医師が空から駆けつける―ドクターヘリと日本の救急医療体制を整理する
第106回医師国家試験 G問題 第11問
国試問題にチャレンジ
救急医療について正しいのはどれか。
- a.救命救急センターは入院機能を持たない。
- b.自動体外式除細動器〈AED〉の使用には講習修了証が必要である。
- c.救急救命士は独自の判断で心停止患者に対する気管挿管ができる。
- d.ドクターヘリは,医師が搭乗する救急医療用のヘリコプターである。
- e.初期救急医療機関は,入院治療を必要とする救急患者の医療を担当する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
日本の救急医療機関は、入院不要の軽症者を診る初期救急、入院や手術が必要な患者を診る二次救急、重篤な患者を24時間体制で受け入れて入院・集中治療を行う三次救急(救命救急センター)の3段階に整備されています。病院前救護では、2004年から一般市民も資格や講習なしでAEDを使えるようになりました。一方、救急救命士の気管挿管などの特定行為は、認定を受けた救急救命士が医師の具体的指示のもとで行うもので、メディカルコントロール体制によって質が保障されています。ドクターヘリは医療機器と医薬品を積み、医師と看護師が搭乗して現場で診療を始めるヘリコプターで、治療開始までの時間を縮める点に最大の意義があり、医師が乗るとは限らない消防防災ヘリとは区別されます。救急医療の仕組みを理解しておくことは、どの診療科に進んでも、急変時に適切な医療へ患者をつなぐための土台になります。
解答・解説
正解はdです
本問は、日本の救急医療体制の基本的な枠組みを問う一般問題である。整理すべき論点は次の三つである。 1. 救急医療機関の段階的な体制 日本の救急医療機関は、患者の重症度に応じて3段階に整備されている。 ・初期(一次)救急:入院を必要としない軽症者の外来診療 ・二次救急:入院や手術を要する中等症〜重症者の診療 ・三次救急:二次救急では対応できない重篤な患者の診療。救命救急センターが担う。 2. 病院前救護の担い手とその権限 病院に着く前の救護は、次の人々が担う。 ・一般市民:心肺蘇生、AED(自動体外式除細動器)の使用 ・救急救命士:医師の指示のもとで特定行為を行う国家資格者 ・医師:ドクターヘリやドクターカーで現場に出動する。 3. 救急救命士の特定行為 救急救命士が行う特定行為は、すべて医師の具体的な指示が必要である。特定行為には、器具を用いた気道確保、気管挿管、薬剤投与、静脈路確保などがある。 これらの原則に照らして、各選択肢の正誤を判断する。
選択肢考察
- ×a. 救命救急センターは入院機能を持たない。
救命救急センターは三次救急医療機関である。心筋梗塞、脳卒中、重症外傷、重症熱傷、急性中毒、心肺停止など、生命に危険が及ぶ重篤な患者を24時間体制で受け入れる。初期・二次救急医療機関から転送される患者も受け入れる。 こうした患者には、集中治療室(ICU)などでの入院管理が必須である。救命救急センターは、専用の病床と集中治療のための設備を備えることが求められている。入院機能を持たないという記述は誤りである。なお、広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒などの特殊疾病にも対応できるセンターは、高度救命救急センターに指定される。
- ×b. 自動体外式除細動器〈AED〉の使用には講習修了証が必要である。
2004年7月の厚生労働省の通知により、医療従事者でない一般市民もAEDを使えるようになった。使うのに資格や講習修了証はいらない。 AEDは、電極パッドを貼ると自動で心電図を解析する。除細動(電気ショック)が必要な心室細動や無脈性心室頻拍のときだけ、音声で電気ショックを指示する。このため、訓練を受けていない人でも安全に使える。 救命のためにAEDを使った市民が責任を問われることは、原則としてないと考えられている。駅、空港、学校、商業施設など多くの場所に設置されている。講習の受講は望ましいが、使用の条件ではない。
- ×c. 救急救命士は独自の判断で心停止患者に対する気管挿管ができる。
