アクセルが減れば出血、ブレーキが減れば血栓―凝固阻止因子の欠乏が招く血栓傾向
第107回医師国家試験 A問題 第18問
国試問題にチャレンジ
欠乏すると血栓傾向が生じるのはどれか。3つ選べ。
- a.アンチトロンビン
- b.フィブリノゲン
- c.プロテインC
- d.プロテインS
- e.プロトロンビン
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
凝固系は、凝固を進める凝固因子と、凝固を抑える生理的凝固阻止因子のバランスで成り立っており、前者の欠乏は出血傾向、後者の欠乏は血栓傾向をきたします。フィブリノゲン(第Ⅰ因子)やプロトロンビン(第Ⅱ因子)は凝固因子であるため欠乏すると出血傾向となり、アンチトロンビン、プロテインC、プロテインSは凝固阻止因子であるため欠乏すると静脈血栓症を中心とした血栓傾向を示します。アンチトロンビンはヘパリンの作用発現に必要で、プロテインCとプロテインSはビタミンK依存性のため、ワルファリン導入初期の一過性凝固亢進に関わります。日本人の先天性血栓性素因ではプロテインS欠乏症が比較的多く、若年・家族歴・再発・まれな部位の血栓症では検索を考えます。凝固の「アクセル」と「ブレーキ」を区別して理解することは、出血・血栓性疾患の鑑別と抗凝固療法の安全な運用の土台となります。
解答・解説
正解はa, c, dです
血液は、血管が傷ついたときには速やかに固まり(凝固)、それ以外の場所では固まりすぎないように抑える(凝固制御)という、二つの仕組みのバランスで成り立っている。 ・凝固を進める側: 凝固因子(第Ⅰ因子のフィブリノゲン、第Ⅱ因子のプロトロンビン、第Ⅴ・Ⅶ・Ⅷ・Ⅸ・Ⅹ因子など)。これらが欠乏すると血液が固まりにくくなり、出血傾向を示す。 ・凝固を抑える側: 生理的凝固阻止因子(アンチトロンビン、プロテインC、プロテインS、組織因子経路インヒビター〈TFPI〉など)。これらが欠乏するとブレーキが効かなくなり、血栓傾向(特に深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症などの静脈血栓症)を示す。 したがって本問は、選択肢を「凝固因子」と「凝固阻止因子」に分類できれば解ける。アンチトロンビン、プロテインC、プロテインSが凝固阻止因子であり、これらの先天性欠乏症は、若年での静脈血栓症、家族歴、通常とは異なる部位(脳静脈洞、腸間膜静脈など)の血栓、再発を繰り返す血栓などを契機に見つかる代表的な先天性血栓性素因(thrombophilia)である。
選択肢考察
- ○a. アンチトロンビン
正しい。アンチトロンビン(AT。かつてはアンチトロンビンⅢ〈ATⅢ〉と呼ばれた)は肝臓で産生されるセリンプロテアーゼ阻害因子で、トロンビン(活性型第Ⅱ因子)や活性型第Ⅹ因子(Xa)などの活性化された凝固因子と結合してその働きを止める。この作用はヘパリンや血管内皮上のヘパラン硫酸と結合することで著しく増強され、ヘパリンの抗凝固作用はATを介して発揮される。そのためAT欠乏ではヘパリンの効果が十分に得られない(ヘパリン抵抗性)。先天性AT欠乏症はヘテロ接合体でも血栓症リスクが高い。後天的にはDIC(播種性血管内凝固)での消費、肝硬変などでの産生低下、ネフローゼ症候群での尿中喪失などで低下し、血栓傾向の一因となる。
- ×b. フィブリノゲン
誤り。フィブリノゲンは第Ⅰ因子と呼ばれる凝固因子で、凝固反応の最終段階でトロンビンにより切断されてフィブリンとなり、血栓の網目構造を形成する。また血小板同士をつなぐ(血小板凝集の橋渡しをする)役割ももつ。したがって欠乏すると血栓を作れず、出血傾向となる。先天性無フィブリノゲン血症・低フィブリノゲン血症のほか、DICでの消費、重症肝障害での産生低下などで低下する。なお、フィブリノゲンの質的異常である異常フィブリノゲン血症の一部では、例外的に血栓傾向を示すことがある。
- ○c. プロテインC
