腎臓が働かなくても量は変えなくていい薬―「排泄経路」で見抜く腎不全時の抗菌薬選び
第106回医師国家試験 G問題 第10問
国試問題にチャレンジ
末期腎不全患者に対し,常用量を投与可能なのはどれか。
- a.ST合剤
- b.オセルタミビル
- c.ミノサイクリン
- d.レボフロキサシン
- e.カルバペネム系抗菌薬
対話形式の解説
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ドクターまとめ
末期腎不全では腎臓から薬を排泄する力がほとんど失われるため、腎排泄型の薬剤は減量や投与間隔の延長が必要で、肝代謝・胆汁排泄型の薬剤は原則として常用量を投与できます。ミノサイクリンは脂溶性が高く主に肝代謝・胆汁排泄されるため常用量で使えますが、旧来のテトラサイクリンは腎排泄型でBUN上昇を招くため腎不全では避けるという区別が重要です。ST合剤、オセルタミビル(活性体が腎排泄)、レボフロキサシン、カルバペネム系はいずれも腎排泄型で、蓄積により高カリウム血症や痙攣などの副作用が起こりやすくなります。腎機能による調節がほぼ不要な薬としてドキシサイクリン、アジスロマイシン、クリンダマイシン、セフトリアキソン、リネゾリドなども併せて覚えておくと役立ちます。薬の「排泄経路」で考える習慣は、腎機能低下者や高齢者への安全な処方の基本となります。
解答・解説
正解はcです
薬が体から消える経路は、大きく二つに分かれる。 ・腎排泄型:未変化体のまま、あるいは活性のある代謝物として、尿中に排泄される。 ・肝代謝・胆汁排泄型:肝臓で代謝され、胆汁から便中へ排泄される。 末期腎不全(おおむね糸球体濾過量GFR 15mL/分/1.73m²未満、または透析導入後)では、腎臓から薬を捨てる力がほとんど失われている。そのため、腎排泄型の薬を常用量で投与すると血中濃度が上がり続け、副作用が出やすくなる。したがって、減量するか、投与間隔を延ばす必要がある。 一方、主に肝臓で処理される薬は、腎機能が低下していても血中濃度があまり変わらない。原則として常用量を使える。 抗菌薬・抗ウイルス薬では、βラクタム系(ペニシリン系、セファロスポリン系の多く、カルバペネム系)、アミノグリコシド系、グリコペプチド系(バンコマイシン)、ニューキノロン系の多く、ST合剤、抗ヘルペス薬・抗インフルエンザ薬の多くが腎排泄型である。いずれも腎機能に応じた調節が必要である。 これに対して、ミノサイクリンやドキシサイクリン、マクロライド系のアジスロマイシン、クリンダマイシン、セフトリアキソン、リネゾリドなどは、腎機能による調節がほぼ不要な代表例である。 本問では、選択肢の中から肝代謝・胆汁排泄型の薬剤を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. ST合剤
ST合剤は、スルファメトキサゾール(S)とトリメトプリム(T)の配合剤である。どちらも主に腎から排泄されるので、腎機能が低下すると蓄積する。クレアチニンクリアランス(CCr)が30mL/分を下回ると減量が必要になり、さらに高度な腎機能低下(CCr 15mL/分未満)では原則として投与を避ける。 トリメトプリムには、次の二つの作用もある。 ・遠位尿細管のナトリウムチャネル(ENaC)を阻害して、カリウム排泄を妨げる。このため高カリウム血症を起こしやすい。 ・クレアチニンの尿細管分泌を阻害して、血清クレアチニン値を見かけ上上昇させる。 末期腎不全患者に常用量をそのまま使うことはできない。
- ×b. オセルタミビル
オセルタミビルは、インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ阻害薬である。プロドラッグであり、肝臓で活性体(オセルタミビルカルボキシレート)に変換された後、この活性体の大部分が腎から尿中に排泄される。 そのため、腎機能が低下すると活性体が蓄積する。CCr 30mL/分以下では、治療量を1日1回に減らすなどの調節が必要である。透析患者では、単回投与などに大きく減量して用いる。常用量(成人の治療量で75mgを1日2回、5日間)をそのまま投与することはできない。
