StudyMed医師国家試験

凹凸のない「白っぽい胃」―血管が透けて見えたら萎縮を疑え

第106回医師国家試験 F問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第106回 F問題 第5問

胃体下部小彎の内視鏡写真を別に示す。  診断として最も考えられるのはどれか。

第106回 F問題 第5問の問題画像
  1. a.胃潰瘍
  2. b.進行胃癌
  3. c.萎縮性胃炎
  4. d.胃ポリープ
  5. e.胃粘膜下腫瘍

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胃の内視鏡写真から診断を考える問題だ。ポイントは、まず「形の変化」があるかどうか、つまり隆起や陥凹があるかを確認し、次に「粘膜の色や質」を見ること。この順番で画像を読んでいこう。
医学生医学生
選択肢を見ると、胃潰瘍、進行胃癌、ポリープ、粘膜下腫瘍と、形のある病変が多いですね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。今回の画像には、腫瘤も潰瘍も、目立つ隆起や陥凹もない。その代わりに、粘膜が正常の橙赤色より白っぽく、まだらに褪色していて、粘膜の下を走る樹枝状の血管が透けて見えるんだ。
医学生医学生
血管が見えるのは、胃としては普通じゃないんですか。大腸の内視鏡だと血管透見は正常所見だったと思うんですが。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。大腸では血管透見は正常だけど、胃体部の粘膜は事情が違う。胃体部には胃底腺などの固有胃腺が厚く密に並んでいるから、正常では粘膜下層の血管はほとんど見えない。慢性炎症で固有胃腺が失われて粘膜が薄くなると、下の血管が透けて見えるようになり、色も褪せてくる。つまり褪色と血管透見は、粘膜の菲薄化、すなわち萎縮のサインなんだ。
医学生医学生
だから答えは萎縮性胃炎なんですね。病理実習で見た、腺管が減って薄くなった胃粘膜のイメージとつながりました。
ドクタードクター
正解。萎縮性胃炎の主因はピロリ菌の持続感染だ。萎縮は通常、幽門前庭部から始まって胃体部小彎を口側へ進み、さらに大彎側へ広がっていく。今回の胃体下部小彎はちょうど萎縮が現れやすい場所なんだ。では、ほかの選択肢がなぜ違うか確認しよう。まず胃潰瘍。
医学生医学生
潰瘍なら、えぐれた陥凹があって、底に白苔が付いているはずですね。
ドクタードクター
その通り。組織欠損が粘膜下層以深に及んだ状態で、円形の陥凹に白苔や凝血塊、周囲には浮腫による盛り上がりや発赤を伴う。治癒過程ではひだが集まってくる。今回は陥凹も白苔もないから違う。
医学生医学生
進行胃癌でも、4型のスキルス胃癌なら目立つ腫瘤がないこともあると習いました。ちょっと怖くなります。
ドクタードクター
そこを気にするのは大事だよ。ただ4型は胃壁が硬く厚くなるので、ひだの腫大や、送気しても胃が広がらない伸展不良が手がかりになる。1〜3型なら腫瘤や周堤を伴う潰瘍がはっきり見える。今回の画像にはひだの肥厚も腫瘤も潰瘍もなく、否定的だ。
医学生医学生
ポリープと粘膜下腫瘍は、どちらも隆起なので今回は当てはまらないですね。でも、その2つの見分け方がいつもあいまいです。
ドクタードクター
ポリープは粘膜そのものが内腔に突出する上皮性の隆起で、表面の色調や模様が周囲と違うことが多い。ピロリ菌感染胃に多い発赤調の過形成性ポリープや、未感染胃に多い同色調の胃底腺ポリープが代表だ。一方、粘膜下腫瘍はGISTや平滑筋腫、脂肪腫など深い層の病変に正常粘膜が押し上げられた形で、表面は周囲と同じ。なだらかな半球状で、ひだが橋のようにかかるbridging foldを伴うことがある。
医学生医学生
表面が「自分の粘膜」か「借りてきた正常粘膜」か、ということですね。
ドクタードクター
うまい言い方だね。結局この問題は、局在する病変と、粘膜全体の質の変化を見分けられるかを問うているんだ。ここからは発展知識。萎縮の広がりは木村・竹本分類で評価する。萎縮の境界が小彎側で噴門を越えないものをclosed型、噴門を越えて大彎側に広がるものをopen型と呼び、萎縮が広いほど胃癌のリスクが高い。
医学生医学生
萎縮が胃癌のリスクになるのは、腸上皮化生とも関係しますか。
ドクタードクター
そうだね。萎縮が進むと胃の上皮が腸型の細胞に置き換わる腸上皮化生が起こり、萎縮と腸上皮化生は分化型胃癌の発生母地として重要だ。それから、壁細胞に対する自己免疫で胃体部優位に萎縮する自己免疫性胃炎もある。悪性貧血や高ガストリン血症を伴うことがあり、前庭部優位のピロリ菌胃炎とは分布が逆になるのが特徴だ。
医学生医学生
消化器内科の実習で、ピロリ菌がいない胃は胃体下部小彎に赤い点が規則正しく並んでいると教わりました。
ドクタードクター
RACだね。集合細静脈が規則的に並ぶ像で、未感染胃を示唆する所見だ。逆に萎縮所見を見つけたら、ピロリ菌の検査と除菌を検討し、除菌後も胃癌リスクは残るので定期的な内視鏡でフォローすることが臨床では大切だよ。

