプロスタグランジンE1の持続静注で動脈管を開存させ、短絡術などの手術へ橋渡しします。逆にインドメタシンなどのCOX阻害薬は動脈管を閉鎖させるため禁忌で、未熟児動脈管開存症の閉鎖に用いる薬です。強心薬や利尿薬は動脈管を開く作用がなく、肺血流が乏しいという病態の本質に合いません。左心低形成症候群などの動脈管依存性体循環でもPGE1が用いられることを併せて押さえ、無呼吸発作などの副作用に備えた管理まで理解しておくことが、新生児の救命に直結します。

解答・解説

正解はeです

肺動脈閉鎖症は、右心室から肺動脈への出口(肺動脈弁またはその前後)が完全に閉じている先天性心疾患である。右心室から肺へ血液を送る経路がないため、出生後の肺血流は、大動脈から動脈管(胎児期に肺動脈と大動脈をつなぐ血管)を介して肺動脈へ流れ込む血液にほぼ全面的に依存する。このような病態を「動脈管依存性肺循環」と呼ぶ。 動脈管は生後、血中酸素分圧の上昇とプロスタグランジン濃度の低下により数時間〜数日で自然に収縮・閉鎖する。肺動脈閉鎖症の新生児で動脈管が閉じると、肺血流が途絶して高度のチアノーゼ・低酸素血症・代謝性アシドーシスに陥り、死に至る。 したがって初期治療で最優先すべきことは、根治手術や姑息手術(Blalock-Taussig短絡術など)までの間、動脈管を開いたまま維持することである。設問では、動脈管を拡張・開存させる作用をもつ薬剤を選べばよい。逆に、動脈管を閉じる方向に働く薬剤は禁忌となる。

選択肢考察

  1. ×a.  インドメタシン

    インドメタシンは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)で、シクロオキシゲナーゼを阻害してプロスタグランジンの産生を抑える。その結果、動脈管は収縮・閉鎖に向かう。未熟児動脈管開存症の薬物的閉鎖に用いられる薬剤であり、動脈管依存性の肺動脈閉鎖症に投与すると肺血流が途絶えるため禁忌である。

  2. ×b.  ジゴキシン

    ジゴキシンはNa+/K+-ATPaseを阻害して心筋収縮力を高める強心薬で、心不全や頻脈性心房細動の心拍数調節に用いられる。動脈管を開存させる作用はなく、肺血流を確保するという初期治療の目的には合わない。

  3. ×c.  ドパミン

    ドパミンはカテコラミン系の強心・昇圧薬で、ショックや低心拍出状態で循環を支えるために用いられる。動脈管を開いておく作用はないため、動脈管依存性疾患の初期治療の中心にはならない。

  4. ×d.  フロセミド

    フロセミドはループ利尿薬で、肺血流増加型心疾患による心不全やうっ血の改善に用いられる。肺動脈閉鎖症は肺血流が乏しい病態であり、利尿によって肺血流を確保することはできない。動脈管を開存させる効果もない。

  5. ○e.  プロスタグランディンE1

    プロスタグランジンE1(PGE1、アルプロスタジル)は動脈管平滑筋を弛緩させ、動脈管を拡張・開存させる。これにより大動脈から肺動脈への血流が維持され、肺血流と酸素化が保たれる。手術までの橋渡しとして持続静注で用いられる、動脈管依存性心疾患の初期治療の基本薬である。副作用として無呼吸発作、発熱、低血圧などがあり、投与中は呼吸状態の監視が必要である。

動脈管依存性心疾患

動脈管の開存が生命維持に必須となる疾患群で、大きく2つに分けられる。 1. 動脈管依存性肺循環(肺血流を動脈管に頼る): 肺動脈閉鎖症(心室中隔欠損の有無を問わない)、重症肺動脈弁狭窄、純型三尖弁閉鎖の一部、重症Fallot四徴症など。 2. 動脈管依存性体循環(体血流を動脈管に頼る): 左心低形成症候群、大動脈縮窄複合、大動脈弓離断など。 いずれも動脈管が閉じると急激に状態が悪化するため、診断がつき次第PGE1で動脈管を開存させる。

動脈管に作用する薬剤

開存させる: プロスタグランジンE1(持続静注)。 閉鎖させる: インドメタシン、イブプロフェンなどのシクロオキシゲナーゼ阻害薬。未熟児の症候性動脈管開存症の治療に用いられる。

肺動脈閉鎖症の治療の流れ

PGE1で動脈管を維持しつつ、病型に応じて体肺動脈短絡術(Blalock-Taussig短絡術など)、右室流出路の再建、最終的には二心室修復やFontan手術などを行う。

POINT

・肺動脈閉鎖症は動脈管依存性肺循環の代表疾患である。 ・初期治療はPGE1で動脈管を開存させ、肺血流を確保すること。 ・インドメタシン(COX阻害薬)は動脈管を閉鎖させるため禁忌。 ・動脈管依存性体循環(左心低形成症候群、大動脈弓離断など)でもPGE1が用いられる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。