ACTHが消えてもKは上がらない―下垂体性副腎不全とAddison病を分ける「アルドステロンの司令塔」
第107回医師国家試験 D問題 第9問
国試問題にチャレンジ
疾患と電解質異常の組合せで誤っているのはどれか。
- a.成人T細胞白血病 ―― 高カルシウム血症
- b.偽性Bartter症候群 ―― 低カリウム血症
- c.下垂体前葉機能低下症 ―― 高カリウム血症
- d.偽性副甲状腺機能低下症 ―― 低カルシウム血症
- e.ADH不適合分泌症候群〈SIADH〉 ―― 低ナトリウム血症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高K血症の主因はアルドステロン作用の低下であり、アルドステロン分泌は主にレニン-アンジオテンシン系と血清K濃度で調節されるため、ACTHのみが欠乏する下垂体前葉機能低下症(続発性副腎不全)では高K血症は通常起こりません。一方、コルチゾール欠乏によるADH抑制の解除などから低Na血症はしばしばみられ、副腎自体が障害されるAddison病では低Na血症・高K血症・色素沈着がそろう点が鑑別の鍵です。ATLはPTHrPなどによる高Ca血症、偽性Bartter症候群は続発性アルドステロン症による低K血症と代謝性アルカローシス、偽性副甲状腺機能低下症はPTH高値を伴う低Ca・高P血症、SIADHは希釈性低Na血症をきたします。電解質異常を暗記ではなくホルモン作用の増減から理解しておくことで、初見の組合せ問題にも対応でき、実臨床での原因検索や補充療法の順序の判断にも役立ちます。
解答・解説
正解はcです
疾患と電解質異常の対応を問う問題である。電解質異常は丸暗記するよりも、「どのホルモンの作用が増えたか・減ったか」「どこで何が失われたか」という機序から考えると正誤を判断しやすい。 ・Ca: 副甲状腺ホルモン(PTH)とPTH関連蛋白(PTHrP)、活性型ビタミンDが上げる方向に働く。 ・K: 主にアルドステロンが腎集合管からのK排泄を促す。アルドステロンの分泌は、主としてレニン-アンジオテンシン系と血清K濃度で調節され、ACTHの関与は小さい。 ・Na(血清Na濃度): 実際には体内の水の量で決まることが多く、抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)による水の再吸収が過剰になると希釈性の低Na血症になる。 本問で鍵になるのは、下垂体前葉機能低下症(ACTH欠乏による二次性副腎不全)と、原発性副腎不全(Addison病)との違いである。両者とも糖質コルチコイド(コルチゾール)が不足するが、アルドステロンが欠乏して高K血症をきたすのは副腎そのものが障害される原発性の場合であり、ACTHのみが欠乏する下垂体性ではアルドステロン分泌は保たれるため高K血症は通常みられない。
選択肢考察
- ×a. 成人T細胞白血病 ―― 高カルシウム血症
成人T細胞白血病(ATL、HTLV-1感染を背景とするT細胞腫瘍)は高Ca血症を高頻度にきたす代表的な悪性腫瘍である。主な機序は腫瘍細胞が産生するPTHrPによる骨吸収亢進と腎でのCa再吸収促進(悪性腫瘍に伴う体液性高Ca血症、HHM)で、破骨細胞を活性化するRANKLなどのサイトカインの関与も知られる。組合せは正しい。
- ×b. 偽性Bartter症候群 ―― 低カリウム血症
偽性Bartter症候群は、利尿薬や下剤の乱用、自己誘発性嘔吐などにより、先天性のBartter症候群と同様の検査所見を呈する後天性の病態である。体液量減少によりレニン・アルドステロンが上昇し(続発性アルドステロン症)、腎からのK喪失が増えるため、低K血症と代謝性アルカローシスをきたす。血圧は正常〜低めである。組合せは正しい。
- ○c. 下垂体前葉機能低下症 ―― 高カリウム血症
下垂体前葉機能低下症ではACTHが低下し、副腎からのコルチゾール分泌が減る(二次性副腎不全)。しかし、アルドステロンはACTHよりもレニン-アンジオテンシン系と血清K濃度による調節が主体であるため、ACTHが欠乏しても分泌はおおむね保たれる。そのため、原発性副腎不全(Addison病)でみられるような高K血症は通常起こらない。一方、コルチゾール欠乏によってADH分泌が抑制されなくなることや水利尿不全、さらに甲状腺機能低下の合併などにより、低Na血症は高頻度にみられる。したがって「高カリウム血症」との組合せは誤りであり、本問の正解である。
- ×d. 偽性副甲状腺機能低下症 ―― 低カルシウム血症
偽性副甲状腺機能低下症は、PTHは十分に(むしろ過剰に)分泌されているにもかかわらず、標的臓器(腎・骨)のPTH受容体以降のシグナル伝達(Gsα蛋白など)の異常によりPTHが作用しない疾患である。PTH作用不全のため、PTH分泌低下型の副甲状腺機能低下症と同様に低Ca血症と高P血症をきたし、血中PTHは高値となる。組合せは正しい。
- ×e. ADH不適合分泌症候群〈SIADH〉 ―― 低ナトリウム血症
SIADHでは、血漿浸透圧が低いにもかかわらずADHの分泌が抑制されず、腎集合管での水再吸収が続く。体内に水が貯留して血液が薄まるため、希釈性の低Na血症をきたす。細胞外液量はほぼ正常(浮腫や脱水を伴わない)で、尿浸透圧は不適切に高く、尿中Na排泄は保たれる。組合せは正しい。
原発性副腎不全と続発性(下垂体性)副腎不全の比較
・原発性(Addison病): 副腎皮質自体の障害。コルチゾールもアルドステロンも欠乏する。ACTHは高値となり、ACTHと同じ前駆体(POMC)から生じるMSH作用で色素沈着がみられる。低Na血症と高K血症をきたす。 ・続発性(下垂体性): ACTH欠乏によるコルチゾール欠乏が主体。アルドステロンは保たれるため高K血症はきたさない。ACTH低値で色素沈着はなく、むしろ皮膚は蒼白になりやすい。低Na血症はしばしばみられる。
主な電解質異常と代表的原因
・高Ca血症: 原発性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍(PTHrP産生腫瘍、ATL、骨転移、多発性骨髄腫)、ビタミンD過剰、サルコイドーシスなど。 ・低Ca血症: 副甲状腺機能低下症(偽性を含む)、ビタミンD欠乏、慢性腎臓病など。 ・低K血症: 原発性アルドステロン症、Cushing症候群、Bartter/Gitelman症候群、偽性Bartter症候群、偽性アルドステロン症(甘草)、嘔吐・下痢など。 ・高K血症: 腎不全、Addison病、低レニン性低アルドステロン症、薬剤(ACE阻害薬、K保持性利尿薬)など。 ・低Na血症: SIADH、副腎不全(原発性・続発性)、甲状腺機能低下症、心不全・肝硬変、利尿薬など。
POINT
・アルドステロンの主な調節因子はレニン-アンジオテンシン系と血清Kであり、ACTHの影響は小さい。 ・下垂体前葉機能低下症(二次性副腎不全)では低Na血症は起こるが、高K血症は通常起こらない。高K血症は原発性副腎不全(Addison病)の特徴。 ・ATLはPTHrPなどによる高Ca血症、偽性Bartter症候群は低K血症・代謝性アルカローシス、偽性副甲状腺機能低下症は低Ca・高P血症(PTH高値)、SIADHは希釈性低Na血症。
