2か月前の「ゴツン」が歩けなさの原因に―三日月が語る慢性硬膜下血腫
第107回医師国家試験 A問題 第12問
国試問題にチャレンジ
頭部単純CT(①~⑤)を別に示す。 2か月前に頭部打撲の既往があり,歩きにくさを訴える高齢者の頭部単純CTとして考えられるのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクターまとめ
高齢者が軽い頭部打撲の数週〜数か月後に歩行障害、片麻痺、認知機能低下などを呈したら、慢性硬膜下血腫をまず疑います。CTでは頭蓋骨と脳表のあいだに三日月状の病変を認め、吸収値は高・等・低・混合とさまざまなため、等吸収の場合は同側の脳溝消失や正中偏位といった間接所見が診断の手がかりになります。鑑別として、三日月状で均一な高吸収の急性硬膜下血腫、両凸レンズ型の急性硬膜外血腫、salt and pepper像を示す脳挫傷、血管支配域に一致した低吸収域を示す脳梗塞を、形と吸収値、時間経過から見分けます。治療は穿頭血腫洗浄術で改善が期待できる「治る認知症」の代表であり、高齢者の歩行障害や物忘れの診療では常に念頭に置くべき疾患です。
解答・解説
正解はcです
病歴から考える
問題文の手がかりは「高齢者」「2か月前の頭部打撲」「歩きにくさ」の3つである。軽い頭部外傷から数週〜数か月たって、歩行障害・片麻痺・頭痛・物忘れや意欲低下などが少しずつ出てくる高齢者では、まず慢性硬膜下血腫を考える。受傷直後に症状がないことや、打撲が軽すぎて本人も家族も覚えていないことも珍しくない。
画像で何を探すか
慢性硬膜下血腫は、頭蓋骨と脳表のあいだに三日月状(凸面側が頭蓋骨に沿い、脳側がへこんだ形)に広がる血腫である。急性硬膜下血腫と違い、血腫の吸収値は時期によって高吸収・等吸収・低吸収とさまざまで、同じ血腫の中で新旧の出血が混ざったり、上下で液面(ニボー)を作ったりもする。等吸収の血腫は脳実質と見分けにくいため、同側の脳溝が見えなくなっていないか、脳室の変形や正中構造の偏位(midline shift)がないかといった間接所見に注目する。
本問の読み方
5枚の画像はそれぞれ頭部外傷や脳血管障害の典型的なCT像である。受傷から2か月という経過に合うのは「慢性」の病変だけであり、急性期の外傷所見(均一な高吸収の血腫、脳挫傷)や脳梗塞の画像は時間経過・症状から外れる。三日月状の等吸収〜一部高吸収の病変があり、同側の脳溝消失と正中偏位を伴う③が慢性硬膜下血腫にあたる。
選択肢考察
- ×a. ①
急性硬膜下血腫の像である。硬膜の下(硬膜とくも膜のあいだ)に、三日月状で均一な高吸収域が広がっている。多くは脳表の架橋静脈や脳挫傷部の血管が破れて生じ、外傷性くも膜下出血や脳挫傷を合併しやすい。受傷直後から意識障害をきたすことが多く、治療は開頭血腫除去術である。新鮮な血液は凝固して高吸収を示すため、受傷から2か月という経過とは合わない。
- ×b. ②
脳梗塞(亜急性期)の像である。右の前頭葉から頭頂葉、放線冠にかけて広い低吸収域がみられ、前頭葉内側(前大脳動脈領域)まで含んでいることから、右内頸動脈の閉塞(脳塞栓症など)が疑われる。発症から数日の画像と考えられる。梗塞巣の中にまだらな高吸収域が出てくれば出血性梗塞を考える。広範な梗塞では浮腫による脳ヘルニアをきたし、減圧開頭術(外減圧術)が必要になることもある。外傷後の経過ともゆっくり進む歩行障害とも合わない。
- ○c. ③