まとめ

胃体部の正常粘膜は固有胃腺が厚いため血管がほとんど見えませんが、慢性炎症で腺が失われ粘膜が薄くなると、粘膜の褪色と樹枝状の血管透見が現れ、これが萎縮性胃炎の典型的な内視鏡所見です。主因はピロリ菌の持続感染で、萎縮は幽門前庭部から胃体部小彎、さらに大彎側へと広がり、その範囲は木村・竹本分類でclosed型とopen型に分けられます。胃潰瘍は白苔を伴う陥凹、進行胃癌は腫瘤や周堤、ひだの肥厚、ポリープは上皮性の隆起、粘膜下腫瘍は正常粘膜に覆われたなだらかな隆起として現れ、凹凸のない今回の像とは区別できます。萎縮と腸上皮化生は分化型胃癌の発生母地となるため、萎縮を正しく認識することは除菌治療や胃癌の早期発見につながる重要な第一歩です。

解答・解説

正解はcです

画像の読み方

胃体下部小彎を観察した内視鏡像である。粘膜面には腫瘤・隆起・陥凹・潰瘍といった形の変化(凹凸病変)が見られない。一方で、粘膜の色調は正常の橙赤色よりも白っぽく(褪色調)、しかもまだらであり、粘膜の下を走る樹枝状の血管が透けて見える(血管透見の亢進)。

なぜ血管が透けて見えるのか

正常な胃体部粘膜は固有胃腺(胃底腺)が厚く密に並んでいるため、粘膜下層の血管は通常ほとんど見えない。慢性炎症によって固有胃腺が失われ粘膜が薄くなると、その下の血管が透見されるようになり、同時に粘膜の色も褪せてくる。つまり「褪色」と「血管透見」は粘膜の菲薄化、すなわち萎縮を示す所見である。

診断への考え方

限局した隆起や陥凹がなく、広い範囲にわたって褪色と血管透見がみられる像は萎縮性胃炎の典型である。萎縮は通常、幽門前庭部から始まり胃体部小彎を口側へ向かって進むため、胃体下部小彎は萎縮所見が現れやすい部位でもある。本画像では萎縮領域が小彎に沿って口側へ広く及んでおり、萎縮の範囲が広いタイプ(open型)と考えられる。 設問は、隆起・陥凹・粘膜下病変などの局在病変と、粘膜全体の性状変化とを見分けられるかを問うている。局在病変がなく粘膜の質的変化のみを示す像から、萎縮性胃炎を選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  胃潰瘍

    胃潰瘍は、組織欠損が粘膜筋板を越えて粘膜下層以深に及んだ状態である。内視鏡では、辺縁が比較的平滑な円形〜類円形の陥凹を認め、潰瘍底には白苔や凝血塊が付着し、周囲には浮腫による盛り上がりや発赤(紅暈)を伴う。治癒過程では周囲からひだが集まってくる(皺襞集中)。本画像には陥凹も白苔も認められないため該当しない。

  2. ×b.  進行胃癌

    進行胃癌は、癌の浸潤が固有筋層以深に達したものである。肉眼型は1型(腫瘤型)、2型(潰瘍限局型)、3型(潰瘍浸潤型)、4型(びまん浸潤型)、5型(分類不能)に分けられる。1〜3型では明らかな腫瘤や周堤を伴う潰瘍がみられ、4型(スキルス胃癌を含む)では胃壁が硬く肥厚し、ひだの腫大や送気による伸展不良、びらんを示す。本画像では腫瘤・潰瘍・ひだの肥厚のいずれもみられず、否定的である。

