医師の責務に「利己主義」はない―医師憲章で読み解くプロフェッショナリズムの核心
第107回医師国家試験 C問題 第1問
国試問題にチャレンジ
医師憲章による医師の責務に含まれないのはどれか。
- a.利己主義
- b.医療の質の向上
- c.医療へのアクセス向上
- d.患者との適切な関係の維持
- e.有限な医療資源の適正配置
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
医師憲章は2002年に米欧の内科系団体が発表した医のプロフェッショナリズムの指針で、患者の福利優先・患者の自律性・社会正義という3つの基本原則と、10の責務から構成されます。医療の質の向上、医療へのアクセスの向上、患者との適切な関係の維持、有限な医療資源の適正配置はいずれも責務に含まれますが、利己主義は患者の利益を最優先する利他主義と正反対の概念であり含まれません。10の責務には他に、専門職としての能力、正直さ、守秘、科学的知識、利害衝突への適切な対処、専門職としての責任があります。細部を暗記していなくても「プロフェッショナリズムの核心は利他性にある」と理解していれば判断でき、ジュネーブ宣言・ヘルシンキ宣言・リスボン宣言と併せて整理することで、医療倫理全体の理解と日々の診療姿勢の土台になります。
解答・解説
正解はaです
医師憲章とは
本問の「医師憲章」は、2002年に米国内科専門医認定機構財団(ABIM Foundation)、米国内科学会(ACP-ASIM)財団、欧州内科連合(EFIM)が共同で発表した「新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム:医師憲章(Medical Professionalism in the New Millennium: A Physician Charter)」を指す。医療の高度化・市場化が進むなかで、医師が専門職(プロフェッショナル)として社会から信頼され続けるために守るべき原則と責務をまとめたものであり、日本語訳も広く紹介されている。
構成
医師憲章は、3つの基本原則と10の責務からなる。 ・基本原則:患者の利益(福利)優先の原則、患者の自律性(自己決定)尊重の原則、社会正義(公正)の原則 ・10の責務:専門職としての能力、患者に対する正直さ、患者情報の守秘、患者との適切な関係の維持、医療の質の向上、医療へのアクセスの向上、有限な医療資源の適正配置(公正な分配)、科学的な知識、利害衝突への適切な対処による信頼の維持、専門職としての責任
考え方
選択肢b~eはいずれも10の責務にそのまま含まれている。一方、「利己主義」は医師が自分の利益を患者や社会の利益よりも優先する態度であり、基本原則の筆頭である「患者の利益優先(利他主義)」と正反対の概念である。したがって責務に含まれないのは a である。憲章の細部を暗記していなくても、プロフェッショナリズムの核心が利他性にあることを理解していれば判断できる。
選択肢考察
- ○a. 利己主義
医師憲章の責務には含まれない。プロフェッショナリズムの根幹は、患者の利益を最優先する利他主義(altruism)にある。医師個人やその所属組織が自らの利得(金銭、名声、便宜など)を優先すると、不必要な検査・治療や利益相反による判断の歪みが生じ、患者の利益が損なわれ、医師という職業全体への社会の信頼も失われる。憲章は市場原理や社会的圧力、管理上の都合によってこの原則を損なってはならないとしている。
- ×b. 医療の質の向上
10の責務の一つである。医師は自らの臨床能力を維持するだけでなく、他の医療専門職と協働して医療過誤(医療ミス)を減らし、患者の安全性を高め、過剰な医療資源の使用を最小限に抑え、診療の成果を向上させることで、医療の質を継続的に改善していく責務を負う。質を評価する指標づくりや、その定期的な評価への参加も含まれる。
- ×c. 医療へのアクセス向上
10の責務の一つであり、社会正義(公正)の原則に基づく。医療はすべての人が公平に受けられるべきであり、医師は教育水準、法制度、経済状況、地理的条件、社会的差別など、患者の属性に基づいて医療へのアクセスを妨げている障壁を取り除くよう努めなければならない。個々の医師も専門職団体も、患者の利益や自身の利益を超えて、公平な医療システムの実現に関与することが求められる。
- ×d. 患者との適切な関係の維持
10の責務の一つである。患者は医師に比べて弱い立場にあり依存しやすいため、医師はその関係を利用してはならない。具体的には、患者を性的な関係の対象としたり、金銭的利益その他の私的な目的のために利用したりすることは許されない。医師-患者関係を専門職としての適切な範囲にとどめることが、信頼関係の土台となる。
- ×e. 有限な医療資源の適正配置
10の責務の一つ(有限な資源の公正な分配)である。医療資源(人材、医薬品、医療機器、財源など)には限りがあるため、医師は個々の患者のニーズに応えつつ、根拠に基づいた賢明で費用対効果の高い医療を提供しなければならない。不必要な検査や治療は患者に害を及ぼしうるうえ、他の人が利用できる資源を減らすことにもなる。
医師憲章の3つの基本原則
1. 患者の福利優先の原則(principle of primacy of patient welfare):患者の利益に奉仕すること(利他主義)を最優先とする。医師と患者の信頼関係の中心となる考え方である。 2. 患者の自律性の原則(principle of patient autonomy):医師は患者に正直であり、十分な情報を提供したうえで患者が治療について自ら決定できるようにする。ただし患者の決定は倫理的に妥当で、不適切な医療の要求につながらないものであることが前提となる。 3. 社会正義の原則(principle of social justice):医療資源の公正な分配を含め、医療における公正さを推進し、人種・性別・社会経済的地位・民族・宗教などによる差別をなくすよう努める。
10の責務(commitments)
1. 専門職としての能力(生涯学習による知識・技能の維持) 2. 患者に対する正直さ(インフォームド・コンセント、医療過誤の率直な開示を含む) 3. 患者情報の守秘 4. 患者との適切な関係の維持 5. 医療の質の向上 6. 医療へのアクセスの向上 7. 有限な医療資源の公正な分配 8. 科学的な知識(科学的根拠に基づく医療の実践と新たな知識の創出) 9. 利害衝突への適切な対処による信頼の維持 10. 専門職としての責任(同僚との協働、相互評価、自律的な規律の確立など)
関連事項
医の倫理に関する国際的な宣言には、ヒポクラテスの誓いの現代版といえるジュネーブ宣言、人を対象とする医学研究の倫理原則を定めたヘルシンキ宣言、患者の権利を定めたリスボン宣言などがあり、これらとあわせて整理しておくとよい。
POINT
・医師憲章(2002年)は3つの基本原則(患者の福利優先、患者の自律性、社会正義)と10の責務からなる。 ・医療の質の向上、医療へのアクセスの向上、患者との適切な関係の維持、有限な医療資源の適正配置はいずれも10の責務に含まれる。 ・プロフェッショナリズムの核心は利他主義であり、利己主義はその対極にある。
