「夜盲」が「夜尿」にすり替わる―栄養素の役割から解く欠乏症の組合せ
第107回医師国家試験 B問題 第16問
国試問題にチャレンジ
栄養障害と病態・疾患の組合せで誤っているのはどれか。
- a.ビタミンA欠乏 ―― 夜尿症
- b.ビタミンB1欠乏 ―― Wernicke脳症
- c.ビタミンB12欠乏 ―― 巨赤芽球性貧血
- d.カルシウム欠乏 ―― 骨粗鬆症
- e.亜鉛欠乏 ―― 味覚障害
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ビタミンAは網膜のロドプシンの材料であり、欠乏すると暗順応が障害されて夜盲症をきたします。本問では、それが名前の似た夜尿症にすり替えられた組合せが誤りでした。ビタミンB1欠乏はWernicke脳症や脚気、ビタミンB12欠乏は巨赤芽球性貧血や亜急性連合性脊髄変性症、カルシウム欠乏は骨粗鬆症、亜鉛欠乏は味覚障害や皮膚炎をきたし、骨軟化症・くる病は主にビタミンDやリンの欠乏による点も区別が必要です。栄養素の体内での役割から欠乏時に障害される臓器を推測する考え方を身につけると、知識が整理されるだけでなく、アルコール多飲者や中心静脈栄養患者など欠乏症のリスクが高い患者の診療にも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
本問は、ビタミンや微量元素・ミネラルの欠乏と、それによって生じる代表的な病態・疾患との対応を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、対応が正しくない組合せを1つ選ぶ。 栄養素欠乏症を覚える際は、その栄養素が体内でどのような役割を果たしているかと結びつけると整理しやすい。例えば、ビタミンAは網膜の視物質の材料、ビタミンB1は糖代謝の補酵素、ビタミンB12はDNA合成と神経髄鞘の維持、カルシウムは骨の主成分、亜鉛は多数の酵素の構成成分であり細胞増殖に必要、といった具合である。役割がわかれば、欠乏したときに障害される臓器・機能が推測できる。 本問では、ビタミンA欠乏の症状として知られる「夜盲症」が、名前の似た「夜尿症」にすり替えられている点を見抜けるかがポイントとなる。
選択肢考察
- ○a. ビタミンA欠乏 ―― 夜尿症
組合せが誤っているので、これが正解である。ビタミンA(レチノール)は網膜の杆体細胞にある視物質ロドプシンの構成成分(11-シス-レチナール)となる。欠乏するとロドプシンが十分に再合成されず、暗い場所で目が慣れる暗順応が障害されて夜盲症(とり目)を生じる。このほか、角膜・結膜の乾燥(眼球乾燥症)、結膜のBitot斑、進行すると角膜軟化症から失明に至ることがあり、皮膚の角化異常や易感染性もみられる。夜尿症は、夜間睡眠中に無意識に排尿してしまう状態で、主に小児にみられ、膀胱容量の小ささ、夜間の抗利尿ホルモン分泌の不足、覚醒障害などが関与する。ビタミンA欠乏とは関係がない。
- ×b. ビタミンB1欠乏 ―― Wernicke脳症
正しい組合せである。ビタミンB1(チアミン)は、ピルビン酸脱水素酵素やα-ケトグルタル酸脱水素酵素などの補酵素として糖代謝に不可欠である。欠乏すると、エネルギー需要の大きい神経や心筋が障害される。Wernicke脳症は、意識障害、眼球運動障害(外眼筋麻痺・眼振)、小脳性運動失調(歩行失調)を3徴とし、アルコール多飲者、低栄養、妊娠悪阻、ビタミンB1を含まない高カロリー輸液などで発症する。慢性化するとKorsakoff症候群(健忘・作話・失見当識)に移行する。末梢神経障害と心不全(高拍出性)をきたす脚気もビタミンB1欠乏症である。ブドウ糖投与によって欠乏が顕在化・悪化することがあるため、疑った時点でビタミンB1を先行または同時に投与する。
- ×c. ビタミンB12欠乏 ―― 巨赤芽球性貧血
