StudyMed医師国家試験

アキレス腱が語るコレステロール―家族性高コレステロール血症の「顔」を見抜く

第117回医師国家試験 D問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第117回 D問題 第9問

家族性高コレステロール血症〈FH〉で最も認められるのはどれか。

  1. a.角膜混濁
  2. b.扁桃腫大
  3. c.赤血球の変形
  4. d.手掌線条黄色腫
  5. e.アキレス腱の肥厚

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は家族性高コレステロール血症、FHの身体所見を問う問題だ。選択肢には脂質代謝異常症でみられる所見がずらりと並んでいる。それぞれが「どの病気の顔」なのかを整理できるかがポイントだよ。
医学生医学生
脂質異常症の所見は似たような名前が多くて、内分泌代謝の講義のあとも混乱したままです。
ドクタードクター
まずFHそのものから押さえよう。FHはLDL受容体、あるいはアポBやPCSK9の遺伝子変異で、LDLコレステロールが肝臓に取り込まれにくくなる常染色体顕性遺伝の病気だ。ヘテロ接合体は日本でおよそ300人に1人と、決してまれではない。
医学生医学生
受容体が働かないから、血中にLDLがあふれてしまうんですね。
ドクタードクター
そう。しかも生まれたときから高LDL-C血症がずっと続く。すると余ったコレステロールが組織に沈着していく。その代表的な沈着先が腱で、腱黄色腫ができる。3主徴は高LDL-C血症、腱黄色腫・皮膚結節性黄色腫、早発性冠動脈疾患だ。
医学生医学生
腱黄色腫の代表といえばアキレス腱でしょうか。
ドクタードクター
正解。アキレス腱の肥厚がFHで最も重要で、頻度も高い身体所見だ。視診や触診に加えて、X線軟線撮影で厚さを測り、男性8.0 mm以上、女性7.5 mm以上を肥厚とする。超音波なら男性6.0 mm以上、女性5.5 mm以上だね。客観的に評価できるから、診断基準にも組み込まれている。
医学生医学生
OSCEの診察ではアキレス腱なんて触ったことがありませんでした。意識しないと見逃しそうです。
ドクタードクター
実際、臨床でも見逃されやすいんだ。脂質異常症の患者を診たら、靴下を脱いでもらってアキレス腱をつまんでみる習慣をつけるといい。では、ほかの選択肢を見ていこう。角膜混濁はどうだろう。
医学生医学生
FHでも角膜輪が出ると習った気がします。だとすると、これも正解に近いのでは……。
ドクタードクター
迷うところだね。FHでは角膜周辺部にリング状の白い混濁、角膜輪がみられることがあり、若年で出れば診断の参考になる。ただ50歳未満のFHでも3割程度にとどまるし、高齢者では健常人にも老人環として出るから特異度は低い。それに、角膜全体がびまん性に濁る「角膜混濁」は、LCAT欠損症や魚眼病に特徴的な所見なんだ。
医学生医学生
周辺のリングと全体の濁りは別物として区別するんですね。扁桃腫大はどうですか。
ドクタードクター
橙黄色の扁桃腫大はTangier病の顔だ。ABCA1の異常でHDLがほとんど作られず、細網内皮系にコレステロールエステルがたまる。肝脾腫や末梢神経障害を伴うこともある。
医学生医学生
赤血球の変形は、血液内科の講義で出てきた有棘赤血球のことでしょうか。
ドクタードクター
その通り。無βリポ蛋白血症では、MTPの異常でアポB含有リポ蛋白が作れず、赤血球膜の脂質組成が変わって棘状の赤血球になる。脂肪吸収障害、脂溶性ビタミン欠乏、網膜色素変性、神経障害を伴う。むしろコレステロールが著しく低い病気だから、FHとは正反対だね。
医学生医学生
手掌線条黄色腫は「黄色腫」という言葉に引っ張られて選びそうになりました。
ドクタードクター
そこはひっかけだね。手のひらのしわに沿った黄色い線状の沈着は、アポE2/E2などでレムナントがたまるⅢ型脂質異常症に特徴的だ。FHでみられる皮膚の黄色腫は、肘や膝の伸側、手首、臀部などにできる皮膚結節性黄色腫で、形も場所も違う。
医学生医学生
所見と病気の組み合わせを一対一で覚えるのが大事ですね。
ドクタードクター
そう。最後に診断と治療も確認しておこう。成人FHの診断基準は、未治療時LDL-C 180 mg/dL以上、腱黄色腫あるいは皮膚結節性黄色腫、2親等以内のFHか早発性冠動脈疾患の家族歴、のうち2項目以上だ。病的遺伝子変異が確認された場合もFHと診断される。
医学生医学生
家族歴が入っているということは、患者さんの家族も調べたほうがいいんですか。
ドクタードクター
まさにそれが重要で、カスケードスクリーニングと呼ばれる。一人見つかれば、血縁者にも高率に隠れているからね。治療は食事療法に加え、スタチンを中心にエゼチミブやPCSK9阻害薬を組み合わせてLDL-Cを強力に下げる。ホモ接合体ではLDLアフェレシスも行われる。早く見つけて早く下げることが、若年での心筋梗塞を防ぐ鍵なんだ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、40代の心筋梗塞の患者さんがいたのを思い出しました。背景にFHが隠れていた可能性もあるんですね。
ドクタードクター
その視点は大切だよ。若年の冠動脈疾患を診たら、LDL-Cと家族歴、そしてアキレス腱を確認する。それだけで救える家族がいるかもしれない。

