StudyMed医師国家試験

持病が妊娠に落とす影―SLEと流産を結ぶ「胎盤」という鍵

第107回医師国家試験 A問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第107回 A問題 第1問

合併症妊娠と起こりやすい異常の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.糖尿病 ―― 頸管無力症
  2. b.慢性腎炎 ―― 前置胎盤
  3. c.気管支喘息 ―― 双胎間輸血症候群
  4. d.甲状腺機能亢進症 ―― 巨大児
  5. e.全身性エリテマトーデス〈SLE〉 ―― 流産

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、お母さんがもともと持っている病気が、妊娠経過や赤ちゃんにどんな影響を及ぼすかを問う問題だ。コツは、右側に並んだ異常それぞれの「本来の原因」を思い出すこと。そうすると、左の病気と本当に結びつくかが見えてくるよ。
医学生医学生
組合せ問題は苦手です……。全部それっぽく見えてしまって。
ドクタードクター
だからこそ逆方向から考えるのが有効なんだ。たとえば頸管無力症。これはどんな人に起こりやすいかな。
医学生医学生
産婦人科の講義で、子宮頸部の円錐切除術の後に多いと習いました。糖尿病とは関係なさそうですね。
ドクタードクター
その通り。頸管無力症は、陣痛のような収縮がないのに妊娠中期に頸管が短くなって開き、流産や早産に至る状態だ。円錐切除術後や分娩時の頸管裂傷、生まれつき頸管が弱いことなど、頸部そのものの構造的な問題が原因で、糖尿病とは結びつかない。
医学生医学生
糖尿病合併妊娠で起こりやすいのは、むしろ巨大児ですよね。
ドクタードクター
よく出てきたね。母体の高血糖がそのまま胎児に移り、胎児が高インスリン血症になって過剰に発育する。ほかにも妊娠初期の高血糖による先天異常や流産、羊水過多、妊娠高血圧症候群、そして生まれた後の新生児低血糖などが問題になる。だから巨大児と組み合わせるべきは糖尿病で、甲状腺機能亢進症ではないんだ。
医学生医学生
甲状腺機能亢進症だと代謝が上がっているので、むしろ赤ちゃんは小さくなりそうです。
ドクタードクター
いい推論だ。甲状腺機能亢進症ではむしろ胎児発育不全や流早産が問題になる。それに、母体のTSH受容体抗体が胎盤を通過して、胎児や新生児が甲状腺機能亢進症になることもある。では前置胎盤と慢性腎炎はどうだろう。
医学生医学生
前置胎盤は帝王切開の既往がリスクだったと思います。腎臓の病気とはつながらない気がします。
ドクタードクター
正解。前置胎盤は胎盤が子宮下部について内子宮口を覆う状態で、帝王切開や子宮内容除去術など子宮内操作の既往、多産、高年妊娠、喫煙などが危険因子だ。慢性腎炎で問題になるのは、妊娠の負荷による腎機能悪化や、高血圧・蛋白尿が強まる加重型妊娠高血圧腎症、胎児発育不全などだね。
医学生医学生
双胎間輸血症候群は、そもそも双子の胎盤の問題なので、お母さんの喘息とは関係ないですよね。
ドクタードクター
そう。一絨毛膜双胎で共有する胎盤の血管吻合を介して、一方の胎児からもう一方へ血液が偏って流れるのが原因だ。母体の喘息では、発作による低酸素が胎児の発育不全や早産につながるから、妊娠中も吸入ステロイドでコントロールを続けることが大切になる。
医学生医学生
そうすると残るのはSLEと流産。自己免疫疾患がどうして流産につながるんでしょうか。
ドクタードクター
ポイントは胎盤の血流だ。SLEは妊娠可能年齢の女性に多く、妊娠中や産後に活動性が上がりやすい。さらにSLEには抗リン脂質抗体がしばしば合併し、胎盤に血栓ができて血流が障害される。その結果、流産や死産、胎児発育不全、妊娠高血圧腎症が起こりやすくなるんだ。
医学生医学生
膠原病内科を回ったとき、流産を繰り返して不育症の検査で抗リン脂質抗体症候群が見つかった患者さんがいました。
ドクタードクター
まさにその流れだね。抗リン脂質抗体症候群の妊娠では、低用量アスピリンとヘパリンの併用が行われる。もう一つ覚えておきたいのが抗SS-A抗体。胎盤を通過して、新生児ループスや先天性完全房室ブロックを起こすことがある。
医学生医学生
胎盤を通る自己抗体という意味では、甲状腺のTSH受容体抗体と同じ発想ですね。
ドクタードクター
その整理はとても良い。臨床では、こうした合併症を持つ女性には妊娠前から病状を落ち着かせておく計画妊娠が重要になる。糖尿病なら器官形成期の血糖、SLEなら疾患活動性のコントロールが、妊娠のゴールを大きく左右するんだ。

