熱と頻尿とPSA高値―「癌かも」の前に治すべき急性細菌性前立腺炎
第106回医師国家試験 I問題 第65問
国試問題にチャレンジ
67歳の男性。3日前からの発熱と頻尿とを主訴に来院した。2年前から前立腺肥大症の診断でα1遮断薬を内服している。体温38.4℃。直腸指診で小鶏卵大の前立腺を触知し,圧痛を認める。尿所見:蛋白(−),糖(−),沈渣に赤血球1~3/1視野,白血球100以上/1視野。血液所見:赤血球460万,Hb 14.6 g/dL,Ht 41%,白血球12,300,血小板23万。免疫学所見:CRP 6.2 mg/dL。PSA 12.6 ng/mL(基準4以下)。腹部超音波検査で推定前立腺体積36 mL,残尿量10 mL。 対応として適切なのはどれか。
- a.経過観察
- b.抗菌薬の投与
- c.間欠自己導尿
- d.抗コリン薬の投与
- e.抗男性ホルモン薬の投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
発熱と膿尿に直腸指診での前立腺圧痛が加われば、急性細菌性前立腺炎と診断できます。治療の基本は大腸菌などのグラム陰性桿菌を標的とした抗菌薬で、投与前に尿培養を提出し、慢性化を防ぐため2〜4週間程度投与します。急性前立腺炎ではPSAが一過性に上昇するため、癌の評価は炎症が治まってから再検して行い、それでも高値なら画像検査や生検に進みます。残尿が少なければ導尿は不要で、尿閉を伴う場合は膀胱瘻が選ばれることが多く、前立腺マッサージは菌血症を誘発するため禁忌です。PSAを「臓器のマーカー」として解釈し、目の前の感染症を優先する判断は、泌尿器科診療の基本的な考え方です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・67歳男性。前立腺肥大症でα1遮断薬を内服中。 ・3日前からの発熱と頻尿。体温38.4℃。 ・直腸指診:小鶏卵大の前立腺を触れ、圧痛がある。前立腺肥大症だけでは前立腺に圧痛は生じないので、前立腺そのものの炎症を示す重要な所見である。 ・尿沈渣で白血球100以上/視野の高度の膿尿。 ・白血球12,300/μL、CRP 6.2 mg/dLと全身性の炎症反応。 ・PSA(前立腺特異抗原)12.6 ng/mLと高値。 ・推定前立腺体積36 mL(正常はおよそ20 mL前後)で軽度の肥大、残尿量10 mLとほぼ残尿なし。
診断へのプロセス
発熱+膿尿で有熱性の尿路感染症であり、男性で発熱を伴う尿路感染症としては急性細菌性前立腺炎、急性腎盂腎炎、急性精巣上体炎が主な鑑別となる。本例では直腸指診で前立腺の圧痛があり、腎盂腎炎で典型的な肋骨脊柱角(CVA)の叩打痛や陰囊内容の腫脹・圧痛の記載がないことから、急性細菌性前立腺炎と診断できる。 PSAの上昇は前立腺癌を心配させるが、急性前立腺炎では炎症によって前立腺の組織が壊れ、PSAが血中へ漏れ出して一過性に上昇することがよく知られている。したがって、この時点のPSA値だけで癌を疑って治療を始めるべきではなく、炎症が治まってから(一般に数週〜数か月後)再検して評価する。
設問の考え方
急性細菌性前立腺炎は放置すると前立腺膿瘍や敗血症に進展しうる感染症であり、原因菌を狙った抗菌薬の全身投与が治療の中心である。残尿がほとんどないので導尿は不要であり、PSA高値に対していきなり前立腺癌の治療をするのも誤りである。
選択肢考察
- ×a. 経過観察
38℃台の発熱、高度の膿尿、白血球・CRPの上昇を伴う活動性の細菌感染症であり、治療せずに様子をみるのは不適切である。放置すれば前立腺膿瘍の形成や、菌血症・敗血症(尿路性敗血症)へ進展するおそれがある。
