枝先がふくらむ緑の模様―樹枝状角膜炎とステロイドの落とし穴
第107回医師国家試験 D問題 第24問
国試問題にチャレンジ
30歳の女性。右眼の疼痛,充血および霧視を主訴に来院した。眼底に異常を認めない。視力は右0.9(矯正不能),左1.2(矯正不能)。眼圧は右11 mmHg,左12 mmHg。フルオレセイン染色後の前眼部写真を別に示す。 治療薬として適切なのはどれか。

- a.抗菌点眼薬
- b.抗真菌点眼薬
- c.アシクロビル眼軟膏
- d.副腎皮質ステロイド点眼薬
- e.プロスタグランディン関連点眼薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
片眼の眼痛・充血・霧視では、角膜炎、虹彩炎、急性緑内障発作を鑑別し、眼圧やフルオレセイン染色で絞り込みます。フルオレセイン染色で先端が膨らんだ(terminal bulb)樹枝状の上皮欠損をみたら、単純ヘルペスウイルスによる上皮型角膜ヘルペス(樹枝状角膜炎)と診断でき、治療はウイルスのチミジンキナーゼで活性化されるアシクロビルの眼軟膏が標準です。ステロイド点眼は上皮型ではウイルス増殖を促し地図状角膜炎へ悪化させるため避けますが、実質型では抗ウイルス薬と併用して用いるという違いがあります。抗菌薬・抗真菌薬は病因に合わず、プロスタグランディン関連点眼薬は緑内障治療薬で、角膜ヘルペスの再発との関連も報告されています。三叉神経節に潜伏して再発を繰り返すHSVの性質や、偽樹枝状病変をとる帯状疱疹ウイルス角膜炎・アカントアメーバ角膜炎との鑑別を理解しておくことが、日常診療での誤った点眼処方を防ぐことにつながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・30歳女性、右眼のみの症状 ・疼痛、充血、霧視(かすみ目) ・眼底に異常なし ・視力:右0.9(矯正不能)と軽度低下、左1.2 ・眼圧:右11 mmHg、左12 mmHg(正常範囲はおおむね10〜21 mmHg)
診断へのプロセス
眼痛と充血を伴う霧視の原因として、角膜炎・角膜潰瘍などの角膜疾患、虹彩炎(前部ぶどう膜炎)、急性緑内障発作などが挙がる。眼圧は正常であり急性緑内障発作は否定的で、眼底所見も正常なので網膜・硝子体側の疾患も考えにくい。矯正しても視力が上がらない軽度の低下は、角膜表面の病変による光の乱れで説明できる。 フルオレセインは角膜上皮が欠損した部分に取り込まれて青色光下で緑色に光る色素である。前眼部写真では、染色された上皮欠損が木の枝のように分岐し、枝の先端が丸く膨らんだ(terminal bulb)形をしている。これは樹枝状角膜炎(dendritic keratitis)と呼ばれ、単純ヘルペスウイルス(HSV)が角膜上皮細胞に感染・増殖して生じる上皮型角膜ヘルペスに特徴的な所見である。
設問への考え方
上皮型角膜ヘルペスは、角膜上皮内でウイルスが増殖している状態であり、抗ヘルペスウイルス薬で増殖を抑えることが治療の中心となる。わが国では眼科用の抗ヘルペス薬としてアシクロビル眼軟膏(3%)があり、1日5回程度点入する。一方、ステロイド点眼は上皮型の病変を悪化させるため使用を避ける。
選択肢考察
- ×a. 抗菌点眼薬
細菌性角膜炎では、上皮欠損の下に白色の浸潤病巣や前房蓄膿がみられ、樹枝状の形態はとらない。本例はウイルス感染であり、抗菌点眼薬はHSVに効果がない。上皮欠損部への細菌の二次感染を防ぐ目的で補助的に併用されることはあるが、治療の主体にはならない。
- ×b. 抗真菌点眼薬
