StudyMed医師国家試験

「家族だけで抱えない」―認知症介護を支える医師のひと言

第106回医師国家試験 F問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第106回 F問題 第4問

認知症患者を介護する家族への助言として適切なのはどれか。

  1. a.「介護は家族だけで行うべきです」
  2. b.「介護者同士で悩みを打ち明け合うことも大切です」
  3. c.「ご本人が気弱になったらしっかりと励ましてください」
  4. d.「失敗を繰り返さないようにはっきりと指摘しましょう」
  5. e.「近所から悪評が立たないようなるべく隠したほうが良いです」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、認知症の人を介護している家族に、医師としてどんな言葉をかけるべきかを問う問題だ。着眼点は2つ。1つは介護者を孤立させないこと、もう1つは本人の尊厳と感情に配慮した接し方を伝えること。この2つの軸で選択肢をふるい分けていこう。
医学生医学生
医療面接の問題ですね。病気そのものより、家族への関わり方がテーマなのが新鮮です。
ドクタードクター
そうなんだ。認知症は年単位で進行する病気で、記憶障害などの中核症状に加えて、徘徊や興奮、妄想、昼夜逆転といった行動・心理症状、いわゆるBPSDが出てくると、家族の負担は一気に重くなる。介護者が限界を迎えると、介護者自身のうつや健康障害、さらには虐待にまでつながることがある。だから家族支援は治療の一部と考えてほしい。
医学生医学生
そう考えると、介護者同士で悩みを打ち明け合うことを勧める助言が一番しっくりきます。
ドクタードクター
正解だ。同じ立場の人と経験を共有する、いわゆるピアサポートは、「つらいのは自分だけじゃない」と孤立感を和らげてくれる。さらに、ほかの家族が実際にしている工夫や、使えるサービスの具体的な情報も手に入る。家族会や、本人・家族・地域住民・専門職が集う認知症カフェを紹介するのは、とても実用的な支援なんだ。
医学生医学生
でも「介護は家族だけで行うべき」という考え方も、日本ではまだ根強い気がします。地域医療の実習で訪問診療に同行したとき、一人で親を介護している娘さんがいて、すごく疲れて見えました。
ドクタードクター
まさにそういう状況を防ぎたいんだ。家族だけで抱え込むと、介護疲れやうつ、介護離職のリスクが高まる。介護保険を使って、訪問介護、デイサービス、ショートステイなどを取り入れ、介護者が休める時間、つまりレスパイトを確保することが大切だ。地域包括支援センターやケアマネジャーへの相談を促すのも、医師の大事な役割だよ。
医学生医学生
本人が気弱になったときにしっかり励ます、というのは優しい助言に聞こえて、少し迷いました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。認知症では抑うつや意欲低下がよくみられ、特に初期には自分の衰えを自覚して不安になりやすい。そこで「頑張って」「しっかりして」と強く励まされると、期待に応えられない自分を責めて、かえって追い詰められてしまう。無理に励ますより、気持ちに寄り添って話を聴き、安心してもらう関わりがよいんだ。
医学生医学生
うつ病の人を安易に励まさない、と精神科の講義で習ったのと似ていますね。失敗をはっきり指摘する、というのはどうでしょう。繰り返さないためには必要な気もします。
ドクタードクター
認知症では新しいことを覚える力、記銘力が障害されているから、指摘されたこと自体を忘れてしまう。つまり指摘しても再発防止にはならない。それなのに、叱られた嫌な感情や傷ついた自尊心は残りやすい。その結果、不安や怒り、介護拒否といったBPSDが悪化してしまうんだ。
医学生医学生
出来事は忘れても、感情は残るんですね。だから責めずにさりげなくフォローする、と。
ドクタードクター
その通り。物の置き場所を決める、目につく場所に表示するなど、失敗しにくい環境を整えるほうがずっと効果的だ。最後に、近所に悪評が立たないよう隠す、という助言はどう考える?
医学生医学生
隠すと助けを求められなくなって、結局また孤立しそうです。徘徊で行方不明になったときにも困りますよね。
ドクタードクター
よく分かっているね。近隣の理解と見守りは、ひとり歩きへの備えとしてとても大切だ。地域では認知症サポーターの養成や見守りネットワークづくりが進められている。もちろん本人の同意やプライバシーへの配慮は必要だけれど、必要な範囲で周囲に理解を求めるよう助言するのが適切なんだ。
医学生医学生
整理すると、家族を孤立させない助言と、本人を否定しない接し方を伝える助言が適切で、その逆は不適切、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として、接し方の基本も押さえておこう。否定しない、叱らない、責めない。話に耳を傾けて感情に寄り添う。子ども扱いせず自尊心を守る。できることは本人にしてもらい、役割を持ってもらう。そしてBPSDへの対応は、まずこうした接し方や環境調整などの非薬物的対応を優先し、薬物療法は必要最小限にとどめるのが原則だ。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、患者さんだけでなく付き添いの家族の表情に気を配るよう言われました。
ドクタードクター
大事な視点だね。高齢者虐待防止法も、虐待の防止とあわせて養護者、つまり介護者への支援を目的にしている。外来で介護者が疲れ切っていないか、眠れているかに目を向けて、早めに社会資源へつなぐこと。それが結果的に本人を守ることにもなるんだ。

