StudyMed医師国家試験

喫煙で肺癌は何倍?―コホート研究で「比」を正しく求める相対危険度の計算

第107回医師国家試験 B問題 第62問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第62問

調査開始時に肺癌に罹患していなかった10万人をその時点の喫煙状況で2つのグループに分けた。調査開始後5年間の肺癌罹患の有無を調べた結果を以下に示す。 (単位:人) 調査開始時点の 喫煙状況 調査開始時点の人数 調査期間中に肺癌に 罹患した人数 喫煙者 40,000   408 非喫煙者 60,000   72 計 100,000   480 喫煙による肺癌罹患の相対危険度を求めよ。 解答:①.②

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、疫学で必ず出てくる相対危険度を実際に計算する問題だ。計算そのものは割り算だけど、その前に「この調査はどんな研究デザインか」を見極めることが大切なんだ。まず、この調査の組み立て方からどんな研究だと思う?
医学生医学生
最初に肺癌でない人を集めて、喫煙の有無で分けて5年間追いかけているので、コホート研究でしょうか。
ドクタードクター
その通り。曝露、つまり喫煙の有無から出発して、結果である肺癌の発症へと時間を前向きにたどっている。だから前向きコホート研究だ。この形だと、それぞれの群で新たに病気になった割合、つまり罹患率を直接求められる。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、コホート研究なら相対危険度、症例対照研究ならオッズ比、と習いました。理由まではあまり意識していませんでした。
ドクタードクター
理由が大事なんだよ。症例対照研究は病気の人と病気でない人を研究者が選んで集めるから、その比率は研究者次第で変わってしまう。だから罹患率が出せない。コホート研究は集団をそのまま追うから、分母と分子が自然な姿で得られるんだ。では相対危険度の定義を言えるかな。
医学生医学生
曝露群の罹患率を非曝露群の罹患率で割ったもの、ですよね。
ドクタードクター
正解。「曝露した人はしていない人の何倍発症しやすいか」を表す指標だ。では計算してみよう。
医学生医学生
えっと、喫煙者で肺癌になった408人を、全体の肺癌480人で割る……のではないですよね。
ドクタードクター
そこはよくある間違いだね。分母は肺癌になった人の合計ではなく、各群の調査開始時の人数だ。喫煙者は408を40,000で割って0.0102、つまり1,000人あたり10.2人。非喫煙者は72を60,000で割って0.0012、1,000人あたり1.2人になる。
医学生医学生
0.0102を0.0012で割ると8.5ですね。喫煙者は肺癌に8.5倍なりやすい、と。
ドクタードクター
その通り、答えは8.5だ。小数が苦手なら分数のまま整理するといい。408×60,000を72×40,000で割ると、約分して408×3を72×2で割る形になり、1,224÷144で8.5になる。試験本番では検算の意味でも両方のやり方を知っておくと安心だよ。
医学生医学生
CBTの勉強のときも、こういう計算は桁を間違えやすくて苦労しました。
ドクタードクター
単位を「1,000人あたり何人」に直すと桁ミスが減るよ。さて、同じデータから寄与危険度も出せる。こちらは比ではなく差だ。
医学生医学生
10.2から1.2を引いて、1,000人あたり9人ということですか。
ドクタードクター
そう、5年間で1,000人あたり9人の肺癌が喫煙によって上乗せされていると解釈する。相対危険度は関連の強さを、寄与危険度は禁煙などの対策で実際に減らせる患者数の目安、つまり疾病負担の大きさを表すんだ。さらに寄与危険割合は9を10.2で割って約88%で、喫煙者の肺癌の約9割は喫煙が原因と推定できる。
医学生医学生
相対危険度から(8.5−1)÷8.5でも同じになりますね。集団全体で見るとどうなりますか。
ドクタードクター
いい質問だ。集団全体の罹患率は480÷100,000で0.0048。そこから非喫煙者の0.0012を引いて全体の0.0048で割ると75%。この集団の肺癌の4分の3は喫煙がなければ起きなかったと推定される。これが集団寄与危険割合で、政策を考えるうえで重要な数字になる。
医学生医学生
相対危険度が1なら関連なし、1より大きければ危険因子、1より小さければ防御因子という読み方でいいですか。
ドクタードクター
それで大丈夫。ただ実際の研究では信頼区間が1をまたぐかどうかも確認するし、交絡因子の影響も考える必要がある。それから、症例対照研究のオッズ比は、病気がまれな場合に相対危険度の近似値になる、という点もセットで覚えておこう。臨床実習で禁煙指導をするときにも、こうした数字を自分の言葉で説明できると説得力が増すよ。

