StudyMed医師国家試験

走りすぎた体が止めた月経―黄体ホルモンで読み解く視床下部性無月経

第106回医師国家試験 I問題 第64問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第64問

17歳の女子。最終月経から7週間の無月経を主訴に来院した。陸上部の練習が厳しく,体重が3か月で6 kg減少したという。初経12歳。月経周期は28日型,整。身長156 cm,体重40 kg。腹部超音波検査で卵巣に異常を認めない。黄体ホルモンの投与によって消退出血を認めた。  診断として最も考えられるのはどれか。

  1. a.妊娠
  2. b.早発閉経
  3. c.視床下部性無月経
  4. d.多囊胞性卵巣症候群
  5. e.Asherman症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、若い女性の無月経の原因を絞り込む問題だ。カギは「誘因になる生活背景」と「黄体ホルモンを投与したら出血したこと」の意味。まずは背景から見ていこう。
医学生医学生
厳しい陸上部の練習と、3か月で6 kgの体重減少ですね。BMIを計算すると…16くらいでしょうか。
ドクタードクター
40÷1.56の2乗で約16.4、18.5未満のやせだね。元の体重46 kgから約13%減っていて、10%以上の体重減少は無月経を起こしやすい目安とされる。それに、これまで月経は整だったから、いったん確立した月経が止まった状態だ。
医学生医学生
続発性無月経ですね。でも、定義は3か月以上の停止だったと思うので、7週間だとまだ満たないのでは。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。厳密には定義に届かないけれど、誘因と検査所見がそろっているから、この問題の狙いは病態を読み取ることにある。では、黄体ホルモン投与で消退出血があった、というのは何を意味するかな。
医学生医学生
ゲスターゲンテストですね。出血したので第1度無月経…ですが、正直、なぜそう判定するのかはあやふやです。
ドクタードクター
基礎から整理しよう。子宮内膜はエストロゲンで増殖し、黄体ホルモンで分泌期に変わり、黄体ホルモンが切れると剝がれて出血する。黄体ホルモンを投与して止めたときに出血するなら、内膜はもともとエストロゲンで増殖していたということ。つまり卵巣のエストロゲン分泌は保たれていて、子宮も正常に反応する。足りないのは排卵がないための黄体ホルモンだけ、というのが第1度無月経だ。
医学生医学生
出血しなければ、エストロゲンも足りない第2度無月経になるわけですね。
ドクタードクター
その通り。エストロゲンと黄体ホルモンを併用して初めて出血すれば第2度、併用しても出血しなければ子宮そのものの問題を考える。これを踏まえると、激しい運動と急な体重減少でGnRHの律動的な分泌が抑えられ、LH・FSHが低下して排卵が止まった視床下部性無月経が最も考えやすい。
医学生医学生
選択肢を順に確認したいです。まず妊娠は、無月経では最初に除外すべきだと産婦人科の講義で強調されました。
ドクタードクター
大事な原則だね。妊娠中は黄体や胎盤からプロゲステロンが出続けて内膜が維持されるから、黄体ホルモンを投与しても消退出血は起こらない。だから本例では否定的だ。ただ実際には、負荷試験の前に尿中hCGで妊娠を除外しておくのが原則だよ。
医学生医学生
早発閉経は、卵巣の機能が止まってエストロゲンが出ないので、黄体ホルモンだけでは出血しないはずですね。
ドクタードクター
正解。40歳未満で卵胞が枯渇してFSHが著明に高くなり、通常は第2度無月経になる。では多囊胞性卵巣症候群はどうかな。
医学生医学生
PCOSもエストロゲンは保たれているので第1度になりうる…ここは迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。ただPCOSでは超音波で卵巣の辺縁に小卵胞がずらりと並ぶネックレスサインや卵巣腫大がみられ、LHの基礎値が高くなりやすく、多毛やにきび、肥満を伴うこともある。卵巣に異常がなく、やせと運動という誘因がある本例とは合わない。
医学生医学生
Asherman症候群は、搔爬などで子宮内膜の基底層が傷ついて癒着する病気なので、ホルモンがあっても出血しないはずです。
ドクタードクター
その通り。子宮内操作の既往もなく、消退出血もあるから否定できる。ちなみに視床下部性無月経でも、体重減少が高度で長引くとエストロゲンまで低下して第2度になることがある。重症度は症例ごとに違うんだ。
医学生医学生
第2度の場合、障害部位はどうやって見分けるんですか。
ドクタードクター
LH・FSHが高ければ卵巣性、低ければ視床下部性か下垂体性。後者はGnRH負荷試験で、反応すれば視床下部性、反応しなければ下垂体性と考える。ただし長期の視床下部性無月経では下垂体の反応も鈍くなることがあるから、解釈には注意が必要だ。
医学生医学生
スポーツ医学の講義で聞いた、女性アスリートの三主徴にもつながる話ですね。
ドクタードクター
まさにそう。利用可能エネルギー不足、無月経、骨粗鬆症の3つで、低エストロゲン状態が続くと骨密度が下がり、疲労骨折の原因になる。治療はまずエネルギー摂取の改善と練習量の調整で体重を戻すことで、必要に応じてKaufmann療法などのホルモン補充を行う。月経が止まったことを、体からのSOSとして本人や指導者に伝えることも大切だよ。

