StudyMed医師国家試験

金属ごとに狙う臓器がある―マンガンが侵すのは皮膚ではなく脳だった

第106回医師国家試験 I問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第15問

金属中毒と健康障害の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.鉛 ―― 貧血
  2. b.亜鉛 ―― 金属熱
  3. c.ヒ素 ―― 皮膚癌
  4. d.マンガン ―― 感作性皮膚炎
  5. e.カドミウム ―― 腎障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、職業性・環境性の金属中毒で、金属と健康障害の組合せの誤りを探す問題だ。金属中毒は、金属ごとに障害されやすい臓器、つまり標的臓器がおおむね決まっている。「金属=標的臓器」のペアで覚えているかがポイントだよ。まず鉛から考えてみよう。鉛で貧血が起こるのはなぜかな。
医学生医学生
衛生学の講義で、ヘム合成が邪魔されると習いました。
ドクタードクター
そう。鉛はヘム合成経路のδ-アミノレブリン酸脱水酵素とフェロケラターゼを阻害する。ヘムがつくれないから低色素性小球性貧血になり、尿中のδ-ALAやコプロポルフィリンが増え、赤血球中のプロトポルフィリンも上がる。末梢血の好塩基性斑点赤血球も特徴的だ。だから鉛と貧血は正しい組合せだね。
医学生医学生
鉛は腹痛や下垂手も出るんでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。鉛疝痛、歯肉の鉛縁、橈骨神経麻痺による伸筋麻痺、小児では鉛脳症もある。次は亜鉛と金属熱。金属熱ってどんな病態だと思う?
医学生医学生
金属を吸い込んで熱が出る……でも感染ではないんですよね。
ドクタードクター
その通り。溶接や溶解作業で生じる金属酸化物の微粒子、ヒュームを吸い込んで数時間後に、悪寒、発熱、倦怠感、筋肉痛、咳などがインフルエンザのように出る。通常1〜2日で自然に治まる。原因の代表が酸化亜鉛のヒュームで、「亜鉛熱」とも呼ばれる。連続して曝露すると一時的に耐性がつくので、休み明けに症状が出やすいのも面白い特徴だ。
医学生医学生
月曜日に熱が出やすい、ということですね。ヒ素と皮膚癌も、講義で井戸水の話を聞いた気がします。
ドクタードクター
そう、無機ヒ素はヒトに対する発癌物質とされていて、汚染された井戸水の飲用などの慢性曝露でBowen病、有棘細胞癌、基底細胞癌といった皮膚癌を起こす。肺癌や膀胱癌のリスクも上がる。皮膚にはほかに色素沈着や手掌・足底の角化、爪の白い横線であるMees線がみられ、多発性の末梢神経障害も起こる。
医学生医学生
カドミウムはイタイイタイ病なので、骨の病気というイメージが強いです。腎障害でいいんでしょうか。
ドクタードクター
そこが大事なところだ。カドミウムはまず近位尿細管にたまって細胞を傷害する。再吸収が障害されて、β2-ミクログロブリンなどの低分子蛋白尿、糖尿、アミノ酸尿、リン酸尿というFanconi症候群の形をとるんだ。リンの喪失とビタミンD活性化の障害が重なって骨軟化症が起こり、骨折しやすくなる。骨の病変は腎障害の結果なんだよ。
医学生医学生
なるほど、腎臓が先なんですね。そうすると残るマンガンと感作性皮膚炎が誤りでしょうか。マンガンは正直あまり印象がありません。
ドクタードクター
正解はそれだ。マンガンの慢性吸入、たとえば鉱山や製鋼、溶接の現場では、中枢神経、特に大脳基底核の淡蒼球が障害される。初期には興奮や感情不安定、幻覚などの精神症状が出て「マンガン狂」と呼ばれ、進むと振戦、仮面様顔貌、小字症、突進歩行などのParkinson症候群が現れる。高濃度のヒュームではマンガン肺炎も起こる。感作性皮膚炎はマンガンの特徴ではないんだ。
医学生医学生
感作性皮膚炎を起こす金属はどれでしたっけ。皮膚科の臨床実習で、ピアスやネックレスでかぶれた患者さんにパッチテストをしていました。
ドクタードクター
まさにそれが感作性皮膚炎、つまりアレルギー性接触皮膚炎だ。金属イオンが皮膚の蛋白と結合して抗原となり、IV型の遅延型アレルギー反応で湿疹を起こす。代表はニッケル、クロム、コバルト、それにベリリウムなど。ピアスでかぶれるのは多くがニッケルだね。
医学生医学生
マンガンは脳、ニッケルやクロムは皮膚、と整理すると混同しにくいです。
ドクタードクター
いいね。発展として周辺の金属も押さえておこう。六価クロムは鼻中隔穿孔、皮膚潰瘍、感作性皮膚炎、肺癌。ベリリウムは肉芽腫性の慢性ベリリウム肺。水銀は無機と有機で違って、無機水銀は振戦、歯肉炎、易興奮性などの精神症状、腎障害。メチル水銀は求心性視野狭窄、運動失調、構音障害、感覚障害が特徴で、水俣病の本態だ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、水俣病とイタイイタイ病は公害病としてセットで出てきました。どちらも原因物質と症状のペアで覚えるんですね。
ドクタードクター
その通り。臨床では、原因のはっきりしないパーキンソニズムや貧血、腎障害をみたときに、職業歴を聞くことが診断の糸口になることがある。溶接工のパーキンソニズムならマンガン、塗装や古い家屋の解体作業での貧血なら鉛、というふうにね。職業歴の聴取はOSCEの医療面接でも必ず確認される項目だよ。
医学生医学生
問診で仕事の内容まで具体的に聞く意味が、よくわかりました。