まとめ

開始時に疾患のない集団を曝露の有無で分けて追跡する研究はコホート研究であり、各群の罹患率を直接求められるため相対危険度を計算できます。相対危険度は曝露群の罹患率÷非曝露群の罹患率で、本問では(408/40,000)÷(72/60,000)=0.0102÷0.0012=8.5となり、喫煙者は非喫煙者より5年間の肺癌罹患の危険が8.5倍高いと解釈できます。同じデータから、差である寄与危険度(1,000人あたり9人)、寄与危険割合(約88%)、集団寄与危険割合(75%)も求められ、前者は関連の強さ、後者は対策で減らせる疾病負担を示します。症例対照研究では罹患率が得られないためオッズ比を用いる点と区別しておくことで、研究デザインと指標を正しく対応づける力が身につき、論文の読解や患者説明にも役立ちます。

解答・解説

正解は8.5です

研究デザインの見極め

調査開始時点で肺癌に罹患していない集団を、曝露(喫煙)の有無で2群に分け、その後5年間に新たに肺癌を発症した人数を追跡している。曝露から結果へと時間を前向きにたどっているので、これはコホート研究(前向き研究)である。コホート研究では各群の罹患率(一定期間内に新たに発症した割合、ここでは5年間の累積罹患率)を直接求められるため、相対危険度(relative risk:RR)や寄与危険度(attributable risk:AR)を計算できる。

相対危険度の定義

相対危険度 = 曝露群(危険因子あり)の罹患率 ÷ 非曝露群(危険因子なし)の罹患率 曝露した人は曝露していない人に比べて何倍発症しやすいかを示す指標である。

計算過程

(1) 喫煙者の5年罹患率 = 408 ÷ 40,000 = 0.0102(1,000人あたり10.2人) (2) 非喫煙者の5年罹患率 = 72 ÷ 60,000 = 0.0012(1,000人あたり1.2人) (3) 相対危険度 = 0.0102 ÷ 0.0012 = 8.5 分数のまま計算すると、(408/40,000)÷(72/60,000) = (408×60,000)÷(72×40,000) = (408×3)÷(72×2) = 1,224÷144 = 8.5 となり、同じ結果が得られる。 したがって、解答は ①=8、②=5 で「8.5」である。喫煙者は非喫煙者に比べて5年間で肺癌を発症する危険が8.5倍高いと解釈できる。

同じデータから求められる他の指標

・寄与危険度(危険度差)= 曝露群の罹患率 - 非曝露群の罹患率 = 0.0102 - 0.0012 = 0.009  5年間で1,000人あたり9人の肺癌が喫煙によって上乗せされていることを意味する。予防対策によって実際に減らせる患者数の目安となり、公衆衛生上の重要度を示す。 ・寄与危険割合(曝露群寄与危険度割合)= 寄与危険度 ÷ 曝露群の罹患率 = 0.009 ÷ 0.0102 ≒ 0.88(約88%)  喫煙者の肺癌のうち約88%は喫煙が原因と考えられる。(RR-1)÷RR = 7.5÷8.5 でも同じ値になる。 ・集団寄与危険割合 =(集団全体の罹患率 - 非曝露群の罹患率)÷ 集団全体の罹患率 =(0.0048 - 0.0012)÷ 0.0048 = 0.75(75%)  集団全体の罹患率は480÷100,000 = 0.0048。この集団の肺癌の75%は喫煙がなければ生じなかったと推定される。

研究デザインと指標の対応

・コホート研究:曝露群・非曝露群の罹患率が得られるので、相対危険度・寄与危険度を直接計算できる。 ・症例対照研究:疾患の有無から出発して過去の曝露をさかのぼる研究であり、症例数と対照数を研究者が決めるため罹患率が求められない。そのため相対危険度の代わりにオッズ比を用いる。疾患がまれな場合、オッズ比は相対危険度の近似値となる。 ・横断研究:ある一時点の有病率を調べるもので、因果の時間的順序は評価しにくい。

相対危険度の読み方

・RR = 1:曝露と疾患に関連なし ・RR > 1:曝露が危険因子である可能性 ・RR < 1:曝露が防御因子である可能性 相対危険度は関連の強さ(因果関係の強固性)を表し、寄与危険度は曝露による疾病負担の大きさを表す、と区別して覚えるとよい。

POINT

・「調査開始時に罹患していない集団を曝露の有無で分けて追跡」はコホート研究である。 ・相対危険度 = 曝露群の罹患率 ÷ 非曝露群の罹患率(比)。本問では (408/40,000)÷(72/60,000) = 8.5。 ・寄与危険度 = 曝露群の罹患率 - 非曝露群の罹患率(差)。本問では 0.009(1,000人あたり9人)。 ・症例対照研究では罹患率が得られないため、オッズ比を用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。