救急救命士が行う気管挿管は、特定行為の一つである。気管挿管を行えるのは、所定の講習と病院での実習を修了した認定救急救命士に限られる。対象は心肺機能停止状態の患者で、医師の具体的な指示(通常はオンラインで受ける指示)が必要である。 救急救命士が独自の判断で気管挿管を行うことはできない。実施した行為は、事後に医師が検証する仕組みになっている(メディカルコントロール体制)。
- ○d. ドクターヘリは,医師が搭乗する救急医療用のヘリコプターである。
ドクターヘリは、救急医療に必要な医療機器と医薬品を積んだヘリコプターである。救命救急センターなどの基地病院に配備され、出動の要請があると救急医療の専門医と看護師が搭乗して現場へ向かう。2007年に施行された、いわゆるドクターヘリ特別措置法で位置づけられている。 最大の意義は、医師が現場や救急車との合流地点に直接出向き、診療を始められることである。搬送前から治療を始められるので、治療開始までの時間が短縮される。そのうえで、適切な医療機関へ速やかに搬送できる。特に、山間部、へき地、離島など救急車での搬送に時間がかかる地域や、重症外傷、急性冠症候群、脳卒中など時間との勝負になる病態で効果が大きい。 一方で、夜間や悪天候では運航が制限される。また、運航費用が高いという課題もある。
- ×e. 初期救急医療機関は,入院治療を必要とする救急患者の医療を担当する。
初期救急医療機関は、入院の必要がない軽症の救急患者に対する外来診療を担う。代表例は、休日夜間急患センターと在宅当番医制である。 入院治療を必要とする救急患者を担当するのは、二次救急医療機関である。二次救急医療機関には、地域の病院が当番で受け入れる病院群輪番制病院や、共同利用型病院などがある。本選択肢は、初期救急と二次救急の役割を取り違えている。
日本の救急医療体制
・初期(一次)救急医療機関:休日夜間急患センター、在宅当番医制。入院不要の軽症者を外来で診る。 ・二次救急医療機関:病院群輪番制病院、共同利用型病院。入院や手術が必要な患者を診る。 ・三次救急医療機関:救命救急センター(重篤患者に24時間対応)、高度救命救急センター(広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒などの特殊疾病にも対応) ※救急搬送では、重症度や病態に応じて適切な医療機関を選ぶ。
救急救命士
・1991年の救急救命士法で創設された国家資格である。 ・特定行為は、医師の具体的指示のもとで行う。 -器具を用いた気道確保(ラリンゲアルマスクなど) -気管挿管(認定救急救命士が、心肺機能停止の患者に対して行う) -アドレナリン投与(認定救急救命士が、心肺機能停止の患者に対して行う) -静脈路確保と輸液 -低血糖患者へのブドウ糖投与(認定救急救命士が行う) ・静脈路確保と輸液、ブドウ糖投与は、2014年から心肺機能停止前の患者にも拡大された。
メディカルコントロール体制
救急救命士などの病院前救護の質を、医学的な観点から保障するための仕組みである。 ・指示:オンラインでの指示・指導・助言 ・プロトコールの策定 ・事後検証 ・教育・再教育 これらを医師が担う。
病院前診療の手段
・ドクターヘリ:医師・看護師が搭乗し、現場で診療を開始する。現在は全国の都道府県に配備されている。 ・ドクターカー:医師が同乗して出動する救急車両 ・消防防災ヘリ:自治体の消防・防災用ヘリで、救急搬送にも用いられる。医師が搭乗するとは限らない点で、ドクターヘリと異なる。
AEDと市民による救命
・2004年から、一般市民によるAEDの使用が認められた。 ・心停止を目撃したら、次の順で動く。 -反応と呼吸を確認する(普段どおりの呼吸がない、または死戦期呼吸ならば心停止と判断する)。 -119番通報をし、AEDを手配する。 -胸骨圧迫を始める。 -AEDが届いたら使用する。
POINT
・救命救急センター(三次救急)は、重篤な患者を入院させ、集中治療を行う。 ・初期救急は入院不要の軽症者を、二次救急は入院が必要な患者を担当する。 ・AEDは資格や講習がなくても、誰でも使用できる(2004年から)。 ・救急救命士の気管挿管は、認定を受けた救急救命士が、医師の具体的指示のもとで、心肺機能停止の患者に対して行う。 ・ドクターヘリは医療機器と医薬品を積み、医師・看護師が搭乗して現場で診療を開始する。
