体重100kg、膝が痛む46歳―高度肥満症の治療は「まず食事から」
第120回医師国家試験 C問題 第39問
国試問題にチャレンジ
46歳の男性。健診で高血圧と脂質異常症を指摘され来院した。1年前から腰と両膝の痛みがある。身長168cm,体重100kg。脈拍68/分,整。血圧148/92mmHg。尿所見:蛋白(-),糖(-),ケトン体(-)。血液生化学所見:AST 32U/L,ALT 46U/L,尿素窒素18mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL,空腹時血糖98mg/dL,HbA1c 5.4%(基準4.9~6.0),総コレステロール222mg/dL,トリグリセリド235mg/dL,LDLコレステロール118mg/dL。 まず行うべき治療はどれか。
- a.食事療法
- b.スリーブ状胃切除術
- c.SGLT2阻害薬の投与
- d.長時間ジョギングの指導
- e.GLP-1受容体作動薬の投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
身長168cm・体重100kgの男性はBMI約35.4で高度肥満にあたり、高血圧、高トリグリセリド血症、脂肪肝、腰・膝の運動器障害といった肥満関連の健康障害を伴うため、高度肥満症と診断されます。肥満症治療の基本は食事療法・運動療法・行動療法による生活習慣の改善で、まず食事療法でエネルギー摂取を制限し、高度肥満症では現体重の5〜10%の減量を目指します。運動療法は重要ですが、関節痛のある高度肥満者ではジョギングではなく水中歩行や自転車など関節に負担の少ない種目を選びます。GLP-1受容体作動薬やスリーブ状胃切除術は内科的治療で効果不十分な場合の選択肢であり、SGLT2阻害薬は肥満症そのものの適応をもちません。BMIの計算と肥満症の診断、治療の段階的な進め方を理解しておくことは、生活習慣病を抱える多くの患者を診るうえでの基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・46歳男性。健診で高血圧と脂質異常症を指摘されて受診した。 ・身長168cm、体重100kgで、BMI(体格指数=体重kg÷身長mの2乗)は 100÷(1.68×1.68)=100÷2.82≒35.4 である。日本肥満学会の基準ではBMI 25以上が肥満、35以上が高度肥満(肥満3度:35以上40未満)にあたる。 ・血圧148/92mmHgは、収縮期140〜159かつ/または拡張期90〜99mmHgの範囲でⅠ度高血圧に相当する。 ・トリグリセリド235mg/dLは空腹時の基準150mg/dLを超え、高トリグリセリド血症である。LDLコレステロール118mg/dLは基準(140mg/dL未満)内である。 ・AST 32U/L、ALT 46U/LとALT優位の軽度上昇があり、肥満に伴う脂肪肝(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患、MASLD。かつての非アルコール性脂肪性肝疾患、NAFLD)が疑われる。 ・1年前からの腰痛・両膝痛は、体重負荷による変形性膝関節症や変形性脊椎症などの運動器障害が考えられる。 ・空腹時血糖98mg/dL、HbA1c 5.4%で糖尿病はない。腎機能・尿所見も正常である。
診断
BMI 35以上で、肥満に起因または関連する健康障害(高血圧、脂質異常症、脂肪肝、運動器疾患)を複数伴っており、「高度肥満症」と診断される。肥満症とは、単に体重が多い「肥満」ではなく、肥満が原因あるいは関連する健康障害を合併するか、その合併が予測される(内臓脂肪蓄積がある)ため、医学的に減量が必要な病態をいう。
設問の考え方
肥満症治療の基本は、食事療法・運動療法・行動療法からなる生活習慣の改善であり、どの段階でも最初に行う。薬物療法や外科療法(減量・代謝改善手術)は、一定期間(おおむね3〜6か月以上)の内科的治療で十分な効果が得られない場合に検討する二次的な選択肢である。また、運動療法は膝・腰に痛みのある高度肥満者では関節への負担が小さい種目を選ぶ必要がある。したがって、まず行うべき治療は食事療法である。
選択肢考察
- ○a. 食事療法
肥満症治療の第一歩は、摂取エネルギーを制限して体重を減らす食事療法である。高度肥満症ではエネルギー摂取量を1日20〜25kcal×目標体重(kg)以下とし、現体重の5〜10%の減量を目標にする(肥満度の低い肥満症では25kcal×目標体重以下、3〜6か月で3%以上の減量が目標)。減量によって血圧、トリグリセリド、肝機能の改善が期待でき、関節への負担も軽くなる。関節に負担の少ない運動療法や行動療法と組み合わせて行う。
- ×b. スリーブ状胃切除術