- ○b. 抗菌薬の投与
急性細菌性前立腺炎の治療の基本は抗菌薬である。原因菌は大腸菌などのグラム陰性桿菌が大部分を占めるため、それらを標的とした抗菌薬を用いる。投与前には必ず尿培養(必要に応じて血液培養)を提出し、感受性結果に応じて薬剤を調整する。急性期は炎症で血液前立腺関門が破綻しているため多くの抗菌薬が前立腺に移行するが、慢性化を防ぐため2〜4週間程度と比較的長めに投与する。近年はニューキノロン耐性の大腸菌が増えているため、地域の耐性状況を踏まえて薬剤を選ぶ。全身状態が悪い場合は入院のうえ点滴で開始する。十分な水分摂取(輸液)も併せて行う。
- ×c. 間欠自己導尿
間欠自己導尿は、神経因性膀胱などで排尿後に多量の尿が残る患者が、自分でカテーテルを入れて定期的に膀胱を空にする方法である。本例の残尿量は10 mLとごくわずかで適応がない。また、急性前立腺炎の急性期に尿道からカテーテルを繰り返し通すと炎症を悪化させうる。仮に急性期に高度の尿閉を来した場合は、尿道操作を避けて膀胱瘻を置くことが推奨されることが多い。
- ×d. 抗コリン薬の投与
抗コリン薬は膀胱平滑筋の収縮を抑えて蓄尿を助ける薬で、過活動膀胱による頻尿・尿意切迫感の治療に用いられる。本例の頻尿は感染による膀胱・前立腺の刺激症状であり、原因である感染を治療しなければ改善しない。さらに、前立腺肥大症の患者では膀胱の収縮力を弱めて排尿困難や尿閉を誘発するおそれがあり、慎重に扱う必要がある。
- ×e. 抗男性ホルモン薬の投与
抗男性ホルモン薬(抗アンドロゲン薬)は主に前立腺癌の内分泌療法に用いられ、わが国では一部が前立腺肥大症の縮小目的にも使われる。本例のPSA高値は急性炎症による一過性の上昇と考えられ、前立腺癌の診断は確定していない。発熱を伴う感染症に対する治療として意味がなく、まずは抗菌薬で炎症を治し、その後にPSAを再検して癌の検索が必要かを判断する。
急性細菌性前立腺炎
・感染経路:尿道からの上行性感染が主で、尿道カテーテル留置や経直腸的前立腺生検などの尿路操作後にも起こる。前立腺肥大症による排尿障害も誘因となる。 ・原因菌:大腸菌が最多で、その他のグラム陰性桿菌、腸球菌など。 ・症状:高熱・悪寒戦慄、頻尿・排尿時痛、会陰部痛、排尿困難(前立腺の腫脹による)、時に尿閉。 ・直腸指診:前立腺の腫大、熱感、著明な圧痛。菌血症を誘発するおそれがあるため、強く押したり前立腺マッサージを行ったりしてはならない(禁忌)。 ・検査:膿尿・細菌尿、白血球増多、CRP上昇、PSAの一過性上昇。尿培養・血液培養。 ・治療:抗菌薬(2〜4週間程度)、補液。尿閉があれば膀胱瘻造設。膿瘍を形成した場合はドレナージを検討する。
PSAが上昇する主な原因
前立腺癌のほか、前立腺肥大症、急性前立腺炎、尿閉、尿道カテーテル操作や前立腺生検の直後、射精後などでも上昇する。炎症による上昇は治療後に低下するので、感染が治まってから再検することが大切である。再検後も高値が持続すれば、MRIや前立腺生検で癌の有無を調べる。
男性の有熱性尿路感染症の鑑別
・急性前立腺炎:前立腺の圧痛、会陰部痛。 ・急性腎盂腎炎:CVA叩打痛、側腹部痛。 ・急性精巣上体炎:陰囊内容の腫大・圧痛。
POINT
・発熱+膿尿+直腸指診で前立腺の圧痛 → 急性細菌性前立腺炎。 ・治療はグラム陰性桿菌を標的とした抗菌薬。投与前に尿培養を提出する。 ・急性前立腺炎で前立腺マッサージは禁忌(菌血症の誘発)。 ・急性前立腺炎ではPSAが一過性に上昇する。癌の評価は炎症の沈静化後にPSAを再検して行う。 ・尿閉を伴う場合は尿道カテーテルより膀胱瘻が推奨される。