正しい。プロテインC(PC)は肝臓で産生されるビタミンK依存性の凝固阻止因子である。トロンビンが血管内皮上のトロンボモジュリンと結合すると、凝固を進める働きから転じてPCを活性化する。活性化プロテインC(APC)は、補因子であるプロテインSとともに活性型第Ⅴ因子(Va)と活性型第Ⅷ因子(Ⅷa)を分解・不活化し、凝固反応の増幅を抑える。欠乏すると静脈血栓症を起こしやすく、先天性PC欠乏症のホモ接合体(または複合ヘテロ接合体)では新生児期に電撃性紫斑病という重篤な血栓症を呈する。ワルファリン開始直後には半減期の短いPCが先に低下して一過性に凝固亢進状態となり、PC欠乏症の患者ではワルファリン誘発性皮膚壊死の原因となりうる。
- ○d. プロテインS
正しい。プロテインS(PS)もビタミンK依存性の凝固阻止因子で、活性化プロテインC(APC)の補因子としてVa・Ⅷaの不活化を促進する。このほか組織因子経路インヒビター(TFPI)の補因子としても働く。欠乏するとPC経路が十分に機能しなくなり、静脈血栓症を起こしやすい。日本人では先天性PS欠乏症の頻度が比較的高く、PSの特定の遺伝子変異(プロテインS徳島など)が血栓症の危険因子として知られている。後天的にも妊娠・経口避妊薬(エストロゲン)内服・ビタミンK欠乏・ワルファリン内服などで低下する。
- ×e. プロトロンビン
誤り。プロトロンビンは第Ⅱ因子と呼ばれるビタミンK依存性の凝固因子で、活性型第Ⅹ因子(Xa)と活性型第Ⅴ因子(Va)の複合体によってトロンビンに変換される。トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンに変えるほか、血小板や第Ⅴ・Ⅷ・ⅩⅢ因子を活性化する凝固反応の中心的な酵素である。したがってプロトロンビンが欠乏するとトロンビンが十分に生成されず、出血傾向となる。ビタミンK欠乏、ワルファリン内服、肝障害などで低下し、プロトロンビン時間(PT)が延長する。なお、欧米人ではプロトロンビン遺伝子の変異により産生が増加して血栓傾向となる例が知られるが、これは欠乏ではなく過剰による。
主な生理的凝固阻止因子
・アンチトロンビン(AT): トロンビン、Xaなどを阻害。ヘパリンで作用が増強される。ビタミンK非依存性。 ・プロテインC(PC): トロンビン・トロンボモジュリン複合体で活性化され、Va・Ⅷaを不活化。ビタミンK依存性。 ・プロテインS(PS): APCおよびTFPIの補因子。ビタミンK依存性。 ・組織因子経路インヒビター(TFPI): 組織因子・第Ⅶa因子複合体とXaを阻害し、凝固の開始段階を抑える。
ビタミンK依存性因子
凝固因子: 第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子 凝固阻止因子: プロテインC、プロテインS いずれもワルファリン(ビタミンK拮抗薬)で活性が低下する。ワルファリン開始初期は、半減期の短い第Ⅶ因子やPCが先に低下するため、一時的に凝固亢進に傾くことがある。このため急性期の血栓症ではヘパリンを併用してからワルファリンに移行する。
先天性血栓性素因
・日本人に多い: AT欠乏症、PC欠乏症、PS欠乏症(PS欠乏症が最も多い)。いずれも常染色体顕性(優性)遺伝で、多くはヘテロ接合体として発見され、活性はおおむね正常の半分程度に低下する。 ・欧米人に多い: 第Ⅴ因子Leiden(APCで分解されにくい第Ⅴ因子の変異、APCレジスタンス)、プロトロンビン遺伝子変異(G20210A)。日本人ではほとんどみられない。 ・後天性の血栓性素因: 抗リン脂質抗体症候群、悪性腫瘍、妊娠・産褥、エストロゲン製剤、ネフローゼ症候群、長期臥床、手術後など。
疑うべき状況
若年(おおむね50歳未満)の静脈血栓症、血栓症の家族歴、明らかな誘因のない血栓症や再発性血栓症、脳静脈洞・腸間膜静脈など通常まれな部位の血栓症では、先天性血栓性素因の検索を考える。
POINT
・凝固因子(フィブリノゲン、プロトロンビンなど)の欠乏は出血傾向、凝固阻止因子の欠乏は血栓傾向をきたす。 ・代表的な凝固阻止因子はアンチトロンビン、プロテインC、プロテインS(とTFPI)。 ・プロテインC・プロテインSはビタミンK依存性で、ワルファリンにより低下する。 ・活性化プロテインCはプロテインSを補因子としてVa・Ⅷaを不活化する。 ・アンチトロンビンはヘパリンの作用発現に必要で、欠乏するとヘパリンが効きにくい。 ・日本人の先天性血栓性素因ではプロテインS欠乏症が多く、第Ⅴ因子Leidenはまれ。