まとめ

母体の持病は、それぞれ特有のしくみで妊娠に影響します。SLEでは疾患活動性の上昇や、しばしば合併する抗リン脂質抗体による胎盤の血栓・血流障害によって流産・死産・胎児発育不全が起こりやすく、抗SS-A抗体は新生児ループスや先天性完全房室ブロックの原因となります。巨大児は糖尿病合併妊娠の代表的な合併症で、甲状腺機能亢進症ではむしろ胎児発育不全が問題となります。頸管無力症は円錐切除術後、前置胎盤は子宮内操作の既往、双胎間輸血症候群は一絨毛膜双胎といった構造的な要因で起こるため、全身疾患とは直接結びつきません。各異常の「本来の原因」から逆算する考え方は、合併症妊娠の管理や計画妊娠の指導にもそのまま役立ちます。

解答・解説

正解はeです

問われていること

母体がもともと持っている病気(合併症)が妊娠経過や胎児にどのような影響を及ぼすかを問う問題である。各選択肢について、右側に挙げられた異常の「本来の原因・危険因子」と、左側の合併症で「実際に起こりやすい異常」を対応させて考えるとよい。

考え方

・頸管無力症、前置胎盤、双胎間輸血症候群はいずれも、子宮頸部・子宮内膜・胎盤の構造的な要因で生じる異常であり、糖尿病・腎炎・喘息といった全身疾患とは直接結びつかない。 ・巨大児は母体の高血糖と結びつく代表的な異常であり、甲状腺機能亢進症ではむしろ胎児発育が抑制される方向に働く。 ・SLE(全身性エリテマトーデス)は自己免疫疾患であり、疾患活動性そのものや、しばしば合併する抗リン脂質抗体によって胎盤の血流障害(血栓・炎症)が起こり、流産・早産・死産・胎児発育不全などをきたしやすい。 したがって正しい組合せはSLEと流産である。

選択肢考察

  1. ×a.  糖尿病 ―― 頸管無力症

    頸管無力症は、陣痛のような子宮収縮がないのに妊娠中期に子宮頸管が短縮・開大し、流産・早産に至る状態である。危険因子は子宮頸部円錐切除術の既往、分娩時の頸管裂傷、頸管の先天的な脆弱性、感染などであり、糖尿病との関連はない。糖尿病合併妊娠で問題になるのは、妊娠初期の高血糖による流産や先天異常(心奇形、尾部退行症候群など)、妊娠中の羊水過多、妊娠高血圧症候群、巨大児とそれに伴う肩甲難産、新生児低血糖・呼吸窮迫症候群・高ビリルビン血症・多血症などである。

  2. ×b.  慢性腎炎 ―― 前置胎盤

    前置胎盤は胎盤が子宮下部に付着して内子宮口を覆う、またはその近くにかかる状態で、妊娠後半に無痛性の性器出血をきたす。危険因子は帝王切開や人工妊娠中絶(子宮内容除去術)など子宮内操作の既往、多産、高年妊娠、多胎、喫煙などであり、慢性腎炎とは関係しない。慢性腎炎合併妊娠では、妊娠による腎臓への負荷で腎機能が悪化しやすく、高血圧・蛋白尿の増悪(加重型妊娠高血圧腎症)、胎児発育不全、早産、子宮内胎児死亡などが問題となる。

  3. ×c.  気管支喘息 ―― 双胎間輸血症候群

    双胎間輸血症候群(TTTS)は、一絨毛膜双胎(主に一絨毛膜二羊膜双胎)で、共有する胎盤の血管吻合を介して一方の胎児(供血児)から他方(受血児)へ血液が一方向に偏って流れることで起こる。供血児は貧血・乏尿・羊水過少・発育不全、受血児は多血・多尿・羊水過多・心不全(胎児水腫)となる。原因は胎盤の構造であり、母体の気管支喘息とは無関係である。喘息合併妊娠では、発作や重症化による母体の低酸素血症が胎児低酸素・胎児発育不全・早産などにつながるため、吸入ステロイドなどで妊娠中もコントロールを維持することが重要である。

