StudyMed医師国家試験

「ケンタッキー」の3拍目―低く響くⅢ音の正体と聴き分けのコツ

第106回医師国家試験 F問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第106回 F問題 第3問

心音のⅢ音について正しいのはどれか。

  1. a.低調な音である。
  2. b.座位で増強する。
  3. c.収縮期に聴取する。
  4. d.大動脈弁領域で聴取しやすい。
  5. e.小児で聴取すれば病的である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心音のⅢ音の性質を問う問題だ。Ⅲ音は「いつ鳴るか」「どこで聴くか」「どんな音か」「どうすれば聴きやすいか」「病的なのはどんなときか」の5つで整理すると解きやすい。まず、Ⅲ音は心周期のどのタイミングで鳴る音だったかな。
医学生医学生
Ⅱ音の後なので拡張期だと思います。でも、何の音なのかがいつも曖昧で…。
ドクタードクター
そこをはっきりさせよう。Ⅱ音は大動脈弁と肺動脈弁が閉じる音だね。その後、僧帽弁や三尖弁が開くと、心房にたまっていた血液が圧較差で心室へ一気に流れ込む。これが急速流入期だ。Ⅲ音は、この勢いのある流入が心室壁に受け止められて急に減速するとき、心室壁や弁装置が振動して生じる音と考えられている。
医学生医学生
弁が閉じる音ではなく、血液が流れ込んで壁が揺れる音なんですね。だから収縮期ではなく拡張早期に聴こえると。
ドクタードクター
その通り。Ⅱ音の約0.12〜0.16秒後に鳴る。だから「収縮期に聴取する」は誤りだ。収縮期の過剰音といえば、大動脈や肺動脈の拡張で生じる駆出音や、僧帽弁逸脱症の収縮中期クリックがある。では、どんな音か。
医学生医学生
生理学の講義で、壁の振動による音は周波数が低いと習った気がします。低調な音でしょうか。
ドクタードクター
正解、それが今回の答えだ。Ⅲ音は周波数が低く振幅も小さい音で、Ⅱ音のあとに鈍く「ドゥン」と響く。Ⅰ音・Ⅱ音と合わせて「ケンタッキー」のリズムと表現されることもある。低い音だから、聴診器はどちらを使う?
医学生医学生
ベル型です。OSCEの練習で、ベル型は軽く当てるように注意されました。
ドクタードクター
いいね。ベル型を強く押し当てると皮膚が膜の役割をしてしまい、低音が減弱する。次は聴く場所だ。大動脈弁領域で聴きやすいという記述はどうだろう。
医学生医学生
弁の音ではないので、大動脈弁領域とは関係なさそうです。左室に流れ込む音なら心尖部ですか。
ドクタードクター
その推論で合っている。左室由来のⅢ音は心尖部で最もよく聴こえる。大動脈弁領域、つまり第2肋間胸骨右縁で聴きやすいのはⅡ音の大動脈成分や大動脈弁狭窄症の駆出性雑音だね。ちなみに右室由来のⅢ音は胸骨左縁下部で聴かれ、吸気で静脈還流が増えると増強する。
医学生医学生
体位はどうでしょう。座位で増強するという選択肢がありましたが、循環器内科の実習では患者さんに左を向いてもらっていた記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。左側臥位にすると心尖部が胸壁に近づくから、Ⅲ音やⅣ音、僧帽弁狭窄症の拡張期ランブルが聴きやすくなる。座位では静脈還流が減るうえ心尖部が胸壁から離れるので、Ⅲ音はむしろ聴こえにくい。座位前傾で聴きやすいのは、大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音や心膜摩擦音だ。
医学生医学生
最後に、小児でⅢ音が聴こえたら病的、というのは…。小児科の実習で、元気な子どもの胸でそれらしい音を聴いた気がします。
ドクタードクター
それはおそらく生理的Ⅲ音だね。小児や若年成人、妊婦、運動選手では心室の弛緩がよく、急速流入が勢いよく起こるので、健常でもⅢ音が聴かれることがある。だから小児で聴こえたというだけで病的とは言えない。一方、中高年で新たに聴かれるⅢ音は病的と考える。
医学生医学生
年齢によって意味が変わるんですね。病的Ⅲ音はどんな病気で出るんですか。
ドクタードクター
大きく分けて3つ。心不全や拡張型心筋症のような収縮能低下・充満圧上昇、僧帽弁閉鎖不全症や心室中隔欠損症、動脈管開存症のような心室への容量負荷、そして甲状腺機能亢進症や貧血、妊娠といった高心拍出状態だ。
医学生医学生
Ⅳ音との違いも混乱しやすいです。Ⅳ音は心房が収縮するときの音でしたよね。
ドクタードクター
そう、Ⅳ音は拡張後期、Ⅰ音の直前に、心房収縮で血液が硬くなった心室へ押し込まれるときに生じる音だ。健常者では通常聴かれず、左室肥大や急性心筋梗塞のようにコンプライアンスが低下した状態を示唆する。心房細動では心房収縮がないので生じない。Ⅲ音は「流入が多すぎる・心室が弱っている」、Ⅳ音は「心室が硬い」と対比すると覚えやすい。
医学生医学生
頻脈で3拍子に聴こえるギャロップも、Ⅲ音やⅣ音が加わったものでしたね。
ドクタードクター
その通り。Ⅲ音によるものは拡張早期ギャロップと呼ばれ、成人では心不全を示す重要な身体所見だ。息切れや浮腫で受診した高齢者を聴診するときは、左側臥位にしてベル型を心尖部に軽く当て、Ⅱ音の後の低い音に耳を澄ませる習慣をつけておこう。

