基底膜のスパイクが告げるもの―膜性腎症の陰に潜む感染症と癌
第107回医師国家試験 A問題 第19問
国試問題にチャレンジ
腎生検のPAM染色標本(A)と蛍光抗体IgG染色標本(B)とを別に示す。 原因として考えられるのはどれか。3つ選べ。

- a.梅毒
- b.大腸癌
- c.B型肝炎
- d.悪性高血圧症
- e.紫斑病性腎炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
PAM染色での基底膜肥厚とスパイク形成、蛍光抗体法でのIgGの係蹄壁に沿った顆粒状沈着は、上皮下に免疫複合体が沈着する膜性腎症の特徴的所見です。膜性腎症は一次性の多くで抗PLA2R抗体が関与する一方、感染症(B型肝炎、C型肝炎、梅毒)、悪性腫瘍(大腸癌・肺癌・胃癌などの固形癌)、自己免疫疾患(SLE)、薬剤(金製剤、ブシラミンなど)による二次性も少なくありません。悪性高血圧症は細動脈のフィブリノイド壊死やonion-skin lesion、紫斑病性腎炎はIgAのメサンギウム沈着が主体であり、膜性腎症の原因にはなりません。二次性では原因疾患の治療で蛋白尿が改善しうるため、特に高齢者では悪性腫瘍の検索が重要です。組織診断から原因検索、治療方針へとつなげる思考は、糸球体疾患全般を理解するうえでの基本になります。
解答・解説
正解はa, b, cです
画像所見の読み取り
(A) PAM染色(periodic acid-methenamine silver染色。基底膜を黒く染め出す鍛銀染色)では、糸球体係蹄壁(毛細血管壁)の基底膜がびまん性に肥厚し、基底膜から上皮側(外側)に向かって棘状の突起(スパイク)が並んでいる。これは上皮下に沈着した免疫複合体の間を埋めるように基底膜物質が新生されるために生じる所見である。糸球体細胞の増殖は目立たない。 (B) 蛍光抗体IgG染色では、IgGが糸球体係蹄壁に沿って細かい顆粒状に連続して沈着している(顆粒状沈着)。メサンギウム領域主体の沈着ではない。
診断
基底膜の肥厚とスパイク形成、IgGの係蹄壁への顆粒状沈着(上皮下沈着)の組み合わせから、膜性腎症と診断できる。膜性腎症は中高年の成人ネフローゼ症候群の原因として頻度が高く、緩徐に進行する浮腫と大量の蛋白尿(血尿は軽度)を呈するのが典型である。
設問の考え方
膜性腎症は、原因が特定できない一次性(特発性)と、他疾患に続発する二次性に分けられる。一次性の多くでは、糸球体上皮細胞(足細胞)表面の抗原であるホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)などに対する自己抗体が原因と考えられている。二次性の原因は、(1) 感染症(B型肝炎、C型肝炎、梅毒、マラリアなど)、(2) 悪性腫瘍(肺癌・胃癌・大腸癌などの固形癌)、(3) 自己免疫疾患(全身性エリテマトーデスのループス腎炎Ⅴ型、関節リウマチ、甲状腺疾患など)、(4) 薬剤(金製剤、D-ペニシラミン、ブシラミン、非ステロイド性抗炎症薬など)に整理できる。本問は、選択肢のうちこの二次性膜性腎症の原因に該当するものを選べばよい。
選択肢考察
- ○a. 梅毒
正しい。梅毒は感染症に伴う二次性膜性腎症の原因の一つである。梅毒トレポネーマの抗原とそれに対する抗体からなる免疫複合体が、糸球体基底膜の上皮側に沈着すると考えられている。先天梅毒や第2期梅毒でネフローゼ症候群を呈することがあり、ペニシリンなどによる梅毒の治療で蛋白尿が改善しうる点が特徴である。
- ○b. 大腸癌
正しい。悪性腫瘍は二次性膜性腎症の重要な原因であり、大腸癌をはじめ、肺癌、胃癌、乳癌、腎癌などの固形癌に合併することが知られている。腫瘍関連抗原と抗体からなる免疫複合体の沈着が機序として想定されている。高齢者で膜性腎症と診断された場合は、悪性腫瘍が潜んでいる可能性を考えて癌検診に準じた検索を行うことが重要であり、腫瘍の治療によって蛋白尿が軽快する例もある。
- ○c. B型肝炎