まとめ

無月経の評価は、妊娠の除外、ゲスターゲンテスト、エストロゲン・プロゲステロンテストの順に進めます。黄体ホルモン単独で消退出血があれば第1度無月経で、内因性エストロゲンが保たれ子宮内膜も正常に反応していることを意味し、激しい運動や急激な体重減少といった誘因と正常な卵巣所見がそろえば視床下部性無月経が最も考えられます。妊娠・早発閉経・Asherman症候群では黄体ホルモン単独で出血せず、PCOSは第1度無月経をとりうるものの超音波のネックレスサインやLH高値が手がかりになります。運動性・体重減少性無月経は女性アスリートの三主徴の一つで、低エストロゲンによる骨密度低下や疲労骨折につながるため、エネルギー不足の是正が治療の基本です。負荷試験の結果をホルモン動態と結びつけて考える力は、無月経診療全般の土台になります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・17歳女子。初経12歳で、それまでの月経周期は28日型で整であった(原発性ではなく、いったん確立した月経が止まった続発性の病態)。 ・陸上部での厳しい練習があり、3か月で6 kgの体重減少がある。身長156 cm、体重40 kgからBMI(体格指数:体重kg÷身長mの2乗)を計算すると40÷(1.56×1.56)≒16.4であり、18.5未満のやせに当たる。減少率も元の体重46 kgの約13%と大きい。 ・腹部超音波検査で卵巣に異常はない。 ・黄体ホルモン(プロゲスチン)を投与すると消退出血が起こった。

診断へのプロセス

無月経の評価では、まず妊娠を除外し、次にゲスターゲンテスト(黄体ホルモン負荷試験)で重症度を判定する。黄体ホルモンを投与して中止すると、子宮内膜がエストロゲンによってあらかじめ増殖していれば内膜が剝がれて消退出血が起こる。出血があれば第1度無月経(エストロゲンはある程度分泌されており、排卵が起こらないため黄体ホルモンが欠けている状態)、出血がなくエストロゲン・プロゲステロン併用で初めて出血すれば第2度無月経(エストロゲン分泌も低下した状態)と判定する。 本例は消退出血を認めたので第1度無月経であり、①子宮内膜は正常に反応すること、②卵巣からのエストロゲン分泌が保たれていること、がわかる。そのうえで、激しい運動と短期間の体重減少という明らかな誘因があり、卵巣の形態も正常であることから、視床下部からのGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)の律動的な分泌が抑制されて排卵が止まった視床下部性無月経と考えるのが最も自然である。

設問の考え方

「消退出血あり=第1度無月経」を起点に、妊娠・卵巣機能の廃絶・子宮内膜の障害を除外し、残る第1度無月経の代表的な原因(視床下部性、多囊胞性卵巣症候群など)のうち、病歴と画像所見に合うものを選ぶ。 なお、続発性無月経は一般に「それまであった月経が3か月以上停止したもの」と定義され、本例の7週間はまだこの基準に満たない。ただし、誘因と検査所見がそろっており、出題の意図は視床下部性の病態を読み取ることにある。

選択肢考察

  1. ×a.  妊娠

    妊娠中は黄体(のちに胎盤)から大量のプロゲステロンが分泌され続けて子宮内膜が維持されるため、黄体ホルモンを投与しても消退出血は起こらない。本例は投与後に出血を認めたので妊娠は否定的である。とはいえ、生殖年齢女性の無月経では、黄体ホルモン負荷を行う前に尿中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)検査で妊娠を除外するのが原則である。