まとめ

Ⅲ音は拡張早期の急速流入期に、流入血液が心室壁に受け止められて減速する際の振動で生じる低調な過剰心音です。左室由来のⅢ音は心尖部で最もよく聴こえ、左側臥位でベル型を軽く当てると聴取しやすく、座位や大動脈弁領域では聴きにくくなります。小児・若年者・妊婦・運動選手では生理的に聴かれることがある一方、中高年で聴かれれば心不全や僧帽弁閉鎖不全症などの容量負荷を考えます。拡張後期に心房収縮で生じ、心室のコンプライアンス低下を示すⅣ音との対比も重要です。発生機序から時相・音調・聴取条件を理解しておくと、ベッドサイドで心不全を見抜く聴診力に直結します。

解答・解説

正解はaです

Ⅲ音(third heart sound:S3)の性質を問う問題である。Ⅲ音の特徴は「いつ(時相)」「どこで(聴取部位)」「どんな音か(音調)」「どうすれば聴きやすいか(体位・聴診器)」「病的意義があるのはどんなときか」の5点で整理すると解きやすい。 心周期のなかで、Ⅱ音(大動脈弁・肺動脈弁の閉鎖音)の後、房室弁(僧帽弁・三尖弁)が開くと、心房にたまっていた血液が圧較差によって心室へ一気に流れ込む。この時期を急速流入期(急速充満期)という。Ⅲ音は、この急速流入の血流が心室壁に受け止められ、流入が急に減速する際に心室壁や弁装置が振動して生じる音と考えられている。したがってⅢ音はⅡ音の約0.12〜0.16秒後、拡張早期に聴かれる。 周波数が低く(低調)、振幅も小さい音であるため、低音をよく拾う聴診器のベル型を胸壁に軽く当てて聴く。左室由来のⅢ音は心尖部で最もよく聴こえ、患者を左側臥位にすると心尖部が胸壁に近づいて聴きやすくなる。 Ⅲ音は小児や若年者では健常でも聴かれる(生理的Ⅲ音)が、中高年で聴かれる場合は、心室への流入血液量の増加(容量負荷)や心室機能低下・心室充満圧上昇を示す病的所見と考える。以上から、正しいのは「低調な音である」である。

選択肢考察

  1. ○a.  低調な音である。

    正しい。Ⅲ音は心室の急速流入期に生じる、周波数の低い(おおむね数十Hz程度の)小さな音である。低調音であるため、聴診器の膜型ではなくベル型を軽く当てて聴取するのが基本である(ベル型を強く押し当てると皮膚が膜の役割を果たして低音が減弱する)。Ⅱ音のあとに鈍く「ドゥン」と響くように聴こえ、Ⅰ音・Ⅱ音と合わせて「ケンタッキー」のリズムと表現されることがある。

  2. ×b.  座位で増強する。

    誤り。Ⅲ音は左側臥位で聴きやすくなる。左側臥位では心尖部が胸壁に近づくため、左室由来の低調な過剰心音(Ⅲ音、Ⅳ音)や僧帽弁狭窄症の拡張期ランブルが聴取しやすくなる。また、左心系の音は呼気時に聴きやすい。座位では静脈還流が減って心室への流入量が減るうえ、心尖部が胸壁から離れるため、Ⅲ音はむしろ聴こえにくくなる。なお、座位・前傾位で聴きやすくなるのは大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音や心膜摩擦音である。