慢性硬膜下血腫の像である。右前頭葉〜頭頂葉と頭蓋骨のあいだに三日月状の等吸収域があり、一部に高吸収域がまじる。同じ側の脳溝が消え、正中構造が反対側へずれており、血腫による圧排(mass effect)を示している。高齢者が軽い頭部打撲の1〜2か月後に歩行障害を訴えたという病歴とよく合う。治療は一般に局所麻酔下の穿頭血腫洗浄(ドレナージ)術で、術後の改善が大きい。
- ×d. ④
急性硬膜外血腫の像である。頭蓋骨と硬膜のあいだに両凸レンズ型(凸レンズ型)の高吸収域がみられる。硬膜は頭蓋縫合部で頭蓋骨に強く付着しているため、血腫は縫合線を越えにくく、厚みのあるレンズ形になる。中硬膜動脈の損傷によるものが典型で、血腫の真上に頭蓋骨骨折や皮下血腫を伴うことが多い。意識清明期(lucid interval)をはさんで急速に悪化することがあり、開頭血腫除去術の適応である。急性期の病変なので2か月の経過とは合わない。
- ×e. ⑤
右前頭葉の脳挫傷の像である。前頭葉白質を中心に、点状〜まだら状の高吸収域(出血)と周囲の低吸収域(浮腫)が混在する、いわゆるsalt and pepper appearanceを示す。打撲した側にできる直撃損傷(coup injury)と、反対側にできる対側損傷(contrecoup injury)がある。受傷直後の急性期の所見であり、本症例の経過・症状とは合わない。
慢性硬膜下血腫の概要
・成り立ち:軽い頭部外傷のあと、硬膜とくも膜のあいだに少量の出血や髄液がたまり、そのまわりに被膜(外膜・内膜)ができる。外膜側の脆い新生血管から出血をくり返し、凝固しにくい流動性の血腫が数週〜数か月かけて大きくなる。 ・危険因子:高齢(脳萎縮で硬膜下腔が広がり、架橋静脈が引き伸ばされる)、大量飲酒、抗血小板薬・抗凝固薬の内服、血液透析、糖尿病など。 ・症状:頭痛、片麻痺、歩行障害、認知機能低下・意欲低下・見当識障害などの精神症状。外傷歴がはっきりしないことも多く、「急に物忘れがひどくなった」として内科や物忘れ外来を受診することもある。 ・画像:三日月状の病変で、吸収値は高・等・低・混合・液面形成とさまざま。両側にできることもあり、両側例では正中偏位がはっきりしないため見落としやすい。 ・治療:症状があるか、圧排が強ければ穿頭血腫洗浄術を行う。再発は約1割とされる。 ・治る認知症(treatable dementia)の代表で、特発性正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症などと並んで重要である。
頭部外傷で出る頭蓋内血腫のCT比較
・急性硬膜外血腫:頭蓋骨と硬膜のあいだ。両凸レンズ型の高吸収。縫合線を越えない。骨折を合併しやすい。意識清明期がある。 ・急性硬膜下血腫:硬膜とくも膜のあいだ。三日月状の高吸収。縫合線を越えて広がる。脳挫傷を合併しやすく、予後はよくない。 ・慢性硬膜下血腫:三日月状で吸収値はいろいろ。高齢者で受傷から数週〜数か月後に発症する。 ・脳挫傷:脳実質の中の出血と浮腫が混在する(salt and pepper)。直撃損傷と対側損傷がある。
POINT
・高齢者+軽い頭部外傷から数週〜数か月後+歩行障害・片麻痺・認知機能低下 → 慢性硬膜下血腫。 ・CTでは三日月状の病変。吸収値は高・等・低・混合とさまざまで、等吸収のときは脳溝の消失や正中偏位で気づく。 ・急性硬膜外血腫=両凸レンズ型、急性硬膜下血腫=三日月状の高吸収、脳挫傷=salt and pepper。 ・治療は穿頭血腫洗浄術。治る認知症の一つである。