  2. ×b.  早発閉経

    早発閉経(早発卵巣不全)は40歳未満で卵巣の卵胞が枯渇または機能停止し、エストロゲンがほとんど分泌されなくなった状態で、FSH(卵胞刺激ホルモン)が著明に高値となる。子宮内膜がエストロゲンで増殖していないため、黄体ホルモン単独では消退出血は起こらず、通常は第2度無月経を呈する。本例は消退出血があり、卵巣のエストロゲン分泌が保たれているので合わない。

  3. ○c.  視床下部性無月経

    激しい運動、急激な体重減少、精神的ストレスは、視床下部からのGnRHのパルス状分泌を抑制し、下垂体からのLH(黄体形成ホルモン)・FSH分泌を低下させて排卵を止める。本例は厳しい陸上競技の練習と3か月で約13%の体重減少、BMI約16.4のやせという明らかな誘因を持ち、卵巣は形態的に正常で、黄体ホルモンで消退出血が起こる第1度無月経である。以上から視床下部性無月経が最も考えられる。なお、視床下部性無月経は抑制が軽度なら第1度、体重減少が高度で長期化すれば第2度となることもあり、重症度は症例ごとに異なる。

  4. ×d.  多囊胞性卵巣症候群

    多囊胞性卵巣症候群(PCOS)もエストロゲンは保たれ、第1度無月経や稀発月経を呈することが多い。しかし、超音波検査で多数の小卵胞が卵巣の辺縁に並ぶ所見(ネックレスサイン)や卵巣腫大を認めるのが特徴で、血中LHが基礎値で高値となりやすく、男性ホルモン高値による多毛・にきびや肥満を伴うこともある。本例は卵巣に異常がなく、やせと運動という誘因があり、それまでの月経も整であったので合わない。

  5. ×e.  Asherman症候群

    Asherman症候群は、人工妊娠中絶や流産後の子宮内容除去術(内膜搔爬)、子宮内膜炎などで子宮内膜の基底層が傷つき、子宮腔内に癒着が生じて起こる子宮性無月経である。ホルモン分泌は正常でも内膜が反応できないため、黄体ホルモン単独でもエストロゲン・プロゲステロン併用でも消退出血が起こらない。本例は子宮内操作の既往がなく、消退出血も認めるので否定される。

無月経の定義

・原発性無月経:満18歳になっても初経が起こらないもの。 ・続発性無月経:これまであった月経が3か月以上停止したもの。

ゲスターゲンテストとエストロゲン・プロゲステロンテスト

・黄体ホルモン単独で消退出血あり → 第1度無月経(内因性エストロゲンあり)。原因として視床下部性の軽症例、多囊胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症の一部などがある。 ・黄体ホルモン単独では出血せず、エストロゲン・プロゲステロン併用で出血 → 第2度無月経(エストロゲン低下)。高度の体重減少や神経性やせ症、下垂体機能低下症、早発卵巣不全などが含まれる。 ・併用しても出血しない → 子宮性無月経(Asherman症候群、子宮の欠損など)。

障害部位の鑑別

第2度無月経ではゴナドトロピン(LH・FSH)の値で障害部位を推定する。高値なら卵巣性(早発卵巣不全など)、低値なら視床下部性か下垂体性である。両者はGnRH負荷試験で区別し、LH・FSHが反応すれば視床下部性、反応しなければ下垂体性と考える(ただし、長期の視床下部性無月経では下垂体の反応も鈍くなることがあり、反復負荷で反応が回復するかも参考にする)。

体重減少性・運動性無月経

スポーツ選手や若年女性のダイエットで起こりやすく、元の体重から10%以上の減少で無月経になりやすいとされる。エネルギー不足が続くと、視床下部の抑制により低エストロゲン状態となり、骨密度が低下する。利用可能エネルギー不足・無月経・骨粗鬆症の3つは「女性アスリートの三主徴」と呼ばれ、疲労骨折の原因となる。治療はまずエネルギー摂取の改善と運動量の調整による体重回復であり、必要に応じてホルモン補充(Kaufmann療法など)を行う。

POINT

・無月経の評価は、妊娠の除外 → ゲスターゲンテスト → エストロゲン・プロゲステロンテストの順に進める。 ・黄体ホルモン単独で消退出血あり=第1度無月経(エストロゲン分泌は保たれている)。 ・急激な体重減少・過度の運動・ストレス+卵巣正常 → 視床下部性無月経。 ・妊娠・早発閉経・Asherman症候群では黄体ホルモン単独で消退出血は起こらない。 ・PCOSは第1度無月経となりうるが、超音波で多数の小卵胞(ネックレスサイン)とLH高値が手がかり。 ・女性アスリートの三主徴:利用可能エネルギー不足・無月経・骨粗鬆症。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。