太るほど減る“善玉”ホルモン―アディポネクチンが語るメタボリックシンドロームの本質
第106回医師国家試験 G問題 第5問
国試問題にチャレンジ
メタボリックシンドロームで低下するのはどれか。
- a.空腹時血糖
- b.血中アディポネクチン
- c.血中トリグリセリド
- d.収縮期血圧
- e.腹囲
対話形式の解説
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ドクターまとめ
メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積とインスリン抵抗性を基盤に、高血糖・脂質異常・高血圧が重なって動脈硬化性疾患のリスクが高まる病態です。診断には腹囲(男性85 cm以上、女性90 cm以上)が必須で、トリグリセリド150 mg/dL以上またはHDLコレステロール40 mg/dL未満、血圧130/85 mmHg以上、空腹時血糖110 mg/dL以上のうち2項目以上を満たすことが求められ、低下を基準とするのはHDLコレステロールのみです。アディポネクチンはインスリン感受性を高め動脈硬化を抑える善玉アディポサイトカインで、脂肪細胞由来でありながら内臓脂肪が増えると血中濃度が低下します。一方でレプチン、TNF-α、PAI-1などは上昇するため、増えるものと減るものを対比して覚えておくと整理しやすくなります。各指標の変化を機序から理解することは、特定健診や保健指導で生活習慣改善を説明する際の土台にもなります。
解答・解説
正解はbです
メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積を基盤としてインスリン抵抗性が生じ、高血糖・脂質異常・高血圧が一個人に重なって、動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)のリスクが高まった病態である。 本問では「低下するもの」が問われている。診断基準に含まれる項目(腹囲、トリグリセリド、血圧、空腹時血糖)はいずれも「一定値以上」で該当とされ、上昇する方向の指標である。唯一の例外が HDL コレステロールで、こちらは「40 mg/dL 未満」と低下が基準になるが、本問の選択肢には含まれていない。 そこで診断基準以外の選択肢に目を向ける。アディポネクチンは脂肪細胞が分泌する生理活性物質(アディポサイトカイン)の一つで、インスリン感受性を高め、動脈硬化を抑える「善玉」の作用をもつ。脂肪細胞から分泌されるにもかかわらず、内臓脂肪が増えるほど血中濃度は低下する。この低下がインスリン抵抗性や動脈硬化の進展に関与すると考えられている。したがって、低下するのは血中アディポネクチンである。
選択肢考察
- ×a. 空腹時血糖
誤り。内臓脂肪の蓄積によってインスリン抵抗性が生じ、空腹時血糖は上昇する。我が国の診断基準では空腹時血糖 110 mg/dL 以上で高血糖の項目に該当する。これは糖尿病の診断基準(126 mg/dL 以上)より低い値で、境界型の段階から動脈硬化リスクを捉えることを意図している。
- ○b. 血中アディポネクチン
正しい。アディポネクチンは脂肪細胞から分泌される蛋白で、肝臓や骨格筋での AMP キナーゼ(AMPK)活性化などを介してインスリン感受性を高め(抗糖尿病作用)、血管壁の炎症や平滑筋増殖を抑える(抗動脈硬化作用)。血中濃度は内臓脂肪量と逆相関し、内臓脂肪が肥大・増加すると分泌が減る。そのためメタボリックシンドロームでは低アディポネクチン血症となり、インスリン抵抗性と動脈硬化を悪化させる一因となる。
- ×c. 血中トリグリセリド
誤り。インスリン抵抗性の状態では、内臓脂肪から門脈を通って肝臓へ流れ込む遊離脂肪酸が増え、肝臓での VLDL(超低比重リポ蛋白)合成が亢進する。その結果、血中トリグリセリドは上昇する。診断基準では空腹時トリグリセリド 150 mg/dL 以上、または HDL コレステロール 40 mg/dL 未満のいずれか(または両方)で脂質異常の項目に該当する。
- ×d. 収縮期血圧
誤り。高インスリン血症による腎尿細管でのナトリウム再吸収の亢進や交感神経の活性化などを介して、血圧は上昇する。診断基準では収縮期血圧 130 mmHg 以上、または拡張期血圧 85 mmHg 以上のいずれか(または両方)で血圧高値の項目に該当する。この値は高血圧の診断基準(140/90 mmHg 以上)よりも低い。
- ×e. 腹囲
誤り。腹囲は内臓脂肪蓄積の指標であり、メタボリックシンドロームでは増大する。臍の高さで測定し、男性 85 cm 以上、女性 90 cm 以上を満たすことが診断の必須項目である。この値は、CT で測定した内臓脂肪面積 100 cm² に相当するものとして設定された。
我が国のメタボリックシンドローム診断基準(2005年、日本内科学会など8学会合同)
必須項目:内臓脂肪蓄積 ・ウエスト周囲径(腹囲):男性 85 cm 以上、女性 90 cm 以上(男女とも内臓脂肪面積 100 cm² 以上に相当) 上記に加え、以下の3項目のうち2項目以上 1. 脂質異常:トリグリセリド 150 mg/dL 以上、かつ/または HDL コレステロール 40 mg/dL 未満 2. 血圧高値:収縮期 130 mmHg 以上、かつ/または拡張期 85 mmHg 以上 3. 高血糖:空腹時血糖 110 mg/dL 以上 ※各項目について薬物治療中の場合も該当とみなす。
主なアディポサイトカインとメタボリックシンドロームでの変化
・アディポネクチン:インスリン感受性の亢進、抗動脈硬化、抗炎症作用 → 低下 ・レプチン:視床下部に作用して食欲を抑え、エネルギー消費を増やす → 肥満では上昇(レプチン抵抗性の状態) ・TNF-α:インスリン抵抗性を惹起 → 上昇 ・PAI-1(プラスミノゲン活性化抑制因子-1):線溶を抑制し血栓形成を促す → 上昇 ・アンジオテンシノーゲン:血圧上昇に関与 → 上昇
特定健康診査(特定健診)
40〜74歳を対象に、メタボリックシンドロームに着目した健診と特定保健指導が2008年から医療保険者に義務づけられている。
POINT
・メタボリックシンドロームの診断では腹囲(男性 85 cm 以上、女性 90 cm 以上)が必須項目である。 ・これに加え、脂質異常(TG 150 以上 または HDL-C 40 未満)、血圧高値(130/85 以上)、高血糖(空腹時 110 以上)のうち2項目以上で診断する。 ・診断項目で「低下」を基準とするのは HDL コレステロールのみである。 ・アディポネクチンは善玉アディポサイトカインで、内臓脂肪が増えると低下する。
