StudyMed医師国家試験

「良い日と悪い日」と薬への過敏性―2つのキーワードで見抜くLewy小体型認知症

第106回医師国家試験 I問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第14問

認知機能の動揺と抗精神病薬に対する感受性の亢進とを特徴とするのはどれか。

  1. a.脳血管性認知症
  2. b.前頭側頭型認知症
  3. c.Lewy小体型認知症
  4. d.Alzheimer型認知症
  5. e.特発性正常圧水頭症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、主要な認知症の特徴を見分ける問題だ。注目すべきキーワードは「認知機能の動揺」と「抗精神病薬に対する感受性の亢進」の2つ。それぞれが何を意味するのかを押さえれば、答えは自然に絞れるよ。まず「認知機能の動揺」と聞いて、どんな状態をイメージするかな。
医学生医学生
認知症はゆっくり悪くなるものだと思っていたので、「動揺」というのがピンときません。日によって調子が違うということでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。注意力や覚醒度が日単位、ときには時間単位で大きく変わるんだ。午前中はしっかり受け答えできたのに、午後にはぼんやりして会話がかみ合わない、といった変化を繰り返す。ご家族が「良い日と悪い日がある」と表現することも多いね。
医学生医学生
もう1つの「抗精神病薬への感受性の亢進」は、少しの量でも副作用が強く出るということですか。
ドクタードクター
そう。特にドパミンD2受容体の遮断作用が強い定型抗精神病薬を少量使っただけで、パーキンソニズムが急に悪化したり、意識障害や嚥下障害、悪性症候群を起こしたりする。では、なぜドパミンを遮断する薬に弱いのか、病態から考えてみよう。
医学生医学生
ドパミンが関係するなら、Parkinson病と似た病気……あ、Lewy小体型認知症ですね。神経内科の講義で、Parkinson病と同じLewy小体が出る病気と習いました。
ドクタードクター
正解。Lewy小体型認知症では、α-シヌクレインを主成分とするLewy小体が大脳皮質や脳幹の神経細胞に広く出現する。黒質のドパミン神経が障害されて線条体のドパミン機能がもともと落ちているから、そこにドパミン遮断薬が加わると影響を強く受けてしまうんだ。変性性認知症の中では、Alzheimer型認知症に次いで多いとされている。
医学生医学生
中核的特徴には、幻視もありましたよね。
ドクタードクター
そう。診断基準の中核的特徴は、認知機能の動揺、繰り返し出現する具体的で鮮明な幻視、レム睡眠行動異常症、パーキンソニズムの4つ。抗精神病薬への重篤な過敏性は、現在の基準では支持的特徴という位置づけだ。ここで臨床的に怖いのは、幻視や妄想を「精神症状だから」と抗精神病薬で抑えようとすることなんだ。
医学生医学生
幻視に薬を出したら、かえって動けなくなってしまうかもしれないんですね。ほかの選択肢も確認したいです。Alzheimer型認知症は一番多い認知症ですが、動揺はしないんですか。
ドクタードクター
Alzheimer型は近時記憶障害で始まり、緩やかに一方向性に進むのが典型だ。物盗られ妄想や取り繕い反応はみられるけれど、病初期から幻視やパーキンソニズムが目立つことはなく、DLBのような大きな日内変動も典型的ではない。抗精神病薬への過敏性も特徴ではないよ。
医学生医学生
脳血管性認知症は、脳卒中のたびに階段状に悪くなるので、変動があるようにも見えますが。
ドクタードクター
鋭いね。症状に多少の波はありうるけれど、特徴はあくまで階段状の進行、片麻痺や構音障害などの局所神経症状、感情失禁、それに記憶は落ちても判断力が保たれる「まだら認知症」だ。抗精神病薬への過敏性は特徴とされていない。
医学生医学生
前頭側頭型認知症は、臨床実習の精神科で「毎日同じ時間に同じ道を散歩する」患者さんの話を聞きました。
ドクタードクター
時刻表的生活と呼ばれる常同行動だね。前頭側頭型は比較的若い年齢で発症し、人格変化、脱抑制、自発性低下、食行動の変化が前面に出る。記憶障害は初期には目立たない。特発性正常圧水頭症は、歩行障害・認知障害・尿失禁の三徴で、画像では脳室拡大とDESH所見がみられ、タップテストで改善すればシャント手術が期待できる「治療可能な認知症」だ。どちらも今回の2つのキーワードとは結びつかない。
医学生医学生
動揺と抗精神病薬過敏、そこに幻視・パーキンソニズム・レム睡眠行動異常症が加われば、Lewy小体型認知症を考える、と整理できました。
ドクタードクター
いいまとめだ。発展として、検査も押さえよう。ドパミントランスポーターSPECTで基底核の取り込み低下、MIBG心筋シンチグラフィで心臓交感神経の障害を反映した取り込み低下がみられるのが診断に役立つ。脳血流SPECTでは後頭葉の血流低下が特徴で、後部帯状回が比較的保たれるcingulate island signも知られている。
医学生医学生
CBTの過去問でMIBGが出てきて、なぜ心臓の検査なのか不思議でした。自律神経障害が背景にあるんですね。便秘や起立性低血圧も多いと聞きました。
ドクタードクター
その通り。治療では、認知機能障害や幻視にはコリンエステラーゼ阻害薬が有効で、日本ではドネペジルがLewy小体型認知症に承認されている。パーキンソニズムにはL-ドパを使うけれど、幻視を悪化させることがあるのでバランスが難しい。抗精神病薬は原則避け、やむを得ない場合もごく少量から慎重に使う。せん妄と思って安易に定型抗精神病薬を出す前に、この病気を思い浮かべる習慣をつけてほしい。
医学生医学生
病棟で夜間不穏の高齢者に指示薬を出す場面でも、まずLewy小体型認知症の可能性を考えるようにします。