スリーブ状胃切除術(胃の大彎側を切除して胃を細い筒状にする減量・代謝改善手術)は、日本ではBMI 35以上で糖尿病・高血圧・脂質異常症・睡眠時無呼吸症候群などの健康障害を伴う場合に保険適用となりうる。本例もBMIと合併症の条件は満たすが、6か月以上の内科的治療を行っても十分な効果が得られないことが前提であり、最初に行う治療ではない。
- ×c. SGLT2阻害薬の投与
SGLT2阻害薬(ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬)は腎近位尿細管でのブドウ糖再吸収を阻害して尿糖排泄を増やす薬で、2型糖尿病(一部は1型糖尿病)、慢性心不全、慢性腎臓病に用いられる。尿糖排泄によるエネルギー喪失で軽度の体重減少が得られるが、肥満症そのものへの適応はない。本例は糖尿病がなく、心不全や慢性腎臓病もないため適応外である。
- ×d. 長時間ジョギングの指導
運動療法自体は肥満症治療の柱の一つだが、ジョギングは着地のたびに体重の数倍の負荷が膝・腰にかかる。すでに腰痛と両膝痛があり体重100kgの本例では、関節障害を悪化させるおそれが高く不適切である。水中歩行、水泳、エアロバイク(固定式自転車)など関節への負担が小さい有酸素運動や、筋力トレーニングを選ぶべきである。
- ×e. GLP-1受容体作動薬の投与
GLP-1受容体作動薬(グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬)は、血糖依存性のインスリン分泌促進に加え、食欲抑制や胃排出遅延により体重を減らす。日本ではセマグルチドなどが肥満症治療薬として承認されているが、高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかを有し、BMI 27以上で2つ以上の健康障害がある、またはBMI 35以上であって、一定期間の食事療法・運動療法で十分な効果が得られない場合に限られる。まず生活習慣の改善を行うのが原則であり、最初の治療ではない。
肥満と肥満症(日本肥満学会)
・肥満:BMI 25以上。肥満1度 25〜30未満、2度 30〜35未満、3度 35〜40未満、4度 40以上。BMI 35以上を高度肥満とする。 ・肥満症:肥満のうち、(1) 肥満に起因・関連する健康障害を1つ以上有する、または (2) 内臓脂肪蓄積(ウエスト周囲長が男性85cm以上・女性90cm以上で、CTによる内臓脂肪面積100cm2以上)がある場合。BMI 35以上の肥満症を高度肥満症という。 ・肥満に起因・関連する健康障害:耐糖能障害(2型糖尿病など)、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞・一過性脳虚血発作、脂肪肝(MASLD)、月経異常・女性不妊、閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、運動器疾患(変形性膝関節症・股関節症・手指関節症、変形性脊椎症)、肥満関連腎臓病。
肥満症治療の流れ
1. 食事療法:エネルギー制限を基本とし、たんぱく質・ビタミン・ミネラルは不足させない。高度肥満症では効果不十分なら医師の管理下で超低エネルギー食(1日600kcal以下)を用いることもある。 2. 運動療法:中等度の有酸素運動を中心に、レジスタンス運動を組み合わせる。関節障害がある場合は水中運動や自転車など低負荷の種目を選ぶ。 3. 行動療法:食事・体重の記録(グラフ化体重日記など)、食べ方の改善、生活リズムの見直し。 4. 薬物療法:生活習慣の改善で効果不十分な場合に、GLP-1受容体作動薬(セマグルチド)、GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド)、食欲抑制薬マジンドール(BMI 35以上、短期間に限る)などを用いる。 5. 外科療法:BMI 35以上の高度肥満症などで、6か月以上の内科的治療が奏効しない場合にスリーブ状胃切除術などを考慮する。
減量目標
肥満症では3〜6か月で現体重の3%以上、高度肥満症では5〜10%の減量を目標とする。わずかな減量でも血圧、脂質、肝機能、血糖などの改善が得られる。
POINT
・BMI=体重÷身長(m)の2乗。本例は約35.4で高度肥満、合併症があり高度肥満症。 ・肥満症治療はまず食事療法・運動療法・行動療法。薬物・手術は内科的治療で効果不十分な場合。 ・膝・腰に痛みのある高度肥満者では、ジョギングでなく水中歩行・自転車など関節に負担の少ない運動を選ぶ。 ・SGLT2阻害薬は糖尿病・心不全・CKDの薬であり、肥満症の適応はない。 ・減量目標:肥満症は3%以上、高度肥満症は5〜10%。
