コーラ色の尿と赤血球円柱―「円柱に閉じ込められた赤血球」が出血源を教えてくれる
第107回医師国家試験 C問題 第20問
国試問題にチャレンジ
30歳の男性。起床後の尿がコーラのような色であったことを主訴として来院した。7日前に咽頭痛と発熱とがあったが軽快した。尿所見:蛋白2+,潜血3+。外観は暗赤色である。尿沈渣の顕微鏡写真を別に示す。 障害されている部位として最も考えられるのはどれか。

- a.糸球体
- b.尿細管
- c.腎盂
- d.尿管
- e.膀胱
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
赤血球円柱は、尿細管内でTamm-Horsfall蛋白を基質として形成される円柱に、上流の糸球体から漏れ出た赤血球が取り込まれたもので、糸球体障害を強く示唆します。円柱の形成部位は尿細管ですが、中身の赤血球の出どころは糸球体であり、腎盂・尿管・膀胱など尿細管より下流からの出血では赤血球円柱はできません。コーラ色の肉眼的血尿、蛋白尿、変形赤血球も糸球体性血尿の手がかりで、咽頭炎から1〜2週間後の発症であれば溶連菌感染後急性糸球体腎炎を考え、低補体やASO上昇を確認します。感染とほぼ同時期の肉眼的血尿ならIgA腎症を疑うなど、潜伏期も重要な鑑別点です。円柱の成り立ちを理解しておくと、尿沈渣から病変部位を論理的に推測でき、腎疾患の診断の第一歩として役立ちます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・30歳の若年男性。 ・7日前に咽頭痛と発熱(上気道感染)があり、症状はすでに軽快している。 ・その後、起床時にコーラ色(暗赤色)の尿に気づいた。肉眼的血尿である。 ・尿蛋白2+、尿潜血3+と、血尿に加えて蛋白尿を伴う。 ・尿沈渣の写真では、円柱の中に赤血球が埋め込まれた構造、すなわち赤血球円柱が認められる。
診断へのプロセス
血尿をみたら、まず「どこから出血しているか」を考える。出血源は大きく、糸球体由来(糸球体性血尿)と、腎盂・尿管・膀胱・尿道など尿路由来(非糸球体性血尿)に分けられる。 本例では、①蛋白尿を伴う血尿であること、②尿の色が鮮紅色ではなくコーラ色・暗赤色であること、③尿沈渣で赤血球円柱がみられること、がいずれも糸球体性血尿を示している。とくに赤血球円柱は、赤血球が尿細管より上流、つまり糸球体から尿中に漏れ出したことの直接的な証拠であり、糸球体障害を強く示唆する所見である。 さらに、先行する咽頭炎から約1週間の潜伏期を経て肉眼的血尿と蛋白尿が出現したという経過は、A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)に典型的である。
設問の考え方
問われているのは「障害されている部位」である。赤血球円柱の形成機序(尿細管内でつくられる円柱の中に、上流の糸球体から漏れた赤血球が取り込まれる)を理解していれば、障害部位は糸球体と判断できる。
選択肢考察
- ○a. 糸球体
赤血球円柱は、糸球体基底膜の障害により糸球体から漏れ出た赤血球が、尿細管内で形成される円柱に取り込まれてできる。したがって赤血球円柱の存在は糸球体性血尿を意味する。蛋白尿の合併、コーラ色の尿、先行する咽頭炎という経過も溶連菌感染後急性糸球体腎炎に合致し、障害部位は糸球体である。
- ×b. 尿細管
円柱そのものは尿細管の中で形成されるが、赤血球円柱に含まれる赤血球は尿細管より上流の糸球体に由来する。尿細管・間質が主に障害される疾患(急性尿細管壊死、尿細管間質性腎炎など)では、上皮細胞円柱、顆粒円柱、白血球円柱などがみられ、赤血球円柱や肉眼的血尿は典型的ではない。
- ×c. 腎盂
腎盂は尿細管より下流に位置するため、腎盂からの出血で生じた赤血球が円柱に取り込まれることはない。腎盂腫瘍や腎盂結石などによる血尿は非糸球体性血尿であり、通常は蛋白尿を伴わず、赤血球の形態も均一である。
- ×d. 尿管
尿管結石や尿管腫瘍による出血も非糸球体性血尿であり、赤血球円柱は形成されない。尿管結石では片側の側腹部の疝痛発作を伴うことが多いが、本例にはそうした症状の記載もない。
- ×e. 膀胱
膀胱炎や膀胱癌などによる血尿は下部尿路由来で、赤血球円柱はみられない。出血性膀胱炎であれば頻尿・排尿時痛・残尿感などの膀胱刺激症状を伴い、膀胱癌では無症候性の肉眼的血尿で高齢者に多い。いずれも本例の経過や沈渣所見に合わない。
円柱の成り立ち
円柱は、ヘンレ係蹄の太い上行脚の上皮から分泌されるTamm-Horsfall蛋白(ウロモジュリン)が、遠位尿細管から集合管の内腔でゲル状に固まり、管腔の形を写しとった鋳型として尿中に排出されたものである。固まる際に内腔にあった細胞や成分が取り込まれ、その内容によって種類が分かれる。 ・硝子円柱:基質のみ。健常者でも少数みられる。 ・赤血球円柱:糸球体性血尿(糸球体腎炎など)。 ・白血球円柱:腎盂腎炎、尿細管間質性腎炎。 ・上皮円柱・顆粒円柱:尿細管障害(急性尿細管壊死など)。 ・ろう様円柱:尿流の停滞が長いことを示し、慢性腎臓病の進行例などでみられる。 ・脂肪円柱:ネフローゼ症候群。
糸球体性血尿と非糸球体性血尿の見分け方
・糸球体性:赤血球円柱あり、変形赤血球(大きさ・形が不揃いで、コブ状の突起をもつものなど)が多い、蛋白尿を伴いやすい、肉眼的血尿はコーラ色・暗赤色になりやすい。 ・非糸球体性:赤血球円柱なし、赤血球の形は均一、蛋白尿は目立たない、肉眼的血尿は鮮紅色で凝血塊を伴うことがある。
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)
・小児に多いが成人にも起こる。A群β溶血性レンサ球菌による咽頭炎の後、およそ1〜2週間(皮膚感染では3〜6週間)の潜伏期を経て発症する。 ・免疫複合体が糸球体に沈着して補体が活性化されることで起こり、血清補体価(CH50、C3)が低下する。抗ストレプトリジンO(ASO)抗体の上昇は先行感染の証拠となる。 ・主な症状は血尿(しばしば肉眼的)、蛋白尿、浮腫、高血圧で、乏尿を伴うこともある。 ・腎生検では管内増殖性糸球体腎炎の像を示し、電子顕微鏡で上皮下にハンプ(こぶ状沈着物)がみられる。 ・治療は安静、塩分・水分制限など支持療法が中心で、多くは自然に回復する。低補体は通常8週間ほどで正常化する。 ・なお、上気道感染と同時期(数日以内)に肉眼的血尿が出る場合はIgA腎症を考える。潜伏期の長さが両者の鑑別点となる。
POINT
・赤血球円柱=糸球体性血尿であり、障害部位は糸球体である。 ・円柱はTamm-Horsfall蛋白を基質として尿細管内で形成されるため、円柱に含まれる成分は尿細管またはそれより上流に由来する。腎盂より下流からの出血では円柱はできない。 ・咽頭炎の1〜2週間後に出現する血尿・蛋白尿はPSAGNを考え、低補体とASO上昇を確認する。 ・感染と同時期に出る肉眼的血尿はIgA腎症を疑う。