まとめ

「認知機能の動揺」と「抗精神病薬に対する感受性の亢進」をあわせもつ認知症はLewy小体型認知症です。α-シヌクレインからなるLewy小体が大脳皮質や脳幹に広がり、黒質線条体のドパミン系が障害されているため、ドパミン遮断薬で重篤なパーキンソニズム悪化や意識障害、悪性症候群をきたしやすくなります。中核的特徴は認知機能の動揺、具体的な幻視、レム睡眠行動異常症、パーキンソニズムで、ドパミントランスポーターSPECTやMIBG心筋シンチグラフィの取り込み低下、後頭葉の血流低下が診断を支えます。Alzheimer型は近時記憶障害と緩徐進行、脳血管性は階段状進行と局所神経症状、前頭側頭型は人格変化と常同行動、特発性正常圧水頭症は歩行障害・尿失禁と脳室拡大が手がかりです。幻視や不穏に安易に抗精神病薬を使わないという判断は、高齢者を診るすべての臨床現場で患者の安全に直結する知識です。

解答・解説

正解はcです

本問は、主要な認知症性疾患それぞれに特徴的な臨床像を区別できるかを問う問題である。キーワードは「認知機能の動揺」と「抗精神病薬に対する感受性の亢進」の2つである。 ・認知機能の動揺: 注意力や覚醒度が日単位・時間単位で大きく変わり、ある時はしっかり受け答えできるのに、別の時はぼんやりして会話がかみ合わない、といった変化を繰り返すこと。 ・抗精神病薬への感受性亢進(過敏性): 少量の抗精神病薬(特にドパミンD2受容体遮断作用の強い定型抗精神病薬)でも、パーキンソニズムの急激な悪化、意識障害、嚥下障害、悪性症候群などの重い副作用が出やすいこと。 この2つをあわせもつのはLewy小体型認知症(DLB: dementia with Lewy bodies)である。DLBでは、黒質のドパミン神経が障害されて線条体のドパミン機能が低下しているため、ドパミン受容体を遮断する薬剤の影響を強く受ける。このほか、具体的で鮮明な幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動異常症(RBD)がDLBの中核的特徴として知られる。 DLBの幻視や妄想に対して安易に抗精神病薬を用いると重篤な副作用を招くため、この過敏性は臨床上とくに重要な知識である。

選択肢考察

  1. ×a.  脳血管性認知症

    脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって生じる認知症である。脳卒中発作を起こすたびに症状が段階的に悪化する「階段状の進行」、障害部位に応じた局所神経症状(片麻痺、構音障害、仮性球麻痺など)、感情失禁(わずかな刺激で泣いたり笑ったりする)が特徴である。記憶障害に比べて判断力などが保たれる「まだら認知症」を呈することもある。症状に多少の変動はありうるが、抗精神病薬への過敏性は特徴ではない。

  2. ×b.  前頭側頭型認知症

    前頭葉・側頭葉前部が主に萎縮する変性疾患で、比較的若い年齢(65歳未満)で発症することが多い。初期には記憶障害よりも、人格変化、脱抑制(万引きなど社会的ルールを無視した行動)、自発性の低下、共感の欠如、常同行動(毎日同じ時間に同じ行動を繰り返す「時刻表的生活」など)、食行動の変化(過食、甘いものを好むなど)が目立つ。病識は乏しい。認知機能の動揺や抗精神病薬への過敏性は特徴とされない。

  3. ○c.  Lewy小体型認知症

    α-シヌクレインを主成分とするLewy小体が大脳皮質や脳幹の神経細胞内に広く出現し、神経細胞が脱落する変性疾患である。変性性認知症の中ではAlzheimer型認知症に次いで多い。国際的な臨床診断基準(2017年改訂)では、認知機能の変動(動揺)、繰り返し出現する具体的な幻視、レム睡眠行動異常症、パーキンソニズムが中核的特徴とされ、抗精神病薬に対する重篤な過敏性は支持的特徴に位置づけられている。黒質線条体のドパミン系が障害されているため、ドパミン遮断作用をもつ抗精神病薬により、パーキンソニズムの著しい悪化や意識障害、悪性症候群をきたしやすい。問題文の2つの特徴をいずれも満たす。