正しい組合せである。ビタミンB12は葉酸とともにDNA合成に必要であり、欠乏すると細胞質の成熟に比べて核の成熟が遅れ、骨髄に大型の巨赤芽球が出現する(無効造血)。末梢血では大球性貧血(MCV高値)となり、好中球の過分葉もみられる。原因として、内因子に対する自己抗体による悪性貧血(萎縮性胃炎を伴う)、胃全摘後、回腸末端の切除・病変などが重要である。ビタミンB12欠乏では、葉酸欠乏と異なり、後索と側索が障害される亜急性連合性脊髄変性症や末梢神経障害などの神経症状を伴いうる。
- ×d. カルシウム欠乏 ―― 骨粗鬆症
正しい組合せである。カルシウムは骨の主要な構成成分(ヒドロキシアパタイト)であり、摂取不足が続くと血中カルシウム濃度を保つために副甲状腺ホルモンの作用で骨からカルシウムが動員され、骨量が減少する。これにより骨粗鬆症のリスクが高まる。骨粗鬆症の予防・治療では、カルシウムとビタミンDの十分な摂取が基本とされる。なお、骨基質の石灰化障害である骨軟化症(小児ではくる病)は、主にビタミンD欠乏やリン欠乏によって生じる。
- ×e. 亜鉛欠乏 ―― 味覚障害
正しい組合せである。亜鉛は多くの酵素の構成成分であり、細胞分裂・タンパク合成に必要である。舌の味蕾の味細胞は約10日前後の短い周期で新しく入れ替わるため、亜鉛が不足するとその再生が滞り、味覚障害を生じる。亜鉛欠乏ではほかに、皮膚炎(口囲・肛囲・四肢末端に好発)、脱毛、創傷治癒遅延、下痢、免疫能低下、小児の成長障害、性腺機能低下などがみられる。遺伝性の腸性肢端皮膚炎や、長期の中心静脈栄養、キレート作用をもつ薬剤の服用などが原因となる。
主なビタミン欠乏症
・ビタミンA:夜盲症、眼球乾燥症、Bitot斑、角膜軟化症、皮膚の角化 ・ビタミンB1(チアミン):脚気(末梢神経障害・心不全)、Wernicke脳症、Korsakoff症候群、乳酸アシドーシス ・ビタミンB2(リボフラビン):口角炎、口唇炎、舌炎、脂漏性皮膚炎 ・ナイアシン:ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症の3D) ・ビタミンB6:末梢神経障害、口角炎、けいれん(乳児)、鉄芽球性貧血(イソニアジド服用時に注意) ・葉酸:巨赤芽球性貧血、妊娠初期の欠乏で胎児の神経管閉鎖障害 ・ビタミンB12:巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症、Hunter舌炎 ・ビタミンC:壊血病(歯肉出血、皮下出血、創傷治癒遅延) ・ビタミンD:くる病(小児)、骨軟化症(成人) ・ビタミンK:出血傾向(新生児メレナ、頭蓋内出血)
主なミネラル・微量元素欠乏症
・カルシウム:骨粗鬆症、低カルシウム血症によるテタニー ・鉄:小球性低色素性貧血、匙状爪、舌炎・嚥下障害(Plummer-Vinson症候群) ・亜鉛:味覚障害、皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延 ・銅:貧血、好中球減少、Menkes病(先天性の銅輸送障害) ・セレン:心筋症(克山病) ・ヨウ素:甲状腺腫、甲状腺機能低下症
夜盲症と夜尿症
夜盲症は暗所で見えにくくなる視覚の障害であり、ビタミンA欠乏のほか網膜色素変性症でもみられる。夜尿症は5歳以降にも睡眠中の尿失禁が月1回以上、3か月以上続く状態を指し、泌尿器・小児科領域のテーマである。
POINT
・ビタミンA欠乏→夜盲症(夜尿症ではない) ・ビタミンB1欠乏→Wernicke脳症、脚気 ・ビタミンB12欠乏→巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症 ・カルシウム欠乏→骨粗鬆症/ビタミンD欠乏→くる病・骨軟化症 ・亜鉛欠乏→味覚障害、皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延
