StudyMed医師国家試験

息を吸うと刺すように痛む―胸痛の「性状」で見抜く胸膜炎

第106回医師国家試験 I問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第4問

胸膜炎で認められる疼痛の特徴はどれか。

  1. a.肩へ放散する。
  2. b.側胸部に圧痛がある。
  3. c.深呼吸をすると強くなる。
  4. d.食事をするときに強くなる。
  5. e.背部の疼痛は次第に下方へ移動する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胸痛の性状から原因を推定する問題だ。胸痛は心臓、大血管、肺・胸膜、食道、胸壁とさまざまな臓器から生じるけれど、痛みの「起こり方」や「何で強くなるか」にはそれぞれ特徴がある。胸膜炎の痛みがどこから生まれるのか、その仕組みから考えてみよう。
医学生医学生
胸膜って肺を包んでいる膜ですよね。肺そのものには痛覚がないと解剖の講義で習った気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。胸膜は肺の表面を覆う臓側胸膜と、胸壁・横隔膜・縦隔の内側を覆う壁側胸膜の2枚からなる。臓側胸膜には痛覚線維がほとんどなく、痛みを感じるのは肋間神経や横隔神経の支配を受ける壁側胸膜なんだ。
医学生医学生
となると、壁側胸膜が刺激されると痛むということですね。どんなときに刺激されるんでしょう。
ドクタードクター
胸膜に炎症があると、呼吸のたびに2枚の胸膜がこすれ合い、さらに息を吸うと壁側胸膜が引き伸ばされる。だから胸膜炎の痛みは吸気、とくに深呼吸で強くなる。咳やくしゃみ、体動でも増強し、息を止めると軽くなるのが典型で、これを胸膜痛、pleuritic chest painと呼ぶんだ。
医学生医学生
ということは、正解は「深呼吸をすると強くなる」ですね。呼吸器内科の実習で、肺炎の患者さんが咳をするたびに脇腹を押さえていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれが胸膜痛の姿だ。痛みを避けるために呼吸が浅く速くなったり、患側を下にして胸郭の動きを抑える姿勢をとったりすることもある。では、ほかの選択肢がなぜ違うかを見ていこう。肩への放散痛はどうかな。
医学生医学生
肩や左腕に放散するのは心筋梗塞や狭心症の典型だと思います。でも横隔膜の近くの炎症でも肩が痛くなると聞いたことがあって、少し迷いました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。心筋虚血の放散痛は、心臓からの内臓求心性線維と体表の感覚線維が同じ脊髄レベルに入るために起こる関連痛だ。一方、横隔膜中央部の胸膜や心膜の炎症では、横隔神経(C3〜C5)を介して肩に関連痛が出ることは確かにある。ただ、それは胸膜炎一般の特徴とはいえない。設問は「胸膜炎に特徴的な痛み」を問うているから、呼吸との関連が最も重要なポイントなんだ。
医学生医学生
側胸部の圧痛はどうでしょう。炎症がある場所を押せば痛そうな気がしますが。
ドクタードクター
そこは誤解しやすい。胸膜炎の痛みは胸腔の内側にある壁側胸膜に由来するから、体表から押しても基本的に痛みは再現されない。押して痛みが再現されるなら、肋軟骨炎や肋骨骨折、肋間筋の損傷など胸壁由来の痛みを考えるべきだ。帯状疱疹も皮疹が出る前に胸痛として来ることがあるね。
医学生医学生
OSCEの胸部診察で、圧痛の有無を確認するのは胸壁由来の痛みを拾うためでもあったんですね。食事で強くなる痛みは食道でしょうか。
ドクタードクター
その通り。嚥下時の痛みは食道炎や食道潰瘍、食道異物などの食道疾患を示唆する。食後に増悪する胸部〜心窩部痛なら、胃食道逆流症や胆道疾患、食後の心負荷増大による狭心症も考える。胸膜炎の痛みは食事とは関係しない。
医学生医学生
背部の痛みが下へ移動するのは大動脈解離ですよね。CBTの勉強で「引き裂かれるような痛みが移動する」と覚えました。
ドクタードクター
正解。突然発症の激しい胸背部痛が、解離の進展とともに背部から腰部へ移動するのは急性大動脈解離の典型像だ。左右の血圧差や脈拍の減弱、臓器虚血を伴うこともある。胸膜炎の痛みは炎症部位に一致して生じ、移動はしない。
医学生医学生
整理すると、呼吸で増強なら胸膜、放散痛なら心臓、移動するなら大動脈、押して痛ければ胸壁、食事と関連するなら食道、という感じですね。
ドクタードクター
よくまとまった。ただし呼吸で強くなる痛みは胸膜炎だけではない。気胸や肺塞栓症(肺梗塞に伴う胸膜炎)、急性心膜炎でも同じ性状を示す。心膜炎は前傾坐位で軽快し、仰臥位で増強するのが特徴だ。見逃してはいけない疾患が含まれているから、性状だけで安心せず、バイタルや心電図、画像も合わせて評価しよう。
医学生医学生
胸膜炎の診察では何に注意すればいいですか。
ドクタードクター
聴診で胸膜摩擦音を聴取することがある。炎症初期で胸水がほとんどない乾性胸膜炎の時期に聴こえやすい。胸水が貯まって2枚の胸膜が離れると、痛みや摩擦音がかえって軽くなることがあるんだ。そのときは打診で濁音、呼吸音や声音振盪の減弱が出てくる。原因は肺炎に伴う胸水や膿胸、結核、癌性胸膜炎、膠原病などさまざまだから、胸水穿刺で原因検索を進めることになる。
医学生医学生
痛みが軽くなったから良くなった、とは限らないんですね。気をつけます。

