生活保護費の半分は医療に―数字と仕組みで読み解く日本の医療費
第106回医師国家試験 G問題 第12問
国試問題にチャレンジ
我が国の医療費について正しいのはどれか。
- a.国民医療費の対GDP比はOECD加盟国の中で上位である。
- b.国民医療費には介護保険による費用を含む。
- c.公的医療保険の自己負担率は同率である。
- d.生活保護では医療扶助の費用が最も多い。
- e.医療給付は主として現金給付である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
国民医療費は保険診療の対象となりうる傷病の治療費を推計したもので、介護保険のサービス、正常な妊娠・分娩、健康診断や予防接種、差額ベッド代などは含みません。国際比較ではOECDの保健医療支出という別の指標が使われ、出題当時の日本は中位でしたが、集計基準の改訂後は上位に位置するようになっています。医療保険の窓口負担は年齢や所得で1〜3割と異なり、給付の中心は医療そのものを提供する現物給付です。生活保護は8種類の扶助からなり、被保護者が医療保険の適用から外れることや高齢者・有病者が多いことから、医療扶助が費用のおよそ半分を占めて最も大きくなっています。医療費の仕組みを理解しておくことは、統計問題への対応だけでなく、経済的な困難を抱える患者を適切な支援制度につなぐ臨床の場面でも役立ちます。
解答・解説
正解はdです
我が国の医療費の仕組みと統計についての基本問題である。押さえるべき論点は次の4つである。 (1)「国民医療費」の範囲: 国民医療費とは、その年度内に医療機関等で保険診療の対象となりうる傷病の治療に要した費用を推計したものである。治療以外の費用(介護保険サービス、正常な妊娠・分娩、健康診断、予防接種など)は含まれない。 (2) 国際比較: OECD(経済協力開発機構)は国民医療費とは別の、より範囲の広い「保健医療支出」(予防・介護の一部なども含む)で比較している。どちらの指標の話なのかを区別して読む必要がある。 (3) 医療保険の給付と自己負担: 医療保険の給付は、診察・投薬・手術などの医療そのものを提供する「現物給付」が基本である。窓口の自己負担割合は年齢や所得によって異なる。 (4) 生活保護の費用構成: 生活保護は8種類の扶助からなる。費用が最も大きいのは医療扶助で、生活保護費全体のおよそ半分を占める。 これらを踏まえると、「生活保護では医療扶助の費用が最も多い」とする d が正しい。
選択肢考察
- ×a. 国民医療費の対GDP比はOECD加盟国の中で上位である。
本問の出題当時の知見では誤りとされる。国民医療費そのものの対GDP比(国内総生産に対する割合)は8%前後である。OECDの統計(旧基準の総保健医療支出)でも、当時の日本は加盟国のほぼ中位(2011年のデータで34か国中12位前後)で、明らかな上位とはいえなかった。首位は米国で、突出して高い(15%超)。 ただし、OECDの集計基準(SHA: System of Health Accounts、保健医療勘定)が改訂され、介護費用の一部なども計上されるようになった。その結果、近年の日本の保健医療支出の対GDP比は11%前後となり、OECD加盟国の中で上位に位置する。また、OECDの比較に用いられるのは国民医療費ではなく保健医療支出である点にも注意が必要である。出題当時の正解は変わらないが、現在の統計では「上位」と評価されうることを知っておくとよい。
- ×b. 国民医療費には介護保険による費用を含む。
誤り。2000年に介護保険制度が始まってから、介護保険が給付するサービス(訪問看護の一部、介護老人保健施設の費用など)は国民医療費から外れ、介護費用として別に集計されている。医療と介護は別の統計である、という点は頻出事項である。
- ×c. 公的医療保険の自己負担率は同率である。
誤り。窓口での自己負担割合は年齢と所得で区分されている。原則として、義務教育就学前は2割、就学後から69歳までは3割、70~74歳は2割(現役並み所得者は3割)である。75歳以上(後期高齢者医療制度)は1割で、一定以上の所得がある者は2割(2022年10月から)、現役並み所得者は3割となる。さらに、高額療養費制度により、1か月の自己負担には所得に応じた上限が設けられている。多くの自治体は子どもの医療費に独自の助成も行っている。
- ○d. 生活保護では医療扶助の費用が最も多い。
正しい。生活保護費は、医療扶助が約半分(おおむね47~50%)を占めて最も大きい。次いで生活扶助、住宅扶助、介護扶助の順となる。例えば2010年度は、総額約3.3兆円のうち医療扶助が約1.6兆円(約47%)であった。医療扶助は原則として現物給付で、被保護者は医療保険に加入しない(国民健康保険の適用から除外される)。そのため、医療費は全額が公費(医療扶助)でまかなわれる。被保護者に高齢者や疾病・障害をもつ者が多いことも、医療扶助の比率が高い理由である。
- ×e. 医療給付は主として現金給付である。
誤り。医療保険の中心となる療養の給付は、医療機関が診察・検査・投薬・処置・手術・入院などの医療サービスそのものを提供する「現物給付」である。現金給付には、傷病手当金、出産育児一時金、出産手当金、埋葬料(費)などがある。療養費(治療用装具の費用など)や高額療養費も、いったん支払った費用を後から払い戻す形では現金給付となる。いずれも医療給付の主体ではない。
国民医療費の概要
・厚生労働省が毎年度推計する。近年は40兆円を超えている(2022年度は約47兆円)。対GDP比は約8%、国民1人当たりでは30万円台後半である。 ・財源別にみると、保険料が約5割、公費(国庫と地方)が約4割弱、患者負担が約1割強である。 ・年齢階級別にみると、65歳以上が全体の約6割を占める。1人当たり医療費は、65歳以上が65歳未満の約4倍である。 ・傷病分類別(医科診療医療費)では、循環器系の疾患が最も多く、次いで新生物(腫瘍)である。
国民医療費に含まれないもの
・介護保険によるサービスの費用 ・正常な妊娠・分娩の費用(出産育児一時金で対応) ・健康診断、人間ドック、予防接種など予防にかかる費用 ・入院時の差額ベッド代(室料差額)など選定療養の自費部分、先進医療の自費部分 ・市販薬(OTC医薬品)の購入費、美容整形、固定していない身体障害に必要とされる義眼や義肢などの費用 これらが除かれている分、国際比較用の保健医療支出より小さな値になる。
生活保護の8種類の扶助
生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助の8種類がある。医療扶助と介護扶助は原則として現物給付、それ以外は原則として金銭給付である。
現物給付と現金給付
・現物給付: サービスそのものを提供する。医療保険の療養の給付、介護保険の介護サービスなどがこれに当たる。 ・現金給付: 金銭を支給する。傷病手当金、出産手当金、出産育児一時金、埋葬料などがこれに当たる。
POINT
・国民医療費は傷病の治療費の推計であり、介護保険の費用、正常な妊娠・分娩、健診、予防接種、差額ベッド代は含まない。 ・生活保護費のおよそ半分は医療扶助で、最も多い。医療扶助は現物給付である。 ・医療保険の給付の中心は現物給付(療養の給付)である。 ・窓口の自己負担は年齢・所得で1~3割と異なり、高額療養費制度による上限がある。 ・国際比較(OECD)は国民医療費ではなく保健医療支出で行う。米国が突出して高い。