真菌性角膜炎は、植物による外傷(突き目)やステロイドの長期使用、コンタクトレンズ装用などを背景に起こり、灰白色で境界が羽毛状(毛羽立った)の浸潤病巣や衛星病巣(主病巣周囲の小さな病巣)を特徴とする。樹枝状の上皮欠損はとらず、本例は真菌症ではないので抗真菌薬は不適切である。
- ○c. アシクロビル眼軟膏
アシクロビルは、HSVが持つチミジンキナーゼによって感染細胞内でリン酸化されて活性型となり、ウイルスのDNAポリメラーゼを阻害して増殖を抑える。感染細胞で選択的に活性化されるため正常細胞への影響が小さい。樹枝状角膜炎(上皮型角膜ヘルペス)の標準治療はアシクロビル眼軟膏の点入であり、本例に最も適切である。重症例や再発予防ではアシクロビルやバラシクロビルの内服を併用することもある。
- ×d. 副腎皮質ステロイド点眼薬
ステロイドは局所の免疫を抑えてウイルス増殖を促し、上皮の修復も遅らせるため、上皮型角膜ヘルペスでは病変が拡大して地図状角膜炎(樹枝状病変が広がって地図のような大きな上皮欠損になった状態)へ悪化するおそれがある。上皮型での使用は避けるべきである。なお、角膜実質に免疫反応が起こる実質型角膜ヘルペスでは、抗ウイルス薬を併用したうえでステロイド点眼を用いる。病型によって扱いが異なる点に注意する。
- ×e. プロスタグランディン関連点眼薬
ラタノプロストなどのプロスタグランディン関連薬は、ぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促して眼圧を下げる緑内障治療薬である。本例は眼圧が正常であり、眼圧を下げる必要はない。さらにプロスタグランディン関連薬は角膜ヘルペスの再発や悪化との関連が報告されており、角膜ヘルペスの既往がある患者では慎重に使う薬である。
角膜ヘルペスの概要
・原因は主に単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)。初感染後に三叉神経節に潜伏し、発熱、紫外線、ストレス、免疫低下、ステロイド使用などを契機に再活性化して再発を繰り返す。 ・多くは片眼性で、角膜知覚の低下を伴うことが多い。
病型と治療
・上皮型(樹枝状角膜炎、地図状角膜炎):ウイルスが角膜上皮で増殖。フルオレセイン染色で先端が膨らんだ樹枝状の上皮欠損(terminal bulb)。治療はアシクロビル眼軟膏。ステロイドは禁忌的。 ・実質型(円板状角膜炎、壊死性角膜炎):ウイルス抗原に対する免疫反応が主体。角膜実質の浮腫・混濁。治療は抗ウイルス薬に加えてステロイド点眼を併用する。 ・内皮型:角膜内皮炎で、角膜浮腫と角膜後面沈着物を生じる。
鑑別すべき角膜炎
・細菌性角膜炎:コンタクトレンズ装用者に多く、白色浸潤と前房蓄膿。緑膿菌では急速に進行する。 ・真菌性角膜炎:植物外傷、ステロイド使用が誘因。羽毛状の境界、衛星病巣。 ・アカントアメーバ角膜炎:ソフトコンタクトレンズ装用者。強い眼痛、放射状角膜神経炎、輪状浸潤。初期に偽樹枝状病変をとり角膜ヘルペスと誤られやすい。 ・帯状疱疹ウイルス角膜炎:偽樹枝状病変(先端の膨らみがなく、隆起した病変)。
眼痛・充血・霧視の鑑別
角膜炎、虹彩毛様体炎、急性緑内障発作を常に考え、眼圧・フルオレセイン染色・前房所見で区別する。
POINT
・フルオレセイン染色で先端が膨らんだ樹枝状の上皮欠損=上皮型角膜ヘルペス(樹枝状角膜炎)。 ・治療はアシクロビル眼軟膏。 ・上皮型ではステロイド点眼は悪化させるため避ける(実質型では抗ウイルス薬と併用して使う)。 ・プロスタグランディン関連点眼薬は緑内障治療薬であり、角膜ヘルペスの再発との関連もある。