まとめ

家族性高コレステロール血症はLDL受容体などの遺伝子変異による常染色体顕性遺伝疾患で、出生時から続く高LDL-C血症により腱黄色腫や早発性冠動脈疾患を生じます。最も重要な身体所見はアキレス腱肥厚で、X線軟線撮影で男性8.0 mm以上、女性7.5 mm以上を肥厚とし、成人FHの診断基準にも含まれます。一方、びまん性角膜混濁はLCAT欠損症、橙黄色の扁桃腫大はTangier病、有棘赤血球は無βリポ蛋白血症、手掌線条黄色腫はⅢ型脂質異常症に特徴的な所見です。FHは頻度の高い疾患であり、スタチンなどによる早期治療と家族のカスケードスクリーニングが早発性冠動脈疾患の予防につながります。所見と疾患を対応づけて理解しておくことは、日常診療で潜在的なFHを拾い上げる力になります。

解答・解説

正解はeです

家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)は、LDL受容体(またはその関連遺伝子であるアポB、PCSK9など)の遺伝子変異により、血中LDLコレステロール(LDL-C)の肝臓への取り込みが障害される常染色体顕性(優性)遺伝性疾患である。高LDL-C血症、腱黄色腫・皮膚結節性黄色腫、早発性冠動脈疾患が3主徴である。 本問は、選択肢に並ぶ所見がそれぞれどの脂質代謝異常症に特徴的かを区別できるかを問うている。脂質異常症の身体所見は疾患ごとに「顔」があり、FHでは長期間持続する高LDL-C血症のためにコレステロールが腱に沈着して腱黄色腫が生じる。その代表がアキレス腱の肥厚であり、診断基準の項目にも含まれ、X線撮影や超音波で客観的に評価できるため、FHで最も重視される身体所見である。他の選択肢は、角膜混濁がLCAT欠損症など、扁桃腫大がTangier病、赤血球の変形が無βリポ蛋白血症、手掌線条黄色腫がⅢ型脂質異常症と、それぞれ別の疾患に特徴的な所見と結びつけて整理するとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  角膜混濁

    FHで最も認められる所見ではない。FHでは角膜の周辺部にリング状の白色混濁(角膜輪、角膜環)がみられることがあり、若年でみられれば診断の参考になる。しかし50歳未満のFH患者でも出現頻度は3割程度にとどまり、高齢者では健常者にも老人環としてみられるため特異度が低い。また、角膜全体がびまん性に混濁する「角膜混濁」は、HDLの成熟に必要な酵素が欠損するLCAT(レシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼ)欠損症や魚眼病などに特徴的な所見である。

  2. ×b.  扁桃腫大

    FHとは関連しない。橙黄色の扁桃腫大は、ABCA1遺伝子の異常によりHDLがほとんど形成されないTangier病(家族性αリポ蛋白欠損症)に特徴的な所見である。細網内皮系の細胞にコレステロールエステルが蓄積するために生じ、肝脾腫や末梢神経障害を伴うこともある。

