StudyMed医師国家試験

「食べられるなら、待たせない」―大腸癌手術の周術期管理とERASの発想

第107回医師国家試験 A問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第107回 A問題 第13問

消化管閉塞のない回盲部癌の周術期管理について適切なのはどれか。

  1. a.術前に中心静脈栄養を行う。
  2. b.術前の絶食期間は3日以内とする。
  3. c.術中に脂肪乳剤の投与を行う。
  4. d.術中にドレーンの留置は行わない。
  5. e.術後7日間は経口栄養を行わない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、消化管閉塞のない大腸癌を予定手術で切除するときに、術前・術中・術後の栄養や輸液、ドレーンをどう管理するかという問題だ。カギは「腸が使えるかどうか」と、ERASと呼ばれる術後回復強化の考え方。まず、閉塞がないという条件が何を意味するか考えてみよう。
医学生医学生
閉塞がないなら、口から食べられて腸も動いている、ということですよね。
ドクタードクター
その通り。腸が使えるなら腸を使う、というのが栄養療法の大原則だ。まず経口、次に経腸(経管)栄養、それができないときに初めて静脈栄養を考える。
医学生医学生
でも外科の臨床実習では、手術前は絶食にして点滴という患者さんをよく見かけました。中心静脈栄養でしっかり栄養を入れてから手術するほうが安全じゃないんですか。
ドクタードクター
以前はそういう管理が多かったから、そう感じるのも無理はない。ただ中心静脈栄養には、カテーテル関連血流感染や高血糖、腸管粘膜の萎縮といった問題がある。食べられる人に一律に行う理由はないんだ。術前の栄養強化が必要になるのは、高度の体重減少や低アルブミン血症など重い低栄養がある場合で、そのときもまず経口の栄養補助食品や経腸栄養を考える。
医学生医学生
では術前の絶食はどう考えればいいでしょう。腸をきれいにするために長めに絶食するイメージがありました。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。絶食が長引くと、インスリン抵抗性が悪化し、筋蛋白が分解され、脱水も進んで、術後の回復が遅れる。だから術前の絶食はできるだけ短くするのが原則で、選択肢のなかでは「3日以内にとどめる」という記述が最も妥当になる。
医学生医学生
3日でも、けっこう長い気がしますが……。
ドクタードクター
鋭いね。実際の現場ではもっと短く、腸管前処置で下剤を使う場合でも前日まで低残渣食を摂ってもらい、麻酔前の絶飲食は数時間にとどめることが多い。一般的な指針では、固形物は麻酔導入の6時間前まで、清澄水は2時間前まで摂ってよいとされている。この問題では「絶食を長くしない」という方向性が問われていると捉えよう。
医学生医学生
術中に脂肪乳剤を入れるという選択肢は、手術中もエネルギーを補給するためかと思いました。
ドクタードクター
術中輸液の目的は栄養ではなく、循環血液量の維持と電解質の補正だ。乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液などの細胞外液補充液が中心になる。脂肪乳剤は、静脈栄養を長く続けるときに必須脂肪酸とエネルギーを補うための製剤だから、術中にあえて使う理由はないんだ。
医学生医学生
ドレーンは、ERASではルーチンに入れないと習ったので、「留置しない」が正しいように見えて迷いました。
ドクタードクター
よく勉強しているね。確かに結腸切除でドレーンを習慣的に入れても、縫合不全や感染が減るという根拠ははっきりしない。でも出血や縫合不全が心配なとき、腹腔内の汚染が強いときなどは、術者の判断で置くこともある。つまり症例ごとに決めるもので、「行わない」と言い切るのは適切ではないんだ。
医学生医学生
「習慣的に入れない」と「絶対に入れない」は別物ということですね。術後7日間食べさせないのも、縫合部を守るためかなと思ったんですが。
ドクタードクター
それもかつての常識だね。今は、結腸手術のあと早期に経口摂取を再開したほうが腸の動きの回復や入院期間の短縮によく、縫合不全も増えないとされている。術後当日から翌日に飲水を始め、流動食、固形食へと順に進めるのが一般的だ。
医学生医学生
まとめると、食べられる人は術前の絶食を短くし、術中は細胞外液で循環を保ち、術後は早く食べ始める、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。ERASにはほかにも、術前の炭水化物含有飲料、腹腔鏡などの低侵襲手術、過剰にならない輸液、体温の維持、硬膜外麻酔などを組み合わせてオピオイドを減らす鎮痛、術後悪心・嘔吐の予防、早期離床、尿道カテーテルの早期抜去などが含まれる。ドレーンにも、膿などを出す治療的ドレーン、液体の貯留を防ぐ予防的ドレーン、出血や縫合不全を早く見つける情報ドレーンという目的の違いがあるから、何のために入れるのかを意識しておこう。
医学生医学生
OSCEの練習で術後回診のロールプレイをしたとき、ドレーン排液の性状を確認するよう言われたのは、情報ドレーンとしての役割だったんですね。
ドクタードクター
そういうことだ。排液が血性に変わったり便汁様になったりしたら、出血や縫合不全のサインかもしれない。管理の「型」を知ったうえで、目の前の患者に合わせて調整するのが周術期管理の本質だよ。