- ○c. ミノサイクリン
ミノサイクリンは、テトラサイクリン系抗菌薬である。細菌のリボソーム30Sサブユニットに結合して、タンパク合成を阻害する。脂溶性が高く、主に肝臓で代謝され、胆汁から便中へ排泄される。尿中への排泄はわずかである。 そのため、腎機能が低下しても血中濃度はほとんど上がらず、末期腎不全患者にも常用量を投与できる。同じテトラサイクリン系のドキシサイクリンも同様である。 なお、旧来のテトラサイクリンは腎排泄型である。さらに、タンパク異化を促進して血中尿素窒素(BUN)を上昇させ、腎不全を悪化させうるため、腎不全患者には用いない。「テトラサイクリン系ならどれでもよい」わけではない点に注意する。
- ×d. レボフロキサシン
レボフロキサシンは、ニューキノロン系抗菌薬である。細菌のDNAジャイレースとトポイソメラーゼIVを阻害する。大部分が未変化体のまま尿中に排泄される腎排泄型の薬剤である。 腎機能が低下すると、初回は常用量とし、2回目以降は減量するか投与間隔を延ばす(CCr 20mL/分未満では48時間ごとにするなど)。蓄積すると、痙攣などの中枢神経症状、QT延長、低血糖などの副作用が起こりやすくなる。痙攣は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)との併用で特に起こりやすい。末期腎不全では常用量を投与できない。
- ×e. カルバペネム系抗菌薬
カルバペネム系抗菌薬(メロペネム、イミペネム・シラスタチン、ドリペネムなど)は、βラクタム系抗菌薬であり、主に腎から排泄される。腎機能に応じて、1回量を減らすか投与間隔を延ばす必要がある。 蓄積すると、痙攣などの中枢神経毒性が起こりやすくなる。特にイミペネムでこの傾向が強い。また、バルプロ酸と併用するとバルプロ酸の血中濃度が大きく下がるため、併用は禁忌である。末期腎不全では常用量を投与できない。
腎機能低下時の薬物投与の基本
・腎機能の指標には、推算糸球体濾過量(eGFR)やクレアチニンクリアランス(CCr、Cockcroft-Gault式などで推算)を用いる。高齢者や筋肉量の少ない人では、血清クレアチニン値が低めに出て、腎機能を過大に評価しやすい。 ・腎排泄型の薬剤の調節法には、1回量を減らす方法と投与間隔を延ばす方法がある。効果が血中濃度の最高値に依存する薬(アミノグリコシド系、ニューキノロン系など)では、投与間隔の延長が選ばれることが多い。 ・初回投与量(負荷量)は、腎機能にかかわらず常用量とするのが原則である。これは、早く有効な血中濃度に到達させるためである。 ・透析で除去されやすい薬剤(分子量が小さい、タンパク結合率が低い、分布容積が小さい)は、透析後に投与するか、透析後に追加投与する。
腎機能による調節がほぼ不要な主な抗微生物薬
ミノサイクリン、ドキシサイクリン、アジスロマイシン、クリンダマイシン、セフトリアキソン、リネゾリド、モキシフロキサシンなど
腎機能に応じて調節が必要な主な抗微生物薬
ペニシリン系、多くのセファロスポリン系、カルバペネム系、アミノグリコシド系、バンコマイシン、レボフロキサシンなどのニューキノロン系、ST合剤、アシクロビル・バラシクロビル、オセルタミビル
腎不全で注意すべきその他の薬
・メトホルミン:乳酸アシドーシス ・マグネシウム含有製剤:高マグネシウム血症 ・NSAIDs:腎機能をさらに悪化させる ・ジゴキシン:中毒
POINT
・末期腎不全では、腎排泄型の薬剤を減量するか、投与間隔を延ばす。 ・肝代謝・胆汁排泄型の薬剤(ミノサイクリン、ドキシサイクリン、マクロライド系、クリンダマイシン、セフトリアキソンなど)は、常用量を投与できる。 ・ST合剤、オセルタミビル、レボフロキサシン、カルバペネム系、アミノグリコシド系、バンコマイシンは腎排泄型である。 ・旧来のテトラサイクリンは、BUN上昇・腎機能悪化のため腎不全で避ける。ミノサイクリン、ドキシサイクリンと区別する。