まとめ

金属中毒は金属ごとに標的臓器がおおむね決まっており、「金属=特徴的な障害」の組合せで整理すると理解しやすくなります。鉛はヘム合成酵素の阻害による低色素性小球性貧血、亜鉛ヒュームは急性の発熱反応である金属熱、ヒ素は皮膚癌や色素沈着・角化症、カドミウムは近位尿細管障害とそれに続く骨軟化症(イタイイタイ病)が代表的です。マンガンの慢性曝露では淡蒼球が障害され、精神症状(マンガン狂)とParkinson症候群が主症状となるため、感作性皮膚炎との組合せは誤りです。感作性皮膚炎はIV型アレルギーによる接触皮膚炎で、ニッケル、クロム、コバルト、ベリリウムなどが代表的な原因金属です。原因不明の神経症状や貧血、腎障害の背景に職業性曝露が潜むことがあるため、こうした知識は職業歴を意識した問診と診断にも役立ちます。

解答・解説

正解はdです

職業性・環境性の金属中毒について、代表的な金属とそれに特徴的な健康障害の対応を問う問題である。「誤っているのはどれか」を選ぶ形式なので、組合せとして成り立たないものを一つ探す。 金属中毒は、金属ごとに障害されやすい臓器(標的臓器)がおおむね決まっている。鉛は造血系・神経系、カドミウムは腎臓(近位尿細管)と骨、ヒ素は皮膚・末梢神経・発癌、マンガンは中枢神経(錐体外路系)、亜鉛などの金属ヒュームは急性の発熱反応(金属熱)というように、「金属=特徴的な標的臓器」の組で覚えておくと解きやすい。 この対応に照らすと、鉛と貧血、亜鉛と金属熱、ヒ素と皮膚癌、カドミウムと腎障害はいずれも典型的な組合せである。一方、マンガン中毒の主症状はParkinson症候群を中心とする神経・精神症状であり、感作性(アレルギー性)皮膚炎はマンガンの特徴ではない。感作性皮膚炎の原因として代表的なのはニッケル、クロム、コバルト、ベリリウムなどである。

選択肢考察

  1. ×a.  鉛 ―― 貧血

    正しい組合せである。鉛はヘム合成経路の酵素、特にδ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)とフェロケラターゼを阻害する。その結果ヘムがつくれなくなり、低色素性小球性貧血となる。尿中δ-アミノレブリン酸(δ-ALA)やコプロポルフィリンが増え、赤血球中のプロトポルフィリン(亜鉛プロトポルフィリン)も上昇する。末梢血では好塩基性斑点赤血球がみられるのが特徴である。ほかに腹痛(鉛疝痛)、歯肉の鉛縁、伸筋麻痺(橈骨神経麻痺による下垂手)などの末梢神経障害、小児では脳症も起こる。

