「忘れる」より先に「関心が消える」―前頭葉から始まる認知症を見抜く
第107回医師国家試験 A問題 第2問
国試問題にチャレンジ
前頭側頭型認知症の初期に認められるのはどれか。
- a.幻覚
- b.健忘
- c.失行
- d.無関心
- e.見当識障害
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
前頭側頭型認知症は前頭葉と側頭葉前部の萎縮を特徴とし、初期から無関心(アパシー)・自発性低下、脱抑制、常同行動、共感の喪失、食行動の変化といった人格変化・行動異常が目立つ一方、記憶や見当識は比較的保たれます。初期の健忘や、その後に続く見当識障害・失行はAlzheimer型認知症、ありありとした幻視はLewy小体型認知症に特徴的です。前頭側頭型認知症は初老期発症が多く若年性認知症の重要な原因であり、病識に乏しく精神疾患と誤解されやすい点、コリンエステラーゼ阻害薬が推奨されない点にも注意が必要です。「どこが最初に障害されるか」から初期症状を考える視点は、認知症の早期鑑別と適切なケアにつながります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia:FTD)の初期症状を、他の代表的な認知症と区別して選ぶ問題である。
考え方
認知症の症状は「脳のどこが最初に障害されるか」で決まる。 ・Alzheimer型認知症:海馬を含む側頭葉内側から始まり、頭頂葉へ広がる。そのため初期は記憶障害(特に新しいことを覚えられない近時記憶障害)が中心で、進行とともに見当識障害、失語・失行・失認などの高次脳機能障害が加わる。 ・Lewy小体型認知症:後頭葉の機能低下などを背景に、生々しい幻視、認知機能の変動、パーキンソニズム、レム睡眠行動異常症が特徴となる。 ・前頭側頭型認知症:前頭葉と側頭葉前部が主に萎縮する。前頭葉は意欲・判断・社会的行動の抑制を担うため、初期から人格変化と行動異常が目立ち、記憶・見当識・視空間認知は比較的保たれる。 FTD(とくに行動異常型)の初期にみられる無関心(アパシー)・自発性低下は、この前頭葉障害を反映した代表的な症状である。
選択肢考察
- ×a. 幻覚
認知症の初期から幻覚、とくに人や小動物が見えるといった具体的でありありとした幻視が目立つのはLewy小体型認知症の特徴であり、中核的特徴の一つとされる。前頭側頭型認知症の初期症状としては典型的でない。
- ×b. 健忘
初期から健忘(記憶障害)が前景に立つのはAlzheimer型認知症である。海馬を含む側頭葉内側が早期に障害されるためで、同じことを何度も尋ねる、物をしまった場所を忘れるといった近時記憶障害で発症することが多い。前頭側頭型認知症では初期の記憶障害は比較的軽く、日常のエピソード記憶は保たれていることが多い。
- ×c. 失行
失行は、運動麻痺や理解障害がないのに、目的に沿った動作(服を着る、道具を使うなど)が正しく行えない状態で、主に頭頂葉の障害で生じる。Alzheimer型認知症で病変が側頭・頭頂連合野へ広がると、失語・失認とともに出現してくる。前頭側頭型認知症の初期症状ではない。
- ○d. 無関心
前頭側頭型認知症では前頭葉の障害により、初期から自分や周囲、社会に対する関心が薄れ(無関心・アパシー)、自発性が低下する。身だしなみに無頓着になる、仕事や趣味への意欲がなくなるなどの形で現れる。このほか、他者への共感・感情移入の喪失、脱抑制(万引きなどの反社会的行動、場にそぐわない言動)、常同行動(毎日同じ時刻に同じ行動をとる時刻表的生活、同じコースを歩き回る周徊)、食行動の変化(甘いものを好む、過食)なども特徴的で、本人の病識は乏しい。
- ×e. 見当識障害
見当識障害とは、時間・場所・人物など自分が置かれている状況を正しく把握できない状態であり、一般に時間→場所→人物の順に障害される。Alzheimer型認知症で記憶障害に続いて出現し、病期の進行とともに目立ってくる。前頭側頭型認知症では初期の見当識は比較的保たれる。
前頭側頭型認知症(FTD)の概要
前頭葉・側頭葉前部の変性・萎縮をきたす神経変性疾患群であり、前頭側頭葉変性症(FTLD)とも総称される。発症は65歳未満の初老期が多く、若年性認知症の原因として重要である。臨床的に以下の病型に分けられる。 ・行動異常型FTD(bvFTD):人格変化・行動異常が主体。かつてPick病と呼ばれた病態の多くを含む。 ・意味性認知症:側頭葉前部優位の萎縮。物の名前や言葉の意味がわからなくなる(語義失語)。 ・進行性非流暢性失語:左前頭葉後下部優位の萎縮。たどたどしい発話、失文法。
行動異常型FTDの主な症状
・脱抑制:社会的に不適切な行動、万引きなどの軽犯罪、衝動的な言動 ・無関心・自発性低下(アパシー) ・共感・感情移入の喪失 ・常同行動・強迫的行動:時刻表的生活、周徊、同じ言葉の繰り返し(滞続言語) ・口唇傾向・食行動変化:甘い物への嗜好、過食 ・「考え不精」:質問に対して深く考えずに即答する ・病識の欠如 画像ではCTやMRIで前頭葉・側頭葉前部の限局性萎縮、SPECTで同部位の血流低下がみられる。根本的治療はなく、行動症状に対しては選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が用いられることがある。コリンエステラーゼ阻害薬は有効性が示されておらず、症状を悪化させることもある。
主な認知症の初期症状の比較
・Alzheimer型:近時記憶障害、見当識障害(時間から)。進行すると失語・失行・失認。取り繕い反応。 ・Lewy小体型:幻視、認知機能の変動、パーキンソニズム、レム睡眠行動異常症。抗精神病薬への過敏性に注意。 ・前頭側頭型:人格変化、脱抑制、無関心、常同行動。記憶・見当識は比較的保たれる。 ・血管性:脳血管障害に伴い階段状に悪化、まだら認知症、局所神経症状。
POINT
・前頭側頭型認知症は前頭葉・側頭葉前部の萎縮 → 初期から人格変化・行動異常(無関心、脱抑制、常同行動、共感の喪失)。 ・初期には記憶障害・見当識障害は比較的軽い。 ・健忘・見当識障害・失行 → Alzheimer型認知症。 ・幻視 → Lewy小体型認知症。 ・初老期発症が多く、病識に乏しい。