正しい。B型肝炎ウイルス(HBV)感染は二次性膜性腎症の代表的な原因で、特に小児の膜性腎症ではHBVの関与が多いとされる。HBe抗原などのウイルス抗原を含む免疫複合体が上皮下に沈着すると考えられている。HBV関連腎症ではステロイドや免疫抑制薬の投与でウイルスが再活性化し肝炎が悪化するおそれがあるため、核酸アナログ製剤による抗ウイルス療法が治療の中心となる。
- ×d. 悪性高血圧症
誤り。悪性高血圧症(加速型-悪性高血圧)は、著しい血圧上昇による血管障害が主体の病態で、免疫複合体の沈着とは関係しない。腎では細動脈のフィブリノイド壊死や、小葉間動脈の内膜が同心円状に増殖して玉ねぎの皮のようにみえる内膜肥厚(onion-skin lesion)がみられ、糸球体には虚血性変化や壊死、血栓性微小血管症の所見が生じる(悪性腎硬化症)。基底膜のスパイク形成やIgGの係蹄壁への顆粒状沈着といった膜性腎症の所見は呈さない。
- ×e. 紫斑病性腎炎
誤り。紫斑病性腎炎はIgA血管炎(旧称: Henoch-Schönlein紫斑病)に伴う腎炎で、組織像はIgA腎症と類似する。蛍光抗体法ではIgAがメサンギウム領域を主体に顆粒状に沈着し、光学顕微鏡ではメサンギウム細胞の増殖や基質の増加、重症例では半月体形成がみられる。IgGが係蹄壁に沿って沈着しスパイクを形成する膜性腎症とは、沈着する免疫グロブリンの種類と沈着部位が異なる。
膜性腎症の概要
・中高年に多く、成人の一次性ネフローゼ症候群の原因として頻度が高い(高齢者では最多)。 ・病理: 光顕で基底膜のびまん性肥厚とスパイク形成(PAM染色で明瞭)、進行すると点刻像(基底膜内に取り込まれた沈着物が抜けて見える所見)。蛍光抗体法でIgG(一次性ではIgG4が主体)とC3の係蹄壁への顆粒状沈着。電顕で上皮下の高電子密度沈着物。 ・一次性の多くは抗PLA2R抗体陽性であり、血清抗PLA2R抗体は診断や疾患活動性の評価に用いられる。抗体陰性例やIgG4以外のサブクラスが目立つ例では二次性を疑う。 ・経過: 自然寛解する例、蛋白尿が持続する例、腎機能が低下して末期腎不全に至る例がある。深部静脈血栓症や腎静脈血栓症などの血栓症を合併しやすい。 ・治療: 浮腫・高血圧・脂質異常症に対する支持療法(レニン・アンジオテンシン系阻害薬、利尿薬、スタチンなど)を基本とし、ネフローゼ状態が続く場合は副腎皮質ステロイドにシクロスポリンやシクロホスファミドなどの免疫抑制薬を併用する。抗CD20抗体のリツキシマブも有効性が示されている。二次性では原因疾患の治療が優先される。
二次性膜性腎症の主な原因
・感染症: B型肝炎、C型肝炎、梅毒、マラリアなど ・悪性腫瘍: 肺癌、胃癌、大腸癌、乳癌などの固形癌 ・自己免疫疾患: 全身性エリテマトーデス(ループス腎炎Ⅴ型)、関節リウマチ、Sjögren症候群、甲状腺疾患など ・薬剤: 金製剤、D-ペニシラミン、ブシラミン、NSAIDsなど
蛍光抗体法での沈着パターンの比較
・IgGの係蹄壁顆粒状沈着: 膜性腎症 ・IgGの係蹄壁線状沈着: 抗GBM病(Goodpasture症候群) ・IgAのメサンギウム沈着: IgA腎症、紫斑病性腎炎 ・C3主体の係蹄壁への大きな塊状(hump)沈着: 溶連菌感染後急性糸球体腎炎 ・多種の免疫グロブリンと補体が同時に沈着(フルハウス): ループス腎炎
POINT
・PAM染色で基底膜の肥厚とスパイク、蛍光抗体法でIgGの係蹄壁への顆粒状沈着は膜性腎症。 ・膜性腎症は中高年のネフローゼ症候群の代表的原因で、一次性の多くは抗PLA2R抗体が関与する。 ・二次性の原因: 感染症(B型肝炎、C型肝炎、梅毒)、悪性腫瘍(大腸癌・肺癌・胃癌などの固形癌)、自己免疫疾患(SLE)、薬剤(金製剤、ブシラミン、D-ペニシラミン、NSAIDs)。 ・高齢者の膜性腎症では悪性腫瘍の検索を行う。 ・悪性高血圧症は細動脈のフィブリノイド壊死と玉ねぎの皮様の内膜肥厚、紫斑病性腎炎はIgAのメサンギウム沈着が特徴。