  4. ×d.  Alzheimer型認知症

    最も頻度の高い認知症で、アミロイドβの沈着(老人斑)とリン酸化タウの蓄積(神経原線維変化)を病理学的特徴とする。近時記憶障害で始まり、緩やかに一方向性に進行する。見当識障害(時間 → 場所 → 人の順に障害されやすい)、視空間認知障害、取り繕い反応、物盗られ妄想などがみられる。病初期はパーキンソニズムや幻視は目立たず、DLBのような日内・日間の大きな認知機能の動揺も典型的ではない。抗精神病薬への過敏性も特徴ではない。

  5. ×e.  特発性正常圧水頭症

    明らかな原因がなく、脳室が拡大して脳脊髄液の循環・吸収障害をきたす病態で、高齢者に多い。認知障害、歩行障害(小刻み・開脚・すり足で、方向転換が不安定)、尿失禁が三徴であり、中でも歩行障害が最も早く出やすい。頭部画像では脳室拡大と、高位円蓋部の脳溝・くも膜下腔の狭小化(DESH所見)が特徴である。髄液排除試験(タップテスト)で症状が改善すれば、シャント手術で症状改善が期待できる「治療可能な認知症」である。認知機能の動揺や抗精神病薬への過敏性は特徴ではない。

Lewy小体型認知症の臨床診断基準(2017年改訂の要点)

必須: 社会生活や日常生活に支障をきたす進行性の認知機能低下(初期には記憶障害よりも注意・遂行機能・視空間認知の障害が目立つことが多い)。 中核的特徴: ・注意や覚醒度の顕著な変動を伴う認知機能の動揺 ・繰り返し出現する、具体的で詳細な内容の幻視(人や小動物が見えるなど) ・レム睡眠行動異常症(夢の内容に合わせて大声を出したり手足を動かしたりする)。認知症の発症に先行することがある ・パーキンソニズム(動作緩慢、静止時振戦、筋強剛のうち1つ以上) 支持的特徴: 抗精神病薬に対する重篤な過敏性、姿勢の不安定性、繰り返す転倒、失神・一過性の無反応、高度の自律神経障害(便秘、起立性低血圧、尿失禁)、過眠、嗅覚低下、幻視以外の幻覚、妄想、アパシー、不安、うつなど。 指標的バイオマーカー: SPECT/PETでの基底核におけるドパミントランスポーター取り込み低下、MIBG心筋シンチグラフィでの取り込み低下(心臓交感神経の障害)、睡眠ポリグラフ検査で確認された筋緊張低下を伴わないレム睡眠。 支持的バイオマーカー: CT/MRIで内側側頭葉が比較的保たれる、脳血流SPECT/FDG-PETで後頭葉の血流・代謝低下(帯状回後部が保たれるcingulate island sign)、脳波で後頭部の徐波。

治療上の注意

・認知機能障害や幻視に対しては、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)が有効であり、日本ではドネペジルがDLBに対して承認されている。 ・パーキンソニズムにはL-ドパを用いるが、幻視を悪化させることがある。 ・抗精神病薬は原則として避け、やむを得ず使用する場合もごく少量から慎重に用いる。

主な認知症の特徴の整理

・Alzheimer型: 近時記憶障害で発症、緩徐進行、物盗られ妄想、取り繕い。側頭葉内側(海馬)の萎縮、頭頂葉・後部帯状回の血流低下。 ・Lewy小体型: 認知機能の動揺、幻視、パーキンソニズム、RBD、抗精神病薬過敏。後頭葉の血流低下、MIBG取り込み低下。 ・前頭側頭型: 人格変化、脱抑制、常同行動、食行動異常。前頭葉・側頭葉前部の萎縮。 ・脳血管性: 階段状進行、局所神経症状、感情失禁、まだら認知症。 ・特発性正常圧水頭症: 歩行障害・認知障害・尿失禁、脳室拡大とDESH、シャント術で改善しうる。

POINT

・「認知機能の動揺」「具体的な幻視」「パーキンソニズム」「レム睡眠行動異常症」はLewy小体型認知症の中核的特徴。 ・Lewy小体型認知症は抗精神病薬に過敏で、少量でもパーキンソニズム悪化、意識障害、悪性症候群をきたしやすい。 ・MIBG心筋シンチグラフィの取り込み低下、ドパミントランスポーターSPECTの取り込み低下、後頭葉の血流低下が診断に役立つ。 ・治療ではコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル)が有効。 ・他の認知症との鑑別: 階段状進行・感情失禁(脳血管性)、人格変化・常同行動(前頭側頭型)、近時記憶障害・物盗られ妄想(Alzheimer型)、歩行障害・尿失禁(正常圧水頭症)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。