  3. ○c.  萎縮性胃炎

    萎縮性胃炎は、慢性炎症によって固有胃腺が減少・消失し、粘膜が薄くなった状態である。内視鏡では粘膜の褪色(白っぽい色調)と、粘膜下の血管が網目状・樹枝状に透けて見える血管透見像が特徴となる。本画像は凹凸病変を伴わず、まだらな褪色と血管透見の亢進を示しており、萎縮性胃炎の典型像に一致する。原因の大部分はHelicobacter pylori(ピロリ菌)の持続感染であり、萎縮は幽門前庭部から胃体部小彎、さらに大彎側へと広がっていく。

  4. ×d.  胃ポリープ

    胃ポリープは胃の内腔に向かって限局的に突出する粘膜上皮性の隆起である。代表的なものに過形成性ポリープ(発赤調でピロリ菌感染胃に多い)や胃底腺ポリープ(周囲と同色調で、ピロリ菌未感染の胃に多い)がある。形は山田分類でⅠ型(立ち上がりがなだらかで境界不明瞭)、Ⅱ型(立ち上がりは明瞭だがくびれがない)、Ⅲ型(くびれがある亜有茎性)、Ⅳ型(明らかな茎をもつ有茎性)に分けられる。本画像には限局性の隆起がないため該当しない。

  5. ×e.  胃粘膜下腫瘍

    胃粘膜下腫瘍(SMT:submucosal tumor)は、粘膜より深い層(粘膜下層や固有筋層)にある病変によって粘膜が押し上げられてできる隆起の総称である。消化管間質腫瘍(GIST)、平滑筋腫、脂肪腫、迷入膵などが含まれる。内視鏡では、表面が周囲と同じ正常粘膜で覆われ、なだらかに立ち上がる半球状の隆起としてみえ、隆起へ向かってひだが橋のようにかかる像(bridging fold)を伴うことがある。本画像には隆起がなく否定的である。

萎縮性胃炎の病態

萎縮性胃炎の主因はHelicobacter pylori(H. pylori)の長期感染である。感染により慢性活動性胃炎が起こり、炎症細胞の浸潤が続くなかで固有胃腺が失われていく。進行すると、胃の上皮が腸の上皮に似た細胞に置き換わる腸上皮化生が生じる。萎縮と腸上皮化生は、分化型胃癌の発生母地として重要である。 このほか、胃体部の壁細胞に対する自己免疫によって胃体部優位に萎縮が起こる自己免疫性胃炎(A型胃炎)もある。これは悪性貧血(ビタミンB12欠乏)や高ガストリン血症を伴うことがあり、萎縮が前庭部優位に進むH. pylori胃炎(B型胃炎)とは萎縮の分布が逆になる点が特徴である。

内視鏡的萎縮境界の分類(木村・竹本分類)

萎縮粘膜と非萎縮粘膜の境界(腺境界)の位置で萎縮の広がりを分類する。 ・Closed type(C-1〜C-3):境界が小彎側で噴門を越えないもの。 ・Open type(O-1〜O-3):境界が噴門を越えて大彎側へ広がるもの。 数字が大きいほど萎縮は広範で、萎縮が広範であるほど胃癌のリスクが高い。

萎縮以外のH. pylori感染胃の内視鏡所見

萎縮(褪色・血管透見)のほかに、びまん性発赤、ひだの腫大、白濁粘液、鳥肌胃炎(前庭部の小顆粒状隆起で、若年女性に多く未分化型胃癌との関連が指摘される)、腸上皮化生などがある。一方、未感染胃では胃体下部小彎に集合細静脈が規則正しく点状に並ぶ像(RAC:regular arrangement of collecting venules)がみられることが特徴である。

胃ポリープと粘膜下腫瘍の区別

胃ポリープは粘膜そのものの隆起であるため表面の色調や模様が周囲と異なることが多い。粘膜下腫瘍は深部の病変に正常粘膜が持ち上げられた形であり、表面は周囲の粘膜と同じ性状を保つ。

POINT

・萎縮性胃炎の内視鏡所見は「粘膜の褪色」と「血管透見像」である(粘膜の菲薄化を反映)。 ・主因はH. pyloriの持続感染で、萎縮は幽門前庭部→胃体部小彎→大彎へと進展する。 ・萎縮範囲は木村・竹本分類でC型(closed)とO型(open)に分けられ、広範なほど胃癌リスクが高い。 ・潰瘍(陥凹+白苔)、進行癌(腫瘤・周堤・ひだ肥厚)、ポリープ(上皮性隆起)、粘膜下腫瘍(正常粘膜に覆われたなだらかな隆起、bridging fold)との見分け方を押さえる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。