閉じたら命取り―肺動脈閉鎖症の新生児を救う「動脈管を開ける薬」
第107回医師国家試験 D問題 第7問
国試問題にチャレンジ
肺動脈閉鎖症の初期治療で投与すべきなのはどれか。
- a.インドメタシン
- b.ジゴキシン
- c.ドパミン
- d.フロセミド
- e.プロスタグランディンE1
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
肺動脈閉鎖症では右心室から肺へ血液を送る経路がなく、出生後の肺血流は大動脈から動脈管を介して流れ込む血液に依存しています(動脈管依存性肺循環)。動脈管は生後自然に閉鎖するため、閉じれば高度のチアノーゼとアシドーシスで致命的となり、初期治療ではプロスタグランジンE1の持続静注で動脈管を開存させ、短絡術などの手術へ橋渡しします。逆にインドメタシンなどのCOX阻害薬は動脈管を閉鎖させるため禁忌で、未熟児動脈管開存症の閉鎖に用いる薬です。強心薬や利尿薬は動脈管を開く作用がなく、肺血流が乏しいという病態の本質に合いません。左心低形成症候群などの動脈管依存性体循環でもPGE1が用いられることを併せて押さえ、無呼吸発作などの副作用に備えた管理まで理解しておくことが、新生児の救命に直結します。
解答・解説
正解はeです
肺動脈閉鎖症は、右心室から肺動脈への出口(肺動脈弁またはその前後)が完全に閉じている先天性心疾患である。右心室から肺へ血液を送る経路がないため、出生後の肺血流は、大動脈から動脈管(胎児期に肺動脈と大動脈をつなぐ血管)を介して肺動脈へ流れ込む血液にほぼ全面的に依存する。このような病態を「動脈管依存性肺循環」と呼ぶ。 動脈管は生後、血中酸素分圧の上昇とプロスタグランジン濃度の低下により数時間〜数日で自然に収縮・閉鎖する。肺動脈閉鎖症の新生児で動脈管が閉じると、肺血流が途絶して高度のチアノーゼ・低酸素血症・代謝性アシドーシスに陥り、死に至る。 したがって初期治療で最優先すべきことは、根治手術や姑息手術(Blalock-Taussig短絡術など)までの間、動脈管を開いたまま維持することである。設問では、動脈管を拡張・開存させる作用をもつ薬剤を選べばよい。逆に、動脈管を閉じる方向に働く薬剤は禁忌となる。
選択肢考察
- ×a. インドメタシン
インドメタシンは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)で、シクロオキシゲナーゼを阻害してプロスタグランジンの産生を抑える。その結果、動脈管は収縮・閉鎖に向かう。未熟児動脈管開存症の薬物的閉鎖に用いられる薬剤であり、動脈管依存性の肺動脈閉鎖症に投与すると肺血流が途絶えるため禁忌である。
- ×b. ジゴキシン
ジゴキシンはNa+/K+-ATPaseを阻害して心筋収縮力を高める強心薬で、心不全や頻脈性心房細動の心拍数調節に用いられる。動脈管を開存させる作用はなく、肺血流を確保するという初期治療の目的には合わない。
- ×c. ドパミン
ドパミンはカテコラミン系の強心・昇圧薬で、ショックや低心拍出状態で循環を支えるために用いられる。動脈管を開いておく作用はないため、動脈管依存性疾患の初期治療の中心にはならない。
- ×d. フロセミド
フロセミドはループ利尿薬で、肺血流増加型心疾患による心不全やうっ血の改善に用いられる。肺動脈閉鎖症は肺血流が乏しい病態であり、利尿によって肺血流を確保することはできない。動脈管を開存させる効果もない。
- ○e. プロスタグランディンE1
プロスタグランジンE1(PGE1、アルプロスタジル)は動脈管平滑筋を弛緩させ、動脈管を拡張・開存させる。これにより大動脈から肺動脈への血流が維持され、肺血流と酸素化が保たれる。手術までの橋渡しとして持続静注で用いられる、動脈管依存性心疾患の初期治療の基本薬である。副作用として無呼吸発作、発熱、低血圧などがあり、投与中は呼吸状態の監視が必要である。
動脈管依存性心疾患
動脈管の開存が生命維持に必須となる疾患群で、大きく2つに分けられる。 1. 動脈管依存性肺循環(肺血流を動脈管に頼る): 肺動脈閉鎖症(心室中隔欠損の有無を問わない)、重症肺動脈弁狭窄、純型三尖弁閉鎖の一部、重症Fallot四徴症など。 2. 動脈管依存性体循環(体血流を動脈管に頼る): 左心低形成症候群、大動脈縮窄複合、大動脈弓離断など。 いずれも動脈管が閉じると急激に状態が悪化するため、診断がつき次第PGE1で動脈管を開存させる。
動脈管に作用する薬剤
開存させる: プロスタグランジンE1(持続静注)。 閉鎖させる: インドメタシン、イブプロフェンなどのシクロオキシゲナーゼ阻害薬。未熟児の症候性動脈管開存症の治療に用いられる。
肺動脈閉鎖症の治療の流れ
PGE1で動脈管を維持しつつ、病型に応じて体肺動脈短絡術(Blalock-Taussig短絡術など)、右室流出路の再建、最終的には二心室修復やFontan手術などを行う。
POINT
・肺動脈閉鎖症は動脈管依存性肺循環の代表疾患である。 ・初期治療はPGE1で動脈管を開存させ、肺血流を確保すること。 ・インドメタシン(COX阻害薬)は動脈管を閉鎖させるため禁忌。 ・動脈管依存性体循環(左心低形成症候群、大動脈弓離断など)でもPGE1が用いられる。