まとめ

胸膜炎の痛みは、痛覚をもつ壁側胸膜が呼吸に伴って伸展され、臓側胸膜とこすれ合うことで生じるため、深呼吸や咳、体動で増強するのが最大の特徴です。肩・左腕への放散痛は心筋虚血、下方へ移動する背部痛は大動脈解離、圧痛で再現される痛みは胸壁由来、食事や嚥下と関連する痛みは食道疾患を示唆します。呼吸性に増強する痛みは気胸、肺塞栓症、急性心膜炎でもみられるため、緊急疾患の除外を忘れないことが大切です。胸膜炎では胸膜摩擦音を聴取することがあり、胸水が貯留すると痛みや摩擦音が軽減することもあります。胸痛の性状を臓器ごとに整理しておくことは、救急外来での迅速な鑑別の土台になります。

解答・解説

正解はcです

胸痛の性状から原因を推定する力を問う一般問題である。

胸膜痛(pleuritic pain)の成り立ち

胸膜は肺表面を覆う臓側胸膜と、胸壁・横隔膜・縦隔の内面を覆う壁側胸膜からなる。臓側胸膜には痛覚線維がほとんどなく、痛みを感じるのは肋間神経や横隔神経の支配を受ける壁側胸膜である。胸膜に炎症が起こると、呼吸に伴って両胸膜がこすれ合い、また壁側胸膜が引き伸ばされることで、鋭い痛みが生じる。 このため胸膜炎の痛みには次の特徴がある。 ・吸気、とくに深呼吸で増強する(咳・くしゃみ・体動でも増強する) ・刺すような鋭い痛みで、病変部位に比較的限局する ・痛みを避けるため呼吸が浅く速くなり、患側を下にして胸郭の動きを抑える姿勢をとることがある ・聴診で胸膜摩擦音を聴取することがある。胸水が貯留して両胸膜が離れると、痛みや摩擦音が軽くなることがある 設問は「胸膜炎に特徴的な痛み」を問うており、呼吸との関連(深呼吸で増強)が最も重要な鑑別点である。ほかの選択肢は、それぞれ別の疾患の胸痛を想起させる特徴であり、胸痛の鑑別の整理として押さえておくとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  肩へ放散する。