  4. ×d.  甲状腺機能亢進症 ―― 巨大児

    巨大児(出生体重4,000 g以上)の主な原因は、母体の糖尿病(母体の高血糖→胎児の高血糖→胎児高インスリン血症による過剰発育)、母体の肥満や妊娠中の過剰な体重増加、過期妊娠などである。甲状腺機能亢進症ではむしろ代謝亢進により胎児発育不全・低出生体重をきたしやすく、ほかに流産・早産、妊娠高血圧症候群、TSH受容体抗体(TRAb)の胎盤移行による胎児・新生児の甲状腺機能亢進症、分娩や感染を契機とした甲状腺クリーゼなどが問題となる。

  5. ○e.  全身性エリテマトーデス〈SLE〉 ―― 流産

    SLEは妊娠可能年齢の女性に多い自己免疫疾患で、妊娠中や産褥期に疾患活動性が増悪しやすい。妊娠への影響としては流産・早産・死産・胎児発育不全・妊娠高血圧腎症が増加する。特に抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインI抗体)を伴う場合は、胎盤の血栓形成・血流障害により反復する流産(不育症)の原因となる。また抗SS-A抗体が胎盤を通過すると新生児ループスや先天性完全房室ブロックを起こしうる。よってSLEと流産の組合せは正しい。

主な合併症妊娠と起こりやすい異常

・糖尿病:流産、先天異常(心奇形、尾部退行症候群など)、羊水過多、妊娠高血圧症候群、巨大児・肩甲難産、胎児死亡。新生児では低血糖、呼吸窮迫症候群、高ビリルビン血症、多血症、低Ca血症。器官形成期の血糖コントロールが先天異常予防の鍵であり、妊娠前からの管理(計画妊娠)が推奨される。 ・慢性腎疾患:腎機能悪化、加重型妊娠高血圧腎症、胎児発育不全、早産、胎児死亡。 ・甲状腺機能亢進症(主にバセドウ病):流早産、胎児発育不全、妊娠高血圧症候群、胎児・新生児甲状腺機能亢進症(TRAbの経胎盤移行)、甲状腺クリーゼ。抗甲状腺薬のうちチアマゾールは妊娠初期の催奇形性(頭皮欠損、臍腸管遺残など)が指摘されており、妊娠初期はプロピルチオウラシルが推奨される。 ・SLE・抗リン脂質抗体症候群:流産(反復)、死産、胎児発育不全、妊娠高血圧腎症、血栓症。抗リン脂質抗体症候群では低用量アスピリンとヘパリンの併用療法が行われる。抗SS-A抗体陽性では新生児ループス、先天性完全房室ブロック。 ・気管支喘息:母体低酸素による胎児発育不全・早産など。妊娠中も吸入ステロイドを中心に治療を継続する。 ・心疾患:妊娠・分娩による循環血液量増加で心不全が増悪しうる。分娩第2期の努責を避けるため、鉗子分娩・吸引分娩で第2期を短縮することがある。

右側の異常の主な原因

・頸管無力症:円錐切除術後、頸管裂傷、先天的な頸管の脆弱性。 ・前置胎盤:帝王切開・子宮内操作の既往、多産、高年妊娠、多胎、喫煙。 ・双胎間輸血症候群:一絨毛膜双胎(胎盤の血管吻合)。 ・巨大児:糖尿病、母体肥満、過剰な体重増加、過期妊娠。

POINT

・SLE・抗リン脂質抗体症候群 → 流産(反復流産・不育症)、死産、胎児発育不全。 ・巨大児は糖尿病合併妊娠が代表。甲状腺機能亢進症はむしろ胎児発育不全。 ・頸管無力症 → 円錐切除術後。前置胎盤 → 帝王切開・子宮内操作の既往。 ・双胎間輸血症候群 → 一絨毛膜双胎に特有。 ・抗SS-A抗体 → 新生児ループス、先天性完全房室ブロック。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。