まとめ

認知症の診療では、患者本人と同じくらい介護する家族への支援が重要です。家族会や認知症カフェなどで介護者同士が悩みを共有するピアサポートは、孤立感を和らげ、具体的な工夫や情報を得る場にもなります。介護を家族だけで抱え込ませず、介護保険サービスや地域包括支援センターを活用してレスパイトを確保し、認知症を隠さず地域の見守りを得ることも大切です。本人に対しては、失敗を指摘したり無理に励ましたりせず、感情と自尊心に配慮して受容的に接することがBPSDの予防につながります。介護者の疲弊は抑うつや虐待のリスクにもなるため、医師が家族の状態にも目を配り早めに支援へつなぐ姿勢は、臨床現場で欠かせない力です。

解答・解説

正解はbです

認知症の診療では、患者本人への対応と同じくらい、介護する家族への支援が重要である。認知症は長い経過をたどる進行性の疾患であり、記憶障害などの中核症状に加えて、徘徊、興奮・暴言、妄想、抑うつ、昼夜逆転、夜間せん妄などの行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD、かつては周辺症状とも呼ばれた)が出現すると、家族の身体的・精神的負担は非常に大きくなる。介護者が孤立して負担を抱え込むと、介護者自身の抑うつや健康障害、さらには虐待につながることもある。 そのため医師が家族に助言する際の基本方針は次の二つに整理できる。 1. 介護者を孤立させない:介護保険サービスなどの社会資源、家族会や介護者同士の交流、地域の見守りなどを活用し、負担を分かち合うよう勧める。 2. 本人の尊厳と感情に配慮した接し方を伝える:認知症の人は出来事を忘れても、叱られた・否定されたという感情は残りやすい。失敗を責めたり、無理に励ましたりせず、受容的・共感的に接するよう助言する。 この観点から各選択肢を検討すると、介護者同士が悩みを打ち明け合うことを勧める助言が適切であると判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  「介護は家族だけで行うべきです」

    不適切である。家族だけで介護を抱え込むと、心身の疲弊(介護疲れ)、介護者のうつ病、介護離職、さらには虐待のリスクが高まる。認知症の介護は長期にわたるため、介護保険制度を利用して、訪問介護(ホームヘルパー)、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)などのサービスを取り入れ、介護者が休息できる時間(レスパイト)を確保することが望ましい。地域包括支援センターやケアマネジャー(介護支援専門員)への相談を促すのも医師の役割である。

  2. ○b.  「介護者同士で悩みを打ち明け合うことも大切です」

    適切である。同じ立場の介護者と悩みや経験を共有すること(ピアサポート)は、孤立感を和らげ、精神的な負担を軽くする効果が期待できる。また、他の家族が実際に工夫している対応法や、利用できるサービスについての具体的な情報を得られる利点もある。家族会(例:認知症の人と家族の会)や、認知症の人・家族・地域住民・専門職が集う認知症カフェなどの場を紹介することは、介護者支援として有用である。

