「私の最期は私が決める」―リビングウィルの本質は自由意志にあり
第106回医師国家試験 G問題 第4問
国試問題にチャレンジ
我が国のリビングウィルについて正しいのはどれか。
- a.安楽死を選択できる。
- b.本人が自由意志で作成する。
- c.心肺蘇生術を受けるために作成する。
- d.一度作成すると内容の変更はできない。
- e.患者の判断能力がない場合は家族が作成できる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
リビングウィルは、判断能力のある本人が自由意志に基づいて作成する、終末期医療に関する事前の意思表示であり、患者の自己決定権を尊重するための仕組みです。この本質から、家族など他者が代わりに作成することはできず、判断能力がある限り何度でも撤回・変更でき、内容も延命拒否に限らず治療継続の希望を書くこともできる、という性質が導かれます。我が国では積極的安楽死は認められておらず、リビングウィルに法的拘束力を与える法律もありませんが、本人の意思を尊重する重要な資料として扱われます。本人の意思が確認できない場合は家族らと本人の意思を推定して方針を話し合い、日頃からACP(人生会議)で繰り返し対話しておくことが推奨されています。DNARの範囲の誤解を避けることも含め、こうした理解は終末期医療で患者の意思を守るための土台となります。
解答・解説
正解はbです
リビングウィル(living will)は、判断能力が十分にあるうちに、将来自分が意思を表明できなくなった場合に受けたい医療・受けたくない医療(延命治療、心肺蘇生、人工呼吸、経管栄養など)をあらかじめ書面で示しておく文書である。「生前に効力を発揮する意思表示」という意味合いから「生前発効の遺言」とも訳される。医療における事前指示(advance directive)の中心的な形式の一つである。 本問を解く鍵は、リビングウィルが「本人の自己決定権(患者の自律)を尊重するための仕組み」であるという本質を押さえることである。そこから次の性質が導かれる。 1. 作成者は本人に限られ、判断能力のあるときに、他者から強制されず自らの意思で作成する。 2. 本人の考えは変わりうるので、いつでも撤回・修正ができる。 3. 内容は延命治療を望まない方向にも、積極的な治療を望む方向にも書ける。 4. 我が国で違法とされる行為(積極的安楽死など)を求めることはできない。 なお、我が国ではリビングウィルに法的拘束力を与える法律は制定されていない。医療現場では、厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」などに沿って、本人の意思を推定・尊重する重要な資料として扱われる。この点は法制化されている一部の国(米国の各州法など)とは異なる。
選択肢考察
- ×a. 安楽死を選択できる。
誤り。我が国には積極的安楽死(致死薬の投与などで意図的に死期を早める行為)を認める法律はなく、医師が行えば殺人罪・嘱託殺人罪などに問われうる。したがってリビングウィルに書いても安楽死を選ぶことはできない。リビングウィルで実際に表明されることが多いのは、回復の見込みがない終末期に延命措置を差し控える・中止して自然な死を迎えたいという、いわゆる「尊厳死」の希望であり、安楽死とは区別される概念である。
- ○b. 本人が自由意志で作成する。
正しい。リビングウィルは本人の自己決定を具体化したものである。したがって、本人が十分な判断能力をもつときに、家族や医療者などから指示・強制されることなく、自分の意思に基づいて作成しなければならない。英語の will にも「意思」の意味があり、本人の意思表示であること自体がこの文書の存在意義である。
- ×c. 心肺蘇生術を受けるために作成する。
誤り。リビングウィルの目的は、心肺蘇生術(CPR)を受けるか受けないかを含め、人生の最終段階で望む医療の内容を本人が指示することにある。蘇生を希望すると記すこともできるが、蘇生を受けることを目的として作る文書ではない。実際には、蘇生処置を望まない(DNAR:do not attempt resuscitation の希望)などの延命治療拒否を表明するために作成されることが多い。
- ×d. 一度作成すると内容の変更はできない。
誤り。病状や生活環境、価値観の変化によって本人の希望は変わりうるため、判断能力がある限り、何度でも撤回・修正・作り直しができる。むしろ定期的に見直し、家族や医療者と共有しておくことが推奨される。
- ×e. 患者の判断能力がない場合は家族が作成できる。
誤り。リビングウィルは本人が判断能力のあるうちに自ら作成したものでなければ意味をもたない。家族が作成した文書は家族の意向であって本人の意思表示ではないため、リビングウィルにはならない。本人の判断能力が失われており事前の意思表示もない場合は、家族などから本人の価値観や以前の発言を聞き取って本人の意思を推定し、それを最も尊重する方針を医療・ケアチームと家族が話し合って決めることになる(厚生労働省のガイドライン)。
関連用語の整理
・事前指示(advance directive):意思決定能力を失った場合に備え、あらかじめ医療に関する希望を示しておくこと。受けたい・受けたくない医療を書面で示す内容的指示(リビングウィル)と、自分に代わって判断する代理人を指名しておく代理人指示の2つに大別される。 ・アドバンス・ケア・プランニング(ACP):将来の医療・ケアについて、本人が家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、意思決定を支援するプロセス。我が国では「人生会議」という愛称で普及が図られている。書面を作るだけでなく、話し合いの過程を重視する点が特徴である。 ・DNAR(do not attempt resuscitation):心停止時に心肺蘇生を行わないという指示。蘇生以外の治療(輸液、抗菌薬、疼痛緩和など)を差し控えるという意味ではない点に注意する。
尊厳死と安楽死
・尊厳死(消極的安楽死とほぼ同義に用いられることもある):回復の見込みのない終末期に、延命のための治療を差し控える・中止して、自然な経過で死を迎えること。 ・積極的安楽死:苦痛から解放する目的で、薬物投与などにより意図的に死をもたらすこと。我が国では法的に認められていない。 ・間接的安楽死:苦痛緩和を目的とした治療の結果として死期が早まる可能性があるもの。緩和ケアにおける適切な鎮痛・鎮静は、目的・方法が異なるため安楽死とは区別される。
我が国の法的位置づけ
リビングウィルを法的に保障する法律はない。日本尊厳死協会などが書式を提供しており、医療現場では本人の意思を示す重要な資料として尊重されている。
POINT
・リビングウィルは、判断能力のある本人が自由意志で作成する、終末期医療に関する事前の意思表示である。 ・何度でも撤回・変更できる。 ・家族など他人が本人に代わって作成することはできない。 ・延命拒否だけでなく、治療継続の希望も記載できる(心肺蘇生を受けるための文書ではない)。 ・我が国では積極的安楽死は認められておらず、リビングウィルに法的拘束力を与える法律もない。