まとめ

消化管閉塞のない大腸癌の待機手術では、腸が使える限り経口・経腸栄養を優先し、術前の絶食はできるだけ短くするのが原則で、長い絶食はインスリン抵抗性の悪化や筋蛋白の分解、脱水を招いて回復を遅らせます。食べられる患者に中心静脈栄養を一律に行う必要はなく、術中輸液は細胞外液補充液で循環と電解質を保つことが目的のため、脂肪乳剤は用いません。ERASではドレーンや経鼻胃管のルーチン使用を避けますが、出血や縫合不全が懸念される症例では留置することもあり、「行わない」と断定するのは誤りです。術後は当日〜翌日から飲水を始める早期経口摂取が推奨され、早期離床などと組み合わせて回復を促します。古い常識と現在の根拠に基づく管理の違いを理解しておくことは、臨床実習や研修での周術期管理にそのまま役立ちます。

解答・解説

正解はbです

テーマ

消化管閉塞のない大腸癌(回盲部癌)で待機的に結腸切除術を行うときの周術期の栄養・輸液・ドレーン管理が問われている。

考え方の基本

消化管閉塞がなく口から食べられる患者では、腸管を使った栄養(経口・経腸栄養)が第一選択であり、静脈栄養はそれができないときの代わりにすぎない。近年はERAS(Enhanced Recovery After Surgery:術後回復強化)という考え方が広まり、次のような管理が勧められている。 ・術前の絶飲食はできるだけ短くする(固形物は麻酔導入の6時間前まで、清澄水は2時間前まで摂ってよいとする指針が一般的)。 ・術後は早期に飲水と食事を再開し、早く離床させる。 ・経鼻胃管やドレーンを「習慣的に」入れることはしない。 したがって、長い絶食や過剰な静脈栄養、長期間の経口摂取制限を求める選択肢は適切ではない。「3日以内」という上限を置いて術前絶食を短くとどめる考え方が、選択肢のなかで最も妥当である。

選択肢考察

  1. ×a.  術前に中心静脈栄養を行う。

    消化管閉塞がなく口から食べられる患者では、術前の栄養は経口摂取が基本であり、中心静脈栄養(TPN:total parenteral nutrition、IVHとも呼ばれる)を一律に行う必要はない。中心静脈栄養にはカテーテル関連血流感染、高血糖、腸管粘膜の萎縮(バクテリアルトランスロケーションの原因とされる)などの問題がある。術前に栄養療法を強化するとしても、重い低栄養があるときに、まず経口の栄養補助食品や経腸栄養を考え、腸が使えない場合に限って静脈栄養を選ぶ。