  2. ×b.  亜鉛 ―― 金属熱

    正しい組合せである。金属熱は、溶接や溶解作業などで生じる金属酸化物の微粒子(ヒューム)を吸い込んだ数時間後に、悪寒・発熱・倦怠感・筋肉痛・咳などがインフルエンザのように出る急性の病態である。通常1〜2日で自然に治まる。原因として最も代表的なのが酸化亜鉛のヒュームであり、「亜鉛熱」とも呼ばれる。連続して曝露すると一時的に耐性がつき、休み明けに症状が出やすいことも知られている。

  3. ×c.  ヒ素 ―― 皮膚癌

    正しい組合せである。無機ヒ素は国際がん研究機関(IARC)がヒトに対する発癌物質(グループ1)に分類しており、慢性曝露(汚染された井戸水の飲用など)で皮膚癌(Bowen病、有棘細胞癌、基底細胞癌)を起こす。肺癌や膀胱癌のリスクも上がる。皮膚にはほかに色素沈着(ヒ素黒皮症)、手掌や足底の角化(ヒ素角化症)、爪の白い横線(Mees線)がみられる。そのほか多発性の末梢神経障害や、吸入による鼻中隔穿孔も起こる。

  4. ○d.  マンガン ―― 感作性皮膚炎

    誤った組合せであり、本問の正解である。マンガンの慢性吸入(鉱山、製鋼、溶接など)では、中枢神経、特に大脳基底核(淡蒼球)が障害される。初期には興奮・感情不安定・幻覚などの精神症状(マンガン狂)が出て、進むと振戦、仮面様顔貌、小字症、突進歩行、歩行障害などのParkinson症候群が現れる。高濃度のヒュームを吸入するとマンガン肺炎も起こる。感作性皮膚炎はマンガンの特徴的な障害ではない。感作性皮膚炎の原因となる代表的な金属はニッケル、クロム、コバルト、ベリリウム、水銀などである。

  5. ×e.  カドミウム ―― 腎障害

    正しい組合せである。カドミウムは腎臓、とくに近位尿細管にたまって尿細管細胞を傷害する。そのため再吸収が障害され、低分子蛋白尿(β2-ミクログロブリン尿など)、糖尿、アミノ酸尿、リン酸尿といったFanconi症候群の形をとる。リンの喪失やビタミンD活性化の障害により骨軟化症・骨粗鬆症が起こり、骨折しやすくなる。これが富山県神通川流域で発生したイタイイタイ病の本態である。

主な金属中毒と特徴的な障害

・鉛:低色素性小球性貧血(好塩基性斑点赤血球、尿中δ-ALA・コプロポルフィリン増加)、鉛疝痛、伸筋麻痺(下垂手)、鉛縁、小児の鉛脳症 ・カドミウム:近位尿細管障害(β2-ミクログロブリン尿、Fanconi症候群)、骨軟化症(イタイイタイ病)。急性吸入では化学性肺炎・肺水腫、慢性吸入では肺気腫・慢性気管支炎、歯の黄色環 ・ヒ素:皮膚癌(Bowen病など)、色素沈着、角化症、Mees線、多発神経炎、鼻中隔穿孔、肺癌、膀胱癌 ・マンガン:精神症状(マンガン狂)、Parkinson症候群、マンガン肺炎 ・亜鉛(酸化亜鉛ヒューム):金属熱 ・水銀:無機水銀では振戦・歯肉炎・精神症状(易興奮性)・腎障害。有機(メチル)水銀では求心性視野狭窄・運動失調・構音障害・感覚障害(Hunter-Russell症候群、水俣病) ・クロム(六価):鼻中隔穿孔、皮膚潰瘍、感作性皮膚炎、肺癌 ・ニッケル:感作性皮膚炎(金属アレルギーの代表)、肺癌・鼻腔癌 ・ベリリウム:慢性ベリリウム肺(肉芽腫性肺疾患)、感作性皮膚炎

感作性皮膚炎(アレルギー性接触皮膚炎)

金属イオンが皮膚の蛋白と結合して抗原になり、IV型(遅延型)アレルギー反応として湿疹を起こす。原因の特定にはパッチテストを用いる。ニッケル、クロム、コバルトが代表的である。

POINT

・マンガン中毒の主症状はParkinson症候群などの神経・精神症状で、感作性皮膚炎は特徴ではない ・感作性皮膚炎を起こす代表的な金属はニッケル、クロム、コバルト、ベリリウム ・鉛は貧血(ヘム合成障害)、カドミウムは近位尿細管障害(イタイイタイ病)、ヒ素は皮膚癌、亜鉛ヒュームは金属熱

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。