膨大部で出会い、胞胚で根を下ろす―受精から着床までの1週間をたどる
第107回医師国家試験 B問題 第17問
国試問題にチャレンジ
受精卵について正しいのはどれか。
- a.卵管間質部で受精する。
- b.受精時に第1成熟分裂が始まる。
- c.受精後6時間で細胞分裂が始まる。
- d.桑実胚期にhCGの分泌が始まる。
- e.胞胚期に着床する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
受精は卵管膨大部で起こり、精子の進入をきっかけに完了するのは第2減数分裂です。第1減数分裂は胎生期に始まって前期で停止し、排卵直前のLHサージで完了します。受精卵は受精後約1日で最初の卵割を起こし、約3日で桑実胚、約4日で子宮腔に達して胞胚(胚盤胞)となり、受精後6〜7日ころに着床を開始します。hCGは着床後に合胞体栄養膜細胞から分泌され、妊娠黄体を維持するほか、胞状奇胎や絨毛癌の腫瘍マーカーとしても用いられます。受精から着床までを「場所」と「時期」で整理しておくことは、異所性妊娠や絨毛性疾患など臨床で重要な異常妊娠を理解する基礎となります。
解答・解説
正解はeです
本問は、卵子の成熟(減数分裂)から受精、卵割、着床、hCG分泌に至るまでの初期発生の流れを、場所と時期で正しく理解しているかを問う問題である。 流れを時系列で整理すると次のようになる。 ①胎生期:卵巣内で卵原細胞が一次卵母細胞となり、第1減数分裂(第1成熟分裂)を開始するが、前期の段階で停止し、そのまま思春期以降まで長期間休止する。 ②排卵直前:LHサージを契機に第1減数分裂が再開・完了し、二次卵母細胞と第1極体ができる。二次卵母細胞はただちに第2減数分裂に入り、中期で再び停止した状態で排卵される。 ③受精:排卵された卵子は卵管采から取り込まれ、卵管膨大部で精子と出会い受精する。精子の進入が刺激となって第2減数分裂が完了し、第2極体が放出される。雌雄の前核が形成され、融合して受精卵(接合子)となる。 ④卵割:受精後おおむね1日前後で最初の卵割(2細胞期)が起こり、卵管内を子宮へ運ばれながら分割を繰り返す。受精後3日ころに桑実胚となり、約4日で子宮腔に達する。 ⑤胞胚(胚盤胞)形成と着床:子宮腔内で内部に腔(胞胚腔)をもつ胞胚となり、透明帯から脱出(ハッチング)したのち、受精後6〜7日ころに子宮内膜へ着床を開始する。 ⑥hCG分泌:着床とともに栄養膜が合胞体栄養膜細胞に分化し、hCGを分泌し始める。 この流れに沿って各選択肢の「場所」と「時期」を照合すれば、正解は胞胚期に着床するという記述であるとわかる。
選択肢考察
- ×a. 卵管間質部で受精する。
誤り。受精は通常、卵管のうち最も内腔が広い卵管膨大部で起こる。卵管は卵巣側から卵管采(漏斗部)・膨大部・峡部・間質部に分けられ、間質部は子宮壁内を貫く最も子宮寄りの細い部分である。間質部は受精の場ではなく、子宮外妊娠(異所性妊娠)の着床部位として知られ、ここに着床すると子宮筋層に囲まれるため比較的遅れて破裂し、大出血をきたしやすい。
- ×b. 受精時に第1成熟分裂が始まる。
誤り。第1成熟分裂(第1減数分裂)は胎生期にすでに始まっており、一次卵母細胞は前期(ディクチオテン期)で停止している。排卵直前のLHサージで再開・完了して第1極体を放出し、二次卵母細胞は第2減数分裂の中期で停止した状態で排卵される。受精時に起こるのは第2成熟分裂(第2減数分裂)の再開と完了であり、このとき第2極体が放出される。
- ×c. 受精後6時間で細胞分裂が始まる。
誤り。受精後には雌雄の前核が形成されて互いに近づき、その核膜が消失して染色体が合わさる過程に時間を要するため、最初の卵割(2細胞期への分裂)は受精後およそ1日以降(おおむね24〜30時間前後)に起こる。受精後6時間では、まだ前核が形成されつつある段階である。その後は分割を繰り返し、受精後3日ころに桑実胚となる。
- ×d. 桑実胚期にhCGの分泌が始まる。
誤り。hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、胞胚の外層である栄養膜(トロホブラスト)から分化した合胞体栄養膜細胞が産生するホルモンであり、分泌が本格的に始まるのは着床以降である。母体血中では受精後8〜10日ころから検出され、妊娠10週前後にピークとなる。桑実胚はまだ卵管内〜子宮腔内を移動中で、着床していない段階である。hCGは黄体を維持して黄体からのプロゲステロン分泌を保ち、妊娠の維持に働く。
- ○e. 胞胚期に着床する。
正しい。受精卵は受精後4〜5日ころに子宮腔内で胞胚(胚盤胞)となる。胞胚は、将来胎児になる内細胞塊と、将来胎盤になる外層の栄養膜、内部の胞胚腔からなる。胞胚が透明帯から脱出したのち、受精後6〜7日ころ(排卵後7日前後)に、分泌期の子宮内膜に内細胞塊側の栄養膜から接着し、着床が始まる。胚が子宮内膜に完全に埋没するまでにはさらに数日を要し、受精後10〜12日ころに完了する。
卵子形成と減数分裂のまとめ
・胎生期:卵原細胞→一次卵母細胞(第1減数分裂前期で停止) ・排卵直前(LHサージ):第1減数分裂完了→二次卵母細胞+第1極体、第2減数分裂中期で停止 ・受精:第2減数分裂完了→卵子+第2極体 精子形成では減数分裂が思春期以降に始まり停止せずに進むのと対照的である。一次卵母細胞が長期間停止していることは、母体の高年齢化に伴う染色体不分離(Down症候群など)の増加と関連すると考えられている。
受精から着床までのタイムライン(受精日を0日とする目安)
・0日:卵管膨大部で受精 ・1日前後:2細胞期(最初の卵割) ・3日ころ:桑実胚(16細胞前後) ・4日ころ:子宮腔に到達、胞胚形成 ・5〜6日ころ:透明帯からの脱出(ハッチング) ・6〜7日ころ:着床開始 ・10〜12日ころ:着床完了
hCGの性質
・合胞体栄養膜細胞が産生する糖タンパクホルモンで、α鎖はLH・FSH・TSHと共通、β鎖が特異的である(妊娠反応はβ鎖を検出する)。 ・妊娠黄体を維持し、プロゲステロン分泌を保つ。 ・妊娠10週前後にピークとなり、その後低下する。 ・胞状奇胎や絨毛癌では異常高値となり、腫瘍マーカーとして用いられる。
卵管の区分と異所性妊娠
卵管は卵巣側から卵管采(漏斗部)・膨大部・峡部・間質部に区分される。異所性妊娠は卵管膨大部に最も多く、峡部では早期に破裂しやすく、間質部では破裂時の出血が大量になりやすい。
POINT
・受精の場所は卵管膨大部 ・第1減数分裂は胎生期に開始・前期で停止し、排卵直前に完了。受精時に完了するのは第2減数分裂 ・最初の卵割は受精後約1日、桑実胚は約3日、子宮腔到達は約4日 ・着床は胞胚(胚盤胞)期で、受精後6〜7日ころに開始 ・hCGは着床後に合胞体栄養膜細胞から分泌される