  2. ○b.  術前の絶食期間は3日以内とする。

    閉塞のない大腸癌では、術前に長く絶食させる理由がない。絶食が長引くと、インスリン抵抗性の悪化、筋蛋白の分解、脱水などが起こり、術後の回復が遅れる。そのため術前の絶食はできるだけ短くし、長くても点滴で水分と電解質を補える短期間(3日以内)にとどめるのが妥当である。現在の実際の管理では、腸管前処置(下剤)を使っても前日まで低残渣食などを摂らせ、麻酔前の絶飲食は数時間にとどめることが多い。

  3. ×c.  術中に脂肪乳剤の投与を行う。

    術中の輸液の目的は、循環血液量を保ち、電解質を整えることである。細胞外液補充液(乳酸・酢酸リンゲル液など)を使うのが一般的で、栄養を入れる時期ではない。脂肪乳剤は、静脈栄養を長く続けるときに必須脂肪酸とエネルギーを補うために使う製剤であり、術中にあえて投与する理由はない。

  4. ×d.  術中にドレーンの留置は行わない。

    結腸切除術(回盲部切除・右半結腸切除など)では、ドレーンを習慣的に入れても縫合不全や感染を減らす効果ははっきりせず、ERASでもルーチンの留置は勧めていない。一方で、出血や縫合不全が心配なとき、腹腔内の汚染が強いときなどは、術者の判断でドレーンを置くことがある。つまり、ドレーンを置くかどうかは症例ごとに決めるものであり、「行わない」と決めつけるこの記述は適切とはいえない。

  5. ×e.  術後7日間は経口栄養を行わない。

    結腸手術のあとは、早期に経口摂取を再開したほうが、腸の動きの回復や入院期間の短縮によく、縫合不全も増えないとされている。術後早期(多くは術後当日〜翌日)に飲水から始め、流動食、固形食へと順に進めるのが一般的である。7日間も一律に経口摂取を止める理由はない。

ERAS(術後回復強化プロトコール)の主な内容

・術前:十分な説明、禁煙・禁酒、術前絶飲食の短縮(固形物は6時間前まで、清澄水は2時間前まで)、炭水化物を含む飲料の摂取、腸管前処置は必要に応じて行う。 ・術中:腹腔鏡手術など低侵襲の手術、過剰にならない輸液管理、体温の維持、硬膜外麻酔などを組み合わせた鎮痛、経鼻胃管やドレーンを習慣的に使わない。 ・術後:早期の経口摂取再開、早期離床、オピオイドを減らした鎮痛、術後悪心・嘔吐の予防、尿道カテーテルの早期抜去。

栄養療法の選び方

・腸が使えるなら腸を使う(If the gut works, use it)。経口 → 経腸(経管)栄養 → 静脈栄養の順に考える。 ・静脈栄養の期間の目安:短期間(おおむね2週間以内)なら末梢静脈栄養、それより長ければ中心静脈栄養を考える。 ・術前の栄養療法を考えるのは、高度の体重減少や低アルブミン血症などで重い低栄養がある場合である。

ドレーンの目的

・治療的ドレーン:膿瘍などをすでに体の外へ出すために置く。 ・予防的ドレーン:体液がたまるのを防ぐために置く。 ・情報ドレーン:出血や縫合不全を早く見つけるために置く。 結腸手術では予防的ドレーンの有用性がはっきりしないため、置くかどうかは症例ごとに決める。

POINT

・閉塞のない待機的な大腸手術では、術前の絶食はできるだけ短くし、術後は早期に経口摂取を再開する(ERAS)。 ・食べられる患者に中心静脈栄養を一律に行う必要はない。 ・術中の輸液は細胞外液補充液が中心で、脂肪乳剤は使わない。 ・ドレーンは習慣的に入れないが、症例によっては置くことがある。「行わない」と言い切るのは誤りである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。