StudyMed医師国家試験

「思われる」で通告を―児童虐待防止法の基本と、医師が知るべき通告の仕組み

第106回医師国家試験 I問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第3問

児童虐待について正しいのはどれか。

  1. a.虐待者は継母が最も多い。
  2. b.虐待の相談件数は減少傾向にある。
  3. c.虐待の通告は福祉事務所あるいは児童相談所に行う。
  4. d.保護者が虐待者の場合は保護者の面会を制限できない。
  5. e.保護者の要請がある場合は虐待の通告をしてはならない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、児童虐待についての法律の基本と、わが国の虐待の実態を問う問題だ。押さえるべき軸は「誰が虐待しているか」「件数はどう推移しているか」「発見したらどこへ通告するか」「保護したあと保護者にどう対応できるか」の4つだよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で児童虐待防止法は習いましたが、細かい条文までは自信がないです。
ドクタードクター
条文番号まで覚える必要はないよ。仕組みの考え方がわかれば正誤は判断できる。まず、主たる虐待者で最も多いのは誰だと思う?
医学生医学生
ニュースの印象だと、継母や継父、あるいは母親の交際相手が多い気がします。
ドクタードクター
そう感じる人は多いけれど、統計では実母が最多で全体の半数近く、次いで実父だ。継母・継父など実父母以外の親は1割に満たない。育児の負担が母親に集中しやすいことや、子と過ごす時間が長いことが背景として挙げられている。だから「継母が最も多い」は誤りだね。
医学生医学生
印象と実際のデータがずいぶん違うんですね。相談件数はどうでしょう。最近は減ってきているんですか。
ドクタードクター
逆で、児童相談所の虐待相談対応件数は統計開始以来一貫して増え続けている。2020年代には年間20万件を超えるほどだ。社会的関心の高まりで通告が増えたこと、子どもの前での配偶者間暴力、いわゆる面前DVが心理的虐待に含まれ、警察からの通告が増えたこと、全国共通ダイヤル「189」の整備などが背景にある。
医学生医学生
件数の増加は、虐待そのものが増えたというより、見つかるようになった面もあるということですね。
ドクタードクター
そういう側面もあると考えられているね。では正解の選択肢、通告先について。児童虐待防止法では、虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、市町村、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所へ速やかに通告しなければならない。だから「福祉事務所あるいは児童相談所に行う」が正しい記述だ。
医学生医学生
「思われる」というのは、確証がなくてもいいということですか。小児科の実習で、不自然なあざのある子を見たとき、指導医の先生が迷わず連絡していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそこがポイントで、確証は不要なんだ。虐待かどうかを判断するのは通告を受けた機関の役割で、発見者は疑いの段階で伝えればいい。しかもこの通告は守秘義務違反にならないと法律に明記されている。医師が「患者の秘密を漏らしてしまうのでは」とためらう必要はないということだね。
医学生医学生
でも、保護者に「通告しないでください」と頼まれたら、さすがに難しくないですか。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、通告に保護者の同意は不要で、頼まれても通告義務はなくならない。そもそも虐待している保護者が同意することはまず期待できないから、同意を条件にしたら制度が機能しなくなる。通告者を特定させる情報は通告を受けた機関が漏らしてはならないとされていて、通告者は守られているよ。
医学生医学生
保護したあと、虐待した親でも親権者なら子どもに会えてしまうんでしょうか。
ドクタードクター
いや、一時保護や施設入所の措置中は、虐待を行った保護者の面会や通信の全部または一部を制限できる。さらに、つきまといや学校周辺でのはいかいを禁じる接近禁止命令もある。親権者であっても子どもの安全が優先されるんだ。だから「面会を制限できない」も誤りだね。
医学生医学生
一時保護も保護者の同意なしでできるんでしたよね。
ドクタードクター
そう、児童相談所長の判断で保護者の同意なく行える。ほかにも、立入調査や、拒否が続く場合の裁判所の許可状による臨検・捜索、民法上の親権停止・親権喪失の審判といった仕組みがある。2020年からはしつけとしての体罰も法律上明確に禁止された。
医学生医学生
医療者として、どんな所見があったら虐待を疑うべきでしょうか。
ドクタードクター
説明と一致しない外傷、受診の遅れ、新旧混在する多発骨折や皮下出血、乳児の硬膜下血腫や網膜出血、発育不良などが代表的なきっかけになる。救急外来では保護者の説明と外傷の機序が合っているかを常に意識してほしい。虐待の4類型は身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待で、相談件数では心理的虐待が最も多いことも押さえておこう。

まとめ

児童虐待防止法では、虐待を受けたと「思われる」児童を発見した者に、市町村・福祉事務所・児童相談所への通告義務が課されており、確証も保護者の同意も不要で、医師の守秘義務違反にもなりません。主たる虐待者は実母が最多で次いで実父であり、継親は少数です。虐待相談対応件数は一貫して増加しており、類型別では面前DVを含む心理的虐待が最多です。保護後は、虐待を行った保護者の面会・通信の制限や接近禁止命令が可能で、親権よりも子の安全が優先されます。説明と合わない外傷や新旧混在する骨折などから虐待を疑い、ためらわず通告につなげることが、子どもを守る最初の一歩として医療者に求められています。