  3. ×c.  赤血球の変形

    FHとは関連しない。脂質異常症に関連する赤血球の変形としては、無βリポ蛋白血症でみられる有棘赤血球(acanthocyte)が知られている。この疾患はMTP(ミクロソームトリグリセリド転送蛋白)の異常によりアポB含有リポ蛋白が作られず、血中コレステロールが著明に低下し、赤血球膜の脂質組成が変化して棘状の突起を持つ赤血球になる。脂肪吸収障害、脂溶性ビタミン欠乏、網膜色素変性、神経障害を伴う。

  4. ×d.  手掌線条黄色腫

    FHに特徴的な所見ではない。手掌のしわに沿って黄色の線状の沈着がみられる手掌線条黄色腫は、Ⅲ型脂質異常症(家族性Ⅲ型高脂血症、アポE2/E2などによるレムナントの蓄積)に比較的特徴的な所見である。FHでみられる皮膚の黄色腫は皮膚結節性黄色腫で、肘関節や膝関節の伸側、手首、臀部などにみられ、腱黄色腫とともに診断基準に含まれる。

  5. ○e.  アキレス腱の肥厚

    FHで最も重要かつ高頻度に認められる身体所見である。高LDL-C血症が出生時から持続するため、LDL由来のコレステロールが腱に沈着して腱黄色腫を形成し、特にアキレス腱が肥厚する。視診・触診に加え、X線軟線撮影で評価し、日本動脈硬化学会の基準では男性8.0 mm以上、女性7.5 mm以上を肥厚とする(超音波では男性6.0 mm以上、女性5.5 mm以上)。アキレス腱肥厚は手背・肘・膝などの腱黄色腫とともに成人FHの診断基準の一項目に含まれている。

FHの病態と頻度

LDL受容体遺伝子の変異が大部分を占め、ほかにアポB、PCSK9(LDL受容体の分解を促進する酵素)の遺伝子変異が原因となる。常染色体顕性遺伝で、ヘテロ接合体は日本ではおよそ300人に1人と頻度の高い疾患である。ホモ接合体(両アレルに変異)はまれで、LDL-Cが極めて高く、小児期から黄色腫や冠動脈疾患・大動脈弁狭窄を生じる。

成人(15歳以上)FHの診断基準(日本動脈硬化学会 成人FH診療ガイドライン2022)

1)高LDL-C血症(未治療時のLDL-C 180 mg/dL以上) 2)腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫あるいはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫 3)FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内) 上記のうち2項目以上を満たす場合にFHと診断する。FHの病的遺伝子変異が確認された場合もFHと診断する。眼瞼黄色腫は皮膚結節性黄色腫に含めない。

脂質異常症と特徴的所見の対応

・FH:アキレス腱肥厚などの腱黄色腫、皮膚結節性黄色腫、若年性角膜輪、早発性冠動脈疾患 ・Ⅲ型脂質異常症:手掌線条黄色腫、結節性発疹性黄色腫、Broad β ・Ⅰ型(リポ蛋白リパーゼ欠損症など):発疹性黄色腫、急性膵炎、網膜脂血症 ・Tangier病:橙黄色の扁桃腫大、低HDL ・LCAT欠損症・魚眼病:角膜混濁 ・無βリポ蛋白血症:有棘赤血球、脂肪吸収障害、網膜色素変性

治療

食事療法に加え、スタチンを中心にエゼチミブ、PCSK9阻害薬などを併用してLDL-Cを強力に低下させる。ホモ接合体などではLDLアフェレシスも行われる。家族のスクリーニング(カスケードスクリーニング)が重要である。

POINT

・FHはLDL受容体などの異常による常染色体顕性遺伝疾患で、3主徴は高LDL-C血症・腱黄色腫・早発性冠動脈疾患。 ・特徴的身体所見はアキレス腱肥厚(X線で男性8.0 mm以上、女性7.5 mm以上)。 ・成人FH診断:LDL-C 180 mg/dL以上、腱黄色腫/皮膚結節性黄色腫、家族歴のうち2項目以上。 ・手掌線条黄色腫→Ⅲ型、扁桃腫大→Tangier病、角膜混濁→LCAT欠損症、有棘赤血球→無βリポ蛋白血症。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。