  3. ×c.  「ご本人が気弱になったらしっかりと励ましてください」

    不適切である。認知症では、BPSDの一つとして抑うつ症状や意欲低下がしばしばみられ、特に初期には自分の能力低下を自覚して不安や落ち込みを感じやすい。このような状態の人を「しっかりして」「頑張って」と強く励ますと、期待に応えられない自分を責めて、かえって追い詰めてしまうおそれがある。気弱になっているときは、無理に励ますのではなく、気持ちに寄り添って話を聴き、安心感を与える接し方がよい。

  4. ×d.  「失敗を繰り返さないようにはっきりと指摘しましょう」

    不適切である。認知症では記銘力(新しいことを覚える力)が障害されるため、同じ失敗を繰り返し、指摘されたこと自体も忘れてしまう。そのため失敗を指摘しても再発の防止にはつながらない。一方で、叱られたときの嫌な感情や自尊心の傷つきは残りやすく、不安・怒り・興奮・介護拒否といったBPSDを悪化させる原因となる。失敗を責めず、さりげなくフォローし、失敗しにくい環境を整える(物の置き場所を決める、目につく場所に表示をするなど)ことが望ましい。

  5. ×e.  「近所から悪評が立たないようなるべく隠したほうが良いです」

    不適切である。認知症を隠すと、家族は周囲に助けを求めにくくなり、孤立して介護負担が増す。徘徊(ひとり歩き)による行方不明などに備えるには、近隣住民の理解と見守りの協力が大切である。地域では認知症サポーターの養成や見守りネットワークづくりが進められており、認知症の人が住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、地域全体で支える体制づくりが推進されている。本人の同意やプライバシーに配慮しつつ、必要な範囲で周囲に理解を求めるよう助言するのが適切である。

認知症の症状

・中核症状:記憶障害、見当識障害、実行機能障害、失語・失行・失認、判断力の低下など。脳の神経細胞の障害に直接由来し、程度の差はあれ誰にでもみられる。 ・行動・心理症状(BPSD):徘徊、興奮・攻撃性、妄想(物盗られ妄想など)、幻覚、抑うつ、不安、無気力(アパシー)、睡眠障害、介護への抵抗など。本人の性格や身体状態、周囲の環境・接し方に影響される。BPSDへの対応は、まず環境調整や接し方の工夫などの非薬物的対応を優先し、薬物療法は必要最小限とする。

認知症の人への接し方の基本

・否定しない、叱らない、責めない ・本人の話に耳を傾け、感情に寄り添う ・自尊心を傷つけない(子ども扱いしない) ・できることは本人にしてもらい、役割を持ってもらう ・短く分かりやすい言葉で、ゆっくり穏やかに話す

介護者支援に利用できる主な社会資源

・介護保険サービス:訪問介護、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)、小規模多機能型居宅介護など。申請窓口は市区町村で、要介護認定を受けて利用する。 ・相談窓口:地域包括支援センター、ケアマネジャー、認知症疾患医療センター ・早期支援:認知症初期集中支援チーム ・交流の場:家族会、認知症カフェ ・地域の支え:認知症サポーター、見守りネットワーク ・権利擁護:成年後見制度、日常生活自立支援事業

介護者の負担と虐待

介護負担が限界を超えると、介護者の抑うつや心身の不調、介護者による高齢者虐待のリスクが高まる。高齢者虐待防止法(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)は、虐待の防止とともに養護者(介護者)への支援も目的としている。医療者は介護者の疲労やストレスにも目を向け、早めに支援につなげることが求められる。

POINT

・認知症診療では患者本人とともに介護家族の支援が重要である。 ・介護を家族だけで抱え込ませず、介護保険サービスや地域包括支援センターなどの社会資源の活用を勧める。 ・家族会や認知症カフェなど、介護者同士の交流(ピアサポート)は負担軽減に有効である。 ・本人を叱る・失敗を指摘する・無理に励ますといった対応は、自尊心を傷つけ、BPSDや抑うつを悪化させうる。 ・認知症を隠さず、近隣や地域の理解・見守りを得ることが大切である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。