解答・解説

正解はcです

児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法、2000年施行)の基本事項と、わが国の虐待の実態を問う一般問題である。

押さえるべき枠組み

・誰が虐待しているか:主たる虐待者は実母が最多で、次いで実父である。「継親による虐待が多い」というイメージとは異なる。 ・件数の推移:児童相談所が対応した相談件数は統計開始以来一貫して増え続けている。 ・発見した者の義務:虐待を「受けたと思われる」児童を発見した者は、確証がなくても速やかに通告しなければならない(第6条)。通告先は市町村、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所である(児童委員を介してもよい)。医師の守秘義務はこの通告を妨げない。 ・保護後の措置:児童の安全確保のため、虐待を行った保護者の面会・通信を制限できる(第12条)。 これらを踏まえると、正しい記述は「虐待の通告は福祉事務所あるいは児童相談所に行う」のみとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  虐待者は継母が最も多い。

    誤り。児童相談所の統計では、主たる虐待者として最も多いのは実母で全体の半数近くを占め、次いで実父が4割前後である。継母・継父など実父母以外の親は1割に満たない。育児負担が母親に集中しやすいこと、実母は子と過ごす時間が長いことなどが背景として挙げられる。近年は実父の割合が上昇傾向にある点も知っておくとよい。

  2. ×b.  虐待の相談件数は減少傾向にある。

    誤り。児童相談所における児童虐待相談対応件数は、統計を取り始めた1990年度の1,101件から一貫して増加しており、2009年度に約4万4千件、2010年度に約5万5千件となり、2020年代には年間20万件を超えている。増加の背景には、社会的関心の高まりによる通告の増加、心理的虐待の範囲拡大(子どもの前での配偶者間暴力=面前DVを含む)と警察からの通告の増加、全国共通ダイヤル「189」の整備などがある。

  3. ○c.  虐待の通告は福祉事務所あるいは児童相談所に行う。

    正しい。児童虐待防止法第6条は、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者に対し、市町村、都道府県の設置する福祉事務所もしくは児童相談所へ、直接または児童委員を介して速やかに通告することを義務づけている。「思われる」段階での通告が求められており、虐待の確証は不要である。また、この通告は刑法の秘密漏示罪や他の法律の守秘義務規定に違反しないと明記されている(同条第3項)。児童相談所だけでなく福祉事務所・市町村も通告先であることを覚えておく。

  4. ×d.  保護者が虐待者の場合は保護者の面会を制限できない。

    誤り。児童虐待防止法第12条により、児童が一時保護や施設入所措置を受けている場合、児童相談所長や施設長は、虐待を行った保護者に対して児童との面会や通信の全部または一部を制限できる。さらに、都道府県知事等は、つきまといや居所・学校周辺でのはいかいを禁じる接近禁止命令を出すこともできる。親権者であっても子の安全が優先される。

  5. ×e.  保護者の要請がある場合は虐待の通告をしてはならない。

    誤り。通告に保護者の同意や了解は不要であり、保護者から「通告しないでほしい」と求められても通告義務は免除されない。虐待者である保護者が通告に同意することはまず期待できず、同意を条件にすれば制度そのものが機能しなくなる。通告者の秘密は守られる(第7条:通告を受けた機関の職員は通告者を特定させる情報を漏らしてはならない)。

児童虐待の定義(児童虐待防止法第2条)

保護者(親権を行う者、未成年後見人など、児童を現に監護する者)が18歳未満の児童に対して行う次の4類型をいう。 ・身体的虐待:外傷を生じる、または生じるおそれのある暴行 ・性的虐待:わいせつな行為をする、またはさせる ・ネグレクト:減食、長時間の放置、同居人による虐待の放置など、監護を著しく怠ること ・心理的虐待:著しい暴言や拒絶的対応、児童の目の前での配偶者への暴力(面前DV)など 相談対応件数の内訳では心理的虐待が最も多く(6割前後)、次いで身体的虐待、ネグレクト、性的虐待の順である。

主な法的対応

・通告義務(第6条):発見した者すべてに課される。医師・教職員・保育士など職務上発見しやすい者には早期発見の努力義務もある(第5条)。 ・立入調査・臨検(第9条など):児童相談所等は住居に立ち入って調査でき、保護者が拒否し続ける場合は裁判所の許可状を得て臨検・捜索を行える。 ・一時保護(児童福祉法第33条):児童相談所長の判断で、保護者の同意なく行える。 ・面会・通信の制限、接近禁止命令(第12条など)。 ・親権停止(民法、最長2年)・親権喪失の審判。 ・体罰の禁止:2020年4月施行の改正により、親権者等によるしつけとしての体罰が法律上明確に禁止された。

医療者がとくに注意すべき所見

説明と一致しない外傷、受診の遅れ、新旧混在する多発骨折や皮下出血、乳児の硬膜下血腫・網膜出血(虐待による乳幼児頭部外傷)、発育不良などは虐待を疑う契機となる。

POINT

・主たる虐待者は実母が最多、次いで実父。 ・虐待相談対応件数は一貫して増加しており、類型では心理的虐待が最多。 ・「虐待を受けたと思われる」段階で、市町村・福祉事務所・児童相談所へ通告する義務がある。確証も保護者の同意も不要。 ・通告は守秘義務違反にならない。 ・虐待を行った保護者の面会・通信は制限できる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。