    誤り。肩・左腕・頸部・下顎への放散痛は、狭心症や急性心筋梗塞など心筋虚血に典型的な特徴である。心臓からの内臓求心性線維と体表からの感覚線維が同じ脊髄レベルに入るため、痛みが体表に投影される(関連痛)。なお、横隔膜中央部の胸膜や心膜の炎症では、横隔神経(C3〜C5)を介して肩に関連痛が生じることがあるが、胸膜炎一般の特徴とはいえない。

  2. ×b.  側胸部に圧痛がある。

    誤り。胸膜炎の痛みは胸腔内の壁側胸膜に由来するため、体表から押しても基本的に痛みは再現されない。胸壁の圧迫で痛みが再現される(圧痛がある)場合は、肋軟骨炎、肋骨骨折、肋間筋の損傷、帯状疱疹など胸壁由来の痛みを考える。痛みの部位が炎症部位に一致して限局することはあっても、圧痛は胸膜炎の特徴ではない。

  3. ○c.  深呼吸をすると強くなる。

    正しい。吸気時には肺が膨らみ、炎症を起こした壁側胸膜が伸展されるとともに臓側胸膜とこすれ合うため、痛みが増強する。深呼吸や咳、くしゃみのように胸郭が大きく動く動作で痛みが強まり、呼気や呼吸を止めると軽くなる。この呼吸性変動こそが胸膜痛の最大の特徴であり、「pleuritic chest pain」と呼ばれる。同様の性状は気胸や肺塞栓症(肺梗塞に伴う胸膜炎)、急性心膜炎(心膜が胸膜に接するため)でもみられる。

  4. ×d.  食事をするときに強くなる。

    誤り。胸膜炎の痛みは食事と関連しない。嚥下時の胸痛(嚥下痛)は食道炎や食道潰瘍、食道異物など食道疾患を示唆する。また、食後に増悪する胸部〜心窩部痛は、食後の心負荷増大による狭心症や、胃食道逆流症、胆道疾患などで生じることがある。

  5. ×e.  背部の疼痛は次第に下方へ移動する。

    誤り。胸膜炎の痛みは炎症部位に一致して生じ、移動しない。突然発症の激しい胸背部痛が、解離の進展に伴って背部から腰部へと移動するのは急性大動脈解離の典型像である。解離の進展により左右の血圧差や脈拍の減弱、臓器虚血を伴うことがある。

胸膜炎の概要

胸膜に炎症が起こった状態で、原因には感染(細菌性肺炎に伴う随伴性胸水・膿胸、結核性胸膜炎、ウイルス感染)、悪性腫瘍(癌性胸膜炎、悪性胸膜中皮腫)、膠原病(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス)、肺塞栓症などがある。症状は発熱、乾性咳嗽、胸痛(胸膜痛)、呼吸困難などである。炎症初期で胸水がほとんどない時期を乾性胸膜炎と呼び、胸膜摩擦音を聴取しやすい。胸水が貯留すると患側の打診で濁音、呼吸音の減弱、声音振盪の減弱がみられる。

胸痛の性状と代表疾患

・呼吸・咳で増強:胸膜炎、気胸、肺塞栓症、急性心膜炎 ・前傾坐位で軽快し仰臥位で増強:急性心膜炎 ・労作で誘発され安静で数分以内に軽快、肩・左腕・下顎へ放散:狭心症 ・安静でも持続(20〜30分以上)、冷汗を伴う:急性心筋梗塞 ・突然発症の引き裂かれるような痛み、背部へ・下方へ移動:急性大動脈解離 ・圧迫で再現される:肋軟骨炎、肋骨骨折など胸壁由来 ・嚥下時・食事と関連、胸やけを伴う:食道疾患(逆流性食道炎、食道痙攣など) ・デルマトームに沿うピリピリした痛み、のちに皮疹:帯状疱疹

POINT

・胸膜炎の痛みは壁側胸膜由来で、深呼吸・咳・体動で増強する(胸膜痛)。 ・肩・左腕への放散痛は心筋虚血、下方へ移動する背部痛は大動脈解離、圧痛は胸壁由来、嚥下時痛は食道疾患を示唆する。 ・胸膜炎では胸膜摩擦音を聴取することがあり、胸水が増えると痛みや摩擦音が軽減することがある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。