  3. ×c.  収縮期に聴取する。

    誤り。Ⅲ音は拡張早期、すなわちⅡ音の直後(約0.12〜0.16秒後)の急速流入期に聴取される。収縮期に聴かれる過剰音としては、大動脈や肺動脈の拡張などで生じる駆出音(収縮早期)や、僧帽弁逸脱症の収縮中期クリックがある。拡張期の過剰心音には、Ⅲ音のほかにⅣ音(拡張後期、Ⅰ音の直前)、僧帽弁開放音(Ⅱ音の直後でⅢ音より早い)、心膜ノック音などがある。

  4. ×d.  大動脈弁領域で聴取しやすい。

    誤り。Ⅲ音は心室内の血液流入に伴って生じる音であり、弁の閉鎖音ではないため、大動脈弁領域(第2肋間胸骨右縁)では聴きにくい。左室由来のⅢ音は心尖部で最もよく聴取される。なお、右室由来のⅢ音は胸骨左縁下部で聴かれ、吸気時に右心系への静脈還流が増えるため増強する。大動脈弁領域で聴取しやすいのは、Ⅱ音の大動脈成分(ⅡA)や大動脈弁狭窄症の収縮期駆出性雑音である。

  5. ×e.  小児で聴取すれば病的である。

    誤り。小児や若年成人(おおむね30〜40歳頃まで)、妊婦、運動選手などでは、心室の弛緩が良好で急速流入が勢いよく起こるため、健常でもⅢ音が聴かれることがある(生理的Ⅲ音)。一方、中高年以降で新たに聴かれるⅢ音は病的であり、心不全(左室駆出率の低下した心不全など)や、僧帽弁閉鎖不全症・心室中隔欠損症・動脈管開存症のように心室への流入血液量が増加する病態を示唆する。

心音と過剰心音の整理

・Ⅰ音:房室弁(僧帽弁・三尖弁)の閉鎖音。収縮期の始まり。心尖部で大きい。 ・Ⅱ音:半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)の閉鎖音。拡張期の始まり。心基部で大きい。吸気時に肺動脈成分が遅れて生理的に分裂する。 ・Ⅲ音:拡張早期、急速流入期に心室壁が振動して生じる低調音。心尖部・左側臥位・ベル型で聴取しやすい。 ・Ⅳ音:拡張後期(Ⅰ音の直前)、心房収縮により血液が硬くなった心室へ押し込まれるときに生じる低調音。心房音とも呼ばれる。健常者では通常聴取されず、聴取されれば左室肥大(高血圧、肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症)や急性心筋梗塞など心室のコンプライアンス(伸展性)低下を示唆する。心房細動では心房収縮がないため生じない。

病的Ⅲ音をきたす主な病態

・心室収縮能低下・充満圧上昇:うっ血性心不全、拡張型心筋症 ・容量負荷(心室への流入血液量の増加):僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症、動脈管開存症 ・高心拍出状態:甲状腺機能亢進症、貧血、妊娠など

ギャロップリズム(奔馬調律)

頻脈時にⅢ音やⅣ音が加わると、馬が駆けるような3拍子のリズムに聴こえる。Ⅲ音によるものを拡張早期ギャロップ(心室性ギャロップ)、Ⅳ音によるものを前収縮期ギャロップ(心房性ギャロップ)、頻脈でⅢ音とⅣ音が重なったものを重合奔馬調律という。成人のⅢ音ギャロップは心不全の重要な身体所見である。

聴診器の使い分け

・ベル型(軽く当てる):低調音(Ⅲ音、Ⅳ音、僧帽弁狭窄症の拡張期ランブル) ・膜型(しっかり当てる):高調音(Ⅰ音、Ⅱ音、大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音、多くの収縮期雑音、心膜摩擦音)

POINT

・Ⅲ音は拡張早期(急速流入期)に生じる低調な過剰心音である。 ・心尖部で、左側臥位・ベル型・呼気時に聴取しやすい(右室由来のⅢ音は胸骨左縁下部で吸気時に増強)。 ・小児・若年者では生理的に聴かれることがある。 ・中高年で聴かれれば心不全や容量負荷(僧帽弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症など)を考える。 ・Ⅳ音は拡張後期の心房収縮に伴う音で、心室のコンプライアンス低下を示し、心房細動では消失する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。